<第11話:お食事マナーは守りましょう>
良く晴れた空の下、俺達三人は屋上で昼食をとることにした。
……しかし山本、やはり侮れない。
俺が獄寺君に言ってあげたい言葉をさらりと言ってしまうなんて…。
当の本人の山本は、何事もなかったかのようにお弁当を広げてすでに、食べ始めている。
視線をずらして獄寺君を見ると、先程の真っ赤になっていたのも落ち着いたのか、いそいそと購買で買ったパンの袋を破いて噛り付く。
うわ〜噛り付く姿、何だか小動物みたいだなぁ……。
ああ、可愛い……撫でてみたいよ、抱き込んでみたいよ、むしろ…………おおっと、これ以上はここでは語れないよね。
あーなんか話が途中から飛躍した気がするけど気のせいだよね!
今は獄寺君の可愛さ追及する方が優先だよね!
先程までの低迷していた気分は何処へやら、ニコニコ顔で獄寺君の食べる様子をほぼ眼見している俺。
あー絶対、獄寺君って癒し効果あるよね、俺限定に。
そんな事を考えながら上機嫌でいると、山本が獄寺君に話し掛けた。
「なー獄寺、パンだけなのか?それで足りんの?」
「あ?オメーじゃねぇんだからそんな馬鹿みたいに食わねぇよ」
「えーでも物足んなくね?あ、そうだ。俺のおかず分けてやるよ」
何か食いたいもんあったら言って、とニカッと笑う山本。
「…じゃあ、それ」
「へ?」
山本が抜けた声を出したのと同時に、俺は目を見開いた。
だ…だって、今、山本が箸でつまんで食べようとしたたまご焼きを……横から食べ…っ!?
これにはさすがの山本も戸惑ったようで、顔を赤くして獄寺君を見つめている。
片や獄寺君は何でもないようにもぐもぐとたまご焼きを噛み締めている。
「……獄寺君」
「ん、はい、何すか?十代目」
俺の呼び掛けに急いでたまご焼きを飲み込んで、笑顔で返事をする獄寺君。
「…俺のおかずもあげるよ」
「え!そ…そんな恐れ多い!」
「いいから、どうしても獄寺君に食べて欲しいんだよ」
「は、はあ」
俺のあまりにも真剣な表情に押されたのか、じゃあすみません…と申し訳なさそうに頷く。
だって、山本だけにいい思いさせたくない!…っていうのもあるけど、何より獄寺君にあーんしてあげるチャンスだぞ?
恥ずかしそうに目を閉じながら俺の方に小さな口を開けて待っている姿なんて想像しただけでもヤバイでしょ?!
うおぉおお!あわよくば、口に俺の箸で持っていくってことは…か、間接キスのチャンスっ!!
お、落ち着け!
あまり興奮しすぎてがついてる感じを外に出しちゃって、俺の妄想がバレたりしたら大変だ!
平常心、平常心。
申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、俺に向き合うようにきちんと正座して向かい合う獄寺君に、なるべくいつも通りの笑顔を見せておかずをつまむ。
あー可愛い可愛いっ!
申し訳なさからか、少し俯きぎみにしながら見上げてくる上目使いも、俺相手だと恥ずかしいのかほんのり染まって行く頬も、躊躇しながらおずおず小さく開ける唇も、緊張しているのか固く握りしめた拳も……膝上でいつの間にかチョコンと座っているリボーンを乗せている膝も……………
……………って………
「チャオっす」
「っっ!!ぎゃーっ!!出やがったーっ!!何だよ?お前はっ!?」
「リボーンだ」
「知ってるよ!!そんな事聞いてんじゃないだろ?!何でいるんだよっ!しかも膝上ーっ!」
ポロッと本音が出ているのにも気が付かず、頭を抱えて叫ぶ俺にニヤッと笑うリボーン。
「あ!リボーンさん!お久しぶりです」
「ああ、獄寺。元気そうだな」
「あれ?小僧じゃん」
突然現れたリボーンにもたいして動じる事もなく、普通に挨拶を返す獄寺君と山本。
ごめん、俺二人程すんなり現実を受け止められる程の器はないんだ。
…ってか、二人が順応良すぎるんじゃないのか?
リボーンが膝から落ちないように大事に抱える獄寺君に気分良さそうに嫌味な笑顔を向けてくるリボーンにイラッとしながらも、とりあえず少し落ち着いてみる。
「おい、リボーン。何しに来たんだよ」
「せっかくだから俺もここで昼飯にしようと思ってな。ママンに頼んで弁当作ってもらったんだぞ」
何処からともなく取り出した弁当を、獄寺君に手渡して
「獄寺。パンだけだと栄養かたよるぞ?仕方ないから俺の弁当分けてやるぞ。俺は『赤ん坊』だからそんなに食わねぇからな。箸は一膳しかねぇからお前が俺に食べさせろよ」
やけに『赤ん坊』と言う言葉を強調しながら、さらに俺に向かって勝ち誇るような笑みを見せつつそう言ったリボーンに、素直に「わかりました!」と頷く獄寺君。
嘘つけ、コノヤロウ。
リボーンめ…どこまで非道なんだっ!
「ツナ、オメーの弁当と俺の弁当、中身同じだからお前が分けてやる必要はねぇぞ」
「それが目的かーっ!!」
まんまと、あーんと間接キスのチャンスを奪われて悶絶する俺に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる家庭教師のムカつく笑顔だけがやけに目に焼き付いたのだった。