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第13話:あの子のお勧め事

<第13話:あの子のお勧め事>

校門前で会った怪しい二人組みと話をしている最中、急に十代目が据わった目付きで変な頭の片割れを連れて少し離れたところで何やら会話をはじめた。

…十代目…その変な頭の…骸って言ったか?
そいつと仲が良いのだろうか…?
スゲー仲良く談笑されているように見える。

…正直、俺は少しおもしろくない。
あの山本にしても、十代目は何だか心許されてるって感じで……悔しいが、うらやましいと思う。
何だか俺に対しては、十代目は何だかおどおどされてる…というか、時々見つめていると、赤い顔して目を反らされるというか…。

俺…十代目に嫌われてたらどうしよう?
いや、でも…時々お優しい笑顔を向けて下さるし……うーん…。

いや、それよりも今。

今、俺は少々居心地が悪い。

何故なら……十代目が骸を連れて行ったおかげで、俺はもう一人の片割れとここに残された訳だがー……。
その片割れが…さ、さっきから何も言わずにジーッとこちらを直視してくるんだが…。
じ、十代目ーっ、コイツ何なんですかぁー?

何だかいたたまれなくて、視線だけふらふらさ迷わせていると、今まで動かなかったそいつが不意に俺の制服の裾をくいくい引っ張ってきた。
「…な、何だよ……」
「……隼人、顔…綺麗だね」
「は?」
え?何だコイツは?いきなり何言ってんだ?
いや…てかいきなり呼び捨てかよ?
俺が心の中でツッコミを入れていると、何やらそいつ…クロームだっけ?が持っていた鞄の中から何やら取り出して、スッと突き出してきた。
「これ、着てほしいの…」
「…何だ、これ?」
「黒曜中の女子制服」
「な?じ、女子ぃ?!」
「絶対似合う!」
い、いや待て。
そもそも何で俺がそんなもん着なけりゃなんないんだ?しかも女子用…。
意味わかんねぇよ。

しかし怒鳴ろうにも、凄い期待の眼差しで見つめられていて、怒鳴るに怒鳴りずらい。

「と、とにかく着ねえよ!何で女物を…」
「……」
……何だ?その小動物がシュンとした感じの落ち込み方は?
何かスゲー悪い事した気になるだろうが。
小さく俯きながら落ち込むクロームに、何故だか良心が痛む。
「……じゃあ…コレ」
そういって変わりに手渡されたのはー…
「…って、ネコミミーっ?!」
思わず受け取ってしまったものをまじまじ見て、大声で叫んでしまった。
すると、少し離れていた十代目と骸も、その声に反応してこちらを向いて。

渡されてしまった俺はというと、手の中のありえない物にどう反応して良いのかわからず、ただ口を開けたまま固まってしまう。
そしてクロームはといえば、キラキラした期待の笑顔でこちらを見つめていた。
「ク、クローム…?な…何で獄寺君にネコミミ?」
「クフフ…クロームは隼人君のような可愛いタイプを見ると、可愛く着飾りたくなるのが癖でして」
このおかしな光景に引き攣る十代目と、クロームをほほえましい笑顔で見つめる骸。

おい、骸。
これは癖とかいうレベルじゃないだろ?
むしろ趣味だろ?しかも悪い意味で。

固まりつつも、しっかり心の中でツッコミだけは入れておく。

「あ…のな、だから…」
「隼人がそれ付ければ、男の人は喜ぶよ」
突き返そうと言葉を出しかけたが、先に言われたクロームの言葉にピタリととまる。

俺が付けると喜ぶ?何でだ?
いや、それよりも……男がって事は十代目も喜ばれるのだろうか?
もしそうなら、これは十代目との信頼を強めるチャンスじゃないのか?
いや…でも……本当に十代目も喜ばれるのか?

手の中の物をじっと見つめながらぐるぐる考えていると、クロームがトドメとも言える言葉を続けた。
「ボス……ボスもネコミミ好きだよね?」
「え…?」
クロームに尋ねられた十代目は、そのままゆっくり俺と視線を合わせられてから、何やら考え込まれて。
ー……そして、
「………うん」
コクリ頷かれた十代目に、クロームがニッコリ笑う。

ま、マジっすか?!十代目!?
ネコミミ……そんなスゲーアイテムだったのか!?
知らなかったぜ……。

驚きの表情でネコミミを見つめる俺の腕に、そっとクロームが触れて、
「隼人…これでもっとボスや皆と仲良くなれるといいね」
「クローム…お前…もしかして、俺の為に…?」
ニッコリ優しく笑うクロームに、ちょっと感動してネコミミを握る手が、プルプルと震える。

よし!これで、俺は十代目の右腕として信頼を勝ち取ってみせるぜ。

そんな感動している俺は、横で何故だか顔を赤くしている十代目と、クロームの頭を撫でながら「クローム、グッジョブ!」と親指立てた骸には気がつく事はなかった……。

第12話:二人のあいつとあの子

<第12話:二人のあいつとあの子>

ああ……結局、なんだかんだで今日はろくな事がなかった…。
雲雀さんにシャマルに京子ちゃんにお兄さんに山本にリボーン……
立て続けの心労にさすがに気落ちするよ。

結局こんな気分のまま残りの授業も受けていた俺は、終了と同時に机に突っ伏した。
「十代目?お体の調子でも悪いんすか?」
心配そうに俺に話し掛けてくる獄寺君を見ると涙が出そうになるよ、ははははは。
「大丈夫、何でもないよ。帰ろうか」
「本当に大丈夫ですか?あ、なんなら俺おんぶして差し上げましょうか?」
「……いや、いい。獄寺君におんぶされるのは男として若干ショックだから」
「え?ええ?」
意味がわからずちょっとショックを受けている獄寺君に、逆ならいいけどね…と心の中で呟きながら「帰ろう」と笑顔を向ける。

そうだよ、落ち込むより今は獄寺君と帰ることを最優先にしないと。
あわよくば、少しでも多く獄寺君について聞き出して、俺の『獄寺君知識』を増やさないといけないんだから。
それに二人きりでいられる時間は大切にしないとね!

「………って思ってたんだけど」

学校を出てから校門のところまできてすぐに、俺の考えはぶち壊された。
「……………はぁ」
「な、何ですか?その僕を見るなりあからさまについたため息は」
俺の気分を台なしにしてくれたのは、そう霧の守護者の六道骸。
何故か校門の前でクロームと仲良く並んで待ち伏せしていた。
「…何ですか、こいつ?十代目のファンですか?」
「……いや、やめて。今の展開見てどっからそういう発想出てきたの?」
違うんですか?と首をひねる獄寺君。
どうやらマジで言っていたようだ。

「こんにちは、ボス」
「あ、クローム。久しぶり」
「……綱吉君、君、態度違い過ぎませんか?それとできればクロームに馴れ馴れしくしないで下さい」
「あ、まだいたの、骸」
クフ、と哀愁漂う姿を見せる骸だが、悪いが今の俺はお前に優しさを見せる余裕なんてないんだよ。
朝から連続してつわもの相手にしてきてさすがに余裕がないんだよ。
「で?何しに来たの」
「クフフ…実はアルコバレーノに新しい守護者の事を聞きましてね。聞くに、雲雀恭弥や君がいたく気に入った相手だと聞いたので興味を持ちましてね」
「いや、興味持たないで」
「……君、何気に狭い人間ですよね…」
いたたまれない視線を向ける骸にうるさいよと睨む。
今の俺に余裕を求めるな。

ちらっと骸が獄寺君に視線を向けるとニッコリ微笑んで近付いていく。
「君が獄寺隼人君ですね。成る程……可愛らしいお顔ですね。はじめまして、僕は霧の守護者の六道骸です。そしてあの子はクローム髑髏」
ペコリと頭を下げるクロームと少しずつ顔を近付ける骸を交互に見遣って「お、おう…」と小さく呟く獄寺君。
……近い!近付き過ぎだ、骸っ!

獄寺君を前にして、見定めるように前から後ろから上から下から眺める骸。
骸、顔は無駄に紳士的な顔してるが動きが多少怪しいぞ。

やけに接近してくる骸に少々押され気味になっているのか、山本達に怒鳴るような感じの覇気がないどころか、あっさり骸に腰に手を回される始末。
ちょっとー!この子、意外と無防備だよーっ!

確かにこうして見ると、獄寺君と並んでも違和感ないくらい骸も美少年だが、獄寺君に手を出そうとしている時点で
「お前は敵だ!」
「え?え?何がですか、十代目?」
「…君は何を言っているんですか」
驚いたようにこちらを見つめる獄寺君と、呆れたようにこちらを見る骸。
あ、また声に出しちゃったよ。

「……とりあえず骸、ちょっと来い」
これ以上ベタベタされても迷惑なので、クロームと獄寺君から少し離れた場所に骸を呼ぶ。
「もう獄寺君に挨拶できたんだからいいだろ。帰れ」
「クフフ、嫉妬ですか綱吉君?」
「なあっ?!」
「しかし意外ですね。君が男好きだなんて」
「!!」
しまった!骸に男好きだとバレた?!
焦る俺に、またあの笑い声を浮かべて
「ああ、安心して下さい。僕も彼には興味を持ちましたから」
「いや、だからやめて。獄寺君は俺が先に目をつけたんだから。これからどんどん仲良くなって、それから獄寺君の絶対の信用と信頼を勝ち取った上で、あわよくばスキンシップと言う名でぺたぺた触り放題していく予定なんだから。俺の計画の邪魔すんな」
「………綱吉君、正直君にはドン引きです」
哀れみの視線を骸が向けてくるが、知ったことか。
もう男好きだとバレたらしょうがない。
バレたなら、この際獄寺君に手出ししないように言っておいた方がいい。
「大体、骸お前はクローム溺愛なくせして獄寺君に興味持つな」
骸はクロームにはやけに過保護な面がある。
俺がクロームと仲良く話をしようものなら、どこかの親父か、というくらいの怒りに帯びた視線を向けてくる。
「クロームはクロームです。隼人君は隼人君。二人に囲まれる光景はなかなかウハウハではありませんか?」
「…骸、さっきの『ドン引き』って言葉、熨斗(のし)付けて返してやる」

お互いがお互いの考えをけなしあった俺と骸は、表面上は二人で笑い合っていたが、お互い目だけは笑っていなかった。

第11話:お食事マナーは守りましょう

<第11話:お食事マナーは守りましょう>

良く晴れた空の下、俺達三人は屋上で昼食をとることにした。

……しかし山本、やはり侮れない。
俺が獄寺君に言ってあげたい言葉をさらりと言ってしまうなんて…。

当の本人の山本は、何事もなかったかのようにお弁当を広げてすでに、食べ始めている。
視線をずらして獄寺君を見ると、先程の真っ赤になっていたのも落ち着いたのか、いそいそと購買で買ったパンの袋を破いて噛り付く。

うわ〜噛り付く姿、何だか小動物みたいだなぁ……。
ああ、可愛い……撫でてみたいよ、抱き込んでみたいよ、むしろ…………おおっと、これ以上はここでは語れないよね。
あーなんか話が途中から飛躍した気がするけど気のせいだよね!
今は獄寺君の可愛さ追及する方が優先だよね!

先程までの低迷していた気分は何処へやら、ニコニコ顔で獄寺君の食べる様子をほぼ眼見している俺。
あー絶対、獄寺君って癒し効果あるよね、俺限定に。

そんな事を考えながら上機嫌でいると、山本が獄寺君に話し掛けた。
「なー獄寺、パンだけなのか?それで足りんの?」
「あ?オメーじゃねぇんだからそんな馬鹿みたいに食わねぇよ」
「えーでも物足んなくね?あ、そうだ。俺のおかず分けてやるよ」
何か食いたいもんあったら言って、とニカッと笑う山本。
「…じゃあ、それ」
「へ?」
山本が抜けた声を出したのと同時に、俺は目を見開いた。

だ…だって、今、山本が箸でつまんで食べようとしたたまご焼きを……横から食べ…っ!?

これにはさすがの山本も戸惑ったようで、顔を赤くして獄寺君を見つめている。
片や獄寺君は何でもないようにもぐもぐとたまご焼きを噛み締めている。

「……獄寺君」
「ん、はい、何すか?十代目」
俺の呼び掛けに急いでたまご焼きを飲み込んで、笑顔で返事をする獄寺君。
「…俺のおかずもあげるよ」
「え!そ…そんな恐れ多い!」
「いいから、どうしても獄寺君に食べて欲しいんだよ」
「は、はあ」
俺のあまりにも真剣な表情に押されたのか、じゃあすみません…と申し訳なさそうに頷く。

だって、山本だけにいい思いさせたくない!…っていうのもあるけど、何より獄寺君にあーんしてあげるチャンスだぞ?
恥ずかしそうに目を閉じながら俺の方に小さな口を開けて待っている姿なんて想像しただけでもヤバイでしょ?!
うおぉおお!あわよくば、口に俺の箸で持っていくってことは…か、間接キスのチャンスっ!!

お、落ち着け!
あまり興奮しすぎてがついてる感じを外に出しちゃって、俺の妄想がバレたりしたら大変だ!
平常心、平常心。

申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、俺に向き合うようにきちんと正座して向かい合う獄寺君に、なるべくいつも通りの笑顔を見せておかずをつまむ。

あー可愛い可愛いっ!
申し訳なさからか、少し俯きぎみにしながら見上げてくる上目使いも、俺相手だと恥ずかしいのかほんのり染まって行く頬も、躊躇しながらおずおず小さく開ける唇も、緊張しているのか固く握りしめた拳も……膝上でいつの間にかチョコンと座っているリボーンを乗せている膝も……………

……………って………

「チャオっす」
「っっ!!ぎゃーっ!!出やがったーっ!!何だよ?お前はっ!?」
「リボーンだ」
「知ってるよ!!そんな事聞いてんじゃないだろ?!何でいるんだよっ!しかも膝上ーっ!」
ポロッと本音が出ているのにも気が付かず、頭を抱えて叫ぶ俺にニヤッと笑うリボーン。

「あ!リボーンさん!お久しぶりです」
「ああ、獄寺。元気そうだな」
「あれ?小僧じゃん」
突然現れたリボーンにもたいして動じる事もなく、普通に挨拶を返す獄寺君と山本。

ごめん、俺二人程すんなり現実を受け止められる程の器はないんだ。
…ってか、二人が順応良すぎるんじゃないのか?

リボーンが膝から落ちないように大事に抱える獄寺君に気分良さそうに嫌味な笑顔を向けてくるリボーンにイラッとしながらも、とりあえず少し落ち着いてみる。
「おい、リボーン。何しに来たんだよ」
「せっかくだから俺もここで昼飯にしようと思ってな。ママンに頼んで弁当作ってもらったんだぞ」
何処からともなく取り出した弁当を、獄寺君に手渡して
「獄寺。パンだけだと栄養かたよるぞ?仕方ないから俺の弁当分けてやるぞ。俺は『赤ん坊』だからそんなに食わねぇからな。箸は一膳しかねぇからお前が俺に食べさせろよ」
やけに『赤ん坊』と言う言葉を強調しながら、さらに俺に向かって勝ち誇るような笑みを見せつつそう言ったリボーンに、素直に「わかりました!」と頷く獄寺君。

嘘つけ、コノヤロウ。
リボーンめ…どこまで非道なんだっ!

「ツナ、オメーの弁当と俺の弁当、中身同じだからお前が分けてやる必要はねぇぞ」
「それが目的かーっ!!」
まんまと、あーんと間接キスのチャンスを奪われて悶絶する俺に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる家庭教師のムカつく笑顔だけがやけに目に焼き付いたのだった。

第10話:厳しい現実

<第10話:厳しい現実>

予鈴がなった為、ようやくあのいたたまれない現場から逃れられた俺は、それからの授業を憂鬱な気分で受けていた。

…人って、頭の中の像と現実とはやっぱり食い違っているものだよね。
そして現実を知って、きっと人は荒んでいくんだ……あはははは……。

憧れの女の子の意外な一面を知ってしまったよ……はぁ。
しかもそれが知らない方がよかったような内容だし。

ともかく、何かで気分を上げようと隣に視線を向ける。

お、今日は獄寺君ちゃんと起きてるんだな。
まあ授業は聞いてなさそうだけど。
凄いつまらなそうな顔してるし。

じっと観察していると、視線に気がついたのか獄寺君がこちらを向く。
ヤバッと少し焦る俺に対して気にすることなくニカッと笑顔を向けてきた。

…………何、この子?
この子は一体、俺をどうしたいんだ?
そんな可愛らしい笑顔を浮かべるなんて……
ちょっと、先生、俺このまま机ごと横に向けて授業受けたいんですけど?
そうすれば、俺寝ずに凄く真面目な態度で授業受ける自信あるよ。
授業内容は聞かないだろうけど。
そして、たまにニヤけるだろうけど。

獄寺君の可愛い笑顔に悦りながらそんな事を考えていると、終業のチャイムが鳴った。
あーようやく昼だよ……そう思って伸びをしていると、
「十代目〜、お昼一緒に食べましょう!」
「へ?」

い、今何と?!お昼一緒に??
ご、獄寺君と一緒にラブラブでお昼ですか?!
ラブラブってことは、あーんして食べさせっこしたりするあれですか?
え、飛躍してるとか言った?
そんな事どうだっていいんだよ!
ダメツナの俺が、眉目秀麗な獄寺君といちゃいちゃでランチだぞ?あーははははは、ざまーみろっ!!(?)

「お、ツナと獄寺!昼飯食うなら一緒に食おうぜ」
幸せ妄想満載の俺と獄寺君の間に入ってきたのは山本で。
一瞬、『獄寺君とのいちゃいちゃが!!』と思いはしたが、可愛い美少年の獄寺君と爽やか少年の山本と一緒っていうのも凄い花があるな……と考え直す。
「ケッ、何でテメーなんかと…」
「いいじゃん、友達だろ?なーツナ?」
「うん、まあいいじゃん獄寺君…」
「じ、十代目がそうおっしゃるなら…」
山本に肩を組まれたまま、不本意だという表情で口を尖らせつつ了承する獄寺君。
そんな拗ねた顔も可愛いよね!ふふふっ。
…でも、山本、とりあえず肩は離せ。
近い。

すると何を思ったのか、獄寺君と肩を組んだままの山本が、じっと獄寺君の顔を見つめている。
「……何だよ、テメーは?つか、いい加減離せ」
不快そうに山本を睨みつける獄寺君に対し、ニカッと笑顔を浮かべて、
「獄寺って綺麗で可愛い顔してるよな!」
「なっ?!」

何ですとぉー?!山本ぉぉおーっ!!
何、さらりと俺が言ってあげたい言葉を言ってくれちゃってるわけ?!

「ふっふざけんな!」
「えー?だってそうじゃん?あ、あと性格も可愛いよな!」
あははと爽やかに笑いながら山本節を炸裂する山本に、獄寺君は怒りなのか照れなのか、真っ赤な顔で口をぱくぱくさせながらプルプルと奮えている。

や…山本……何だ、それは天然で言ってるのか?天然なのか??
ちょっとやめてよ〜っ!
山本といい、お兄さんといい、京子ちゃんといい、天然は色んな意味でたち悪すぎだよーっ!!

気にせずアハハと笑う山本に、真っ赤なまま奮える獄寺君を交互に視界に入れて、こうもあっさりと友人に口説き文句をとられたショックでますます気分が落ち込んでいくのだった。

第9話:兄妹の不思議

<第9話:兄妹の不思議>

保健室から出てから獄寺君の手を掴んだまま、ずかずかと歩く俺。

まったく…シャマルめ…。
本当に後で覚えてろよ。

そう心の中で舌打ちしておく。
……それにしても。
後ろで「十代目〜?」と不思議そうに見つめながらついてくる獄寺君………手首、細いなぁ〜。
思わず掴んじゃったけど、まあ結果オーライってことで。
これなら、手を繋げる日も意外と近いかもしれないな。
え?何か間違ってるって?
そーんなことないよ、ふふふ。
俺の『獄寺君と親睦を深めるところまで深めていこう計画』は着実に進行中だよ。(ちょっとシャマルに邪魔されて、遠ざかりかかったけど)

とりあえず、先程までの立て続けの悪災(?)から現実逃避するためにも、今手首を掴んでるという事実を喜ぼうとちょっとテンションを上げて歩いていると、前方に見慣れた二人を見つけた。

あ、あれは…!

「あれ?笹川じゃないんですか?」
俺が声を上げるのより先に、獄寺君が声を上げる。
その声に気がついたのか、二人がこちらを向いた。
「あ、ツナ君、獄寺君」
「おお、沢田か」
ニッコリ二人して太陽みたいな明るい笑顔を向けてきたのは京子ちゃんとお兄さんで。
そういえば、さっき一限終わったのか。
いや、それよりも……先程のシャマルのせいで、ちょっと京子ちゃんに会いづらかったのに。

しかし、ちらっと横目で獄寺君の様子を伺うと、どうやら京子ちゃんよりも、隣にいるお兄さんの方を不審そうに見ている。
「…十代目、コイツはなんですか?」
「あ、そうか、初対面か。この人は京子ちゃんのお兄さんで、…それと山本達と同じ、晴れの守護者の…」
「え?コイツもっすか?」
あからさまに不可解そうな顔つきでお兄さんを見つめる。
「ん?お前が小僧が言っていた新しい仲間か?」
「あ?うるせぇな、馴れ馴れしく話し掛けんな」
「む!そうか!極限にボクシングに興味を持ったか!」
「いやいや、一言も言ってねぇよ。つーか話噛み合ってねぇよ」
「細かい事を気にしてるようでは男らしくなれんぞ?」
「気にするわっ!」

お兄さん、頼みますから繋がる会話してください。
そして、獄寺君も見事にムキにならないで。

そんな二人の様子を諦め半分に眺めていると、横にいた京子ちゃんがくすくす楽しそうに笑い出した。
「京子ちゃん?」
「ううん、ごめんね。ただ、ツナ君と獄寺君って凄く仲がいいんだな…って」
「へ?」
そういって京子ちゃんが指差した方を見ると……
そこには、今だ獄寺君の手首を掴んだままの俺の手が。
「あ!い、いや、これは…」
恥ずかしくなって勢いよく離す俺に、優しく微笑む京子ちゃん。
「仲が良いっていいよね、ツナ君」
「京子ちゃん……」
京子ちゃんの優しい笑顔を見つめながら、ちょっと俺は感動する。
ああ、やっぱり京子ちゃんは優しくて可愛いなあ…。
女子の中だったらやっぱり京子ちゃんが1番だよ…。
「それに、ツナ君も獄寺君も可愛い顔してるから、可愛い顔の二人が手を繋いでるのって萌えるよね!」
「そうそう、萌える……………って、えええええ?!き、京子ちゃーんっ?!」
驚きのあまり、大声上げた俺に「どうしたの?」と不思議そうに傾げる京子ちゃん。

い、今『萌える』って言わなかった?ねえ?言わなかった??
あれ?そ、空耳??いやいやいやいや。
気のせいか、聞いてはいけない台詞が聞こえてきたよ?
てか、京子ちゃん、そんなキャラじゃないでしょう?

一人頭を抱えて頭の中を整理しつつ、先程の台詞は空耳だ!と思い込もうとしていると、獄寺君から現実を突き付けられた。

「十代目、『萌』ってなんですか?」

……ああ、うん。
やっぱり京子ちゃん、そうに言ってたんだね。
何か色々ショックだなぁ…。

「……獄寺君は知らなくていい言葉だよ」
「??そうなんですか?」
とりあえず、外見と違って意外にも純粋な獄寺君には教えてはならないと本能的に悟る。

「で?京子、『萌』とは何だ?」

お、お兄さーんっ!!

わざわざ本能的に話を反らした俺の努力は一瞬で無駄になる。
さすが、天然兄妹。

「ふふっ、お兄ちゃんも獄寺君も純粋で可愛いよね!」

いやいや、京子ちゃん。
そんな爽やかな笑顔でいう台詞じゃないよ?
つーか、何だこのメンバー?ツッコミずれぇーっ!


変わらず可愛いらしい笑顔を浮かべる京子ちゃんに、意味もわからす元気に笑うお兄さん。
そして横には意味がわからず眉を寄せて傾げる獄寺君。


とりあえず、本気でこの場から逃げたいと思ったのだった。
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