<第14話:暴走シンドローム>
骸とクロームと(無理矢理)別れてから、再び獄寺君と二人きりで帰り道を歩く。
「…あのさ、獄寺君」
「はい!何ですか十代目?」
軽快にいい返事を返してくれた獄寺君に、今までだったら悦に入りそうなくらいのにやけ面を浮かべるところだが、今は違う。
多分、若干引き攣っていると思う。
それもそのはず、だって先程から獄寺君が物珍しそうに眺めている手の物体……その名も通称「ネコミミ」が目について仕方ないからだ。
「…あのさ、そのネコミミ…なんだけど」
獄寺君の手の中にあるソレにちらっとだけ視線を向ける。
「それ、人前では絶対に付けないでね?」
「え?人前はダメなんですか?」
キョトンと目を丸くしてこちらを見る獄寺君。
いや、そこは普通なら驚くとこじゃないと思うよ。
「ほ、ほら、クロームが言ってただろ?それつけると男の人が喜ぶかもしれないって。獄寺君、見知らぬ人達喜ばせたいわけじゃないだろ?」
「当たり前です!んな気持ち悪ぃ事しないっすよ。成る程、わかりました!人前では付けません!」
ピシッと敬礼でもしそうな勢いで納得する獄寺君に、ホッと胸を撫で下ろす。
相手が男であれ女であれ、誰がネコミミ獄寺君を見せるものか。
知ってる骸とかさえ気をつければネコミミ独占できるんだぞ?
「ってことは、十代目の前でも付けない方がいいんすか?」
「いえ!俺の前ではお願いします」
勢いよくお辞儀した俺に、獄寺君はビクッとしている。
俺は意外と自分の本能には正直な人間なんだよ。
「じ、じゃあ十代目の前だけにしますね!」
ニコニコと笑顔を向ける獄寺君の視界に入らないようにニヤリと口角を上げ、小さくガッツポーズをする。
やった!意外と扱いやすいよ、この子!
いや、クロームと会話していた時から薄々気付いてはいたけど……何気にアホの子っぽいよね、獄寺君って。
…ただ、ちょっと
「…獄寺君」
「はい」
「あまり簡単に人を信用しないようにね?」
「はい?」
「…獄寺君、疑い深いけど…すぐに騙されやすいとこあるから」
「…はぁ…??」
意味がわからないと言う表情を浮かべる獄寺君に、なるべく俺が見張っていようと心に決める。
「…はひっ?ツナさん!」
突然、後方からかけられた声にピタリと足を止める。
この声はー……
「ハ、ハル?」
「ツナさん奇遇です!こんなところでお会いできるなんて運命ですね!」
パタパタと軽い足取りで近付いて来たハルは、嬉しそうに俺の腕に抱き着いてウットリとしている。
「十代目、何すかこのやかましい女?」
「あ、え、えーとね…」
「やかましいとは何ですか!ハルはやかましくないです、失礼ですね。この方、ツナさんのお友達ですか?」
ムッとした顔でお互いをじろじろ見合う獄寺君とハル。
ち、ちょっとハル!くっつきすぎだよ!獄寺君にまた誤解されるっ!
「つーか十代目に馴れ馴れしくしてんじゃねえよ!離れろ!」
「嫌です!ハルは未来のマフィアボス婦人候補なんですから!」
ハ、ハルーっ!?ぎゃあーそんな事言うなよ〜っ!!
「は?あ…れ?十代目は笹川の事が…。あ、そうか愛人ですね、十代目!もう愛人がいらっしゃるんですね?さすがです!」
「いや、待って!落ち着いて?飛躍しないで?違うからっ!!」
真顔でガクガクと獄寺君の肩を揺するも、キラキラと尊敬の眼差しを向けられていて聞いていない。
か、勘弁してくれよ〜。
ああ、でも……そのキラキラした顔も可愛いなぁ〜…チクショウ。
こんな状況でなければ、ずっとこの顔見てたいよ。
「………ツナさん」
悦っていた俺の腕にしがみついたままのハルが、俺の耳元に小声でぽつりと呟いた。
「ひょっとしてツナさん、この獄寺さんって方の事……好きなんですか?」
「へ?」
いきなりの確信に、声が裏返る。
「やっぱりそうなんですね?ツナさん、ラブラブ熱視線送ってましたからもしやと思ったんです」
ハ、ハル……時々鋭い子だとは思ってはいたが…ここまでとはっ!?
「困りましたね…ライバルが増えるのは…。で、ですが乙女として、この禁断の愛…というシチュエーション……も、萌えますっ!!」
「は?」
あ、あれ?何か数時間前にも違う少女から同じような台詞を聞いたような……。
「むむっ、仕方ありません!禁断の愛が気になって仕方ないので、ハルが伴侶、獄寺さんが愛人…って事で手を打ちましょう!」
「ハ、ハル?!何の話?ねえ、何の話っ??」
こっちはこっちでいきなり何処まで思考が飛んで行ってるわけ?!
「ともかく!禁断の愛については後でじっくり聞かせて下さいね!」
ビシッと親指を立ててから、それでは!と手を振って去っていく嵐のようなハルに、言葉もでなく固まる俺と、その横には状況が掴めなくてポカンと立ち尽くす獄寺君がいたのだった…。