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第15話:あの子も私も十代目

<第15話:あの子も私も十代目>

ハルが風のように去って行ってから数分間、俺は思考停止状態に陥っていて全く動くことができなかった。

あ、カラスが頭上でカーカー鳴いてるよ。
いい気なもんだね、ふふふふふっ。

「じゅ、十代目?あの…どうしたんですか?」
遠い目をしていた俺の目の前で、眉を情けなく垂らして心配そうに覗き込む獄寺君。

あー綺麗な顔だなあ。
こんな近くで獄寺君の顔を見られるなんて幸せだなぁ…。
この近さならいっそ、キスも………

…………って、

「ち、近っっ?!?!」
「あ、すみません」
「いや!もっと近くてもっ!!」
俺の驚きに、パッと体を離した獄寺君に、思わず本音がもれてしまう。
へ?と頭に疑問詞を浮かべて首を傾げる獄寺君に、何でもないと慌てて伝える。
「そうですか?」と目をぱちぱちさせてからニッコリ笑ってくれる獄寺君。

ああ…君はなんて素直な可愛い子なんだ…。
もうニヤけがとまりませんよ?!

えへえへ、と笑いながら二人きりの幸せな帰宅時間を過ごしていると、不意に獄寺君が現実的な話をした。
「そういえば、数学の先公マジうざいっすね!十代目を指すなんて身の程知らずな奴です!」
そして、そんな先生を威嚇する獄寺君はもっと凄いよね。
でも、必死に大袈裟ジェスチャーで答えを教えてくれようとしている姿は、そりゃあもう可愛らしかった。
指されて立ってるのに、顔がニヤけっぱなしだったよ、俺。

「…って、そうだ!そういえば、今日数学宿題出されてたよね?」
しまった!現実逃避していてすっかり忘れてたよ!?
「あー…ヤダなぁ…数学苦手なのに…」
「なら、俺がお教えしますよ!」

…………え?

えええええっ?!

「ぜ、是非っ!!」
「はいっ!」
力いっぱいお願いする俺に、照れたように笑顔で返事をしてくれる。
やった!やったああ!
獄寺君といちゃいちゃで宿題だよ?うはははは!
なんだか皆に勝った気がするよ!意味わからないけど!
もうなんか嬉しくてスキップしちゃいそうだよ!
ああ、もうすぐ俺ん家につくよ。
自分の家がこんなに素敵な場所に見える日が来るなんて!
ほら、俺ん家の塀が見えてきた。
で、その前に黒い車と金髪の爽やかに手を振る人がー……

………って、

「おーい、ツナ〜。それとスモーキィィン!!」

……何だろ?スゲーテンション下がったよ。
あー見なきゃよかった。
つーか何でディーノさんいるの?
てか、スモーキンって…ディーノさん獄寺君と知り合い?!
「ご、獄寺君…獄寺君ってあそこで俺ん家の風景とは場違いなディーノさんと知り合いなの…?」
隣にいた獄寺君もディーノさんに気がついたのか、「ああ…」と顔をしかめる。
「リボーンさん絡みでちょっと面識あるだけっすよ」
「よし、じゃあ見なかったことにして帰ろうか」
「え?十代目?帰るって…そちらは逆方向…」
「おいおい、二人共どこ行くんだ?」
振り向くと、ディーノさんが「げ!」と嫌そうな顔をする獄寺君目掛けて手を広げて抱き着かんばかりに走ってくる。
そんなディーノさんの前に立ちはだかってみせる。
抱き着かせてたまるか。
「ディーノさん、こんにちは。てか、弟分に挨拶そこそこで、そのくせ獄寺君に抱き着こうとはどういった了見ですか?」
「ん?どうした、ツナ。ハグなんて挨拶だろ?」
「ニヤけ面で言っても説得力ないです。あー…何でディーノさん、無駄に美形なんでしょうね。今までは尊敬と美形で俺の中ではポイント高かったんですが、獄寺君に抱き着こうとした時点で信用がた落ちです」
据わった目付きで淡々と話す俺にも動じず、爽やかフェイスを浮かべている。

くっ!美形なんだけど!確かに美形なんだけどっ!!

そんな苦悩をしている俺を軽く流して、後ろにいる獄寺君に視線を向けるディーノさん。
「スモーキン!元気してたか?相変わらず可愛いな!」
「…お前は相変わらずおかしな発言してんな。つーか何でテメーがいるんだよ?」

…ディーノさん、今『可愛い』って言った?
さすがイタリアンめ…。
くっさい台詞をいとも簡単に口にするところが侮れない…。

「何しに…って、スモーキンを嫁に向かえに」
「何ですとぉおーっっ?!」
何かを言い返そうとしていた獄寺君より先に声を上げたのは俺だった。
だってそうだろ?
嫁にしたいのは俺も同じなんだから!!
「な、何だ?ツナ」
「…俺の獄寺君に手ぇ出すとはいい度胸ですね」
「俺の?何だ、ツナも狙ってんのか?だけど、ここは兄貴分として譲れないぜ!」
ニカッと輝かしいまでの笑顔が眩しいですよ。
何で美形の笑顔って、無駄に破壊的なんだろう…?


「……おい、お前ら。いつまで表で変態トーク繰り出してんだ」
「「リ、リボーン?!」」
「お前らがご近所さんから変態に見られるのは構わねぇが、繋がりでママンまでが変態の同類だと思われたらどうしてくれんだ?」
きっちり俺とディーノさんに蹴りを入れてくるリボーンに、あっさり俺達は沈められて。

……そんなリボーンが、ちゃっかり獄寺君の腕の中に飛び込んで抱っこしてもらってるとこを、俺は見逃さなかった…。

第14話:暴走シンドローム

<第14話:暴走シンドローム>

骸とクロームと(無理矢理)別れてから、再び獄寺君と二人きりで帰り道を歩く。

「…あのさ、獄寺君」
「はい!何ですか十代目?」
軽快にいい返事を返してくれた獄寺君に、今までだったら悦に入りそうなくらいのにやけ面を浮かべるところだが、今は違う。
多分、若干引き攣っていると思う。
それもそのはず、だって先程から獄寺君が物珍しそうに眺めている手の物体……その名も通称「ネコミミ」が目について仕方ないからだ。

「…あのさ、そのネコミミ…なんだけど」
獄寺君の手の中にあるソレにちらっとだけ視線を向ける。
「それ、人前では絶対に付けないでね?」
「え?人前はダメなんですか?」
キョトンと目を丸くしてこちらを見る獄寺君。
いや、そこは普通なら驚くとこじゃないと思うよ。
「ほ、ほら、クロームが言ってただろ?それつけると男の人が喜ぶかもしれないって。獄寺君、見知らぬ人達喜ばせたいわけじゃないだろ?」
「当たり前です!んな気持ち悪ぃ事しないっすよ。成る程、わかりました!人前では付けません!」
ピシッと敬礼でもしそうな勢いで納得する獄寺君に、ホッと胸を撫で下ろす。
相手が男であれ女であれ、誰がネコミミ獄寺君を見せるものか。
知ってる骸とかさえ気をつければネコミミ独占できるんだぞ?

「ってことは、十代目の前でも付けない方がいいんすか?」
「いえ!俺の前ではお願いします」
勢いよくお辞儀した俺に、獄寺君はビクッとしている。
俺は意外と自分の本能には正直な人間なんだよ。
「じ、じゃあ十代目の前だけにしますね!」
ニコニコと笑顔を向ける獄寺君の視界に入らないようにニヤリと口角を上げ、小さくガッツポーズをする。

やった!意外と扱いやすいよ、この子!
いや、クロームと会話していた時から薄々気付いてはいたけど……何気にアホの子っぽいよね、獄寺君って。
…ただ、ちょっと
「…獄寺君」
「はい」
「あまり簡単に人を信用しないようにね?」
「はい?」
「…獄寺君、疑い深いけど…すぐに騙されやすいとこあるから」
「…はぁ…??」
意味がわからないと言う表情を浮かべる獄寺君に、なるべく俺が見張っていようと心に決める。



「…はひっ?ツナさん!」
突然、後方からかけられた声にピタリと足を止める。
この声はー……
「ハ、ハル?」
「ツナさん奇遇です!こんなところでお会いできるなんて運命ですね!」
パタパタと軽い足取りで近付いて来たハルは、嬉しそうに俺の腕に抱き着いてウットリとしている。
「十代目、何すかこのやかましい女?」
「あ、え、えーとね…」
「やかましいとは何ですか!ハルはやかましくないです、失礼ですね。この方、ツナさんのお友達ですか?」
ムッとした顔でお互いをじろじろ見合う獄寺君とハル。
ち、ちょっとハル!くっつきすぎだよ!獄寺君にまた誤解されるっ!

「つーか十代目に馴れ馴れしくしてんじゃねえよ!離れろ!」
「嫌です!ハルは未来のマフィアボス婦人候補なんですから!」
ハ、ハルーっ!?ぎゃあーそんな事言うなよ〜っ!!
「は?あ…れ?十代目は笹川の事が…。あ、そうか愛人ですね、十代目!もう愛人がいらっしゃるんですね?さすがです!」
「いや、待って!落ち着いて?飛躍しないで?違うからっ!!」
真顔でガクガクと獄寺君の肩を揺するも、キラキラと尊敬の眼差しを向けられていて聞いていない。

か、勘弁してくれよ〜。
ああ、でも……そのキラキラした顔も可愛いなぁ〜…チクショウ。
こんな状況でなければ、ずっとこの顔見てたいよ。

「………ツナさん」
悦っていた俺の腕にしがみついたままのハルが、俺の耳元に小声でぽつりと呟いた。
「ひょっとしてツナさん、この獄寺さんって方の事……好きなんですか?」
「へ?」
いきなりの確信に、声が裏返る。
「やっぱりそうなんですね?ツナさん、ラブラブ熱視線送ってましたからもしやと思ったんです」
ハ、ハル……時々鋭い子だとは思ってはいたが…ここまでとはっ!?
「困りましたね…ライバルが増えるのは…。で、ですが乙女として、この禁断の愛…というシチュエーション……も、萌えますっ!!」
「は?」
あ、あれ?何か数時間前にも違う少女から同じような台詞を聞いたような……。
「むむっ、仕方ありません!禁断の愛が気になって仕方ないので、ハルが伴侶、獄寺さんが愛人…って事で手を打ちましょう!」
「ハ、ハル?!何の話?ねえ、何の話っ??」
こっちはこっちでいきなり何処まで思考が飛んで行ってるわけ?!

「ともかく!禁断の愛については後でじっくり聞かせて下さいね!」
ビシッと親指を立ててから、それでは!と手を振って去っていく嵐のようなハルに、言葉もでなく固まる俺と、その横には状況が掴めなくてポカンと立ち尽くす獄寺君がいたのだった…。
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