<第6話:服装検査はお早めに>
心地よい夢の中……
この時ばかりは最高の至福を感じる…。
『……め』
あ……誰か呼んでる…。
『……い…め』
…誰……?母さん?リボーン?
誰でもいいから、もう少し寝かせてよー……。
『じゅ…め』
『十代目!』
ーーっ?!
「ーー獄寺君っ?!」
「お、ようやく起きましたか、『十代目』?」
一気に覚醒した頭で真横の声の主を見ると、そこには獄寺君がー……
………って、そんなわけない。
そこには、いつも通りにリボーンがニヤけながら立っていた。
「……おい、今の十代目っていう台詞はお前か?リボーン。声マネのつもりか?似てないんだよ、コノヤロウ」
「酷いです十代目」
「朝から気持ち悪い言い方すんな。微塵も似てないんだよ」
「その微塵も似てない声を獄寺だと思って跳び起きた奴はどこのどいつだ?変態」
ハンッと鼻で笑うリボーンに、ぐっと詰まる。
ああ、そうだよ!獄寺君が朝から俺の枕元に…なんてウハウハな事考えたよ!
悪いか?畜生!!
朝からガクリと下がったテンションにため息をつきつつも、しぶしぶ起きて身支度をする。
まあ、リボーンに男好きとバレても変な風に見られなかったことはよかったけど、獄寺君の事でこれからからかわれるようになるんだろうな…とバレたことが、良いような悪いような…なんか複雑だ。
いや、しかもあいつ獄寺君狙ってるっぽい発言したよな?!
くっそ〜リボーンが相手だと手強そうだ。
だが、ダメツナの俺にそうそう簡単に案が出るわけもなく。
気落ちしながら玄関を開けるとー…
「おはようございます!十代目!」
「……」
あれ?幻覚?またリボーンの仕業か?
「十代目?」
「ほ、本物??」
「はい?」
ああ、小首傾げてるよ、可愛いなあ。
てかやっぱり本物か?確認すると見せ掛けて、触っても大丈夫かな…?
いや、それより迎えに?うおお、それってつまり一緒に仲睦まじく登校するってことですか?!やった!やったよ、リボーン!!
「……朝、間違えたくせに」
ええい、後ろでボソッと横槍入れるな、リボーン!
今が幸せだからなんでもいいんだよ!
これ以上リボーンに何か言われるのも釈だし、何よりリボーンと獄寺君を何となく顔合わせさせたくなかったので、そのまま獄寺君を連れて急いで家を出た。
ああ、でもこれから毎日迎えに来てくれるのかな…?
そんな事を考えつつ学校へ向かうと、校門の前に人だかりができていた。
何だろう…と目を凝らしてよくみると、学ランを来た男子達が並んでいて。
あ!まさか今日、服装検査か?
いや、でも俺そんな服装着崩しているわけじゃないから、あの人に噛み殺されるわけー…
「なんすか?あいつら」
あ、ダメだ。
この人完璧に捕まるよ!
ど、どうしよう……
訳がわかってない獄寺君をよそに、俺が立ち尽くしたままおどおどしていると、校門の前にいる風紀委員の一人……よりによって雲雀さんと目があった。
ま、まずい!!
「ん?沢田、君…何してるの?そんな怠そうな顔して。その顔が校則違犯ってことで噛み殺していい?」
「って、えええー?!注意されんの俺ーっ?!しかも顔が理由ってどんなんですよ?!横暴過ぎます、っていうか酷すぎます!」
顔注意されても直しようがないんですけれど?!
思わずツッコミを入れてしまった俺に、雲雀さんは気にすることなく近付いてくる。
ヤバイ、と思った時に俺の前に獄寺君が割って入った。
「何だテメェ」
「…何?この子」
「あ、えーと、ひ…雲雀さん、この子は獄寺隼人君と言って、昨日転校してきた守護者の一人です!ご、獄寺君、この人は風紀委員の雲雀さんって言って、この人も守護者の一人だから…」
「え?コイツがですか?」
胡散臭そうに雲雀さんに視線を向ける獄寺君に対し、雲雀さんもじっと獄寺君を見つめる。
「何じろじろ見てんだよ?」
「…へえ、僕に向かって吠えてくるなんて珍しい生き物だね。…おもしろい」
ニヤリと口角を上げ、いっそう獄寺君に近付いて、品定めするようにじろじろ見つめる雲雀さん。
「……うん、なかなか気に入ったよ。特別に君には応接室で服装検査してあげる。まずは名札からだね」
「は?」
「な、名札?!」
え?てかうちの学校、名札あったんですか?!
ツッコミたかったけど、怖くてツッコめない。
「…名札もねぇのに、注意も何もねえだろ」
「名札は今から作るんだよ。『雲雀隼人』っていうのを」
「いやいやいや、おかしいでしょう、それ?」
先程の恐怖心はどこへやら、俺は直ぐさまツッコミを入れた。
「何、君?何か文句あるの?」
「普通におかしいでしょ?何初対面の相手の苗字変えようとしてんですか?」
「僕は気に入ったらすぐ自分のものにしたくなるたちなんだよね。ほら、よく言うじゃない、『自分のものには名前を書きましょう』って」
「意味違いますから。何で、落とし物とかの為に『名前書く』とか子供に教えるような教育的な台詞を、苗字変更なんて今後の人生に関わるような重い話に置き換えてるんですか?」
「落としたら困るでしょ?」
……いや、獄寺君落とすとか意味わかりませんから。
ともかく、何やら嫌な方向に話が行きつつあるので、なんとしてでも獄寺君連れてこの場から離れなければ!
…仕方ない『あれ』を使おう。
「あ、骸が塀よじ登って校内に!!」
「!!」
直ぐさまトンファーを構えて方向転換する雲雀さんに、その隙に獄寺君を連れて校舎へ走る。
いつも雲雀さんは敵視してる骸に反応するんだよね。
ふっふっふっ、悪いな骸。
俺は使えるもんは何でも使うよ?
おっと、ちょっと黒い発言しちゃったよ。
気をつけないと。
しかし、まあ……
ちらっと俺に腕を引かれながら「塀登る骸ってなんですか?」なんて暢気に聞いてくる獄寺君を見て、とんでもない人に目をつけられたな…と、こっそりため息をついた。
…あれ?そういえば雲雀さん。
あの人、獄寺君の服装については全くツッコまなかったなぁ…?