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第17話:直球こそが1番の変化球

<第17話:直球こそが1番の変化球>

…結局、あのまま気を失ってしまって、目が覚めた時にはすでに夜になっていた。
獄寺君も、俺が気絶してる間に帰っちゃったみたいだし…
あーあ、せっかくもうちょっとで獄寺君の十年後の姿が見れると思ったのに…

うなだれる俺に、リボーンが「自業自得だ」と吐き捨てるように言っていたのだった。



次の日、また獄寺君が朝迎えに来てくれて、昨日の事を心配してくれたけど、よこしまな考えがあったせいか、うまく返事が返せなかった。

「あーあ…」
学校に着いてもため息ばかり漏れる俺に心配そうに獄寺君が話し掛けてくる。
「…十代目?一体どうしたんですか?体調悪いんじゃ…」
「いや…そういう訳じゃ…」
単に、十年後が見られなかったという理由もあるけれど、何より昨日せっかく二人切りで宿題をしながらいちゃいちゃしようと思った俺の計画を見事にリボーン達に邪魔されて、この先こうして邪魔ばかりされてきっと獄寺君との仲はあまり進展しないままでいくんじゃないか…という早くも夢が砕けそうな展開に落ち込んでるだけなのだ。

「…やっぱり保健室行ってくる」
「それならお供します!」
「え!……いやいや、やっぱダメだ!授業始まるし、一人で平気だよ」
「しかし…」
危ない、危ない。
『一緒に』なんて素敵な言葉に素直に頷くとこだったよ。
さすがに獄寺君にまで授業サボらせるわけにはいかないよな。

なかなか食い下がらない獄寺君をなんとか説得して一人保健室へ向かう。

獄寺君…ちょっと不満そうな顔してたなぁ…
そんな俺を心配する顔も可愛いけれどね。

それにしてもリボーンめ。

リボーンに悪態をつきながら保健室の扉に手をかける。
「……はぁぁーっ」
「何だぁ?テメーボンゴレ坊主、入ってくるなりため息とはいい度胸だな」
ピクッとこめかみを動かしたシャマルが椅子ごとこちらを向いて睨んでくる。

仕方ないだろ。
シャマルの顔見たら、何故だか尚更凹んだんだから。

「男は見ねえって言ったろ?帰れ、帰れ」
「…シャマル、昨日の一件忘れた訳じゃないからな。なんなら今から黄泉への片道切符渡しても構わないんだけど?」
一生、三途の川見学してるか?と据わった目付きで棒読みすれば、何も言わずにシャマルはベッドを貸してくれた。


「あーあ…」
ベッドに横になりながら、再びため息をつく。

どうしたら誰かに邪魔されず、獄寺君と仲良くなっていけるのか。
ただでさえ、男同士で恋仲…なんて夢に近いのに、仲良くなることまで阻害されたんじゃ、さすがに落ち込む。
「おーおー落ち込んでるな。どうせ隼人絡みだろ?」
「…別に」
「リボーンに邪魔でもされたかー?」
「う…」
図星を突かれて言葉に詰まる。
ゆっくり起き上がって、引き攣りながらシャマルの方へむけば、案の定、シャマルは楽しそうにニヤけ面を隠そうともしない。
まるで、からかいがいのある獲物がいる、そんな顔をしている。
「相談乗ってやろうか、ボンゴレ坊主?」
「え?」
変わらずニヤけてはいるものの、出された意外な言葉に思わず反応してしまう。
…と、いうか……
「シャマルもてっきり邪魔してくるんじゃないかと思ってたよ。シャマル過保護そうだし。シャマルは俺と獄寺君がそうなってもいいと思ってるの?」
「んなわけあるか。隼人に悪い虫が付くなんて冗談じゃねえ。ただそれ以上に、お前が悪戦苦闘しているところを見るのが面白そうだと思ったからだ」
「……」
相変わらず素直に最低発言かましたよ、このオッサン。

まあ、この際なんでもいいや。
こんな奴でも、獄寺君とは昔馴染みみたいだし、少しは役に立つ情報聞き出せるかもしれない。
藁をも掴むってこういう事を言うのだろう。

じっと、物言いたげな目でシャマルを見つめていると、シャマルはニッと口元を緩め、そして…
「いっそ告っちまったらどうだ?」
「ぶっ?!な、何言ってんだよ?そんな、いきなり!」
「甘いな、ボンゴレ坊主。隼人は何事に対しても直球でいかなきゃ伝わらねえ人間だ。だから、言ってみたら案外伝わるかもしれねえぜ?」
何事も直球だ、直球!と簡単に言ってくれる。
「…無理だよ、ただでさえ男同士なのに」
「イタリア育ちのあいつがそんな事は気にしねえよ。マフィア界にはざらにいるしな」
そういえばリボーンがそんな事言っていたなぁ…と思い出す。
「とりあえず直球で当たれ!そして、できれば見事に砕け散ってくれ」
「…シャマル、今最後、本音ともとれる余計な一言言ったよな?このやろう」
完全に遊ばれてるとも言えるこのエロ医者の態度に、ちょっとした怒りを覚える。

ー…と、そこへいきなり保健室の扉が開かれた。
「十代目!大丈夫ですか?」
「ご、獄寺君」
扉の音と重なるように聞こえて来た声の主は、授業が終わるなり教室を飛び出してきたのか、息を切らして俺に詰め寄る。
「お体の具合はどうですか?って、テメー、シャマル!十代目は大丈夫なんだろうな?」
俺の心配をしたかと思えば、シャマルに噛み付いてとせわしない獄寺君の登場に焦る俺と、面白そうに見遣るシャマル。

先程まで、あんな話をしていたから尚更…

「ほれ、ボンゴレ坊主。言うなら今じゃねえの?」
「なあ?!」
クイッと顎で獄寺君を指し示すシャマルに、余計な事を言われた俺は固まって動けなくなる。
そんなシャマルの言葉に、頭に疑問詞を浮かべて首を傾げる獄寺君。
「十代目?何か俺に言う事が?」
「あ、や…その」
追い込まれ、吃る俺を見兼ねたのか、シャマルがさらに余計な事を言う。
「隼人、そいつは恋愛相談があるそうだ」

シャーマールゥゥ〜ッ!?

冷や汗もので獄寺君と目を合わせた俺に、「恋愛相談?」とキョトンとした顔で見つめてくる獄寺君。
もうここまできたら、言った方が楽になるのかもしれない。
ゴクリと唾を飲み込み、震えそうな拳を握りしめる。

ーそして

「お、俺っ、君の事…す、好きなんだ!」

……い、言っちゃった!
なんかシャマルに煽られる形だったけど。
しかも、ヤケクソっぽかったけどっ。

硬直したぎこちない顔のまま、視線だけ獄寺君に向ける。
すると、ポカンと口を開けたまま凝視していた獄寺君の頬が、さっと赤くなった。

ーでも、すぐに何かを考え込むように口に手をあて、「あれ?確か笹川が…」とぶつぶつ言い始めた。

……何だろう。
凄く嫌な予感がする。

不穏な空気を悟った俺を余所に、いきなり獄寺君が「ああ!」と何かを納得したように手を叩いた。
そして、俺に満悦の笑顔を浮かべ。
「恋愛相談って事は、練習ですね!笹川に告白する時の為の。俺でよければいくらでも練習相手になりますよ」
いくらでもどうぞ!といった感じで向けられた輝かしいまでの笑顔。
この時、初めて獄寺君の笑顔が突き刺さるように痛かった気がした。

ぐるりと、そのまま顔をシャマルへ向けると、
「悪い、ボンゴレ坊主。直球で言わなきゃ伝わらない相手ではあるけれど、その直球を自分の直前で変化球に変える追加効果を持つ人間だった」
「いや、そんな追加効果いらないから」
ドンマイ!と言いながら親指を立てるシャマルにこれ以上ないくらいの引き攣り笑いが出たのだった。


…こうして、俺のヤケクソ的な告白は
獄寺君の素晴らしい勘違いによる自己解決により、完全スルーされたのであった。
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