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第25話:膝枕は男のジャスティス

<第25話:膝枕は男のジャスティス>

見事にリボーンの可愛い赤ん坊特有の手から繰り出された、クリティカルなビンタと言う名の凶器を受けて気を失った俺は、どうやらあれから数分間、ふよふよと夢の世界に旅立っていたらしい。

ようやく浮上してきた意識を頼りに頭をわずかに動かすと、まだ完全に覚醒していないながらも、ある異変に気が付いた。

……あれ?
なんか…頭の下に何かある…?
枕…にしては、少し固めなような……それでいて、ほんのり温かな温もりを感じるような……。

ふらふらと夢と覚醒の合間を漂う俺には、すぐにはその違和感が何であるかなんて考えは出て来なくて。
うつらうつらと、再び眠りにつきそうになりかけた時に、その頭の下の何かが微妙に動いた気配を感じた。
え?、とそこでようやく再び覚醒に近づいた意識が、すぐさまある一つの考えに行き着いた。

ま…まさかこの温もりって……い、所謂、膝枕ってやつですか……?!
あの状況から考えて、まさか……まさかっ!!獄寺君のーっ?!

「ーーっ、膝枕っっ!!」
「…お?目ぇ覚めたか、ツナ?」
「って………え?」
カッ!っと勢いよく開かれた視界真っ直ぐ上空に飛び込んできた顔は、愛しの獄寺君の見下ろす可愛い顔ー……ではなく。
「と、父さん?!っていうか、父さんの膝枕……っっ!?がはっ!」
そりゃ、やけに固いはずだ。
おそらく血をはくくらいの勢いで、再び気絶しそうになった俺の頭を、父さんが再び自分の膝で受け止める。

…やめて、父さん。
むしろそのまま床に落としてくれた方が記憶がとんだかもしれないから。

「な……んで…父さんが…」
ここに…という言葉は、微妙に声にならなかった。
「バジル連れて来るついでに母さんと獄寺君に会いにきたんだ」と素で言い張った父親に、息子には用なしかよ…と心の中でツッコミを入れて。
消えそうな意識の中、大丈夫か?と笑うディーノさんや、心配そうに見つめているバジル君や、腹立たしい事にニヤニヤ笑うリボーンが周りにいるのが視界に入った。


…九代目、この家庭教師、人の不幸をドリルで削ってくるんですけど…?
いい加減、なんとかして下さい。


「っていうか、獄寺は?獄寺君は?!何で獄寺君膝じゃないのさーっ!!うわーん、獄寺君、獄寺くーんっ!!」
「あはは、ツナ気ぃ失ったわりには元気だなぁー」
「なんだ、ツナも見ないうちに誰かに膝してほしいなんて思う年頃になっていたのか!父さん嬉しいぞ!」
「やめて父さん!何か低レベルな褒め言葉言うの!もうやだ獄寺君〜っ、助けてっ!君の膝で慰めてぇぇ〜っ」
「…どさくさ紛れに、お前も低能な事言ってんぞ…?」
リボーンのツッコミにも耳に入れず、父さんから離れるようにズルズル床を這っていると、部屋の外から慌ただしくこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「じ、十代目?今遠くから十代目の俺を呼ぶ声がっ!?察知したんですが?キッチンからバッチリ受け取ったんですが?!」
「あああ〜っ!獄寺君っ!よかった、帰ったのかと思ったぁ〜っ!」
ガバリと起き上がる俺の前にしゃがんだ獄寺君の右手には、水の入ったコップが握られている。

成る程、俺の為に水を用意してくれたのか。
優しいなあ……ああ、和む。

「おーい、獄寺君。何かな、ツナが膝枕してほしいみたいだぞ?」
ははは、と豪快に笑いながらそんな台詞をあっさり言い放ったこの親父に、キョトンとした顔で瞬きを繰り返す獄寺君。

ち、ちょっと!何でそんな事本人に言うんだよ!?
いや、確かに凄く希望したいんだけどさ!
さっきは本人がいなかったから言えたわけで……そんな事聞いたら、さすがに獄寺君だって引くかもしれないじゃん?!

「膝枕…ですか?」
ほら、不可解そうに首傾げてんじゃん!
どーしてくれんだ、この放浪親父!
「わかりました!右腕として、しっかり俺の膝で十代目の頭をお守りします!!」
ほら、やっぱり…………………って…?あ、あれ?
「え?!い、いいの?!」
「はい!俺の膝なんかで宜しければ、ふんだんに使って下さい!」
さあ!と言わんばかりの笑顔で正座して手を広げた姿は、夢なんかではなく。

やった……やったよ!
ここへきて、ようやく運気が巡ってきたよ!!

「っっ!獄寺くー「お、じゃあ遠慮なく」ブッ!?」
俺の行動と言葉に挟み込むように聞こえた可愛らしい声と、頬に突き刺さる赤子特有の可愛い黒い鋭利な何か。

うん、追求しなくてもわかる。
リボーンの声とその足から繰り出されたスピンの掛かった蹴りだ。

獄寺君の膝の上に置かれるはずだった俺の頭は、虚しく床に落ちて。
歪む視界の先には、案の定、獄寺の膝上にちゃっかり寝そべるリボーンの姿が見たくもないが…バッチリ見えていて。



……結局、そう易々と獄寺君の膝にはありつけない…ということだけは、深く認識したのであった。

第24話:日本文化を重宝しよう

<第24話:日本文化を重宝しよう>

家庭教師が何かを諦めた始めた次の日、俺はいつも通りに学校へ行った。
もちろん、獄寺君と…だ。

学校では、昨日早退した俺を山本は「大丈夫そうだな」と笑って向かえてくれ、お兄さんは「気合いが足りんぞ!」と喝を入れられ、雲雀さんには顔を見るなり舌打ちされ、骸には「君…立ち直り早い男ですね…」と嫌味を言われた。(つーか、何で骸普通にいるんだよ)

まあ、今日は周りが必要以上に(獄寺君に)絡んで来なかったからよしとしよう。
あーあ、まったく毎日こんな風に平和に過ぎてくれれば嬉しいんだけれど…。

「どうかしましたか?」
帰り道、ため息をついた俺を心配になったのか、隣で歩く獄寺君がこちらを伺ってきた。
「ううん、何でもないよ」
「そうですか?」
安心したようにニカッと笑ってくれる笑顔は本当に癒されるよね。
あー俺に勇気があれば、今の笑顔写メに激写して、絶対に待受にするのに…。

「あれ…?跳ね馬…?」
悶々と考え事をしていた俺の耳に、小さく獄寺君の呟きが聞こえた。
ふと顔を上げると、俺の家の前にはその二つ名の人物…ディーノさんがリボーンを肩に乗せて笑顔でこちらに手を振っていた。

相変わらず、無駄に輝かしい美形顔と笑顔だなぁ…。
……と、いうか

「ディーノさん、まだ家にいたんですか?」
「ヒデェな、ツナ!?毎日同じ家にいんのに?!」
ああ、すみません。
なんか貴方、あまりにも家に馴染み過ぎてなんか最近存在気にしなくなってきてました。

そんな俺達のやり取りはもちろんスルーな家庭教師は、ぴょんと肩から家の塀へと跳び移る。
「おい、ツナ。お前に紹介したい奴がいる。家光のいる門外顧問から派遣されてきた奴だ」
突如、そんな事を言ってきたリボーンを呆然と見上げるさなか、家の方から誰かがこちらへと姿を表した。
「はじめまして沢田殿。拙者は親方様の元で働いていますバジルと言います」
今日からお世話になりますね!
そうにニッコリと笑った少年。

こ…これはまた、可愛い系の美少年が…!!
うおお、ボンゴレ万歳!
ああ、ごめんね獄寺君!可愛い美少年に反応しちゃうのは、もう性なんだ!
本命は獄寺君だからね、獄寺君だからね!

「だから安心してね!獄寺君!」
「な、何がっすか…十代目…?」
「ほっとけ、獄寺。そいつは今、別な世界にいるだけだから」
思わず肩を掴んで詰め寄る俺に、戸惑う獄寺君と呆れるリボーン。

「獄寺…?するとこちらが嵐の守護者の?」
ぱちぱちと瞬きをしながら獄寺君を見つめるバジル君。
他人に警戒心の強い獄寺君は、直ぐさまそれに噛み付くように反応して。
「あぁ?!」
「やはりそうですか!守護者の方々の話は聞いておりましたが…。こんな美しいお方だったとは!」
獄寺君が「は?」と聞き返したのと同時に、ガッシリ獄寺君の両手を握りしめながら距離を詰めるバジル君。
最近わかった事だが…以外にも突発的な押しに弱い部分のある獄寺君は、そんなバジル君の様子にあっさりとたじろいでいて。

え?ってか…何?!ちょっと、この展開?!

「獄寺殿!」
「な、何だよ…」
「是非、毎日拙者の為に味噌汁を作って下さい!」
「古っ!何でその台詞チョイス?!」
「ははは、バジルは日本文化大好きだからなー」
いやいや、笑い事じゃないですよ、ディーノさん。
あんたも獄寺君狙ってたんじゃないんですか?!
てか、日本大好きだからって何でそんなとこ取り入れちゃったの?!
もっとマシな日本文化取り入れようよ?
「つか…なんで味噌汁?」
「ご存知ないのですか、獄寺殿?生涯、自分の隣にいてほしい人に毎日味噌汁作ってもらうのが日本では習わしなんだそうですよ?」
「そ、そうなのか?!」
「いやいやいや。びっみょーに違うから。なんか…本当…微妙に」
この人、一体どんな日本文化学んできちゃったんだか…。
「バジルは素直な奴だからな。家光にからかいがいがあるって言うんで、いつも嘘吹き込まれてんだ。言わば、被害者だな」
ま、家光らしいはな、とすんなり流すリボーン。

おいおい、あの親父の仕業かよ。
ろくな事しないな、あの親父。

「…生涯隣に…?は!右腕っ?!じ、十代目!俺、今日から十代目に毎日味噌汁ご用意します!それが右腕としての勤めですよね!」
「ええ?!またこの子も無駄に素直だよ?!しかも飛躍させたよ!」
「俺、今日からしっかり味噌汁の生成法学びますから!」
「生成法?!いや、薬かなんかじゃないんだから…。てか、違うからね?意味違うからね?!う、嬉しいんだけど…っ、嬉しいんだけど…!!くうっ!」
「ツナ…お前、訂正してえのか…それとも喜んでいるのかどっちなんだ…」
だって獄寺君が…獄寺君がっ…!み、味噌汁を…っ!
「新婚みたいな、うふふあははな生活できるなら、俺はあえて訂正しない!」
「………お前、やっぱり家光の子供だな」
うるさいよ、あの父さんと一緒にするな。

そんな中、俺とリボーンのやり取りを目にしたバジル君が急にニッコリ笑って。
「成る程!リボーンさんと沢田殿のようなやり取りを言わば『夫婦漫才』と言われるんですね!親方様っ…!」
「何?!こ、これが…?!」
「「…」」
父さんに何を吹き込まれたかは知らないが、キラキラと目を輝かせるバジル君と、新たな発見をしたように驚く獄寺君。

な…何ですと?!
リボーンと俺が……ぁ?!

ーそう思った瞬間、隣でブチっという音が聞こえた気がした。

「……お前ら、ずいぶんおもしれぇ事言ってくれてんな…」
いくらバジルと獄寺でも容赦しねえぞ。
…そんな殺意満載のリボーンの姿は、まさに鬼の形相だ。

ま、まずいよ…ね?これはっ…!

「ま、待てよリボーン!二人に悪気はないんだから!てか、ご、獄寺君殴るなら俺を殴れ…」
「よし!」
容赦ない右ストレートが間合い入れずに飛んでくる。

…いや、間合い入れずにどころか、言い終わる前にはもう殴ってたよな?!
せっかく男らしく獄寺君を庇おうと思ったのに!
てか、今の明らかに最初から俺を殴るつもりだったろ?なあ?つもりだったろ?
何その、待ってました!的な「よし!」は?!

心配そうに駆け寄る獄寺君やバジル君の声を意識の遠くに聞きながら、やっぱり…平穏なんてないな、そう思った。

第23話:続・家庭教師は悩み持ち

<第23話:続・家庭教師は悩み持ち>

あの後、凄まじい殺気を放つリボーンの視線を浴びる中、俺は獄寺君とのひと時を楽しんだ。
暗くなってきて、帰宅していく獄寺君を見送りながらもにやけがとまらない。
あー手を振る姿も可愛いなあ。
あの笑顔見てるとリボーンの殺気なんか気にもならないよ。
愛って偉大だね、偉大だね!



テンション高く部屋に戻ると、部屋の中央にどかりとその存在感を示す家庭教師が座っていた。
帽子を深く被り、俯きぎみのその表情は、どんなものだか俺には見えないけれど。
…多分…いや、絶対にいい顔はしていない。

「ーーツナ」
「な、何?!」
部屋のドアを閉めた直後、いきなり背後から低い声をかけられて、身体がビクリと震える。

ど、怒鳴られる!!
い、いや、殴られるか?!

びくびくしながら体をくるりとそちらへ向けると。
スッ、と静かな動きでリボーンが顔を上げた。

「今、テメェのそのボスらしくない面をどう叩き直してやろうか考えたんだがな…」
「って、面?!態度じゃなくて面なのかよ?!」
何、そのボスの条件は顔みたいないい方?!
どうせ俺はモテない顔だよ!

そんな風に怒鳴る俺を無視して、なおもリボーンは話を続ける。
「で、考えたんだがな。おい、ツナ。お前、今すぐ子供をつくれ」
相手の女はだれでもいいから、とスッパリいい切った家庭教師。
「はあ?!な、何で子供?!」
「だから考えたんだがな、今さら腐り切ったテメェを叩き直すより、いっそ次の十一代目をつくって、最初から俺が教育した方が早いと思うんだが」


……九代目。
貴方が派遣した家庭教師が、任務をとうとう放棄し始めました。


「ふざけんな!何、その俺は用無しみたいな発言?!」
「ぶっちゃけ子供さえ残せば後はお前は好き勝手してくれていい。安心しろ、子供はしっかり優秀なボスに育ててやる。お前の遺伝子なんざ、微塵も感じさせないくらいにな」
どうだ、と自慢げな態度にア然とする。
ここまで『正論だ!』とばかりに堂々とされると、怒る気すら起こらない。
「どうだ。言い返す言葉もないだろう」
「…いや、言い返すというか…」
おかしくね?
その一言が出てこない。


…どうしよう…九代目。
貴方の派遣した家庭教師が、何かちょっとおかしいです。


え?てか、リボーン…?本当に壊れた?
いつものリボーンじゃないよ??
ひょっとして疲労?過労?え?俺のせい??

「ぶっちゃけ、お前、面倒臭ぇ」
「つか、さっきっからぶっちゃけ過ぎだろう!?」
大体、さっきから無茶な事ばかり言いやがって。
「ともかく!子供なんて無理無理!俺をいくつだと思ってるんだよ!まったく…。それに産む方の…獄寺君の身にもなれよ!」
「ちょっと待て。何で獄寺の名前出した?俺は女だと言ったはずだ!奴に産める訳ねぇだろ!この超越的馬鹿野郎!」
あ、まともにツッコミが返ってきたよ。

少しいつもの調子が戻りつつある家庭教師に安心しつつも、内心、またいつ無茶を言われるか…と冷や冷やしている自分がいたのだった。


…だけどな、リボーン。

俺の子を身篭る相手が獄寺君…ってところだけは
譲る気はないからな?

第22話:家庭教師は悩み持ち

<第22話:家庭教師は悩み持ち>

何なんだ、コイツは?

瞬時に頭にそう過ぎった。


ようやく部屋へ入ってきたかと思えば、このアホツナは…。
さっきまでこの世の絶望と言わんばかりにへこたれていた奴はどこのどいつだ?ん?
部屋に入るなり、スキップでもしそうなくらい背景に花しょった面を見て、無性にイラッとした。
理由は聞かずともわかる。
その馬鹿に続いて入ってきた人物…獄寺そいつが原因に決まっている。

「…その面で、この部屋の敷居を跨ぐな」
「ちょっ?!ここ俺の部屋だぞ?!」
根っからのツッコミ属性なのか、アホ面晒しててもツッコミだけはしっかり忘れていないらしい。
「…おい、獄寺。一体お前、何したんだ?」
「え?いや、俺は早退した十代目が心配でここへ来たら、アホ牛に十年バズーカ打たれまして…」
で、戻ってきたら十代目がご機嫌でした!と義務感強い口調でそう答えた獄寺に思い切りため息が出る。

ようは、十年後の獄寺見て…はたまた何か言われてハイテンションになったって事だろう?
単純な奴め。

「…で?獄寺。お前は大丈夫だったのか?」
「はい?大丈夫だった…とは?」
「十年後行って、誰かに何かされなかったのか?」
「!!そうだよ獄寺君!」
…うわ、獄寺じゃなくて変態が食いついたよ。
「獄寺君?十年後で誰かと一緒にいたの?くそぅ、俺の獄寺君に!」
「…ツナお前、とうとう本音隠さなくなったな」
「十年後、誰といたかですか?」
「「…」」
「え?獄寺君、今の俺の発言スルー?結構勇気出して強調してみたつもりだったんだけど?!」
「…スルーだな」
何がですか?と無心な表情を見せる獄寺も、微妙に酷い奴だよな。

そんな俺達二人の疑問もスルーした獄寺は、思い出したように話を始める。
「ええっと、十代目がいらっしゃいました」
「よし、きた!ねえ、俺と何してたの?何してたの!?」
「…ツナ、残念だがお前の期待している事は確実にねぇぞ」
「えーっと、仕事中だったみたいです。十代目が何かの書類持っていて、俺は机挟んで立ってましたから」
「何だぁ…」
つまらない、といった顔を見せるツナ。

いい加減、コイツを殴りたい。

「で、俺を見るなり嬉しそうに手招きされて」
「…その面が目に浮かぶな」
「それで何だかよくわかりませんが、いきなり抱き込まれて『可愛い可愛い』言われてました」
「……頭のレベルに成長が見られねぇな」
「そして何だか異様にベタベタ触っていただいたんですが…」
「…完全に、余計な部分だけ成長が見られるな」
「……おい、リボーン。ちくいち余計なツッコミ入れるなよ!」
「やっぱり大人になられた十代目はかっこよくてご立派でしたね!」
「ーって、おい!?獄寺お前、未来で何見て来たんだ?え?今の話のどこに立派さがあった?ああ?!お前のかっこよさの基準見直せっ!!」
キラキラ目を輝かせる獄寺に俺のツッコミは届いているのかいないのか。
そして、その横で満足そうに満悦の笑みを浮かべる未来の十代目候補(14歳)にもツッコミを入れるべきなのか。

ともかく。
どうやら俺が家庭教師として訂正しなきゃならねぇのは十代目だけでなく、その右腕も…ということなのだろう。
こんな面倒事押し付けた九代目をちょっと恨みがましく思いながら、今後どれだけスパルタにしてやろうか…と考え始めるのだった。

第21話:人の機嫌は時次第

<第21話:人の機嫌は時次第>

「……ただいま」
いつもより1オクターブ程低音で出て来た俺の声。
落ち込み様があからさまなそれに自分でもため息が出そうになる。

「あーあ…」
「うぜえ」
ゲシッと音と共に顔に減り込んだ何か。
確認せずともそれがリボーンの足だって事くらい大体想像がつく。
「ててっ…な、何すんだよ?!」
「落ち込みオーラが不快だった」
さも当然の如く仁王立ちして鼻を鳴らす。
「あのなぁ…人が落ち込んでる時くらい優しい言葉とかかけられないのかよ?!」
「あーはいはい。『あら、綱吉君。落ち込んでるの?可哀相ね。いっそそのまま消し炭になってしまえばいいのに』」
「……」
何でコイツは腹の立つ事をピンポイントで言ってくるんだ?
いや、わかっててそれを求めた俺が悪いけどさ。

ハンッと再び鼻を鳴らして階段をピョンと軽快にのぼっていくリボーンを嫌そうに見つめながら玄関に座り込む。

あーあ、本当に今日はろくでもない日だよ。
学校でも家でもこれかよ。

「うわあああーん」
玄関先でうなだれていると、玄関のドアごしに泣き声が聞こえてきた。
あー…またランボか。
落ち込んでる時にこの泣き声はきくな…。
シャマルといい、骸といい、リボーンといい…マジで勘弁してくれよ。

そんな事を考えていた矢先、外から大きな暴発音が聞こえた。
…うわ、これは確か十年バズーカの発砲音。
ランボの奴…また十年後と入れ代わったな。

やれやれ…と思っていると、再び外から声が聞こえてきた。
「びぇええーっ」
「…え?」
あ、あれ?ランボの泣き声?
な、何で?ランボに当たったんじゃないのか?
じゃあ誰だ?
またイーピンか?それともフゥ太?
……フゥ太ならちょっと興味あるかもしれない。
だってあれは将来美少年になる顔だよ?
いや、別にフゥ太に手を出そうとかそういう訳じゃないからね?
そこまで腐ってないよ、俺。
ただね、美少年好きとしては見といてもバチは当たらないと思う訳なんだよ。
そこんとこ誤解しないでね?!

急いでドアに手をかけて外へと飛び出して行く。
たった5分、こんなチャンスを逃してたまるか!

…しかし、飛び出た先には予想に反してイーピンもフゥ太の姿も見受けられなかった。
そこには、ぐずぐずと涙目で鼻を啜るランボを抱っこしながらあやす見知らぬ男の人がいた。
こちらに背を向けてランボをあやすその人は、顔はこちらからは見えないが、おそらくディーノさんと同じくらいだろう。
スラリと細身の身体にスーツがとても栄えて見える。
あれ…でもこの銀髪…どこかで…?

するとこちらに気が付いたのか、その人がちらっとこちらに向いた。
「あ、」と小さくこちらに向いたその人は、何か言いたそうにニッコリと微笑んだ。

「す……ストライクっ!!」
「へ?」
思わず口から出てしまった俺の本音に、不思議そうに首を傾げる。

いや、だってすっごい美形だよこの人!
俺の好みどストライクだよ!
うわ、俺年上結構好きかもとか思ってはいたけど……世の中、理想ピッタリの人っているもんなんだ!

にへらとにやける俺にまた首を傾げてから、ニコッと笑いかけてくれる。
ああ…笑顔がまた輝かしい。
綺麗でいて、どこか可愛らしい…。
「十代目」
ああ、ちょっと低めの掠れ声も……って…?
ん?十代目?
「あれ…?」
「どうかしました?十代目?」
十代目?えーっと…十代目と呼ぶ人は一人しかいなくて…
それでさっき十年バズーカが発砲されて…?
「ご、獄寺君?」
「はい」
ようやく気が付いて下さいましたか、と嬉しそうに近付いてくる。

…あー香水のいい香りが〜……って、そうじゃない!
てか何で獄寺君がここに?
…いや、獄寺君なら右腕として護衛とか心配とかで自分も早退してきそうだ。
で、玄関先でランボと鉢合わせて喧嘩になって…ってところだろう。
獄寺君って案外単純なとこあるからわかりやすいなぁ…。
ああ、それにしても、獄寺君…十年後はえらく美人さんになるんだなぁ…。
今も可愛いけど…あーこんな美人さんが毎日傍らにいたら日々エンジョイだろうなぁ。
え?十年後の俺、毎日エンジョイしてるのか?してるのか?どうなんだ?

ぼーっと悦に入り始めた俺の前で「ほら、アホ牛いい加減泣き止めよ」とぽんぽんランボの背中を叩く十年後の獄寺君。
くそぅランボ、抱っことか…うらやましいんだよ。
いや、立場的に俺が抱きしめてあげる方があってるのか。

再びこちらに笑顔を向けてきた十年後の獄寺君に、まさか「十年後の俺に毎日抱きしめられていますか?」とか変態臭い質問は出来ずに苦笑していると、ランボをゆっくり降ろして、そっと俺の右手を包み込むように握ってきた。
「十代目…貴方から見ればガキの俺は少々頼りないかもしれません」
「ですが貴方をお慕いし、守りたいと思う気持ちに偽りはありませんから…」
だからずっとお側にいさせてくださいね。
そう柔らかく微笑んだ顔。

ぶあっと身体中の熱が上がる感覚と共に、目の前に白い煙が広がった。

「……あ、あれ?も、戻った?」
煙が少しずつ晴れていく中、今度姿を現したのは現在の獄寺君で。
「あ、十代目!」
俺を見るなり、ニカッと笑顔を見せた獄寺君に、俺はがっちり両肩を掴む。
びっくりしたままこちらを見ている獄寺君に、ゆっくり顔を上げて視線を合わせて。
「…獄寺君、君の永久就職先は俺の隣だからね!って胸張って言えるくらいいい男になってみせるからね!!」
「へ?あ、はい!」
隣って事は右腕って事ですよね?と嬉しがる様子に、今はまだそれでもいいやと思う。

ほら、だってまずは確保が先だろ?

落ち込んだ機嫌はどこへやら、ニヤリと隠れて笑う俺の姿がそこにはあった。
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