<第25話:膝枕は男のジャスティス>

見事にリボーンの可愛い赤ん坊特有の手から繰り出された、クリティカルなビンタと言う名の凶器を受けて気を失った俺は、どうやらあれから数分間、ふよふよと夢の世界に旅立っていたらしい。

ようやく浮上してきた意識を頼りに頭をわずかに動かすと、まだ完全に覚醒していないながらも、ある異変に気が付いた。

……あれ?
なんか…頭の下に何かある…?
枕…にしては、少し固めなような……それでいて、ほんのり温かな温もりを感じるような……。

ふらふらと夢と覚醒の合間を漂う俺には、すぐにはその違和感が何であるかなんて考えは出て来なくて。
うつらうつらと、再び眠りにつきそうになりかけた時に、その頭の下の何かが微妙に動いた気配を感じた。
え?、とそこでようやく再び覚醒に近づいた意識が、すぐさまある一つの考えに行き着いた。

ま…まさかこの温もりって……い、所謂、膝枕ってやつですか……?!
あの状況から考えて、まさか……まさかっ!!獄寺君のーっ?!

「ーーっ、膝枕っっ!!」
「…お?目ぇ覚めたか、ツナ?」
「って………え?」
カッ!っと勢いよく開かれた視界真っ直ぐ上空に飛び込んできた顔は、愛しの獄寺君の見下ろす可愛い顔ー……ではなく。
「と、父さん?!っていうか、父さんの膝枕……っっ!?がはっ!」
そりゃ、やけに固いはずだ。
おそらく血をはくくらいの勢いで、再び気絶しそうになった俺の頭を、父さんが再び自分の膝で受け止める。

…やめて、父さん。
むしろそのまま床に落としてくれた方が記憶がとんだかもしれないから。

「な……んで…父さんが…」
ここに…という言葉は、微妙に声にならなかった。
「バジル連れて来るついでに母さんと獄寺君に会いにきたんだ」と素で言い張った父親に、息子には用なしかよ…と心の中でツッコミを入れて。
消えそうな意識の中、大丈夫か?と笑うディーノさんや、心配そうに見つめているバジル君や、腹立たしい事にニヤニヤ笑うリボーンが周りにいるのが視界に入った。


…九代目、この家庭教師、人の不幸をドリルで削ってくるんですけど…?
いい加減、なんとかして下さい。


「っていうか、獄寺は?獄寺君は?!何で獄寺君膝じゃないのさーっ!!うわーん、獄寺君、獄寺くーんっ!!」
「あはは、ツナ気ぃ失ったわりには元気だなぁー」
「なんだ、ツナも見ないうちに誰かに膝してほしいなんて思う年頃になっていたのか!父さん嬉しいぞ!」
「やめて父さん!何か低レベルな褒め言葉言うの!もうやだ獄寺君〜っ、助けてっ!君の膝で慰めてぇぇ〜っ」
「…どさくさ紛れに、お前も低能な事言ってんぞ…?」
リボーンのツッコミにも耳に入れず、父さんから離れるようにズルズル床を這っていると、部屋の外から慌ただしくこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「じ、十代目?今遠くから十代目の俺を呼ぶ声がっ!?察知したんですが?キッチンからバッチリ受け取ったんですが?!」
「あああ〜っ!獄寺君っ!よかった、帰ったのかと思ったぁ〜っ!」
ガバリと起き上がる俺の前にしゃがんだ獄寺君の右手には、水の入ったコップが握られている。

成る程、俺の為に水を用意してくれたのか。
優しいなあ……ああ、和む。

「おーい、獄寺君。何かな、ツナが膝枕してほしいみたいだぞ?」
ははは、と豪快に笑いながらそんな台詞をあっさり言い放ったこの親父に、キョトンとした顔で瞬きを繰り返す獄寺君。

ち、ちょっと!何でそんな事本人に言うんだよ!?
いや、確かに凄く希望したいんだけどさ!
さっきは本人がいなかったから言えたわけで……そんな事聞いたら、さすがに獄寺君だって引くかもしれないじゃん?!

「膝枕…ですか?」
ほら、不可解そうに首傾げてんじゃん!
どーしてくれんだ、この放浪親父!
「わかりました!右腕として、しっかり俺の膝で十代目の頭をお守りします!!」
ほら、やっぱり…………………って…?あ、あれ?
「え?!い、いいの?!」
「はい!俺の膝なんかで宜しければ、ふんだんに使って下さい!」
さあ!と言わんばかりの笑顔で正座して手を広げた姿は、夢なんかではなく。

やった……やったよ!
ここへきて、ようやく運気が巡ってきたよ!!

「っっ!獄寺くー「お、じゃあ遠慮なく」ブッ!?」
俺の行動と言葉に挟み込むように聞こえた可愛らしい声と、頬に突き刺さる赤子特有の可愛い黒い鋭利な何か。

うん、追求しなくてもわかる。
リボーンの声とその足から繰り出されたスピンの掛かった蹴りだ。

獄寺君の膝の上に置かれるはずだった俺の頭は、虚しく床に落ちて。
歪む視界の先には、案の定、獄寺の膝上にちゃっかり寝そべるリボーンの姿が見たくもないが…バッチリ見えていて。



……結局、そう易々と獄寺君の膝にはありつけない…ということだけは、深く認識したのであった。