狩るのも刈るのも趣味。
………………………
「――?!今、なんて…ッ」
男の言葉に幸村は弾かれたようにして、体を振り返らせた。
「ですから『蒼い龍』と言ったのです…ククッ。人間は耳も悪いのですか?」
男は尚も体を揺らし、面白げに幸村を見つめている。
「……。『蒼い龍』を、貴殿は知っているのか」
「えぇ!勿論知っていますとも」
憎々しげに、低く言葉を発した幸村に対し、男は声高らかに愉しげに応えた。
「『蒼き龍』は古の塔に棲む竜たちの長。《祖龍》に愛された龍ですよ」
「…《祖龍》??」
「ああ!人間は分からなくても良い事です。どうせ遭う事など一生掛かったって無いのですから」
男は幸村の疑問付を一蹴するが如く、掌を払う。
何処まで神経を逆撫でる男なのか。
さすがの幸村もこれ以上付き合う気が失せた。
止めていた足を再び進める。
背後から呆れた男の声がするが、幸村は足を止めなかった。
「おやおや、怒らせてしまいましたか。しかし、本当の事です。貴方達人間は《祖龍》に謁る事なく…私に狩られるのですから!」
「――ッ!?」
おぞましい殺気。狂気にも満ちた視線に晒され、幸村は後ろを振り返った。
幸村は目を疑う。先刻まで男が居た場所には、見た事もない大型の翼竜がいた。
………………………………
二度目のバトル。おかしいな。バトる予定はなかったんだけどなー。
馬鹿げた事だ。
…………………………….
「――――龍?」
青年が言い放ったコトバに、幸村は驚きを隠せなかった。
問うように聞き返せば、青年は面白そうに、
「ええ、龍です。アナタ方人間が『古龍』と呼ぶものですよ」
クックッと、笑いながら答えた。
(政宗が古龍?)
「おや、その顔は信じてませんね?まぁ、無理もありませんが」
青年は尚も面白そうに笑う。
「そもそも『龍』と云うモノはアナタ方、人間が思っている以上、複雑な生き物なんですよ」
青年の笑みが深くなる。
「ましてや古龍なんて特に、です」
青年がくっくっ、と嗤う。
「『古龍』とは…。冗談も程々にしてくれないか」
(政宗がそうだとでも云うのか、この男は)
人を馬鹿にした男の態度に幸村は怒りを覚える。
知らないのなら知らない、と素直に云えばいいのだ。それなのに、事もあろうに龍などと――。
幸村は男を無視し、足を進める事にした。構ってなどいられない。政宗の無事を早く確かめなくてはいけないのだから。
「ああ、そうだ…」
すると男は独白じみたように、幸村の背を指差し呟いた。
「その武器は、龍に見せないほうが良いですよ。…特に蒼い龍には、ね。クックック…」
………………………………
考えたら、この時点で人間確定してんのって幸村と佐助だけだ!(爆)
叫愕
……………………
目の前で喘ぐ政宗を見て、幸村の鼓動はますます早くなる。
元より恋心を抱いていた相手だ。
そんな相手が、自分の目の前で痴態を晒していると思うと、思考がおかしくなる。
「――い…、っ」
ぎゅう、と自分の制服裾を掴み、政宗が苦しげに喘いだ。
政宗がハアッと大きく呼吸をした瞬間、幸村の心臓が一際高く脈打った。
こんな事はダメだと。
いけない事なのだと、思っていても。
「―――!…ッ、ふぅ…ッ!」
自分に縋り付いていた政宗の腕を掴み上げると、幸村はそのまま政宗の上体を引き起こし、唇を合わせた。
政宗が苦痛の表情を描いていても、幸村には関係なかった。
『触れたい』
ただ、それだけ。
………………………………
きちっと書いたら面白くなるんじゃないか、と思うんだけど、誰も救われないエンドになるのがオチ(笑)
幸村と政宗は遠い親戚同士。二人は仲良しです…。
…………………………
二月になると自然と足が浮き立つ。
「幸村、なんか機嫌イイね。良い事でもあった?」
「政宗と待ち合わせをしている。貸していた本を返してもらう約束をな」
そう答えると、面倒見の良い従兄は「そうなの」と一言。
「それじゃあ出掛けてくる!」
「気を付けてねー。伊達ちゃんによろしく」
玄関を勢い良く飛び出して、待ち合わせの場所に走った。
二月はオレの誕生月だ。そして、バレンタインデーもある。
特に後者はオレにとって重要だ。
今年こそ、政宗からチョコレートを貰いたい。
「政宗!」
待ち合わせ場所で見つけた姿に、嬉々として駆け寄る。
「Oh、幸村。相変わらず元気だなァ」
「政宗の顔を見れればオレはいつでも元気だ」
「ha!言うねぇ、Baby」
本音を言ったまでだが、政宗は冗談だとしか思ってくれない。
二つ年上の親戚に、恋心を抱いたのは随分昔のことだ。
それ以来、何度もアプローチ(らしきもの)をしてきたのだが。
「本当の事だ」と伝えても、笑われてしまう。
「アンタにそんな台詞、似合わねぇよ」と。
いつになったら本気と思ってくれるのか。
「そうそう貸して貰った本、結構面白かったぜ」
「政宗…、オレは」
人目も憚らずに彼を抱き締める。その拍子に、政宗が手にしていた袋が音を立てて地面に落ちた。
「ちょ、幸村…!?」
突然の事に慌てて引き剥がそうとする政宗を無視して、腕に力を込める。
「政宗が好きなんだ。いい加減、本気にして欲しい…ッ」
一息に告白すると顔の近く、政宗の耳が真っ赤になっている事に気付いた。
しかも小刻みに震えている。
「…政宗?」
腕を緩め、政宗の顔を覗き込もうとした瞬間。
――パァァン!
「――?!」
見事な平手打ちが飛んできた。
「…ま「あああアホかオマエ!いいいいきなりそんな、バカ!タコ!」
文句を言う政宗の顔は見事、真っ赤だった。
……あれ?
「だだだいいち好きってオカシイだろ!〜〜〜っ…バカッ!」
「あ、政宗!」
文句を言うだけ云うと、政宗は脱兎のごとく走り去っていってしまった。
「……。」
今回は少し態度が違った。
少しばかり強引にしたせいだろうか?
「…いや、だが…怒らしてしまったしな」
張られた頬に手を当てながら、落ちた荷物を幸村は拾う。
「ん?」
袋の中には本、それと。
「チョコレート」
それもたくさん。と、いうか10円チョコがたくさん。
軽く千円分はあるんじゃないかと云う量。
「…義理チョコかな」
幸村は呟いて一つを口に放り入れた。
………………………………
表の拍手の没案。本命チョコは遠くない。
何処迄も、どこ迄も。
………………
「何処へ行くのです?」
いきなり投げられた言葉に幸村は顔を上げた。
ゆっくりと顔を上げると、何時の間に居たのか。痩せた青白い青年がいた。
透き通る、雪のような長髪は薄ら寒さを覚えさせる。
「何処へ行くと云うのです?」
青年がもう一度問うてきた。
その言葉に幸村は初めて周囲に目を向けた。
何処?そう云えば何処だろう。
煤けた風景が幸村を包む。
狩場ではない。来た事が無い。
幸村が周囲に目をやってると、再び男が話し掛けてきた。
「此処から先は古の土地。古きは龍の棲み家です」
人間が足を踏み入れようものなら、死にますよ。まぁ、自殺希望の狩者と云うなら止めませんが。
などと、不吉な事を言ってきた。
「自殺など…。それより貴殿に聞きたい事がある」
「なんでしょう」
「オレと同じ背格好の青年を見なかっただろうか?何やら、こう…不思議な蒼銀の衣を身に付けておるのだが」
幸村が身振りで説明すると、青年は蠅蛇の如くニタリと、眼を細めるとこう言った。
「―――それは、【龍】ですねぇ」
青年の声に、幸村の思考が停止した。
………………………………
白髪の幽霊青年(笑)明智。正体はもうちょっと後で。
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