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バレンタインデー

幸村と政宗は遠い親戚同士。二人は仲良しです…。

…………………………

二月になると自然と足が浮き立つ。

「幸村、なんか機嫌イイね。良い事でもあった?」
「政宗と待ち合わせをしている。貸していた本を返してもらう約束をな」
そう答えると、面倒見の良い従兄は「そうなの」と一言。
「それじゃあ出掛けてくる!」
「気を付けてねー。伊達ちゃんによろしく」
玄関を勢い良く飛び出して、待ち合わせの場所に走った。


二月はオレの誕生月だ。そして、バレンタインデーもある。
特に後者はオレにとって重要だ。
今年こそ、政宗からチョコレートを貰いたい。



「政宗!」
待ち合わせ場所で見つけた姿に、嬉々として駆け寄る。
「Oh、幸村。相変わらず元気だなァ」
「政宗の顔を見れればオレはいつでも元気だ」
「ha!言うねぇ、Baby」
本音を言ったまでだが、政宗は冗談だとしか思ってくれない。
二つ年上の親戚に、恋心を抱いたのは随分昔のことだ。
それ以来、何度もアプローチ(らしきもの)をしてきたのだが。
「本当の事だ」と伝えても、笑われてしまう。
「アンタにそんな台詞、似合わねぇよ」と。
いつになったら本気と思ってくれるのか。

「そうそう貸して貰った本、結構面白かったぜ」
「政宗…、オレは」
人目も憚らずに彼を抱き締める。その拍子に、政宗が手にしていた袋が音を立てて地面に落ちた。
「ちょ、幸村…!?」
突然の事に慌てて引き剥がそうとする政宗を無視して、腕に力を込める。
「政宗が好きなんだ。いい加減、本気にして欲しい…ッ」
一息に告白すると顔の近く、政宗の耳が真っ赤になっている事に気付いた。
しかも小刻みに震えている。
「…政宗?」
腕を緩め、政宗の顔を覗き込もうとした瞬間。

――パァァン!

「――?!」
見事な平手打ちが飛んできた。
「…ま「あああアホかオマエ!いいいいきなりそんな、バカ!タコ!」
文句を言う政宗の顔は見事、真っ赤だった。

……あれ?

「だだだいいち好きってオカシイだろ!〜〜〜っ…バカッ!」
「あ、政宗!」
文句を言うだけ云うと、政宗は脱兎のごとく走り去っていってしまった。
「……。」


今回は少し態度が違った。
少しばかり強引にしたせいだろうか?
「…いや、だが…怒らしてしまったしな」
張られた頬に手を当てながら、落ちた荷物を幸村は拾う。
「ん?」
袋の中には本、それと。
「チョコレート」
それもたくさん。と、いうか10円チョコがたくさん。
軽く千円分はあるんじゃないかと云う量。

「…義理チョコかな」
幸村は呟いて一つを口に放り入れた。

………………………………
表の拍手の没案。本命チョコは遠くない。

探しにきたよ。

何処迄も、どこ迄も。


………………

「何処へ行くのです?」
いきなり投げられた言葉に幸村は顔を上げた。
ゆっくりと顔を上げると、何時の間に居たのか。痩せた青白い青年がいた。
透き通る、雪のような長髪は薄ら寒さを覚えさせる。

「何処へ行くと云うのです?」

青年がもう一度問うてきた。
その言葉に幸村は初めて周囲に目を向けた。
何処?そう云えば何処だろう。
煤けた風景が幸村を包む。
狩場ではない。来た事が無い。
幸村が周囲に目をやってると、再び男が話し掛けてきた。
「此処から先は古の土地。古きは龍の棲み家です」
人間が足を踏み入れようものなら、死にますよ。まぁ、自殺希望の狩者と云うなら止めませんが。
などと、不吉な事を言ってきた。

「自殺など…。それより貴殿に聞きたい事がある」
「なんでしょう」
「オレと同じ背格好の青年を見なかっただろうか?何やら、こう…不思議な蒼銀の衣を身に付けておるのだが」
幸村が身振りで説明すると、青年は蠅蛇の如くニタリと、眼を細めるとこう言った。





「―――それは、【龍】ですねぇ」

青年の声に、幸村の思考が停止した。


………………………………
白髪の幽霊青年(笑)明智。正体はもうちょっと後で。


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