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『爆発は燕脂色』


扉が、吹き飛んだ。
「なんだぁ!」
僕は不意に来た爆音に声を上げる。焦げ臭さが鼻を突き、砕け散った破片が室内に散乱する。
「ま、情報を持ってるのは俺らだけじゃぁねーしな」
音も臭いも破片も気にせず、しかし君鳥さんは優雅に立ち上がる。
「とは言え、一人しか来ねーのは頂けないな。なんて言うか軽く見られてる感がピシピシ来ちゃうぜ」
二回目の爆発音と共に細身の女性が事務所に滑り込んできた。
「……シネ」
ただ一言、そう呟いて女性は右腕を伸ばす。動かない君鳥さんの顔を、アイアンクローの様に掴み、頭が炸裂した。
「君鳥さん!」
体がぐらりと揺れて、頭を吹っ飛ばされた君鳥さんが床に倒れる。しかし、倒れた瞬間に床に水が広がる。広がった水の一端から、スルスルと君鳥さんの顔が浮き上がった。
「怖い怖い。だが、リサーチ不足だぜ」
女性は振り向こうとして――いきなり倒れた。水が派手に飛び散る。
見れば、水溜まりから手が伸びだしていて、それがガッチリと女性の踝付近を掴んでいた。水に濡れた状態では、確かに水に掴まれたって気付かないか。
「おいおい、俺の体に当たるなよ。いてーじゃねーか」
転ばせておいて酷い言い種だが、まぁ、君鳥さんなら仕方ないか。
腕が足を離し、次は首付近を捕まえる。
「うーん。俺はそう言う趣味はないが、ちょーと苦しめ」
君鳥さんがキスをした。
「モガ、ゴボガ!」
とは言え、女性同士がキスをしているなんて、そんな風景じゃない。水が女性にキスをしているのだ。もがくほど水が咥内に入り込み、吐き出そうとすれば息が抜けていく。当たり前だが、鼻も塞いでいる。これはただの拷問だ。
「ぱぁっ!」
君鳥さんの口が、水が一瞬離れ、しかしすぐに口を付ける。
本当に拷問だったな。
「水月さん、君鳥さんっていっつもこんなんなんですか?」
「…………」
「水月さん?」
「……ん?あぁ、悪い、考え事をしてた。お……私としたことが。何かな?」
「いえ、いや、あぁ何でもないです」
ソファに座る。何か、変だったけれど、気にする事ではないのだろう。
「所長。そろそろ死にますよ」
「……ぱぁっ!ん?おぉ、気絶してるじゃねーか。気付かんかった」
水溜まりが一カ所に集い、そこから頭が浮かび上がり出す。そこに水月さんがコートを投げた。水から突き出た手がそれを掴み、纏いつつ君鳥さんが立ち上がる。
「面倒だが……やっぱりもう行くしかねーかな」
「そうなると心配なのは」
「あぁ、あいつ等にも来るだろうな」
どことなしか君鳥さんは楽しげに口を歪めたのだった。