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携帯で描く、僕やら私のお話。
近日誕生日を迎えると言う八吉様のリクエストで、『机を挟んで向かい合う殺し屋と男』です。
僕の誕生日には絵を下さったので、こちらは小説をと……。気に入って頂けると良いのですが……。
では、どうぞ!
何で俺はこんな所に居るんだろう。手元に置かれた飲み物には手を付けず、俺は少しだけ顔を上げた。目の前にいるのは自称殺し屋。目深に被ったハットは室内でも脱ぐ気は無いようで、上からの照明の所為で明るいのに目元は伺えない。それも見越しているのだろう。先日、突然見覚えのない番号から連絡が入り、出てみたら此処を指定された。行かないと言う選択肢もあったが、親の安否だのを匂わせる言葉に俺は出向かざるを得なくなった。曰く『まだ君のご両親に挨拶が済んでいなかったな』とかなんとか。汚いな、流石殺し屋きたない。
「此処に君を呼んだのは他でもない。君に逢えと言う話が来たからだ」
「話……俺を、殺せと?」
「まぁ、そうとも言う」
そう言って奴は手元に置いてあったドリンクを飲む。黒い衣装と不吉な雰囲気にピンクのストローは実にミスマッチだった。いや、どちらかというとそもそもマックがミスマッチだった。なんで此奴マックに呼んだんだろう。
「それで、こんな所に呼び出して、俺を殺せるのか?」
「それについては問題ない。今日は挨拶代わりなのでね」
別に殺せないわけでは無いがと、奴は得意げに言った。殺し屋的には自慢出来る要素なのかもしれないが、此方としては全く羨ましく無い上にありがたくない。
「い、今時の殺し屋ってのは相手に挨拶までするのか」
俺がそう呟くと、奴は軽く笑って答える。
「それについては、まず挨拶をしろと言われたのでね。全く律儀な事だ」
ズズッと、奴のカップからドリンクを飲み干した音が響く。あまり行儀の良い音では無いが、それすらも俺をビクつかせるには十分な音だった。奴は蓋を外し、ザラザラと氷を口に流し込む。……ハットが凄く邪魔そうだった。
「失敬。みっともないか」
心を読まれたかと思って、俺は心底ビクついた。
「い、いや……飲みます?」
俺は自分の手元にあったドリンクを奴に渡す。実は毒入りなんじゃないかと少し思っていたので、良い流れで処理出来たと内心凄く安堵した。
「良いのか? ではお言葉に甘えて」
受け取り、躊躇わずに飲む。どうやら毒だとかは全く入ってなかったらしい。……が、炭酸はダメだった様で少し飲んで盛大に噎せ返った。
「ぐ、ごほっ……あぁ、すまない。心遣いは嬉しいが、炭酸はめっきりダメでね」
お返しするよと、奴は俺にカップを返してきた。いらねぇ……。
「それで、お前は俺になんの挨拶に来たんだよ。これから俺の命を狙うから、精々夜道には気を付けろとか、そう言う事か?」
「いや。別に夜道でなくても白昼堂々と殺してやれるが、そう言う事じゃない」
「じゃぁなんなんだよ」
「これだ」
スィと、奴は俺の前に携帯を突きだした。一瞬身を引いた俺だが、尚も突きだしてくるので仕方なしに携帯を覗く。
「……『成功率100% 確実に合う方を見つけます。結婚活動応援サイト【赤い糸】』?」
「君も登録しているんだろう?」
……したかなぁ……。あ、そう言えば母親が『しちゃったてへまる』とか言っていた気もする。
「で?」
「一生掛けて君を殺しに来た」
奴は静かにハットを取った。ぱさりと仕舞われていた栗色の髪が肩に掛かる。シャープな目元。小さく光る耳のピアス。黒で統一された服装は、改めてみればただのスーツで、別に恐ろしさは伺えない。
「両親が五月蠅くてな。取り敢えず適当に籍だけ入れようかと思ったが、それは気分が悪かったので登録してみたんだが、ふむ、なかなか悪くないサイトだったらしい」
「……あの、殺し屋とかは……」
「ん? 本業だが」
「俺を殺すってのは?」
「言ったろう。一生掛けて殺すと。結婚は人生の墓場とも言うが、安心してくれ。天命を全う出来るように的確に死へと導いてやる」
ニコニコ笑う奴……彼女は、とても、いや確かに好みではあるの(その点彼女の言う通り奇跡的に良いサイトの様)だが、殺し屋さんと結婚となると話は別だろう。
「あ、あの、結婚したら殺し屋さんはお止めに……」
「止めないが。良いか? こんな楽な仕事で年に億より多く稼げるなんて、超良い仕事だと思わない?」
「思いませ………いえ、思います」
まずい。袖口にナイフが見えた。
「でだ。此処に婚姻届があるんだけど、大丈夫。判を押すだけで良いから。安心してくれ、判の偽造とかしないから。絶対しないから!」
必死さが凄く不安だった。
「あ、あの、断るとどうなります?」
「無いだろうけど、そうなったら死んじゃうよね」
「………悲しみのあまり?」
無言だった。でもナイフの先がさっきより見えた気がした。
俺はもう半ば涙目で所定欄に名前を書いていく。こんなの俺が望んだそれじゃない。……そんな中チラリと見えた”奥様”の名前は、凄く可愛らしい丸文字だった。そんな所までキチンと好みに合わせてくれるなんて。【赤い糸】さん、次からは職業も欄に入れると助かります。
八吉さん。少し早いですが、お誕生日おめでとうございます。
『輪郭、頬、口、鼻、眼、眉、額、髪の毛、耳、首、肩、腕、指、胸、胴、腰、足………後年齢。以上120,000,000,000yenになります』
「雅紀!」
彼女が僕を呼ぶ。木の周りに立てられている腰掛けのパイプから立ち上がり、僕は彼女に軽く手を挙げた。緩やかに肩に流れる黒い髪の毛、大きな瞳、深い藍色のコートに白い肌がとても良く栄える……先日出来た僕の彼女。
「待った?」
「いいや。早く着きすぎた僕が悪い」
時計は丁度11:30を指している。待ち合わせ時間丁度だ。彼女はそう言うところが凄く細かい。言われた通りと言えば聞こえは良いが、融通が利かないのも確かだ。しかし、それすらも愛おしい。
「じゃぁ、行こうか」
抱きつくように、彼女が僕の腕に腕を絡めた。自然に笑みがこぼれる。
本当に、彼女は理想の女性だ。僕の期待に尽く答えてくれる。
「そう言えば、今日は何処に行くの?」
「暗いところ」
「雅紀変態っぽい」
「冗談だよ。ご飯食べて、服でも見に行こう」
彼女に着せてあげたい服は山ほどある。どんなのが良いかな。スマートなのが良いなぁ。
「ご馳走様!」
「はいはい」
他愛ない会話が続く。
「雅紀!」
彼女が僕を呼ぶ。駅構内の柱に寄りかかっていた僕は、体を起こし、彼女の方へ向かう。シャープな顔立ち。その中で一際目を引く、大きな瞳。短く切り揃えた活発そうな茶色の髪。男物っぽいジャケット風の上着を上手く着こなしている。……先日出来た僕の彼女。
「お待たせ」
「……10分遅刻だ」
「ごめんごめん。電車が混んでて」
「電車は混んでも遅れないよ」
「あぁ、そうか」
「ま、良いけどね」
そう言って、僕は歩き出す。
時間にルーズではあるけれど、気にするほどではない。その程度、恋愛には重要かも知れないが、僕には重要じゃない。そんなこと、どうだって良いのだ。
「あ、雅紀、私行きたいお店ある」
「へぇ。どこ?」
「えっと……多分あっち!」
コッコッとブーツを鳴らして、彼女は歩き出した。僕の前に出て、道を進む。……そっちは何にも無かった気がするけどねぇ。
「雅紀!」
彼女が僕を呼ぶ。コーヒーショップの中なだけに、僕は軽く手を挙げるに留める。大きな瞳が此方を捉え、彼女は軽く手を振ってから、カウンターへ向かった。スラリと伸びた足を誇張する様なホットパンツ姿は見ていて少し寒そうではあったが、実に似合う。ジャケット姿は凄くスマートな印象を受けた。……先日《出来た》僕の彼女。
彼女はカウンターで注文して、カップを片手に此方へ歩いてきた。
「お待たせ」
「早かったね。まだ15分あるよ?」
「雅紀だって早いじゃない。何分前から?」
「いや、丁度だよ。僕の方が少し早かっただけだ」
そう言うには些か珈琲の量が減っていたかもしれないが、彼女はそうと答えて、カップに口を付けた。
「それ何?」
「当店のお勧め珈琲」
「なんだ一緒か」
「違ってもあげないわよ」
「ケチだなぁ」
そう言って、僕は自分の珈琲を煽った。……しまった。砂糖を入れすぎたんだった。
「雅紀!」
彼女が僕を呼ぶ。僕は待ち合わせ場所の時計塔に向かって小走りで向かった。彼女はサンタかと突っ込みたくなるような赤と白のニット帽を大きな瞳が隠れる位まで目深に被り、焦げ茶色のアーミーっぽいコートを着ていた。少しアンバランスな感じだが、小柄ながら足の長い彼女が着ると意外と合う気もするから面白い。足が長いって得だなと思う。……先日《出来た》僕の彼女。
「早いね」
「ふっふーん。30分前行動は基本だよ!」
胸を反らす彼女。大きめのコートだからか、もしくは元からか……恐らく後者だが……自己主張は控えめだった。しかし、元気だな。
「それより雅紀、来る途中に良い感じのお店があったんだけど、今日はそっちに行かない?」
「ふぅん。どんなお店?」
「行ってからの、お楽しみ!」
そう言うと、彼女は僕の手を握り、クイクイと引っ張って歩き始めた。彼女の手はとても温かい。……僕の手はどうだろう。
「雅紀!」
彼女が僕を呼ぶ。ごめんごめんと言いながら、僕は彼女の向かいの席に座った。今日の彼女はパンツスーツ姿だった。大きな瞳を隠すようにも強調するようにも見える、フレームのない眼鏡。肩口で切りそろえた茶色の髪が、今時な雰囲気を作り出していた。……先日《出来た》僕の彼女。
「遅かったな。どうかしたか?」
「いや、電車が混んでてね」
「はっは。雅紀、電車は混んでも遅れない」
「いや、あー、ごめん」
「気にするな」
そこで丁度店員が紅茶のポッドを彼女の前に置いた。彼女もそこまで待った訳ではなさそうだ。
「好きな物を頼め。今日は私が出すよ」
「いや、彼女に出させるのは……」
「この前奢ってくれただろ。それに、彼女だからって甘えてるのも私は苦手だからな」
自分の意志を曲げない彼女の事だ。何を言っても聞かないだろう。……なら仕方ない。お言葉に甘えるとしよう。
「すみません。……っと、これと、あと珈琲」
「珈琲飲むんだっけ」
「うん」
そう言えば彼女は飲めないな。似合いそうなのに。
『600,000,000,000yen注ぎ込んで、決まったのは眼と髪と背かよ。人間ホント強欲だな』
「良いじゃないか。金を出してるのは僕だ」
『まぁ、そうだけどな。んで、次は?』
性 別 | 男性 |
年 齢 | 32 |
誕生日 | 3月23日 |
地 域 | 東京都 |
系 統 | 普通系 |
職 業 | 大学生 |
血液型 | B型 |