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short message【リクエスト】


ろずさんが27日生まれだと言うことを失念していましたが、マッハの執筆でリカバリー。頑張ったと思う。


お題は『ピンク』

甘く、ハッピーに行こうと思いました。努力はしたが、これで良いのかイマイチ解らん。







では、どうぞ。



―――あげる。と、極々短い手紙と共に送られてきた物を取り上げて、僕は小さく笑みを漏らした。僕には似合わないと思うけどなぁと、眺めながら思う。とは言え、彼女から貰ったものだ。大事にしない訳にはいくまい。
――不意に鳴り響いた着信音。驚いて、僕はプレゼントをファンブルしかける。
「わっ、たったっ」
指先で弾きながら、しかし寸での所でキャッチした。冷や汗が背を流れる。到着数分で傷とか、目も当てられない。落ち着いてから通話ボタンを押し、耳に当てる。聴き慣れた、少し高めの声が聞こえた。
『もしもし。届いてるわよね?』
「時間指定に分まで書き込む人を初めて見たよ」
『だって正確に届いて欲しかったもん』
「まだ届いてなかったらどうするつもりだったのさ」
『届いた? って電話し続ければ問題ないでしょ。その点、私はタイミング完璧だったみたいだけど。流石よね』
「はいはい。凄いよ」
おざなりな僕の言葉に、彼女はむくれた様にぶーぶー言うが、可愛い以外に感想が思い付かない。別にバカップルとかじゃないとは思うが………思うが、友人に言うのは止めた方が良いだろう。
『ま、大事にしてよね。私は夕からの凄い大事にして、金庫に仕舞ってるくらいよ!』
「それは嘘だね」
『まぁそうだけど』
それじゃ使えなくなる。
『でも、大事にしてるのは本当』
「解ってるよ」
専用のポーチに入れているのも知ってるし、指紋が気になるのかいつも磨いているのも知っている。だから僕も同じ様に大事にしようと思っている。
「大事にするよ」
『ん。……………でと』
「ん? 何か言った?」
『何でもない!』
ブツリと切れた通話に、僕はとっさに耳から携帯を離した。どうしたのだろう。何か、最後に言っていた気がするけれど。何だったんだろうか。………うーん。
「後で聞こうかな」
そうあっさり結論付けて、僕は携帯をポケットに仕舞おうとした―――所に、また着信音が鳴り響く。今度はしっかり握っていたので、取り落とすこともない。見れば、メールが一件。
《おめでと》
手紙と同じく一言のメール。僕はそれに《ありがと》とまた短く返す。これで良い。
そうして、僕は掌の贈り物を見る。彼女に送ったのと同じ、ピンクの携帯。お揃いにするならピンクじゃなくしたのになぁと、僕は苦笑する。―――ま、良いか。ピンクだって。僕はそれをポケットに滑り込ませ、外に出た。ちょっと自慢しに行こう。




以上。ろず、誕生日おめでとう。
28日だと思ってました。さーせん。



追伸。ピンクの携帯を使う某友人へ。
別にでぃすってないからな! 小説のネタとして、彼、夕君の話だからな!

一枚の紙で決まる命もある【リクエスト】


近日誕生日を迎えると言う八吉様のリクエストで、『机を挟んで向かい合う殺し屋と男』です。
僕の誕生日には絵を下さったので、こちらは小説をと……。気に入って頂けると良いのですが……。

では、どうぞ!









何で俺はこんな所に居るんだろう。手元に置かれた飲み物には手を付けず、俺は少しだけ顔を上げた。目の前にいるのは自称殺し屋。目深に被ったハットは室内でも脱ぐ気は無いようで、上からの照明の所為で明るいのに目元は伺えない。それも見越しているのだろう。先日、突然見覚えのない番号から連絡が入り、出てみたら此処を指定された。行かないと言う選択肢もあったが、親の安否だのを匂わせる言葉に俺は出向かざるを得なくなった。曰く『まだ君のご両親に挨拶が済んでいなかったな』とかなんとか。汚いな、流石殺し屋きたない。
「此処に君を呼んだのは他でもない。君に逢えと言う話が来たからだ」
「話……俺を、殺せと?」
「まぁ、そうとも言う」
そう言って奴は手元に置いてあったドリンクを飲む。黒い衣装と不吉な雰囲気にピンクのストローは実にミスマッチだった。いや、どちらかというとそもそもマックがミスマッチだった。なんで此奴マックに呼んだんだろう。
「それで、こんな所に呼び出して、俺を殺せるのか?」
「それについては問題ない。今日は挨拶代わりなのでね」
別に殺せないわけでは無いがと、奴は得意げに言った。殺し屋的には自慢出来る要素なのかもしれないが、此方としては全く羨ましく無い上にありがたくない。
「い、今時の殺し屋ってのは相手に挨拶までするのか」
俺がそう呟くと、奴は軽く笑って答える。
「それについては、まず挨拶をしろと言われたのでね。全く律儀な事だ」
ズズッと、奴のカップからドリンクを飲み干した音が響く。あまり行儀の良い音では無いが、それすらも俺をビクつかせるには十分な音だった。奴は蓋を外し、ザラザラと氷を口に流し込む。……ハットが凄く邪魔そうだった。
「失敬。みっともないか」
心を読まれたかと思って、俺は心底ビクついた。
「い、いや……飲みます?」
俺は自分の手元にあったドリンクを奴に渡す。実は毒入りなんじゃないかと少し思っていたので、良い流れで処理出来たと内心凄く安堵した。
「良いのか? ではお言葉に甘えて」
受け取り、躊躇わずに飲む。どうやら毒だとかは全く入ってなかったらしい。……が、炭酸はダメだった様で少し飲んで盛大に噎せ返った。
「ぐ、ごほっ……あぁ、すまない。心遣いは嬉しいが、炭酸はめっきりダメでね」
お返しするよと、奴は俺にカップを返してきた。いらねぇ……。
「それで、お前は俺になんの挨拶に来たんだよ。これから俺の命を狙うから、精々夜道には気を付けろとか、そう言う事か?」
「いや。別に夜道でなくても白昼堂々と殺してやれるが、そう言う事じゃない」
「じゃぁなんなんだよ」
「これだ」
スィと、奴は俺の前に携帯を突きだした。一瞬身を引いた俺だが、尚も突きだしてくるので仕方なしに携帯を覗く。
「……『成功率100% 確実に合う方を見つけます。結婚活動応援サイト【赤い糸】』?」
「君も登録しているんだろう?」
……したかなぁ……。あ、そう言えば母親が『しちゃったてへまる』とか言っていた気もする。
「で?」
「一生掛けて君を殺しに来た」
奴は静かにハットを取った。ぱさりと仕舞われていた栗色の髪が肩に掛かる。シャープな目元。小さく光る耳のピアス。黒で統一された服装は、改めてみればただのスーツで、別に恐ろしさは伺えない。
「両親が五月蠅くてな。取り敢えず適当に籍だけ入れようかと思ったが、それは気分が悪かったので登録してみたんだが、ふむ、なかなか悪くないサイトだったらしい」
「……あの、殺し屋とかは……」
「ん? 本業だが」
「俺を殺すってのは?」
「言ったろう。一生掛けて殺すと。結婚は人生の墓場とも言うが、安心してくれ。天命を全う出来るように的確に死へと導いてやる」
ニコニコ笑う奴……彼女は、とても、いや確かに好みではあるの(その点彼女の言う通り奇跡的に良いサイトの様)だが、殺し屋さんと結婚となると話は別だろう。
「あ、あの、結婚したら殺し屋さんはお止めに……」
「止めないが。良いか? こんな楽な仕事で年に億より多く稼げるなんて、超良い仕事だと思わない?」
「思いませ………いえ、思います」
まずい。袖口にナイフが見えた。
「でだ。此処に婚姻届があるんだけど、大丈夫。判を押すだけで良いから。安心してくれ、判の偽造とかしないから。絶対しないから!」
必死さが凄く不安だった。
「あ、あの、断るとどうなります?」
「無いだろうけど、そうなったら死んじゃうよね」
「………悲しみのあまり?」
無言だった。でもナイフの先がさっきより見えた気がした。
俺はもう半ば涙目で所定欄に名前を書いていく。こんなの俺が望んだそれじゃない。……そんな中チラリと見えた”奥様”の名前は、凄く可愛らしい丸文字だった。そんな所までキチンと好みに合わせてくれるなんて。【赤い糸】さん、次からは職業も欄に入れると助かります。









八吉さん。少し早いですが、お誕生日おめでとうございます。

僕にあるもの。それは君だけみたいですます。


知り合いが作ったらしい動画を(勝手に)拝見させて頂き、思い立って執筆。これが僕の答えだ!
………動画に登場するキャラと、当作品のキャラは全く関係ありません。


「君と、その他全人類。どっちを守るべきだろうか」
ぼんやりと吐いたそんな言葉を、彼女は微笑しながら聞いていた。片手にある珈琲はまだもうもうと湯気を上げていて、口に含めば火傷しそうなのに、彼女は躊躇わず一口啜った。
「そりゃ、全人類じゃない?」
熱い液体を胃に落としても、彼女の笑みは消えず、寧ろ少し明るくなった様な色さえ見えた。しかし、返ってきた言葉は僕としては理解しがたい物で、僕の顔は少し曇る。
「……答えが出てたなら聞くべきじゃ無いよ。全く、女の子にそう言うことを言う人は多いけど、男だって大概だと私は思うよ」
「僕は別に、文句を言った覚えは無いよ」
「それもそうだね」
あっさり掌を返して、また彼女は珈琲を含む。黒い液体が、唇を熱し、咥内へ流れていった。僕は自分のグラスを取り、傾ける。氷がカランと音を立てて、流れ込んだ弾ける炭酸が舌を灼いた。冷たさが、舌を焼いた。
「私達はアダムとイブじゃないからね。世界と引き替えに私を守ってくれたとして、多分私はその気持ちに答えられないよ」
重いんじゃないかなと、彼女は僕にそう言った。
……愛が重いか。まぁ、確かにねぇ。
世界を敵に回しても、君を守る……とか、格好良いけど相手は良い迷惑だろうし。夢がないかも知れないけど、夢は寝ている時に見る物で、僕等は現実に生きている。だったら、夢現に生きるべきじゃない。選択は、正しく生きなければならない。
「まぁ、世界を守った人の彼女だったんだし。彼女が誇らしくないわけがないでしょう」
「あぁ、そうか。そっち側の思いもあるのか」
大抵男側の事しか書いてないしね。
世界の代わりに救われた彼女は、一体どんなことを思うんだろう。『君と一緒に生きていこう』とか、臭い台詞を吐いた彼氏に、どんなことを思うんだろう。世界にふたりぼっちで、彼等はどうなっていくんだろう。世界は……神様は、彼等を許してくれるんだろうか。
そんな答えの無い問はコーラと一緒に胃に流れていく。だが、凭れた様にぐにゃぐにゃ胃の中で揺れる。
「世界に二人きり……ロマンチックだけど、一週間で飽きそうだね」
「一週間」
月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜、そうして日曜。168時間。そんな長い時間の中で、彼等はどうやって過ごすんだろう。笑えるのだろうか。泣かないだろうか。
「世界に二人きりになって、どうやって過ごすだろう」
「どうにもならないよ。やってられなくなると思う。世界が死んだら、誰も生きられない」
「世界が死んだら……」
カシャンと音がして、僕は顔を上げる。彼女がカップを皿に乗せた音だった。カップにはもう珈琲は入っていない。いつの間にか飲み終わっていたらしい。僕もグラスを一気に煽る。炭酸が喉を焼く。焼き尽くす。
「別にゆっくり飲んでも……」
「いや、大丈夫」
僕は立ち上がる。伝票を掴んで、財布から千円札を抜き取る。
「僕はさ。特になんも無いから、一週間も君を生かす自信は無いけど、それでも世界と君とを選ぶなら、君を選ぶよ」
「………いや」
「僕は、君が居れば十分だ」
会計は滞りなく済んで、小銭が数枚掌に乗る。ドアを抜け、僕等は大勢の中に歩いていく。取り敢えず、今日も君と一緒に生きていく。





以上、ありがとうございました。

空想科学恋愛

『輪郭、頬、口、鼻、眼、眉、額、髪の毛、耳、首、肩、腕、指、胸、胴、腰、足………後年齢。以上120,000,000,000yenになります』

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。木の周りに立てられている腰掛けのパイプから立ち上がり、僕は彼女に軽く手を挙げた。緩やかに肩に流れる黒い髪の毛、大きな瞳、深い藍色のコートに白い肌がとても良く栄える……先日出来た僕の彼女。

「待った?」

「いいや。早く着きすぎた僕が悪い」

時計は丁度11:30を指している。待ち合わせ時間丁度だ。彼女はそう言うところが凄く細かい。言われた通りと言えば聞こえは良いが、融通が利かないのも確かだ。しかし、それすらも愛おしい。

「じゃぁ、行こうか」

抱きつくように、彼女が僕の腕に腕を絡めた。自然に笑みがこぼれる。

本当に、彼女は理想の女性だ。僕の期待に尽く答えてくれる。

「そう言えば、今日は何処に行くの?」

「暗いところ」

「雅紀変態っぽい」

「冗談だよ。ご飯食べて、服でも見に行こう」

彼女に着せてあげたい服は山ほどある。どんなのが良いかな。スマートなのが良いなぁ。

「ご馳走様!」

「はいはい」

他愛ない会話が続く。

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。駅構内の柱に寄りかかっていた僕は、体を起こし、彼女の方へ向かう。シャープな顔立ち。その中で一際目を引く、大きな瞳。短く切り揃えた活発そうな茶色の髪。男物っぽいジャケット風の上着を上手く着こなしている。……先日出来た僕の彼女。

「お待たせ」

「……10分遅刻だ」

「ごめんごめん。電車が混んでて」

「電車は混んでも遅れないよ」

「あぁ、そうか」

「ま、良いけどね」

そう言って、僕は歩き出す。

時間にルーズではあるけれど、気にするほどではない。その程度、恋愛には重要かも知れないが、僕には重要じゃない。そんなこと、どうだって良いのだ。

「あ、雅紀、私行きたいお店ある」

「へぇ。どこ?」

「えっと……多分あっち!」

コッコッとブーツを鳴らして、彼女は歩き出した。僕の前に出て、道を進む。……そっちは何にも無かった気がするけどねぇ。

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。コーヒーショップの中なだけに、僕は軽く手を挙げるに留める。大きな瞳が此方を捉え、彼女は軽く手を振ってから、カウンターへ向かった。スラリと伸びた足を誇張する様なホットパンツ姿は見ていて少し寒そうではあったが、実に似合う。ジャケット姿は凄くスマートな印象を受けた。……先日《出来た》僕の彼女。

彼女はカウンターで注文して、カップを片手に此方へ歩いてきた。

「お待たせ」

「早かったね。まだ15分あるよ?」

「雅紀だって早いじゃない。何分前から?」

「いや、丁度だよ。僕の方が少し早かっただけだ」

そう言うには些か珈琲の量が減っていたかもしれないが、彼女はそうと答えて、カップに口を付けた。

「それ何?」

「当店のお勧め珈琲」

「なんだ一緒か」

「違ってもあげないわよ」

「ケチだなぁ」

そう言って、僕は自分の珈琲を煽った。……しまった。砂糖を入れすぎたんだった。

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。僕は待ち合わせ場所の時計塔に向かって小走りで向かった。彼女はサンタかと突っ込みたくなるような赤と白のニット帽を大きな瞳が隠れる位まで目深に被り、焦げ茶色のアーミーっぽいコートを着ていた。少しアンバランスな感じだが、小柄ながら足の長い彼女が着ると意外と合う気もするから面白い。足が長いって得だなと思う。……先日《出来た》僕の彼女。

「早いね」

「ふっふーん。30分前行動は基本だよ!」

胸を反らす彼女。大きめのコートだからか、もしくは元からか……恐らく後者だが……自己主張は控えめだった。しかし、元気だな。

「それより雅紀、来る途中に良い感じのお店があったんだけど、今日はそっちに行かない?」

「ふぅん。どんなお店?」

「行ってからの、お楽しみ!」

そう言うと、彼女は僕の手を握り、クイクイと引っ張って歩き始めた。彼女の手はとても温かい。……僕の手はどうだろう。

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。ごめんごめんと言いながら、僕は彼女の向かいの席に座った。今日の彼女はパンツスーツ姿だった。大きな瞳を隠すようにも強調するようにも見える、フレームのない眼鏡。肩口で切りそろえた茶色の髪が、今時な雰囲気を作り出していた。……先日《出来た》僕の彼女。

「遅かったな。どうかしたか?」

「いや、電車が混んでてね」

「はっは。雅紀、電車は混んでも遅れない」

「いや、あー、ごめん」

「気にするな」

そこで丁度店員が紅茶のポッドを彼女の前に置いた。彼女もそこまで待った訳ではなさそうだ。

「好きな物を頼め。今日は私が出すよ」

「いや、彼女に出させるのは……」

「この前奢ってくれただろ。それに、彼女だからって甘えてるのも私は苦手だからな」

自分の意志を曲げない彼女の事だ。何を言っても聞かないだろう。……なら仕方ない。お言葉に甘えるとしよう。

「すみません。……っと、これと、あと珈琲」

「珈琲飲むんだっけ」

「うん」

そう言えば彼女は飲めないな。似合いそうなのに。

 

600,000,000,000yen注ぎ込んで、決まったのは眼と髪と背かよ。人間ホント強欲だな』

「良いじゃないか。金を出してるのは僕だ」

『まぁ、そうだけどな。んで、次は?』

PM11:59


字を読む事と字を書く事。別々の事に見えて、二つは似通っている。字を読む時、僕らは先を想像しながら読む。字を書く時、僕らは先を想像しながら書く。違うのは、100から0に向かうか、0から100に向かうかの創造性の差だ。―――いや、今はこんな事どうでも良い。
重要なのは……重要なのは……………
「〆切が明日って事だ」
ぼんやりと呟く。切れかかった蛍光灯がチカチカ瞬く。鬱陶しくて、僕は紐を引いて電気を消した。部屋を、パソコンの仄青く妖しい光が照らす。………手元が見えなくて電気を点け直した。ブラインドタッチは出来ないのだ。
画面には、最大表示された《word》。数行の改行の後に『presented by D・N』と書かれている。
「なぁにがぷれぜんてっどだっつの」
一行も書いてねぇのにと、自虐的に吐き捨てて背もたれに寄りかかる。キシッ――スプリングが弱々しく軋んだ。
別に、僕の怠惰がこんな状況を呼んだのではない。売り言葉に買い言葉……と言うには、些か牧歌的だが、数時間前にこんなやり取りがあったのだ。有名コミュニティサイトの、トピックでの話である。
《D・Nさん、最近上げてないですよね?》
【スランプ?】
長編を書こうと、プロットを組んだりしていた僕は、短編メインのそのトピックに参加を控えていた。批評や意見感想は書いていたが、作品は上げていなかった。
理由を話すのは容易い。だが、だがしかしだ。考えてもみて欲しい。わざわざ投稿を控えて、練りに練った作品が面白くなければどうか。上げたハードルに激突だなんて間抜けな真似、真っ平ごめんだ。
取り敢えず[ちょっとワンパターンが過ぎたんで、色々試していたんですよ]と、当たり障りなく書き込む。しかし、これはこれでハードルを上げているとは気付かなかった。
《ほう。如何です?》
すぐそれにレスが付く。F5連打かと思うような即レスっぷりだった。
[ある程度は書けてきましたかね。推敲含めて、明日明後日には………]上げられたらなぁ的な希望を書けば――と思ったのは、その文章がトピックに表示されてからだった。
《明後日ですか! 楽しみにしていますね ^^d》
斯くして、僕の新作の投稿日が決まってしまったのだ。………昨日は何していたかな。あ、銀レウス素材が出なくて不貞寝していた。
脇に置いてあったペットボトルを呷る。少し温まったお茶が喉を通った。苦い。時刻は11時。PM。23時50分。〆切の日まで後10分。もうここまで来れば明日って今さ的な気もするが、いや明日は明日である。当たり前か。
「10分で何が出来るか」
タイトルすら決まっていない現状、10分で出来ることなんてタイトル案を出すくらいだ。不意にキーボードを適当に叩いてみる。《ふじこ》にすらならない。《qnhjkedfaagpwmg》悪魔でも出てきそうだ。出てこないかなぁ。
しかし、タイトルもダメか。では構成は? 取り敢えずボーイミーツガールさせておけば――いやいや、今回は作風を変えるのだから、いつも通りじゃ駄目だ。しかし、これがいきなり思いつけば苦労はしない。不意に思い浮かぶフレーズ、シチュエーション、キャラクター。それが僕の書く小説だった。
「プロット……組んだこと、ないなぁ」
苦いお茶を口に含み、一気に嚥下する。イガイガとした痛みが喉を灼く。
「あれ……書くのって、こんなに辛かった?」
呟きが漏れ、薄く光るディスプレイが妖しく揺れた。僕はマウスを動かし、開かれていた《word》の終了ボタンを押す。[更新を……]「しなくて良いよ」吐き捨てて、僕はまた椅子に寄りかかった。
時計は更に進んで、もう57分を示していた。………後3分……いや、2分か。
蛍光灯が一瞬、強く瞬いて消えた。
「後、1分」
そう。後1分だ。
「………後、1分………」
だからどうした。そう思うと同時に、何かが頭の中で繋がり出す。僕は何に気付いたんだ?
後1分? 違う
辛い? 違う。
プロット? 違う。
構成? 違う。
タイトル? 違う。
ふじこ? 違う。
最近書いてなかった? 違う。
長編? 違う。
違う違う違う違う! 僕は《何》を考えてた!
―――カチリと、死んだはずの光が部屋に灯った。
「なぁんだ、簡単だ」
僕は、〆切が明日だって考え続けてきたじゃないか。
体を跳ね起こし、僕はパソコンに向かう。何の気の迷いか閉じた《word》を改めて開き、僕は書き始めるのだ。

字を読む事と字を書く事。別々の事に見えて、二つは似通っている。字を読む時、僕らは先を想像しながら読む。字を書く時、僕らは先を想像しながら書く。違うのは、100から0に向かうか、0から100に向かうかの創造性の差だ。―――いや、今はこんな事どうでも良い。
重要なのは……重要なのは……………
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