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『Prologue:2』

現在執筆中のMabinogiオリジナルストーリーのプロローグ部分を公開します。
color'sが落ち着き次第、こっちも進める予定です。




Mabinogi G:EX
《Lost World[忘却世界]》


――夢を見た


いや、夢と言うより現実を見た。と言う方が正しいのかもしれない。夢現なんて言葉もあるが、やはりあれは現実と言う他ないだろう。
人々が倒れ伏す中、一振りの石刃を片手に私だけが立っていた。見渡す。誰もいない。死体を人とは数えない。誰も居ない。神も人とは数えない。だから、誰も、居ない。―――――否、一人。たった一人。死屍累々の中から立ち上がった。違う。立ち上がるなんて格好の良いものじゃない。血の海に這い蹲り、死肉を踏みつけ、意地汚く、腕を伸ばす。落ちていた剣を支えに、血塗れの体を立たせる。体がガタガタと、足がガクガクと震えているのが見える。肩で息をしていた。明らかにもう刃を向ける力は残っていない。
なのに、どうして立ち上がるんだろう。
絶望しか見えない世界で、絶望としか言えない状況で、どうして《彼》は立ち上がっていくんだろう。

『それが、僕の役目だからだ』

そんなの諦めれば良いじゃない。貴方にも見えるでしょう?
鎧は赤く染まって、剣は欠けて、杖は砕けて、弓は切れて、筒は割れて、拳までも壊れた。もう、立ち上がらなくたって良いんじゃないの?


『―――まだ、心は折れていない』


解りきった事の様に、《彼》は言う。いや、ただ口がそう動いただけだ。もう声を絞り出す力も残ってはいないのだろう。でも、私には耳元で言われた様に響いた。
慟哭が響く。枯れた喉から、戦慄する程の叫びが鳴り響く。《彼》の体が、心が眩く光る。
あぁ、これが救いの―――





以上です。
因みにこちらは夜白野サイドで、メインは別キャラで進んでいきます。
連載の折には、よろしくお願いします。

color's 2-1

color:5
『深緑の源泉』


なんでも顔面にドロップキックをかまし、水月さんを5mは吹っ飛ばした後、着地に失敗――と言うか、受け身を取らなかった僕は、コンクリに強か頭を叩きつけて気絶したらしい。勝敗はドローと言った所か「いや、負けだろ」
君鳥さんがモノローグに割り込む。止めてよ。モノローグ位好きに話させてくれよ。
「でも、水月さんだってあんなですし、引き分けで良くないですか?」
僕が指した先に立つ水月さんは、顔にグルグルと包帯を巻いていて、ビーストクルス フォーム:マミーとでも言ったような格好だった。高速で動いてる所に足の裏で勝負を挑んだわけだから、まぁ、どちらが甚大な被害を受けるかは目に見えている。当たり所によるけれど、鼻が折れたり、下手すれば頬骨が陥没したりするだろう。――とか言ってると僕が非常に非情な行為をしたように聞こえるけど、いや言い訳をさせて頂くなら、僕はその事を少しも覚えていない。無意識下だった訳だ。だから、僕の記憶は水月さんにハイキックを放たれた辺りから飛んで、事務所で眼球に白湯を落とされた所から始まっている。とんでもない事をしやがる。実行犯は君鳥さんだけど、考えたのは双葉らしい。恐ろしい。
と、話が逸れたが、つまりはそう言う訳で、僕にしてみれば水月さんが包帯グルグル巻きなのを見た時には「どうしたんですか!?例のレジストですか!?」などと叫んでしまったのだが、それは至極真面目な話だったのだ。
「いや、意趣返しのつもりで巻いてたんだけど、別に私は怪我してないんだよ」
そんな思考を余所に、水月さんは包帯を外していく。成る程確かに、包帯の下の顔は、どこも傷ついても、ましてや靴底の後がついてるなんて事もなかった。やっぱり水月さんの能力は[アウター・コマンド]なんだろうなぁ。
「でだ、何か解ったかい?新人君」
「何も解りません」
そりゃそうだ。こんくらいの暴力で何かを悟る程、僕らは漫画の中を生きてはいない。いや小説かもしれないけど。
つまりは奇跡的なドロー……いやまぁ、ここまで運んで貰ってドローを語るのは実にふてぶてしいかもしれないけれど、力を気兼ねなく使える能力者相手に一撃入れられただけでも、一般人としては誉められた物だと思う。
「強いて言うなら、僕じゃぁ勝てない事くらいですよ。[アウター・コマンド]に出会したら逃げる。まぁ、それだけ解れば重畳だと思いますけどね」
[カラー・バースト]からすら逃げられなかった僕が、逃げきれるか甚だ問題なのだが。
「まぁ、確かに非マナ干渉なんて言う恐ろしい体質を持ってても、言い方は悪いが人間は人間だからな。俺だって過度な期待はしてねーよ」
「適度な期待はあったんですか?」
「部下に期待しねー上司がいるかボケ」
成る程、この人は事務所の長たる器。この人は最高だ。眼にぬるま湯を垂らしたりしてこなければ。
「そう言えば桃葵と双葉君は?」
「あぁ、あいつ等なら聞き込みに行ったよ」
「今回の事件の?」
「そうだ」
――なら良いか。
「君鳥さん。聞きたい事があるんですが」
「スリーサイズは絶対に教えないぞ」
「知りたくな……それは追々。双葉君の事です」
「――仕方ないな」
何かを諦めたように、君鳥さんは座りを直す。眼の色が一層深く染まった。
「上から99.9、55.5、88.8だ」
「峰不二子のスリーサイズ位常識だと何故解らないんですか?」
ダメだこの人。大人が子供に戻って、そのまま成長したような人だわ。
でも僕らは眼を逸らさない。
「捨てられてたんだよ。片目のない少年、若葉と、『殆ど眼』と言っていい少年、青葉としてな」
「『殆ど眼』?」
「生まれつき[アウター・コマンド]だった。そう言った方が解りやすいか。眼、眼球。視覚分野を異常発達させたその能力は、代償として顔の他のパーツを殆ど持っていった」
マナ寄生法則の暴走。
必要と不要をマナが決めて身体を作り替える。しかしそれは、『能力を扱うのに適した体』であり、生きるなんてのは二の次。
「そう。つまり、人間としては余りに強すぎて、生きるには余りに弱すぎた。実際、一歳の時点で死んじまったしな。そして、その『眼』を双葉の空いていた方に移植した」
「つまり、双葉君は眼下に『能力者を入れている』んですか?」
「近いな。正確にはマナの塊を入れているんだ。兄、青葉のマナをな」
「そんな事をして、彼は平気だったんですか?」
マナを二種類、いくら兄弟、いくら双子と言えど他人は他人だ。マナを二つ以上取り込むなんて。能力者に限って言うなら腕や足を、下手すれば皮膚を移植しただけで拒絶反応が起こるんだぞ。それを、眼球に特化した能力の、能力部分を移植……奇跡だ。
「まぁ、宿主が変わった所為で眼の能力は退化したがな」
「彼の能力に影響はないんですか?」
「解らん。と言うか、眼を移植したのは一歳の時だしな、その時にあいつが能力者かなんて解らないから、出ているともないとも言えねぇ」
成る程、道理だ。
「とは言え、体質には異変が起きた」
「と言うと?」
「あいつにはありとあらゆる精神に干渉する能力が効かねぇ」
……能力者にも相性はある。肉体を強化する物理攻撃メインの[ヒューマン、アウター・コマンド]は[カラー・バースト]や完全属性能力状態の[ヒューマン・コマンド]には苦戦を強いられるだろうし、[ブレイン・バースト]はマナと肉体の知覚が必要だった筈だから、素早く動く[アウター・コマンド]とは相性が悪い。とは言え、対策がない訳じゃない。[ブレイン・バースト]なら、空間を限定する。動きを抑制する。思考を誘導する。ある程度自分の能力について解っている能力者なら、無意識にこの一部を行っているだろう。
しかし、それに対し双葉君の存在は最悪だ。
あらゆる能力が効かない僕が言うのもなんだけれど、対策の立てようがないなんて、おそらく[ブレイン・バースト]側からすれば悪夢だろう。限定されようが、抑制されようが、誘導されようが、それはつまり能力をかけるためなのだから、かからない相手にそれはただの面倒な事程度にしかならない。
「だから最強、ですか」
「まぁ、他にも要因はあるがな」
話を区切り、君鳥さんはソファに体を預けた。そうして長い足を組む。一挙一動がやたら格好良い人だった。
「そう言えば、目星はついてるんですか?」
「黒幕か?」
「えぇ」
「水月、報告を頼む」
君鳥さんが言うと、水月さんはファイルを一つ取り出し、デスクの上に開いておいた。そこには一つの記事が挟まれていて、一部が赤いラインで囲まれている。
「能力者識別グラスが開発されたのが、約半年前。そして、それが売り出されたのが二ヶ月前です。発売元は『D-point』」
『D-point』と言ったら、子供から大人まで楽しめるタイプのゲームシェアを独占している相当大きな会社だった筈だ。――そんな所がこの事件を?
「しかし、その能力者識別グラスは非常に高価。一般人には手が届きません」
「じゃぁ、何故こんなにも出回っているんですか?」
「ばらまいているんです。ライバル社の『Jack:s』が」
微妙に聞き覚えがあるような、ないような……。『Jack:s』どこで聞いたんだったか。
「つまり、眼鏡を買って、そのまま投げ売ると。意味あるんですか?」
「現在『D-point』は大慌てで眼鏡の回収をしています。元々、能力者識別グラスの使い方はマナの色の判別なんですよ」
「マナの色?」
「販売、と言ってもそれこそ能力者研究チームへの技術提供が大きな部分を占めます。マナや能力者については、まだ解明されてない点が多いですからね。そして、その中にマナの色と言うのもあります」
あぁ、あのマナは基本青系の色――って奴か。なんか聞き覚えはあるな。どちらかというとうろ覚えな記憶しか持ち合わせてないのだが。
マナの色なんて、何か意味があるのだろうかね。
「そして、そんな悪用法が判明してからと言うもの、勿論『Jack:s』にも批判は行くけれど、やっぱり大本の『D-point』は大変になっているらしいね」
「だからな」
そうして、美味しい所で君鳥さんが話に割り込む。
「『Jack:s』能力者支部をお宅訪問する予定なんだわ」

color's用語

color:EX1


「能力者、非能力者問わず、知っておいた方が良い話はいくらでもあるだろ」
「でも君鳥さん。大抵の人は授業で習いますよ?」
「解りやすく水月が纏めたファイル、あの辺に置いておくから」
「ちょっと、君鳥さん!そんくらいでいじけないで下さい!ねぇ君鳥さん!」

落ちたファイルには、【持ち出し厳禁】と書いてあり、タイトルは『color's 基礎知識』と銘打ってあった。


第一講
―基礎用語―

【マナ】:体を構成する物質。可視状態では液体の様な見た目になる。余程特異でない限り、青色、またはそれに属する色を持つ。現在確認されている特異色は赤、緑、白、銀の四色。中でも赤は、紫のマナが変質した……と言う結論が出ており、実質未知のマナ色は三色。
【浮遊マナ、確定マナ】:体を構成するマナにも二種類があり、体を構成するマナの中でも純度が高く、組織的な結びつきの強いマナを確定マナ(部位保管マナ)と言い、確定マナ程の純度を有さず、結び付きの弱いマナを浮遊マナ(欠損補完マナ)と言う。基本的に変換には浮遊マナを使う。
【変換】:マナを組み替えて能力を起動する事を変換と言う。
【変換効率】:マナを変換するに当たって、低純度ならば変換がしやすく、高純度な程変換が難しい。ただし、低純度なマナは変換効率が悪く、高純度な物は良い。
【質保存の法則】:変換の良し悪しに関わらず、低純度なマナからず低いランクの変換能力しか発動せず、高純度なマナからは高ランクの能力が発動する。これはマナの絶対値に依らない。
【確定マナ使用】:部位を確定しているマナは高純度だが、使用は体の一部を削る行為であり、限度を超えると身体の崩壊を起こす。能力者は一般的に無意識に浮遊マナを変換しており、確定マナを変換するのはかなり意識的な行為と言える。
【身体崩壊】:確定マナを使いすぎた状態を崩壊と言い、人によって症状は違う。大抵は何かしらの病気に類似した現象が起こる。
【変換能力】:マナを変換する事で起動する能力を変換能力と言う。基本的には属性を身体に付加する物が多い(変換しても発生源に馴染みやすい為――マナ寄生法則)
【変換能力2】:属性付加以外の能力として、解放型がある。解放型には、相手の確定マナを削る効果やマナに共鳴して身体ダメージとして変化する物がある。
【マナ寄生法則】:マナは変換しても元となったマナの持ち主に危害を加えず、かつ身体に定着させる時に優先される。また、能力が身体に危害を加えかねないと判断された場合、確定マナが変質を起こし、身体の構成が変わる場合がある。
【マナ管理権限】:マナ変換能力の一つに、他人の意識を使役する能力がある。その類の能力が発動し、意識を奪われた場合、一時的にその対象者はマナの管理権限を放棄したと見做され、マナ寄生法則から外れてしまう。即ち、マナの暴走に巻き込まれてしまう。非常に希なケースではあるが、能力者の死因の一角を担うのはこれだと言われている。
【能力者】:マナを変換し、人知を越えた能力を起動する者を、纏めて能力者と言う。能力者内でもいくつかのパターンに分けられ、大雑把に二つ。それを更に二つずつに分けた四つが基本になっている。
【肉体(マナ集合体)】:基本的に能力者と人間の間に肉体構成上の差異は無い。ただマナを変換出来るか出来ないかで区別される。先天的な違いは無いと言われている。ただしこれは非マナ干渉体質には当てはまらない様だ。
【後天的構成の差異(ビーストクルス)】:マナ寄生法則が適応された時に、人間という形を捨ててしまう能力者は少なくない。そう言った能力者を[ビーストクルス]と言い、能力に付随した人外へと形を変えている。それでも大抵は猿、遠くて犬など、ほ乳類が多いが、魚、鳥、昆虫、果ては幻獣まで、数は少ないが報告例は上げられている。
【能力パターンA】:身体に付加される能力を人間型は[ヒューマン・コマンド]、人外型を[アウター・コマンド]と言う。属性付加、筋力増加、部位変質などがある。
【能力パターンB】:解放型、能力を身体に付加するのでは無く、他者へ関与する形の能力を、属性解放型は[カラー・バースト]、無属性他者関与型は[ブレイン・バースト]と言う。雷や火を操ったり、精神攻撃はこれに属する。
【複合型能力者[アドバンス]】:複数のマナ変換を行える能力者をこう呼ぶ。しかし、現在確認はされていない。幻獣系のビーストクルスには追加効果として、二種以上の特殊行動を行えるものがいる。
【人間】:マナ変換を行えない者。一部では、マナを固定する能力である。と言う非差別化運動が起こっている(個人が所有出来る能力が一種である以上、理にはかなっている)
【マナ融解[メルト]】:能力を起動した後、暫く放っておくと、能力が霧散していく。これをマナ融解[メルト]と呼ぶ。ただし、これは浮遊マナを変換した場合にのみ起こり、確定マナはメルトしない(本人の意思により消す事は出来る)。メルトしたマナは体に還るが、確定マナは自然治癒でないと修復しない。
【非マナ融解体質[フィクサー]】:浮遊マナ、確定マナに限らず、マナ融解が起こらない体質を[フィクサー]と言う。基本的に、[アウター・コマンド]及び[ブレイン・バースト]の能力者が多い。マナが融解回復しない為、能力を乱発出来ない欠点がある。
【非マナ干渉体質[ノーインター]】:外的、内的関わらずマナによる影響を受けない特異体質。現在、変換能力の一種なのか、つまり、体質と定義するべきか否かが問われている。また、現在確認されているノーインターを観測する限り、肌に触れる前に対象となるマナを分解(メルトに近い)を行っている様に見える事から、極めて限定的なマナ障壁の一種、もしくはマナ攻撃専用障壁だと言う仮定も出来ると思われる。
【マナ融解誘発弾丸】:極秘で開発されていると噂の、能力者殺しの弾丸。マナ融解を起こす特殊な弾丸を撃ち込み、浮遊マナ自体を融解させ、自然に還してしまう……らしい。
【非能力的変換[プラス]】:怪我の高速修復、身体能力向上など、ある程度、能力者ならば起こる優位性をプラスと言う。
【マナ障壁】:能力者の大半が使える、変換の一種。これは能力ではなく、マナの自己防衛と言える。マナを介さない危害が能力者に及ぶ場合、自動的に宿主を保護する能力。大抵は変換の能力パターンに付随する。その為、能力の『機能』と呼ばれる場合もある。一応、非能力的変換の一種。
【完全能力化現象】:フィクサー特有の特殊状態。[アウター・コマンド]は人外の形で固定されてしまう[ビーストクルス]。更に、[ヒューマン・コマンド]、[カラー・バースト]ならば体が属性になってしまう場合がある(身体が炎や水で出来ている状態)属性能力化が起きている能力者には物理攻撃が効かず、基本的に[ブレイン・バースト]や[カラー・バースト]でしかダメージを与えられない。また、火は水に弱く、水は雷に弱いなどのじゃんけん理論が適用される。
完全能力化の中でも、[アウター・コマンド]は肉体が変質したものであるので、ノーインターに打ち消されない。

color's 1-5

color:4
『黒か黒』


[アウター・コマンド]……君鳥さんの能力、[ヒューマン・コマンド]の逆側に位置する、所謂最も人外に近い能力だ。人間という形を捨てた能力者をそう呼ぶ。中でも、人間の形に戻れなくなった、完全能力化現象者を[ビーストクルス]と言う。
おそらく、[ビーストクルス]には非マナ干渉体質は効かないだろう。体はマナで出来ているが、おそらく体を完全に形作っている確定マナに、僕の体質は効かないのだろう。でなければ、僕は人に触れないし、下手すれば人類はこの体質を持つ人だけになる。
そう考えると、確かに気兼ねなく能力を使える[ビーストクルス]は僕の天敵と言えるかもしれない。
「でも、[ビーストクルス]は文字通り人外と言える身体能力なわけですし、一朝一夕の特訓じゃぁ、どうしようもなくないですか?」
「うん」
あっさり頷きやがった。
「まぁ、ケアするったって、ようは一撃で死なない様にするって意味だ」
「当たらなければどうと言う事はないってやつですか」
「まぁ、そうだな」
君鳥さんは薄く笑う。そして、取り敢えず――そう君鳥さんは呟く。
「その男をどうしようか」
随分と今更な発言だ。しかし、確かに考えていなかった。普通にいくなら警察にでも突き出せば良いんだろうか。
「新人君。警察に突き出すとか思ってないか?」
君鳥さんに言い当てられたのには流石に驚いた。
「水月、説明しておけ」
「人間と能力者の交戦によって被った被害は、如何なる理由をもってしても能力者が負う羽目になります。何故なら、人間は能力者に勝てないからです」
勝てないのにも関わらず戦いを挑むのは、知らないか馬鹿かのどちらか。しかし、どう考えたって『挑まない』奴の方が多いだろう。ならば、悪いのは大抵能力者一択。解りやすいのは良いことだ。
僕は未だ意識を失っている男を見る。――彼は、知らなかったのか、馬鹿なのか。それともどちらでもないのか。
「彼から聞くしかないですかね。どれくらいで目が覚めるんです?」
僕がそう聞くと、桃葵は少し目を逸らした。
「一日は起きません。心臓、肺付近の確定マナを削り取ったので、回復に凄く時間がかかるんです」
「そのまま死ぬなんてないですよね?」
「直接心臓やらを傷つけたならまだしも、マナを削っただけですから、一定期間の活動不調程度ですよ」
まぁ、それなら安心か。――不意に、目の前にビンが飛んできた。
「っ!」
瞬間的に顔を覆いかける手を無理矢理広げて弾く。
「いーぃ判断だ」
ビンを投げた君鳥さんが、デスクに手をついて逆立ちの様な格好で蹴りを繰り出してきた。手で消せ――無い!
ブーツまでは消せない。あんな重そうなブーツぶち込まれたら死んじまう!
足に向いていた手を少しずらし、臑辺りに当てる。フッと消える感触と共にブーツがあらぬ方向へすっ飛んでいった。しかしまだ終わらないんだろ!
ウィンドミルの要領で今度は逆の足が来る。ブーツをクロスした腕で受ける。ミシッと、最悪な音が聞こえたが、吹っ飛び、後転して距離を稼いだ。片足がなければすぐには動けないだろ。即立ち上がり、扉をぶち抜かんとする勢いで開ける。壁にぶつかってけたたましい音を立てた。
特訓――ってこれかよ。
広い場所はダメだ。廊下を少し進んでターン。細い廊下なら足を振り回して遠心力を利用する事は出来ない。「――とか、思ってないか?」
排水溝がはぜて、中から足が飛び出してきた。
「くぅ!」
裏拳で足を弾くが、飛び散るプラスチック片が頬を掠める。熱い――リアルな痛みが走った。
しかしあの人、流し場にでも飛び込みやがったのか。本物の水の中でも、水としての自分を見失わないなんて、なんちゅう精神力だよ。
「でも、もう君鳥さんじゃぁ僕には勝てませんね」
散乱した水からスルリと君鳥さんが立ち上がった。この人裸だけど、羞恥心とか無いのかな。仕方ないので僕が眼を逸らす。ちらりと見えた顔には憎々しげな色を浮かべていて、この勝負の結果が見て取れた。
「まぁな。元々体に触れられねぇんじゃ俺じゃぁ勝てねえわ。だから――」「私がお相手します」
バシャンと、君鳥さんの体が弾け、後ろから水月さんが飛び出した。――あれは実体じゃ無かったのかよ!
バックステップで初撃をかわし、廊下を走る。くそ、凝視しとくんだった。階段を飛び降り、飛び降り、飛び降り、飛び降り、飛び降りて、駐車場に出た。そこに――ズガン――と、水月さんが着地する。おいおい、三階だぜ?あそこ。
「確かに、ここなら目にも付きませんし、悪くない」
「――素人に能力者とタイマン張らすんですか?」
「口先だけで生きたいなら、体の動きも全て口先に任すべきですよ」
水月さんはやれやれと言う風に首を振る。「何をしていたかは知りませんが、私も手を抜かなくて済みそうですね」
低く鋭く、水月さんが飛び出す。弾丸の様な動きだが、音はもう大砲だった。
右に飛んで避ける。しかし、すぐに切り返した水月さんが突っ込んでくる。避ける。切り返す。ダメだ。埒があかない。
水月さんが緩急を付けだし、少しずつ服や腕に突進が掠りだす。
そしてそれが数回続いた――数回死を錯覚した後、水月さんは止まった。
「帽子、邪魔じゃないですか?」
指で僕の頭を指し、言う。ニット帽がずれて、眼にかかりかけている。だが、「邪魔じゃないですよ。もう体の一部みたいな物です」
「なら良いんですが、そろそろ、能力を使わせて貰いますよ」
トンと、水月さんは一度跳ね――消えた。

――ゾグン

一瞬、僕の頭がサッカーボールの如くすっ飛ぶ錯覚を感じた。
気付いた時には僕はもう屈んでいて、ハイキックを放った後の水月さんの足が視界の端を流れていく。瞬間的に恐怖が頭を埋め尽くし、コマ落ちした映像を見た様な感覚が走る。回らない思考回路とずれた視界に一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
「        」
水月さんの口が動いていた気がする。気のせいかもしれない。
何か違和感を覚える。
まだ音は聞こえない。まだ光が見えない。また繰り返す訳にはいかない。まだ何か足りない。戦え。
急速に意識が覚醒する。帽子の中に仕舞っていた髪がバサリと肩にかかった。――あぁ、鬱陶しいなぁ。
ハイキックの勢いをそのままに、回るようにして飛んできた左足の足刀を真上に飛んでかわす。着地と同時にバック転。バック転。バック転。水月さんとの間に距離が生まれる。
「        」
口が動いているのは見えるが、何を言っているのかさっぱり解らない。まだどこかぶれてしまっているようだ。
「『    』」
僕の口も動く。会話は成立してないだろうけど、気にすることはそんな些細な事じゃないだろ。多分。眼が熱い。舌が熱い。体が熱い。腹の奥から何か湧き出しているみたいだった。
「   」
水月さんが何かを言った。瞬間、体がぶれて、殺気がこちらに向かっているのを感じる。超スピードの突進。能力を解放したのかさっきまでより速い。でも今の僕にとっては随分と緩やかだ。考える前に体が動く。この能力者を倒すのに最適な動きを体が先に行う。足の裏に衝撃が走った。

――あぁ、これは、勝ったな。

僕は気を失った。

color's 1-4

Color:3
『灰塗れの空』

僕は愛というものが大嫌いだった。
子は愛を受けて育つらしいが、少なくとも僕は愛を受けた覚えはない。愛を知らない者が愛を与えられるわけもなく、僕は愛を知らないで成長した。
両親は僕に触れた事がない。オムツを替えるのも、風呂に入れるのも、寝かしつけるのも、僕は見知らぬおばさんにされてきた。両親は僕を見捨てている。それが僕が小学生に上がった頃に出した結論だった。
「今考えれば、両親とも完全能力化現象者だったんですよ。そう考えると、『よく産まれられた』とも思えますけど、仮定として、ある程度空気中に存在する空気やマナに触れる必要がある――と考えれば、あり得なくもなさそうですね」
「今その両親は?」
「『消えました』」
「それは……蒸発と言う意味で?」
「皆まで言いませんよ」
そうして僕はまた運転に戻る。赤信号は青に変わった。もう、話すこともない。僕にあるのはこれしかない。これ以外に特筆する事なんて持ち合わせてはいないのだ。厚みのある人生なんて送らなかったし、小説にでもしたら小学校までで内容が完結してしまうだろう。だから、僕は口を噤んだ。と、そこに着信音が鳴り響く。
「あ、失礼」
「どうぞ」
桃葵が携帯を開き、誰かと話す。口調や会話の内容から推測するに水月さんかな。
「すみません。メンバーを一人回収したいんですけど」
「解りました。場所を教えて下さい」
彼女が言った場所は市内で有名な進学校だった。少し通り過ぎていたので、遠回りになるな。
ハンドルを切り、少し細めの道に入る。
「事務所の人って結構いるんですか?」
沈黙に耐えきれなくて、取り敢えず口を開く。
「いえ、四人です。今から迎えに行くのが最後ですよ」
「少数精鋭なんですね」
「予算がないだけです」
軽く笑って言う。
うーむ、普通に話せるものだな。拳銃を突きつけられてても、意外と平常だ。まぁ、見た感じセーフティ掛かってるし、気にする程でもないのか。
「あぁ、どんな子なんです?あの学院に入る位なんだから、相当優秀なんですよね?」
「――うーん」
「え?」
「優秀……はい、確かにまぁ優秀なんですけど」
「頭と能力、どちらが優秀なんでしょうね」
「頭ですかね」
頭で入学したのか。随分と頭が良いんだな。
と、そんな話をしているうちに学院の前に到着した。
「どの子です?」
「あ、私が行きます」ピックアップだけなら平気かと、壁沿いに車を止める。あ、やべ僕出られねぇ。後ろに暴漢いるのに。
「では、行ってきます」
「その必要はないぜ」
いつの間に――そう口が動く前に、振り向いた僕の目の前に、ジャンケンで言う『チョキ』が突きつけられていた。ぴったりと、目の位置に。
「とーきねーちゃんが来るって聞いてたけど、誰だお前。この車はミツキのだぞ」
「借りたんだよ」
「そうか。で、お前誰だ」
「僕は――燈藤 赤紫。新人中立屋だよ」
「あぁ、お前がか」
少年は指を下ろす。
そうしてやっと、僕は少年を見る事が出来た。左右で微妙に違う眼。少し長い気がする髪。茶色いけど……多分地毛だろ。身長は座っているからなんとも言えないけど、あまり高いとは言えないんじゃないだろうか。
「ジロジロ見てんじゃねー。早く家に行くぞ」
「事務所じゃなくて?」
「だから家だろ?」
桃葵の視線が突き刺さる。成る程。察せとな。
「了解。早いところ帰るとしよう」
一日と経たずもう慣れ始めた左ハンドルを回して、車は静かに発進した。

「お帰り。初仕事はどうだったかな」
車を停め、改めて男を背負い、事務所に入った途端、水月さんが聞いてきた。手には珈琲の入ったマグカップ。さっきは特筆しなかったけれど、水月さんはスーツだから妙に似合う。
「まぁ、問題はありませんでしたよ。道は解っていましたし」
「それは良かった」
「ミツキー。俺にも珈琲くれ」
「はいはい」
水月さんはカップをデスクに置き、キッチンに向かう。珈琲とはマセた子供だと思ったのも束の間、少年は年相応の子供らしくソファに飛び込んだ。……ん、しかしあの少年いくつだ?
「はい、双葉」
「さんきゅー」
「双葉君ですか」
「双葉、自己紹介してなかったんですか?」
「おー、そう言えば眼潰ししようとしてたから忘れたな」
悪びれもせず、双葉君はソファに座り直して水月さんの煎れた珈琲を飲む。
「僕は緑木 双葉だ。よろしくな」
「燈藤 赤紫。よろしく」
こうしてりゃぁ、可愛らしげな子供なんだけどな。口調は生意気だけど。
「これで、全員集合だな」
むくりと起きあがった君鳥さんが言う。……この五人で、全員なのか。中立屋としては最小レベルだ。
「さて、新人が入ったわけだからここのテーマを再確認しようか」
僕は取り敢えず背負っていた男を脇に下ろす。そう言えば凄く重かった。
「俺達が何故これだけ少ないか。その説明だ」
君鳥さんは目の前に置いてあった珈琲を一気に飲む。あ、双葉君が切れた。ペチペチ殴ってはいるものの、暖簾に腕押し、糠に釘、水に平手と全くの無意味っぷりだった。
「俺達は、各分野において最強である事をメインに集められた」
物理攻撃、完全能力、多角的能力、洗脳能力、能力全般。そう君鳥さんは言った。物理攻撃と能力全般の担当は解ったが、残り三つが三人にどう対応するかは解らなかった。
「ま、中立するにしたって実力が伴わなきゃな」
「君鳥さん。そんなに、最強である事に拘る意味はあるんですか?解決だけなら、利便性だけでも」
「必要なんだよ。最強がな」
きっぱりと、君鳥さんは言い切った。それは吐き捨てる様でもあったし、決まりきった事を説明するようでもあった。
「何かをする為には力が必要だ。何かをなす為には力が必要だ。何かを得る為には力が必要だ。何かを知る為には力が必要だ。何かを解す為には力が必要だ。何かを助く為には力が必要だ。何かを救う為には力が必要だ」
歌うように、しかし力強く彼女は言う。それは、鬼気迫ると言っても良かったかもしれない。僕も過去は語りたくないけれど、彼女にもなにかあったのだろうか。
「まぁ、そう言う訳だ。みんな相違ないな」
「もち!」
「えぇ」
「勿論」
三人が三者三様に返事をした。そうして、四人が一斉に僕を見る。
「――解りました」
そう言うと君鳥さんは満足気に頷き、深々とソファに座り直した。
「ま、取り敢えず、まずは今回の一連の事件からだわな」
「一連?」
「赤紫と桃葵のだよ」
「あの、私は確かに襲われましたが、彼も何か?」
「あぁ、パイロ系の能力者に襲われてな」
「能力者……ですか。しかし、私は無能力者ですよ?」
「どうやら、」そこで水月さんが割って入る。
「最近能力者と人間側で対立が顕著になっているらしく、能力者は『人間狩り』、人間は『レジスト』と銘打って、お互いに戦争紛いの事をしているみたいですね」
「戦争ねぇ」
「でも、見た目じゃ能力者か非能力者は判断不可ですよね?」
「それがなぁ」
「出来てしまうらしいです」
二人はそう言って眼鏡の様な……と言うか、眼鏡を取り出した。
そして、それをかける。君鳥さんは異様に似合わなかった。
「これ、最近話題の能力者チェッカー。知ってるか、能力者って無意識にマナを空気中に発散してるんだぜ」成る程、確かにあの坊ちゃんも眼鏡してたな。……あれ、桃葵を襲った奴はつけてないよな?
「因みにコンタクト型もある」
補足ありがとうございます。
「で、これをばらまいている奴がいるんだわ」
「……でも、能力者にも人間にもばらまいてるんですよね?それ意味あるんですか?」
「バランスがぶっ壊れたんだよ」
君鳥さんは眼鏡を外し、握りつぶした。この人本当に女性らしくないな。
「今まで人間と能力者がお互いに不可侵だったのは、お互いがお互いをどちらか把握出来なかったからだ」
「内部構造は一緒ですしね」
「だが、こいつの所為でバランスは滅茶苦茶だ。能力者は遊び感覚で人間を殺しやがるし、仲間殺されて黙ってられる程、人間も自分らを下卑ちゃいねぇ」
成る程。どうやら周りの方々は仲間意識が強いらしい。自分が襲われない様に逃げるんじゃなくて、迎撃しちゃうのか。パワフルだなぁ。人間。
「取り敢えず、出元を潰す予定なんだわ」
いきなりでかく出たなぁ。中立屋って言うのは遊撃部隊ってわけじゃぁないだろ。
一通り聞き終わって、僕は改めてソファに座る。なんで立ちっぱなしだったんだろ。同じように桃葵も座る。僕の前には力水が置かれた。大好きだなぁ力水。
「差し当たって、赤紫君」
「なんですか改まって」
「特訓だ」
「――あぁ、やるんですか。マジで」
「能力者は銃を使わない。これは基本だ。何故かと言うと、能力者は人間が嫌いだから。人間にも作れる程度の兵器は肌にあわねーんだよ」
つまり、能力者の体術に負けなければ僕に負ける要素はない。つまり僕がケアする必要があるのは……「[アウター・コマンド]だ」
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