スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

空想科学恋愛

『輪郭、頬、口、鼻、眼、眉、額、髪の毛、耳、首、肩、腕、指、胸、胴、腰、足………後年齢。以上120,000,000,000yenになります』

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。木の周りに立てられている腰掛けのパイプから立ち上がり、僕は彼女に軽く手を挙げた。緩やかに肩に流れる黒い髪の毛、大きな瞳、深い藍色のコートに白い肌がとても良く栄える……先日出来た僕の彼女。

「待った?」

「いいや。早く着きすぎた僕が悪い」

時計は丁度11:30を指している。待ち合わせ時間丁度だ。彼女はそう言うところが凄く細かい。言われた通りと言えば聞こえは良いが、融通が利かないのも確かだ。しかし、それすらも愛おしい。

「じゃぁ、行こうか」

抱きつくように、彼女が僕の腕に腕を絡めた。自然に笑みがこぼれる。

本当に、彼女は理想の女性だ。僕の期待に尽く答えてくれる。

「そう言えば、今日は何処に行くの?」

「暗いところ」

「雅紀変態っぽい」

「冗談だよ。ご飯食べて、服でも見に行こう」

彼女に着せてあげたい服は山ほどある。どんなのが良いかな。スマートなのが良いなぁ。

「ご馳走様!」

「はいはい」

他愛ない会話が続く。

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。駅構内の柱に寄りかかっていた僕は、体を起こし、彼女の方へ向かう。シャープな顔立ち。その中で一際目を引く、大きな瞳。短く切り揃えた活発そうな茶色の髪。男物っぽいジャケット風の上着を上手く着こなしている。……先日出来た僕の彼女。

「お待たせ」

「……10分遅刻だ」

「ごめんごめん。電車が混んでて」

「電車は混んでも遅れないよ」

「あぁ、そうか」

「ま、良いけどね」

そう言って、僕は歩き出す。

時間にルーズではあるけれど、気にするほどではない。その程度、恋愛には重要かも知れないが、僕には重要じゃない。そんなこと、どうだって良いのだ。

「あ、雅紀、私行きたいお店ある」

「へぇ。どこ?」

「えっと……多分あっち!」

コッコッとブーツを鳴らして、彼女は歩き出した。僕の前に出て、道を進む。……そっちは何にも無かった気がするけどねぇ。

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。コーヒーショップの中なだけに、僕は軽く手を挙げるに留める。大きな瞳が此方を捉え、彼女は軽く手を振ってから、カウンターへ向かった。スラリと伸びた足を誇張する様なホットパンツ姿は見ていて少し寒そうではあったが、実に似合う。ジャケット姿は凄くスマートな印象を受けた。……先日《出来た》僕の彼女。

彼女はカウンターで注文して、カップを片手に此方へ歩いてきた。

「お待たせ」

「早かったね。まだ15分あるよ?」

「雅紀だって早いじゃない。何分前から?」

「いや、丁度だよ。僕の方が少し早かっただけだ」

そう言うには些か珈琲の量が減っていたかもしれないが、彼女はそうと答えて、カップに口を付けた。

「それ何?」

「当店のお勧め珈琲」

「なんだ一緒か」

「違ってもあげないわよ」

「ケチだなぁ」

そう言って、僕は自分の珈琲を煽った。……しまった。砂糖を入れすぎたんだった。

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。僕は待ち合わせ場所の時計塔に向かって小走りで向かった。彼女はサンタかと突っ込みたくなるような赤と白のニット帽を大きな瞳が隠れる位まで目深に被り、焦げ茶色のアーミーっぽいコートを着ていた。少しアンバランスな感じだが、小柄ながら足の長い彼女が着ると意外と合う気もするから面白い。足が長いって得だなと思う。……先日《出来た》僕の彼女。

「早いね」

「ふっふーん。30分前行動は基本だよ!」

胸を反らす彼女。大きめのコートだからか、もしくは元からか……恐らく後者だが……自己主張は控えめだった。しかし、元気だな。

「それより雅紀、来る途中に良い感じのお店があったんだけど、今日はそっちに行かない?」

「ふぅん。どんなお店?」

「行ってからの、お楽しみ!」

そう言うと、彼女は僕の手を握り、クイクイと引っ張って歩き始めた。彼女の手はとても温かい。……僕の手はどうだろう。

 

「雅紀!」

彼女が僕を呼ぶ。ごめんごめんと言いながら、僕は彼女の向かいの席に座った。今日の彼女はパンツスーツ姿だった。大きな瞳を隠すようにも強調するようにも見える、フレームのない眼鏡。肩口で切りそろえた茶色の髪が、今時な雰囲気を作り出していた。……先日《出来た》僕の彼女。

「遅かったな。どうかしたか?」

「いや、電車が混んでてね」

「はっは。雅紀、電車は混んでも遅れない」

「いや、あー、ごめん」

「気にするな」

そこで丁度店員が紅茶のポッドを彼女の前に置いた。彼女もそこまで待った訳ではなさそうだ。

「好きな物を頼め。今日は私が出すよ」

「いや、彼女に出させるのは……」

「この前奢ってくれただろ。それに、彼女だからって甘えてるのも私は苦手だからな」

自分の意志を曲げない彼女の事だ。何を言っても聞かないだろう。……なら仕方ない。お言葉に甘えるとしよう。

「すみません。……っと、これと、あと珈琲」

「珈琲飲むんだっけ」

「うん」

そう言えば彼女は飲めないな。似合いそうなのに。

 

600,000,000,000yen注ぎ込んで、決まったのは眼と髪と背かよ。人間ホント強欲だな』

「良いじゃないか。金を出してるのは僕だ」

『まぁ、そうだけどな。んで、次は?』

前の記事へ 次の記事へ