季節は巡る。桜の花びらがひらひらと風に乗っていた。もう何年経つのだろうか。
寂しくて、愛しくて。何回涙を流しただろうか。切なくて、苦しくて。
その度に脳裏に彼の悲しげな顔と変わらない現実があたしの動きをせき止めて。
嗚呼。会いたい。
季節は巡り、もう春。
あの冷たい風が吹く中で惜別をしたあたしたち。昔と今であたしたちは何か変わっただろうか。
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「なぜ、ここにきた…?」
零はアパートの古びた階段の踊り場にいた優姫に問いかけた。
「…零は寂しくないの?」
「…寂しい…?馬鹿は相変わらずだな」
零は冷たい視線で優姫を見つめ、自室に向けて歩き出した。優姫は零のコートを掴む。
「あたしは…零に会えなくて寂しくて…寂しくてたまらなかったよ…!」
繋ぎ止めたのは昔と変わらないこの温もりだった。零は無言で立ち尽くす。優姫は相変わらず零を抱き締めた。
けれど。
時の流れは残酷で、お互いの立場が段々とわかるものだ。純血の姫。ヴァンパイアハンター。これは叶わない慕情だってこと。わかっていても納得がいかなくて。だからもがいて、苦しんでここに来た。
「もう、帰れ」
零は優姫の手を取ると冷笑した。
「あたし…帰りたくなんて…」
「帰れ。お前は俺の敵だ…!」
とどめうちのような言葉に涙が零れた。ここまで来るのも命懸けで。零に会いたくて来たのに。彼に突き放される。
「はやく…帰ってくれ…。俺を振り回さないでくれ…」
あたしは零を振り回してきたのか。この立場が、零を苦しめてきたのか。
でも好きなの。あなたの血が、あなたが欲しくて。たまらない。
「零の側にいたいよぉ…。昔みたいにあたしの側にいて欲しいのに…もう駄目なの…?どうして…っ」
嗚咽まじりに崩れ落ちしゃがみこむ優姫。零は歯を食い縛りながらそれを見つめた。求めてはイケナイとわかっていたのに。
かき乱されるようにズキンズキンと痛む心。好きなのに。手を伸ばせば届くのに。…昔のように。側にいたいのに。
叶わない夢。叶わない恋慕。
「優姫…。」
零はしゃがみこみ、優姫の頭を優しく撫でる。
「…頭撫でるだけじゃ足りないよ…っ」
困ったように目を細めた零の瞳は少し潤んでいた。でも、我が儘を言うあたし。
足りない。もっと頂戴。あなたを。
渇いた唇を重ねる優姫。零は目を見開いたまま。これは決して許されない行為。でも、ごめんなさい。罰なら受けるから。
今日だけ許して。
fin