2012-3-14 07:25
笑って、笑って。
思い出の中にある、あの笑顔みたく。
あの日の喜びに勝るものをあげるから。
笑って、笑って。ねぇ、笑って?
あの日の君は機嫌がよかった。
大好きなあの子の隣を陣取って、好きなお酒が飲めるなら、それもムリない話しだね。
照れ屋な君はあの子の顔もまともに見れず、でも、真っ赤な顔を嬉しそうに綻ばしていた。
お酒の進みが早かったのは、赤みを誤魔化す為だったのかもしれないね。
いつもあの子に話しかけられたくて、周りをウロウロしていたけど、やっと夢が叶った思いは如何なもの?
望んだ刻が、あまりに容易に転がり込んで、君はずっと下を向いて照れているみたいだったけど。
あの子の目に唯一写って、あの子の声が自分だけを呼んでいるのは、そんなになるほど良いものだった?
笑って、笑って。
溢れんばかりの嬉しさを思い出しながら。
おどけて、チャラけて、バカをやるから。
笑って、笑って。ねぇ、笑って?
あの日の君はどこにいったのだろう。
大好きなあの子の代わりに隣を陣取る私を、どんな風に見てるのかな?
照れる私は君の顔をロクに見れもしないから、何を思うか皆目、見当だって付けられない。
下向く視線を上げられないのは、もしかしたら本当のコトを知りたくないだけなのかもね。
いつも君を眺めていた。
あの子を見つめる熱い眼差し。
愛しくて恋しくて、大切で仕方ないと語る視線。
恥ずかしくて触れられず、眩しすぎて目も見れない、その様子を。
あの子がいつの間にか消えてしまってから、あの笑みもが君の中から消えていった。
代わりになろうなんて、おこがましいこと、思っちゃいないけどさ。
笑って、笑って。
得意の道化で、笑わせてあげるから。
ねぇ、お願い。
笑ってよ。
2012-3-13 07:58
窓際の指定席。
穏やかな陽光が午後一番の眠気を誘う。
2つ前の席にはアナタ。
女の如く白い肌に、黒檀の髪。
血のように赤い、紅い唇。
さながらアナタは白雪の君。
おとぎの国からやってきて、毒のリンゴを待っているよう。
気怠い授業にあくびを殺し、前向く首に浮かぶ筋が艶っぽい。
節くれだった細い指で、血色の透ける肘を撫ぜる様だけ、子供っぽくて微笑ましい。
いつもと同じ席に座るアナタを、いつもと同じ席から眺める火曜の3限。
見上げる程の長身が、持て余すように手足を揺らして歩いていく。
その姿を見守った。
手を伸ばせば触れるほどの近さで隣を歩き去った後、アナタの残り香だけが親しげに絡み付いてきた。
例えどこに居ようとも、その美しさを見紛うことなど、ありえない。
その唇の如く赤いリンゴでアナタを眠らせられるなら、
キレイな硝子の箱に飾って、この世の果てまで眺めていよう。
あぁ、見遣るほどに焦がれるこの身を、どうしたらいいのだろう。
身体を巡るこの毒を、
誰か
誰か早く解いてくれ。
白雪の
君にまみゆる
度ごとに
露をも慕う
我が身苦しき
2012-3-12 07:29
大きな窓からは観覧車が見えた。
闇夜の中、鮮やかなネオンを纏い、いつも私を誘っていた。
私はいつも、くだらないと笑っていたけど。
話し相手は決まってルーズリーフ。
あるはずない世界を描いて、願っていた。
変わり映えのない日々に何かが起きることばかりを。
望む都会はラッシュのリボンに飾られて、哀れな私に教えてくれた。
欲しいものはいつも手元にあるのだと。
ぼんやりボードを眺め、
何度も聞いた話を無感動に流していた私は気付けなかった。
振り返れば、あれだけ望んだ何かは
あの頃、もう私の手の内にあったのだと思う。
ないものばかりを求め、必死に足掻いていた。
持っているべき夢を探して、闇雲に焦っていた。
例えばあのときら素直に寂しいと言っていれば
手にしたものに早く気付けていたのかもしれない。
大きな大きな回り道をして、
ようやく知ることができた。
変革なんぞ、すぐに起こせるものなんだと。
今日、
見ているだけだった観覧車の下に
放課後の授業をサボって遊びに行こう。
それから、傍らにいる君に大事な話をするんだ。
もしも上手くいったなら
2012-3-10 16:10
あの頃よりも低くなった声と、
肩を竦めてはにかむ君を、
抱きしめたいと思う不謹慎な私をどうか許して欲しい。
昔が恋しいと過去を引きずるその理由は、君の存在があんなにも近かったからだろう。
だんだんと大人になっていく君の背を、昔と変わらぬ私が未練がましく見つめているようで癪に触る。
顔を上げなければ見ることができなくなった君の襟首。
抱きすくめることができないくらいに広くなった背中。
これからもっと大人になっていくよ。
笑って言う君の声に
胸が痛んだ。
「あの頃に戻れれば」
そう切実に
願わずにはいられない。
恥も外聞も捨て、抱きしめておけば良かった。
意地を捨てて、君が顔をしかめる位しつこく“好きだ”と言えば良かった。
振り向きもせずに去っていく君の背を見て、後悔せずにはいられない。
君は
これからも
大人へと変わっていく。
私の手が、
届かぬくらいに遠く遠くへと
行ってしまう。