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049.飛行機雲【学園的な100題】





碧い

青い海が見える。





さざ波の音。

海風の匂い。

熱い砂の感触。





天高く立ち上る白い雲には

幻の城が隠されていると





何時ぞやに言ったあの人は

元気にしているのだろうか。





いついつまでも共に

変わらずに居ようと結んだ小指は

よもや、触れた温もりすら忘れてしまった。





あれだけ強く望み、願った約束は

ついぞ果たされることもなく、

私だけが見苦しくも

その糸に縋りついて絡まったままだ。





やかましい蝉の音を

心地よく聞きながら居たあの夏の日は

遠く遠く、遥か遠く。





まるで夢まぼろしの如きその美しさを

損なわぬよう真綿に包んで仕舞い込んでいた。





誰に謗られても、

貴方に踏みつけられても、

私がバカバカしいと憎んでも、





決して変わらないように。





若き日のその選択が正しかったことを

最期が近づいた今、まざまざと思い知る。





希望も何もなかったこの道に

ただのひと時でも煌いたあの淡い想い。

深く愛したその事実と、そこに存在した証。





どこにいるのかも、何をしているのかも

どんな風に年老いたのかもわからない貴方が

疾うに忘れ去った私達の日々を





ただ一人、私だけでも

忘れずにいたかった。





ほんの少しの欲を見せるなら

貴方の最期の走馬灯のどこかに

切り取ったあの日が、





足を投げ出し、座って眺めたあの海の碧が、

ただの景色を見ながら笑いあったあの声が、

暑さに湿る重ねた手の感触が、

蘇ればいい。





これから旅立ち、

そしてまた歩み始める道の先に

貴方は待っていてくれるだろうか。





決して交わらぬ道の先で

きっと、また、私は選ばれないのだろうとも

思うのだけれども。





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083:叫び声【学園的な100題】






ともすれば止まらない衝動を抑えることにも慣れ、

あぁ確かに歳だけは重ねたのだと

妙なところで感心する。




物分かり良くあいづちを打つその裏では

吐き出したところで所詮、

応えが返ってくることも

返そうと努められることもないだろうと、





疾うに打ち切った期待を

未練がましく冷ややかに見ていた。





その口は空っぽの甘言を紡ぎ、

その手は身勝手だけを持って翻っている。





どうして。

どうして、どうして。

そんなことが出来るのか。





尋ねるまでもないと

冷静に誰かが答えたのを聞いた気がする。





本音を隠し、

当たり障りないことを言い始めたのはいつの頃か。





押し殺すことに慣れたこの声を

ただ一人には届けたかった、そのはずだった。




明確な悪意と甘ったれた期待を孕んで吐き出した

切実で稚拙なまでのこの気持ちは

あの日、 ただただ望まれぬことを知った。





黙殺の先にある明確な応えも、

これからの眼前に広がる空洞と

傍らに立つ者の先にのみ待つ穏やかな未来も、





真実を見据える能力を欠いたこの眼球の裏に

そこそこな鮮明さで描き出された。





曇ったまなこが克明に見せた唯一まともな未来図を

それでも信じきれない私を

きっと、人は愚かと呼ぶのだろう。





ただひとつを、

ただ一人を望むことすら

私には許されないのだろうか。





この想いすらも

嘲笑の的にしかならないのなら





いっそ、この命ごと

誰か断捨してくれ。





どれだけ張り上げても届かぬ声が

それでも伝えたいと願うこの想いを

喚き散らす、その前に。





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010:屋上【学園的な100題】





晴れの日も雨の日も

病める時も健やかなる時も

いつだってアナタのそばにいられたらいいのに。





離れていても繋がってるだなんて

欲深な私はそれだけじゃ満足できない。





アナタの笑顔ひとつ、

アナタの声のひとつ、

何ひとつ見落としたくない。





空だけが広がるあの場所で

眼下の街を見下ろしながら

ふたりきりの世界に身を置き、

笑い合っていられればいいのに。





あの町の一角で、一緒に食べた朝ごはん。

あの坂を登って、ぶらぶらと散歩をした昼下がり。

あの光る観覧車の下を、手を繋いで歩いた帰り道。





これから先の日々に

そんな、ささやかな幸せが

ずっとずっと、満ちていればいいのに。





淡い月が浮かぶ空の下で

煌めく街をアナタと見たその事実が

せめて

いつまでも褪せないよう形に残した。





ずっと一緒に居ようと

確固たる約束が出来ればいいのに。





ずっと一緒だよと

いつも言ってくれるその言葉を

素直に信じきれればいいのに。





頷くほどに愚かでも、

割り切って微笑むほどに賢くもない私は

ただ、曖昧に笑って抱きしめるしか出来ない。





想いを口にしないのは

応えがわかっているから。





それでも





ふたり年老いた歳月のどこかで

また

この場所で





変わりゆき、そして

変わらないでもいるであろうこの街を

眺められたらと請い願うばかり。






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024.まだら模様【学園的な100題】






手に入らないことを挙げればキリがない。

でも、確かにアナタは

アナタの持てる限りの全てで真心をくれた。





同じ時間を過ごし、同じ物を目にしながら

私には見えていなかった世界を見せてくれた。

私が見ているちっぽけで些末な小さい世界を

美しいと言ってくれた。





もう色も匂いも温さもないと思っていた私に

まだ温もりがあることをまざまざと教えてくれた。

なんの価値もない出来損ないの私を

あたたかいと言って抱き締め続けてくれた。





アナタが大事にしている思い出の場所に招いて

知り得ぬ一端に触れさせてくれた。

潮騒を聞きながら甘い果物を分け合って

これから先のまだ見ぬ道も、

寄り添って歩こうと約束してくれた。






これから会える時間も少なくなって、

これ以上、先に進むこともない私たちの間に

きっと訪れる終わりの日。





そのときに





遠く去った日々の中に

確かな歓びがあったことを思い出せるよう

今、ここに記す。






深くふかく愛したことを。

強くつよく愛されたことを。





あの夏の日が遠く過ぎ去っても

鮮やかさを失わぬように。





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053.幽霊【学園的な100題】







悪夢にうなされて目覚めても

隣に心配そうにしている君がいるだけで

瑣末な恐怖はすぐに笑い話に変わった。





泣きながら見たことを話せば、

その側から君が笑い飛ばしてくれたから。







壁も床も広く思える闇深い部屋の中で

唯一絶対にして確かだった君のぬくい存在が

どんなに大きいものであったか。





もう大丈夫だと言って

抱きしめてくれたその優しさが

どんなに嬉しかったことか。





その腕の中でまどろみながら見る夢が

どんなに穏やかなものであったのか

ついぞ、君は知ることもないのだろう。





君が不安なときには

君がしてくれたように

深く確かに抱きしめ続けていたかったことも。





独りにしないでというワガママに

君が応えてくれていたことも

なんのかんのと言いながら

君が好いていてくれたことも





ひとり、暗い部屋で目覚めるようになって

ようやっと知った。





隣の部屋で何かが落ちた音に

外で騒ぐ陽気な気分の人たちの騒ぎ声に

無様にビクつく私の隣に





もう誰もいないことも。







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