2012-3-10 16:10
076.理由【学園的な100題】
あの頃よりも低くなった声と、
肩を竦めてはにかむ君を、
抱きしめたいと思う不謹慎な私をどうか許して欲しい。
昔が恋しいと過去を引きずるその理由は、君の存在があんなにも近かったからだろう。
だんだんと大人になっていく君の背を、昔と変わらぬ私が未練がましく見つめているようで癪に触る。
顔を上げなければ見ることができなくなった君の襟首。
抱きすくめることができないくらいに広くなった背中。
これからもっと大人になっていくよ。
笑って言う君の声に
胸が痛んだ。
「あの頃に戻れれば」
そう切実に
願わずにはいられない。
恥も外聞も捨て、抱きしめておけば良かった。
意地を捨てて、君が顔をしかめる位しつこく“好きだ”と言えば良かった。
振り向きもせずに去っていく君の背を見て、後悔せずにはいられない。
君は
これからも
大人へと変わっていく。
私の手が、
届かぬくらいに遠く遠くへと
行ってしまう。