076.理由【学園的な100題】






あの頃よりも低くなった声と、

肩を竦めてはにかむ君を、

抱きしめたいと思う不謹慎な私をどうか許して欲しい。





昔が恋しいと過去を引きずるその理由は、君の存在があんなにも近かったからだろう。

だんだんと大人になっていく君の背を、昔と変わらぬ私が未練がましく見つめているようで癪に触る。





顔を上げなければ見ることができなくなった君の襟首。

抱きすくめることができないくらいに広くなった背中。





これからもっと大人になっていくよ。





笑って言う君の声に
胸が痛んだ。





「あの頃に戻れれば」





そう切実に
願わずにはいられない。





恥も外聞も捨て、抱きしめておけば良かった。

意地を捨てて、君が顔をしかめる位しつこく“好きだ”と言えば良かった。





振り向きもせずに去っていく君の背を見て、後悔せずにはいられない。





君は

これからも

大人へと変わっていく。





私の手が、

届かぬくらいに遠く遠くへと

行ってしまう。





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