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055.図書館【学園的な100題】



あの駅で降りて、あの坂を昇って行こう。

お昼は桜咲く公園で食べようか。

初々しい私らを見て、きっと誰もが呆れたように笑うだろうね。





描いた夢の先へと向けて、足繁く通う道すがら。

今まで誰もいなかった隣を歩く、君の姿にまだ慣れない。

桜がキレイだとか
スズメが飛んでるだとか、

しょうもない話を楽しみながら、意識はずっと手に向いた。





微かに感じる薄らぼけた気配が、頭の中までぼんやりさせる。

動くたびに触れそうなそれに触れたくて。でも戸惑って。

結局は微妙なラインを越えないよう、細心の注意ばかり払った。





もしもこの手が触れたなら、
その手は握ってくれるかな?





そんな妄想ばかりして、返事がおざなりになっていくのを自覚だけはしていた。

ふと、

フワフワした気配だけを感じていた手が明確な熱を伝え始め、隣を見上げた。





「いいんでしょ?」





少しの緊張を残した微笑みが紅をさしているのを認め、言葉は咄嗟に形にならなかった。

きっと、応えるべく笑おうとしたこの顔は、その頬以上に赤かったろう。
















描いた夢の一歩先に行けたとき、まだふたり一緒にいたなら、

自習室は素通りで、あの木の下でゆっくり花見と洒落込もう。





やっと繋げた手をやや強く握って

ゆっくりゆっくりと、図書館へ向かった、ある春の日のこと。





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058.Tシャツ【学園的な100題】



色褪せヨレたお前は、未だ鮮やかな思い出に染められている。

腕を通して感じた、だいぶ柔らかくなった心地はあの人を思わせるようだ。

この襟がまだ伸びる前、お前とあの人と色んなところに行った。





肌寒さが残る海辺では、たゆたう桜の花びらを見つけ、はしゃいだ。

歩き疲れた体に薫風を感じながら、天突く青竹の合間から陽を浴びた。

街路を黄色く染めた、朝露に湿る葉を踏みしめ、パンケーキを食べに行った。

コートのポケットの中で冷えた手を温めてもらいながら、浅草寺を見上げた。





振り返ればすぐそこに在る、遠い日の鮮明な記憶。

尚も褪せぬ記憶に反し、歳月の中で古びたのは私達とお前だけか。

よそ行き用だったお前は、もうその役目を果たすこともないだろう。





着潰されボロボロになったお前が、あの日の色を留めていなくとも、

きっと私は、いつの日もお前を捨てることなんてできないんだろう。





使い古されていく私達の行方を、お前に見ていて欲しいから。

新たに始まる未来の中で、古びたお前が艶やかに日常を飾るだろうから。





未だ鮮やかな色褪せたお前が、柔らかく私を迎え入れるように。

これからずっと、その先も

甘い花の香りの洗剤で優しく洗って行こうと思う。





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039.重たい瞼【学園的な100題】



目を瞑れば思い出す。
あの日あの時、何気ない君の姿。

目を瞑れば思い出す。
あの日あの時、鼻歌刻む君の声。





寝静まった深い闇。

その中ですら思い出す。
あの日あの時、触れたぬくもり。

重い頭が軽快に紡ぐ思い出の糸。

そのどれもが滑らかに、
そのどれもが色豊かに。

眼前に生々しいリアルさを見せながら、君の残像を織り成す。





誰か歯止めを。

刻み込んだ肌理の細やかさ。
覚え込んだ首筋の匂い。
抱き込んだ身体の線。





誰か、誰か早く歯止めを。





とめどなく思い出す。

あの日あの時、幸せ過ぎたあの頃。

女々しさなんて知る由もなかった、あの頃のふたりを。





気怠い身体が欲するものを、欲するままに与えないでくれ。

ただ安息を。名実ともに平穏な安息を。

どうか、ここに。





時の前に全ては色褪せ、美しく飾られようと、今はまだその時ではないから。

ただ眠りを。束の間の夢を、ここに。





焼き付いたあの微笑みを、もやがかる幼き日の思い出で隠してくれ。





耳朶に残る甘い言葉を無機質な何かに変えてくれ。

記憶された悉くを、ほんの一時、封じてくれ。





あの日あの時あの顔で、

無遠慮に踏み込んできた君から。

日の下でチラつく君から。

月夜に舞い込む君から。





ほんの一瞬だけでいい。

解放してくれ。





あぁ、ほら

夜だけがまた、明けていく。





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014.口下手【学園的な100題】


愛しいと、
逸る気持ちをどう伝えよう。

溢れんばかりの想いを
どうすれば伝えられるだろう。





不完全さが歯痒くて、言葉はいつも心とは裏腹な妄言を紡いだ。

わかっているのかな、君は。





その目に見つめられる度に正気でなくなることに。

君のこととなると、何をしたらいいのかも、わからなくなることに。

惜しみない想いにひとり満たされているようで、いつも一抹の不安を抱えていることに。





はにかむ君に何も言えなくなるのは到底、言葉なんかじゃ伝えきれないからだ。

この恋しさを、その愛らしさを。




持て余し、行き場を失うほどの衝動に耐え兼ねて、その体を抱き締めた。

この腕から猛る想いが伝わればいいと、ただ祈り続けた。





ずっと君だけを愛してる。





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006.友達【学園的な100題】


もっともっと
たくさんのコトを知りたいんだ。

今しがた目を開けた赤子みたく、見たもの全てを、聞いたもの全てを取り込んでしまいたいよ。





きっと何も知らなかった。

悲しいコト。寂しいコト。
楽しいコト。嬉しいコト。

当たり前に近くにありすぎて、きっと気にすら留めてなかった。





ありがとう。
気付かせてくれて。





あぁ、この嬉しさをそのままキミにあげられたらいいのに!

その言葉だけで、ほら、世界は見違えるほど色鮮やかになる。

あぁ、この寂しさを、その片鱗をほんの少し伝えられたらいいのに!

そうしたら、きっと、その優しさがどれだけ嬉しかったか、わかるでしょう?





ありがとう。
今まさにこの時、
傍にいてくれて。

どんな言葉も、
その心に報いることはできない。





初めて知ったんだ。

さりげない言葉の内に潜む、人の情を。

知りえなかった、究極の幸せってものを。





いつだってポッカリとあいていた胸の真ん中にキミがじんわりと、痛みすら覚えるぬくもりでもって染み入る。

キミがくれたこの心を忘れたときはまた、おしえて。

キミがその言葉で、
キミのそのぬくもりで。





ボクもそっと
キミにおしえてあげるよ。





キミが寂しいとき、悲しいときにはこの言葉で、そのぬくもりを。

キミがくれた、優しさを。





余すことなく、その全てを。





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