2012-3-23 22:06
あの駅で降りて、あの坂を昇って行こう。
お昼は桜咲く公園で食べようか。
初々しい私らを見て、きっと誰もが呆れたように笑うだろうね。
描いた夢の先へと向けて、足繁く通う道すがら。
今まで誰もいなかった隣を歩く、君の姿にまだ慣れない。
桜がキレイだとか
スズメが飛んでるだとか、
しょうもない話を楽しみながら、意識はずっと手に向いた。
微かに感じる薄らぼけた気配が、頭の中までぼんやりさせる。
動くたびに触れそうなそれに触れたくて。でも戸惑って。
結局は微妙なラインを越えないよう、細心の注意ばかり払った。
もしもこの手が触れたなら、
その手は握ってくれるかな?
そんな妄想ばかりして、返事がおざなりになっていくのを自覚だけはしていた。
ふと、
フワフワした気配だけを感じていた手が明確な熱を伝え始め、隣を見上げた。
「いいんでしょ?」
少しの緊張を残した微笑みが紅をさしているのを認め、言葉は咄嗟に形にならなかった。
きっと、応えるべく笑おうとしたこの顔は、その頬以上に赤かったろう。
描いた夢の一歩先に行けたとき、まだふたり一緒にいたなら、
自習室は素通りで、あの木の下でゆっくり花見と洒落込もう。
やっと繋げた手をやや強く握って
ゆっくりゆっくりと、図書館へ向かった、ある春の日のこと。
2012-3-21 07:54
色褪せヨレたお前は、未だ鮮やかな思い出に染められている。
腕を通して感じた、だいぶ柔らかくなった心地はあの人を思わせるようだ。
この襟がまだ伸びる前、お前とあの人と色んなところに行った。
肌寒さが残る海辺では、たゆたう桜の花びらを見つけ、はしゃいだ。
歩き疲れた体に薫風を感じながら、天突く青竹の合間から陽を浴びた。
街路を黄色く染めた、朝露に湿る葉を踏みしめ、パンケーキを食べに行った。
コートのポケットの中で冷えた手を温めてもらいながら、浅草寺を見上げた。
振り返ればすぐそこに在る、遠い日の鮮明な記憶。
尚も褪せぬ記憶に反し、歳月の中で古びたのは私達とお前だけか。
よそ行き用だったお前は、もうその役目を果たすこともないだろう。
着潰されボロボロになったお前が、あの日の色を留めていなくとも、
きっと私は、いつの日もお前を捨てることなんてできないんだろう。
使い古されていく私達の行方を、お前に見ていて欲しいから。
新たに始まる未来の中で、古びたお前が艶やかに日常を飾るだろうから。
未だ鮮やかな色褪せたお前が、柔らかく私を迎え入れるように。
これからずっと、その先も
甘い花の香りの洗剤で優しく洗って行こうと思う。
2012-3-19 19:11
目を瞑れば思い出す。
あの日あの時、何気ない君の姿。
目を瞑れば思い出す。
あの日あの時、鼻歌刻む君の声。
寝静まった深い闇。
その中ですら思い出す。
あの日あの時、触れたぬくもり。
重い頭が軽快に紡ぐ思い出の糸。
そのどれもが滑らかに、
そのどれもが色豊かに。
眼前に生々しいリアルさを見せながら、君の残像を織り成す。
誰か歯止めを。
刻み込んだ肌理の細やかさ。
覚え込んだ首筋の匂い。
抱き込んだ身体の線。
誰か、誰か早く歯止めを。
とめどなく思い出す。
あの日あの時、幸せ過ぎたあの頃。
女々しさなんて知る由もなかった、あの頃のふたりを。
気怠い身体が欲するものを、欲するままに与えないでくれ。
ただ安息を。名実ともに平穏な安息を。
どうか、ここに。
時の前に全ては色褪せ、美しく飾られようと、今はまだその時ではないから。
ただ眠りを。束の間の夢を、ここに。
焼き付いたあの微笑みを、もやがかる幼き日の思い出で隠してくれ。
耳朶に残る甘い言葉を無機質な何かに変えてくれ。
記憶された悉くを、ほんの一時、封じてくれ。
あの日あの時あの顔で、
無遠慮に踏み込んできた君から。
日の下でチラつく君から。
月夜に舞い込む君から。
ほんの一瞬だけでいい。
解放してくれ。
あぁ、ほら
夜だけがまた、明けていく。
2012-3-16 06:52
愛しいと、
逸る気持ちをどう伝えよう。
溢れんばかりの想いを
どうすれば伝えられるだろう。
不完全さが歯痒くて、言葉はいつも心とは裏腹な妄言を紡いだ。
わかっているのかな、君は。
その目に見つめられる度に正気でなくなることに。
君のこととなると、何をしたらいいのかも、わからなくなることに。
惜しみない想いにひとり満たされているようで、いつも一抹の不安を抱えていることに。
はにかむ君に何も言えなくなるのは到底、言葉なんかじゃ伝えきれないからだ。
この恋しさを、その愛らしさを。
持て余し、行き場を失うほどの衝動に耐え兼ねて、その体を抱き締めた。
この腕から猛る想いが伝わればいいと、ただ祈り続けた。
ずっと君だけを愛してる。
2012-3-15 06:57
もっともっと
たくさんのコトを知りたいんだ。
今しがた目を開けた赤子みたく、見たもの全てを、聞いたもの全てを取り込んでしまいたいよ。
きっと何も知らなかった。
悲しいコト。寂しいコト。
楽しいコト。嬉しいコト。
当たり前に近くにありすぎて、きっと気にすら留めてなかった。
ありがとう。
気付かせてくれて。
あぁ、この嬉しさをそのままキミにあげられたらいいのに!
その言葉だけで、ほら、世界は見違えるほど色鮮やかになる。
あぁ、この寂しさを、その片鱗をほんの少し伝えられたらいいのに!
そうしたら、きっと、その優しさがどれだけ嬉しかったか、わかるでしょう?
ありがとう。
今まさにこの時、
傍にいてくれて。
どんな言葉も、
その心に報いることはできない。
初めて知ったんだ。
さりげない言葉の内に潜む、人の情を。
知りえなかった、究極の幸せってものを。
いつだってポッカリとあいていた胸の真ん中にキミがじんわりと、痛みすら覚えるぬくもりでもって染み入る。
キミがくれたこの心を忘れたときはまた、おしえて。
キミがその言葉で、
キミのそのぬくもりで。
ボクもそっと
キミにおしえてあげるよ。
キミが寂しいとき、悲しいときにはこの言葉で、そのぬくもりを。
キミがくれた、優しさを。
余すことなく、その全てを。