2012-3-19 19:11
目を瞑れば思い出す。
あの日あの時、何気ない君の姿。
目を瞑れば思い出す。
あの日あの時、鼻歌刻む君の声。
寝静まった深い闇。
その中ですら思い出す。
あの日あの時、触れたぬくもり。
重い頭が軽快に紡ぐ思い出の糸。
そのどれもが滑らかに、
そのどれもが色豊かに。
眼前に生々しいリアルさを見せながら、君の残像を織り成す。
誰か歯止めを。
刻み込んだ肌理の細やかさ。
覚え込んだ首筋の匂い。
抱き込んだ身体の線。
誰か、誰か早く歯止めを。
とめどなく思い出す。
あの日あの時、幸せ過ぎたあの頃。
女々しさなんて知る由もなかった、あの頃のふたりを。
気怠い身体が欲するものを、欲するままに与えないでくれ。
ただ安息を。名実ともに平穏な安息を。
どうか、ここに。
時の前に全ては色褪せ、美しく飾られようと、今はまだその時ではないから。
ただ眠りを。束の間の夢を、ここに。
焼き付いたあの微笑みを、もやがかる幼き日の思い出で隠してくれ。
耳朶に残る甘い言葉を無機質な何かに変えてくれ。
記憶された悉くを、ほんの一時、封じてくれ。
あの日あの時あの顔で、
無遠慮に踏み込んできた君から。
日の下でチラつく君から。
月夜に舞い込む君から。
ほんの一瞬だけでいい。
解放してくれ。
あぁ、ほら
夜だけがまた、明けていく。