054:カレンダー【学園的な100題】







使い古したそれは使われることもなく、

ただただ、古くなっていくのを待つだけ。





よもや予定を書くためにも

今日の暦を調べるためにも使えないそれを

ただただ、見返すだけで

いつでも私はあの日に還ることができる。





初夏の小雨降る金曜の午後。

ひとつの傘に寄り添って登ったあの坂道で

初めて触れてくれたその手は

冷えたこの手をあたためてくれた。





夏の暑さを凌いで逃げ込んだ車の中で

初めて教えてくれたアナタの気持ちと

あの日の深い緑。





並んで座ったそのときに

不意に触れたその唇の熱さと

その腕に抱かれた安堵。





何もかもが懐かしく眩しく、

愛しく恋しく狂おしく、

鮮やかに思い知らされるこの想いは





いつまでもアナタのそばに

寄り添うことはできるのだろうか。





役を終えてもなお、

捨てられぬこのカレンダーのように。