2017-3-23 18:36
会話集としてちょっとした小ネタを上げようと思ったら、なんやかんやでバルダッサーレ家の家系図を作る羽目になって1週間くらいかかりました長谷川です。たかが小ネタ書くための下準備が重すぎるYO!
そんなわけで今回はジェロディ編の小ネタ集です。
というか今更ですがエマニュエルシリーズの時系列に関する年表とか、公開してなかったですね……。この辺も忘れた頃に一度整理して公開した方がいいかな。でないと混乱しちゃうんですよね、作者が☆
あと最近また寄り道したい病が発症していて自制心がガタガタです。
本編のストックに余裕が出てくるといつも番外編や外伝を書きたくなる……。
このシリーズ、脇役の1人1人にも文庫本1〜2冊分程度になるサイドストーリーがあってその出しどころやタイミングに困っています。いつか全員分ちゃんと書きたいけど、まあ無理だろうなぁ……。
【事勿れ主義】
ジェロディ「あの、ハインツ隊長」
ハインツ 「何かな、ジェロディ?」
ジェロディ「父から聞いたんですけど、ハインツ隊長のおばあ様って、第十六代黄帝の末娘だったそうですね」
ハインツ 「ああ、うん、そうらしいな。私が生まれた頃には既に亡くなられていたから、直接お会いしたことはないんだが」
ジェロディ「ということは隊長って、第十六代黄帝の曾孫ということになるんですよね……?」
ハインツ 「うーん、そうだな。家系図的にはそういうことになるな」
ジェロディ「あ、あの……つかぬことをお聞きしますが、それって実はリリアーナ皇女殿下の次に皇家の血が濃いってことなのでは……?」
ハインツ 「それは違うぞ、ジェロディ。十六代目の黄帝陛下……つまり私の曾祖父に当たるお方は、歴代黄帝の中でも特に子宝に恵まれたお方でな。妾腹の子まで含めると、全部で四人の皇子と七人の皇女がいたらしい。つまりその中から第十七代黄帝となられたフェデリコ二世陛下の血筋を除けば、実に十人の曾孫が存在するというわけだ」
ジェロディ「だけどそれって、残り十人の血筋が途絶えていなければの話ですよね?」
ハインツ 「……さすがだな、ジェロディ。まさかそこに気づくとは……」
ジェロディ「いえ、普通は気づくと思います……」
ハインツ 「……ならば白状するが、実は知ってのとおり、フェデリコ二世陛下の治世は晩年荒れた。次期黄帝の座を狙う皇子たちが殺し合い、たとえわずかでも皇家の血を引く者は刈り取られ……生き残ったのは弟のフラヴィオ六世と結託し頂点へ上り詰めたブリリオ三世陛下と、私の祖母を含む三人だけだった」
ジェロディ「ではその三人の血筋は今も続いているんですか?」
ハインツ 「一応はな。だが当家を除く二つの家系は、男児に恵まれず女性が当主となっている。うち一方には二年前、ついに念願の男児が生まれたところだが……」
ジェロディ「その幼さでは皇位継承に名乗りを挙げるのは無理……つまり、ハインツ隊長が一番玉座に近いってことですね?」
ハインツ 「……そういうことになるな」
ジェロディ「それでどうしてそんなにがっかりした顔をなさるんです?」
ハインツ 「君も野暮なことを訊くな、ジェロディ。だが冷静に考えてみるんだ。そもそもこの私に、偉大なるオルランド陛下の後釜など務まると思うか? 私は思わない」
ジェロディ「そんな真顔で言い切らないで下さい」
ハインツ 「だいたい器量で言うのなら、私などより弟の方がよっぽど黄帝に向いているよ。幸か不幸かあれは数年前に妻を亡くして独り身だし、私としては弟とリリアーナ皇女殿下が結ばれて共に玉座へ収まってくれればいいと思っている。まあ弟にもその気はないだろうし、殿下も嫌だと仰るだろうが」
ジェロディ「で、ですが普通は、皇位継承権が発生するかもとなれば誰もが喜ぶのでは……?」
ハインツ 「神は求めぬ者にこそ与え給う≠セ。私はたとえ皇位を望まれても辞退するつもりだよ」
ジェロディ「どうしてそこまで玉座を固辞されるんです?」
ハインツ「だって黄帝なんて、なってもめんどくさいだけじゃないか」(微笑)
ジェロディ(この人ってなんで笑顔でこういうこと言えちゃうんだろうな……)
【鬼ふたり】
ジェロディ「あのさ、父さん……」
ガルテリオ「なんだ、ジェロディ?」
ジェロディ「セレスタ将軍のことなんだけど、あの人って昔からああなの? ハインツ隊長には気にするなって言われたけど、やっぱりとっつきにくいというか……」
ガルテリオ「ああ、あの方か……セレスタ殿は私が近衛軍に入隊した頃には既に近衛軍の部隊長でな。当時から上にも下にも恐れられているお方だったよ」
ジェロディ「父さんが近衛軍に入ったのって、確か士官学校を卒業してすぐだったよね? ってことは三十年近く前のことだから……?」
ガルテリオ「セレスタ殿は当時三十手前、だったな。しかしあの当時からギディオン将軍と互角に渡り合う猛者で……」
ジェロディ「ギディオン将軍って、確か前団長の……?」
ガルテリオ「ああ。のちに『剣鬼』と恐れられたお方だが、その天才的な剣技については今も軍での語り草になっている。しかしあるとき陛下がちょっとした気まぐれで、あのお二人に御前試合を命じてな……」
ジェロディ「そ……それで、どうなったの?」
ガルテリオ「市門の開門の鐘と同時に試合を始めて、閉門の鐘が鳴っても決着がつかなかった」
ジェロディ「えぇ……」
ガルテリオ「当時のお二人の死闘と底なしの体力には私も恐れをなしたものだが……実はあのとき、陛下は裏である賭けをしておられたらしい」
ジェロディ「賭け?」
ガルテリオ「うむ。陛下は近衛兵としての職務に没頭するあまり、婚期を逃しつつあったセレスタ殿を気遣われていたようでな……それで当時、奥方を亡くされて間もなかったギディオン将軍と娶せようと御前試合など言い渡したらしい」
ジェロディ「そ、それってつまり……?」
ガルテリオ「ギディオン将軍にはセレスタに負けたらあの者を娶れ≠ニ言い、セレスタ殿にはギディオンに負けたらあの者へ嫁げ≠ニ命じていたということだ」
ジェロディ「それって賭けじゃなくて詐欺じゃない……!?」
ガルテリオ「いや、まあ、そうとも言うが、陛下にも陛下なりのお考えがあってだな……」
ジェロディ「お考えっていうか、二人を焚きつけて楽しんでただけじゃないの……?」
ガルテリオ「……否定はしない」
ジェロディ「そ、それで、結局その試合は……?」
ガルテリオ「途中で陛下が飽きてもういい≠ニお止めになった」
ジェロディ「えぇ……」(二回目)
ガルテリオ「しかしそれから何がどうなったのか、ギディオン将軍とセレスタ殿はご結婚された」
ジェロディ「えぇ……!?」(三回目)
ガルテリオ「風の噂で、ギディオン将軍のご勇退と同時に離縁したと聞いているが……まあ、それでも二十年以上連れ添ったことは事実だからな。案外良い
夫婦であったのかもしれない。陛下もギディオンと結婚してからセレスタは丸くなった≠ニ喜んでおられたし」
ジェロディ「あ、あれで丸くなったんだ……?」
ガルテリオ「正確にはギディオン将軍への苦言が増えた分、陛下への小言が減ったということらしいがな……」
ジェロディ「……」
【竜騎士謗れば何とやら】
マリステア「はあ……ガルテリオさま、行ってしまわれましたね……」
ジェロディ「うん。でもしょうがないよ、シャムシール砂王国がまた攻めてくるかもしれないって言うんだから」
マリステア「それはそうですけれど、せめてもう少し黄都でゆっくりしていただきたかったです……」
ケリー 「まあ、ガル様も断腸の思いだろうさ。仕官したてのティノ様のことも気がかりだろうしね」
ジェロディ「だけど本当に大丈夫だったのかな、ケリーとオーウェンを黄都に残していったりして……」
オーウェン「確かにちょっと心配ですけどね。ガル様ってああ見えてたまに抜けてるところがありますし」
ケリー 「ガル様もあんたにだけは言われたくないだろうけどね」
オーウェン「な、何だと!?」
マリステア「で、ですが、ケリーさんとオーウェンさんのあとはウィルさんとリナルドさんが引き継がれるんですよね? ガルテリオさまもあのお二人のことはお褒めになっていたみたいですけれど……?」
ケリー 「うーん……まあ、確かにあの二人、将校としては優秀なんだけどね……」
ジェロディ「……? 何か問題があるの?」
ケリー 「問題と言いますか、性格的な面で少々懸念が……」
マリステア「と言いますと……?」
オーウェン「ウィルは直情径行すぎるんだよ。何かあるとすぐカッとなるし、何でもすぐ顔に出るし……対するリナルドも冷静沈着で洞察力があるのはいいんだが、どっかネジが飛んでるというか……」
ジェロディ「ね、ネジが飛んでる?」
オーウェン「ええ。何せあいつ、女と見れば誰でも口説きにかかりますからね。ちょっと顔がいいからって誰にでも愛想を振り撒きやがって……」
マリステア「え……!? り、リナルドさんて誰にでもああなんですか……!?」
オーウェン「おう。グランサッソ城じゃケリーにまであの態度だぜ。それだけであいつがいかにとち狂ってるかよく分かるってもんだろ?」
ケリー 「(無言の腹パン)」
オーウェン「ゴフッ!?」
ジェロディ「ま、まあ、リナルドのアレはまだ常識の範囲内というか……社交場に行けば紳士は女性に対してみんなあんな感じだし」
ケリー 「我が国の悪しき風習ですね……」
ジェロディ「だけどおかげで、うちの国は他国に比べて女性の地位が高いって言うよ? 悪いことばかりじゃないさ」
オーウェン「も、問題は筆頭将校があいつらになって、第三軍の風紀が乱れないかってことですよ。グランサッソ城じゃリナルドだけじゃなく、ウィルのヤツも美青年だ何だと騒がれてますし……」
ケリー 「確かにね。シグ様がいた頃はもう少しピリッとしてたんだけど、あの方がいなくなってからはだんだん風紀が緩んできたと言うか何と言うか……」
マリステア「し、シグムンドさまってそんなに厳しかったんですか? 普段はあんなにお優しいのに?」
ケリー 「いや、シグ様は厳しいというかね……怖いんだよ……」
マリステア「こ、怖い?」
ケリー 「ああ。何せとんでもない地獄耳だし……」
オーウェン「黙ってても全部見透かされるし」
ケリー 「後ろにも目がついてるんじゃないかってくらい勘が鋭いし……」
オーウェン「平然と毒と皮肉と正論ばっか吐いてくるし」
マリステア「えぇぇ……」(怯)
ケリー 「とりあえず、口喧嘩であの方に勝てるお方はまずいないな」
オーウェン「ああ。何せガル様でさえシグ様には逆らわないからな」
ジェロディ「あ、あの毒舌って、ファーガス将軍に対してだけじゃなかったんだ……」
オーウェン「ティノ様も覚悟した方がいいですよ。これまではあくまでガル様のご子息という扱いでしたけど、成人して一軍人になったからには、あの方もきっと容赦してくれませんから」
ジェロディ「う、うん……気をつけるよ……」
メイド長 「――ジェロディ様、シグムンド様がお見えです」
一同 「「 !!? 」」