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夢のあとA

夢のあと@の続きです。

…………………………

無意識に手を伸ばしかけて、ふと思い直して手袋を外した。まず左手を、それから少し悩んで右手も。
起こしてしまわないように気遣いながら、鋼の右手を枕の横に添えて自分の身体を支えると、生身の左手で癖の無い真っ直ぐな髪を少し梳いてみる。
それからそのすべらかな頬へと指を運び触れると、小さな唸り声とともに眉間に皺を寄せたので慌てて身を引いた。

(あっぶな…!起きてはないよな?でもこれで起きないって…こいつ軍人として大丈夫なのかよ?)
しかし先程の司令室の惨状を思い浮かべると、この程度では目覚めない程に疲れて深く眠っているのだろうかとも思えた。
それで少し気を良くすると、投げ出されていた彼の右手を軽く握ってみた。自分の小さな手には収まり切らない大人の手の大きさに唇を尖らせつつ。
たまに…本当にごくたまに、彼がふざけて手を繋いでくる事がある。いつもそれが嬉しいのに、照れ臭くて振りほどいてしまうのだ。
ベッドの上では気付くと繋がれて(と言うか押さえつけられて)いる事もあるが、そういう性的な意味合いを含まず、ただ手を繋いでいたいのに。

(握り返しては…くれないよな、さすがに)
眠っているからか、いつもより高い体温。少し熱く感じるその手にふと、いつか話してくれたこの手で何人も人を殺してきたと言う話を思い出した。
自分には優しく触れるこの手は、過去に多くの命を奪ってきたのだ。本人も、そして相手も望まざる戦場で。
しかしそういった過去が無ければ、ただ同じ時代に生まれただけでは…彼が軍人で、今の地位を手に入れていなければ、出会う事は無かったのかも知れない。

彼の手によって奪われた数多の命と、その対価としての今の立場…

「これも等価交換、か」

思考の沼から突然、機械鎧の右手を捕まれて現実に引き戻された。
繋いでいたはずの彼の右手はいつの間にか自由になっていて、そして自分の右手を――生身の左手でなく、鋼のその手を取って引き寄せるとその掌に唇を落とした。

「エド…」

そう呟きながら、引き寄せた手の甲に頬を擦り寄せて、また寝息を立てた。

「…た、たいさ?え、寝てるの?」

突然の事に面食らって思考停止する事数秒。漸く絞りだした裏返った声で問い掛けたものの、当の本人はどうやらずっと夢の住人のようで。
念願叶って握られた手は、感覚のない鋼のそれで残念だったけど、嬉しくなって少しだけ握り返してみた。

せめて今だけは、彼の夢がしあわせなものでありますように、自分が彼のしあわせな世界を護れますように。


話題:二次創作文
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夢のあと@

どうか今は彼の見る夢がしあわせなものでありますように。


――ただ同じときに遭えた幸運を繋ぎたいだけ――


「ごめんなさいエドワード君、今大佐居ないの。きっと仮眠室ね、急ぎなら起こしてしまってかまわないから」

最近はこの東部の田舎でも、レジスタンスの動きが激しく、久方ぶりに訪れた司令部は最早ここでテロが起こっているんじゃないかという慌ただしさだった。
久しぶりに顔を合わせた司令部の面々もどこか草臥れた様相で、司令官に至っては仮眠中だという。
この様子ではきっとまた何日も家に戻る時間も無く、司令部に詰めていたのだろう。

中尉の手伝いをすると言う弟をその場に残し、司令室から離れた棟にある佐官専用の仮眠室へと向かう足取りは軽い。
いつもなら、顔を合わせると悪態をついてばかり。まともに口をきくどころか、目だって合わせられない。
恋人ほど大人ではない自分は上手く気持ちを伝えられなくて、どうしても意地を張ってしまうのだ。
自分だってただ静かに恋人の傍に居たい気持ちの時もある。しかし今日は…なんせ相手は眠っている。これは好都合じゃないか。


「失礼しますよ、っと…」

やがて着いた部屋のドアのノブを静かに回して開く。なぜか息まで止めてしまう自分がおかしくて。
細く開けられた窓際には小さなコップに生けられた蓮華の花。風が薄いカーテンを揺らして、その向こうの恋人の姿を隠す。

(…寝てる、よな?)
現場の様子やテロの速報を伝えるラジオが小さい音量でかけられたままの部屋で、うつ伏せになって眠る恋人は静かな寝息を立てていた。
いつもなら――ベッドを共にしていても、決して彼が先に眠ってしまう事は無い。自分が目を覚ました時にも、必ず先に起きている。
普段なら見る事のない寝顔に少し満足すると、備え付けのデスクから簡素な椅子をベッドサイドに引き寄せ、自分の報告書を読み直し始めた。
しかしこの環境にどうしても集中できず、報告書を早々に放り投げるとその寝顔を覗き込んだ。

(こいつほんとにきれいだなー…っていうか、か、かっこいいっつうの!?)
目を閉じていてもその整った顔立ちは崩れる事無く、むしろ作り物のように美しく見えた。陶器のように肌理細かな肌に鴉の濡れ羽色の艶やかな髪。
数多の女性達がこの男を自分の恋人にと躍起になるのは、彼の地位や金だけが目当てでもないのかな、と思うと少し複雑な気持ちになる。

こんなきれいなもの、誰だって欲しがるに決まっている。


話題:二次創作文
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拍手ありがとうございます

ぶっちゃけ自分で間違って押した…?とか思ったんですが(実際1回あったので)キャリアが違かったので、何方かが押して下さってたようで。ありがとうございます!
通りすがりや一期一会でも、読んで下さった方が居たんだなぁ…と言う実感。おかげさまでせめて読むに耐えうるだけの文章を書きたい、と思うようになりました。

まずはちゃんとしてなかった部分を直しました…Vampiregirlの。原作規準とか書いといて原作にも沿ってなかったという。
真理の扉のとこでアルの肉体を見た後じゃこんな事してる余裕は無いですよね!普通に会ってもないんだし。
なので、釣り作戦の後ぐらいの気持ちで直しました。まあそれでも余裕はありませんが。そこはあれ、行間を読む方向で。
セリフも、普通こういう言い回しはしないだろうって思ったとこを直しました。文字だとそうでもなくても、実際言ってみるとなにこの違和感!ってなるんですよ。

これからも面白い…と言える程の文章は書けないと思いますが、少しでも誰かにクスッとかニヤッとかしてもらえるような文章を書けるように、精進します!

Vampiregirl

衣擦れの音で寝返りに気付いて本から目を上げると、隣で眠る子供の顔を伺った。
長い前髪に隠された目元には、完全には消える事のない隈がまだうっすらと残って。


――悪夢まがいの現実の中で 夢を見られるなら――


魂の錬成を行った際に自分と弟との精神が混線してしまい、何処かに在る弟の肉体と栄養分や睡眠を共有しているようだ、と少し前に聞いた。
確かに彼は、いくら成長期と言えどもその小柄な身体に見合わぬ程に大食漢で、よく居眠りもしてはいる。
が、食事に関してはともかく、多少の居眠り程度ではふたり分の睡眠時間は到底補えないだろう。
なにより、常日頃国中を飛び回り、暇さえあれば図書館や資料室に入り浸る彼は、一分一秒をも無駄にすまいと睡眠時間を削る傾向にある。
そのように、きちんとベッドで眠ろうとしないので、結果として居眠りが増えている、と言うだけの話だ。

そんな事をしていたのでは身体を壊してしまうと、自分の傍にいる間ぐらいは無理矢理にでもベッドで寝かし付けるようにしている。
――勿論、同じベッドで寝ているのはそれだけが理由ではないから、なのだが。


情事の後のべたつく身体をそのままに、それでも心地よい疲労感に眠りに落ちたのだろう。
規則正しい寝息に安心してまた視線を手元の本に戻しかけた時、視界の端に金色が揺れた。

「…た、いさ…?あれ、おれねてた?」
「ああ、少しだけね。朝までまだある、ゆっくり休むといい」
「ん、や、おきる」

うつ伏せになった姿勢のまま、上掛けから差し出した左手で私の背中をするりと撫でると、身体を寄せてきた。

「ね、もっかいしよ」
「…帰ってきたばかりで疲れていたんじゃなかったのかい?」
「んー、でもだってこういうのってさ、むしろ疲れてる時の方が…それに」
「それに?」

「眠ると夢を見る、から」

ただでさえ悪夢のような現実を見てきた子供は、眠りの中にもまた悪夢を見ると言うのだ。
今までにも幾度か、魘されていたり、冷や汗でびしょ濡れになって飛び起きたりする事があった。
夢の中で自分の、自分達の犯した罪を繰り返し、そうして縛られ背負った十字架の重さを思い知らされるのだろう。

「忘れさせてよ、今だけでも、夜明けまで…まだ」
「エドワード…大丈夫、大丈夫だから、」
「おれをからっぽにして、それで、ねえ…あんたが夢を見せてよ」


読みかけの本はいつの間にか取り上げられ、ベッドサイドの灯りは落とされた。
深い闇の中で、眇められた彼の瞳だけが光って見えて、それがとても綺麗だと思った。

まだ、夜は明けない。


話題:二次創作文
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嘆きのキス

あの日、君の手を引き寄せていれば。その唇に触れる事を許されていれば。
そうすれば、こんな気持ちも生まれなかったのだろうか。


――嘆きのキスに気付いてただろう 知っていても認めたくない優しい目の奥――


冬の訪れを告げる季節の夕刻に、短時間とは言え戸外での立ち話の間にすっかり冷えきった身体を寄せてきた君の肩に顔を埋めた。
鼻先に触れる体温とにおい。忘れないように、消えてしまわないように、大きく息を吸い込んだ。
一度身体を離し、そして差し出した手をもしも君が握ったら、引き寄せて抱き締めて唇を重ねてしまおうと思った。
しかし君は、まるでそれがキスの代わりだと言うように、私の手に軽く触れて。

そうして私達は互いに別れを告げた。

誰よりも君の事を想い続ける事が、今の自分を支える糧になるなど、あの頃の自分からは考えられなかった。
変声期を迎える少し前の特徴のあるその声でわたしを呼んで、そして笑いかけていた。
君の想い出は今も星のように輝きながら、しかし夢のように儚い。

視力を失った左目から見えない涙が落ちる音が聞こえて、逢いたいと胸が泣いた。
今、君の空は晴れだろうか、曇りだろうか。それとも私の降らせる涙雨か。

君が最後に私の手のひらに触れた、まるで嘆きのようなキスを胸に私は生きてゆこう。そしてまた、いつか――


話題:二次創作文
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