「木吉鉄平。193p、81s。ポジションはC。よろしくな」
「……!」
朗らかに、そして快活に自己紹介した男を、雛だけが怯えたような瞳を揺らめかせていた。
「…ん?君は…」
「っ…」
不意に木吉と目が合った瞬間、雛は思わず降旗の後ろに身を隠した。
「え、え?藍沢?どうしたんだよ」
「………っ」
驚いて問う降旗の後ろで、雛はただひたすら首を横に振った。
しかしこの光景に驚いたのは降旗だけではない。
「え…雛ちゃん?」
誠凛のメンバー全員が全員、雛の行動に固まっていた。
「やあ!久しぶりだなぁ。藍沢って君のことだったのか。でもまさか君の方が覚えていてくれるなんて思わなかったよ」
「は?木吉お前、藍沢知ってんのか?」
「知ってるっていうか…中学の時帝光と試合をしたことがあるからな。マネージャーしてただろ?よく覚えてるよ」
「そうなの?雛ちゃん」
「………。…は、い」
「あれ?オレ嫌われてる?」
「知るかダアホ!お前何したんだよ!」
「ええー?」
雛の行動はまるで不可解だった。
新体制で立て直しが必要な時期に、火神、黒子、そして雛までもがどこかよそよそしい。
そんな不安が拭いきれずにいたある日。
「藍沢ー」
「…!木吉先輩…、どうして」
「んーと、お前を待ってた。ちょっと話したくてな」
「……」
人気のない体育館。
残っていた雛の元に木吉は燦然と現れた。
「あー…なんていうか、オレが何かしたなら教えてくれないか?あいにく身に覚えがなくてな〜。もし知らないうちに…」
「……ごめんなさ、いっ…!」
「え?」
「…あの時、わたしは聞こえなかった…けど。きっとあなたを傷つけたから…」
「……!」
…あの時。
それはおそらく、中学時代に帝光と対戦した時のことだ。
彼女が言っているのはきっと、紫原のことだろう。
「傷つけた、って……」
あんな些細なことを、彼女は覚えていたのか。
そこで交わされた言葉も聞こえなかったのに…目に焼き付けた光景だけで、何があったかを見抜いたと。
「…予想以上だ」
「……え…?」
「すごいな藍沢!正直驚いたよ。しかも、お前が気にすることじゃないさ。ありがとうな、藍沢。お前は…優しすぎる」
「………」
小さな頭を撫でてやると、少し雛の表情が和らいだ。
心の荷が下りたようで、そこにいるのは確かにいつもの雛だった。
「しかし…こんな新設校にいるとは驚いたな。てっきりキセキの世代か…『彼女』と同じ高校に行ってるもんだとばかり…」
「っ…!」
だがそれも束の間、突如雛の目から大粒の涙が流れ出したのだ。
「え、藍沢!?」
「……っ」
「ちょっと鉄平!何泣かせてんのよ!さっきから黙って見てれば…」
「おっまえ…女泣かせるとか似合わねー…」
「リコ!日向!オレまたなんかした!?」
「もう…戻ってきて早々何引っかき回してくれてんのよ!とりあえず、日向君は雛ちゃんをお願い」
「おう」
再び二人きりになった体育館だが、今度は木吉の前でリコが仁王立ちしている。
そしてひとつため息を吐き出した。
「…私もあんまり詳しくは聞いてないわ。鉄平、雛ちゃんのこと何か知ってるの?」
「いや…ただ有能なマネージャーとだけな。だが見たところ、帝光時代のマネージャーは二人で役を担っていたようだったが」
「そうね。雛ちゃんの能力はその目に焼き付けた映像丸ごと細部まで脳内に収めてまう膨大な記憶力。貴重なデータベースなの。対して桐皇の桃井はそれを分析して先読みのデータを作る…この二人が揃えばおそらく最強よ」
「リコはどう思ってる?」
「…正直、ウチで雛ちゃんの能力を活かしきれてるとは思ってないわ。それは雛ちゃん自身がいちばん感じてることでしょうけど」
桐皇と戦った時、彼女は言った。
『いつもその情報を活かしてくれていたのはももちゃんでした』
『彼女こそが、キセキの世代を支えたマネージャーです』
いつもより饒舌に、まるで…自分自身を追い込むように。
桃井の情報分析は彼女一人でも可能だ。
しかし、雛の能力はそれを活かす人物がいないと成り立たない。
そして…これは元々、キセキの世代のために桃井と連携することで最大限に発揮できた能力なのだ。
「雛ちゃんはね、ホントにバスケが好きなの。でもプレイすることができないのよ。生まれつき体格のいいアンタには理解しにくいかもしれないけど」
「バスケが好き、か。それはわかるよ。伝わってる。…痛いくらいにな」
「彼女のバスケにはキセキの世代が必要不可欠だった。帝光中でそう育てられたのか、雛ちゃん自身が望んでそうなったのかは知らないけどね。…でも、わかるでしょ」
「高校に入ってキセキの世代はちりぢり。藍沢は心の支えを失った…か」
「平たく言えばそういうことよ」
「藍沢に悪いことしたな。無神経なこと言っちまった」
「それはちゃんと謝っときなさいよ。…選手じゃないけど、壁にぶち当たってるのは雛ちゃんも一緒なのよね。あーホント難儀だわ。ウチの一年共は!」
「その分、先が楽しみだな」
「……!そうね」
…その一方で。
「まー、悪く思うな。アイツはあーゆー奴だから。悪気はねぇんだよ」
「……はい」
涙は落ち着きつつあるものの、泣いている女の子と二人きりというのはどうも気まずい日向である。
「………」
「…す、みませ…」
「いーけど」
この小さな体に抱えているものがあまりに大きいと、どことなく気づいているだけに下手なことは言えなかった。
キセキの世代を勝利に導いていた頃とはあまりに違いすぎるのだろう。
選手の層、規模、環境……そもそも『彼ら』がいない。
雛が何よりも大切に想っていた、『彼女のバスケ』そのものが。
だが彼女とて、それに囚われ続けることをよしとしているわけではないのだ。
だからこうして、一人悩み、涙を流すのだ。
「お前さぁ、自分で考えることも大事だけど、たまには相談とか…」
「…でも…これ、は…わたしのわがままだから…」
捉えようによってはそうだ。
雛が勝手にキセキの世代を心の拠り所とし、自主的に勝利に貢献してきたと言えばそうなる。
だがおそらくそれは違うだろう。
キセキの世代もまた、雛を必要としていたからこそ彼女はまだこんなにも彼らに囚われ続けているのに他ならない。
「………」
デカすぎだろ…キセキの世代っ…!
また一粒涙を流した雛に、日向は息を吸い込み、言った。
「この、ダアホがっ!」
「っ!」
「お前の言いてぇこともわからんでもないし、抱えてるモンがどんだけでかいかもわかる!けど鏡見ろ!お前は小せぇんだよ!そんな小せぇ体にホイホイくだらねーことまで溜め込むんじゃねーよ!一人で抱えたいものなら抱えとけ!でもな、くだらねーことくらいは吐き出してもバチ当たんねーだろが!なんのための先輩だと思ってやがるダアホ!」
「………」
まくし立ててハッとする。
…これ、余計に泣かすんじゃね?
だがよく見ると…きょとんとする雛の顔に、涙は見当たらなかった。
「……藍沢…」
薄々気づいていたことがあった。
彼女はよく泣く。
それは中学時代部活を引退する頃辺りから急に、と黒子が言っていた。
…だが、日向が怒鳴ると雛は必ず泣きやんだ。
まるで電気でも走ったかのように、ぴっと背を伸ばすのだ。
「…先輩」
「ん?」
「……ありがとうございま、す」
「…おー」
頬を少し染めて、いつものふわふわとした雛の笑み。
少しくらいは、先輩らしいことができたかと半ばホッとした日向であった。
「もーちょっと頼れよなー」
「……え、と…じゃあスリーポイント、教えてほしい…です」
「いやお前それは無理だろ」
「え…」
ガン、とまさかの即答に軽く衝撃の雛であるが、それでも日向についていくことをやめない。
…やめないでいようと、思った。
終
**********
あー………スッキリ←
木吉先輩と会話させようと思ったら存外雛が泣き虫で…
ごめん木吉先輩。
君は悪くないんだ。
ウチの子が悪いんだよそれはもう全般的に。
でもちょっといつもとちがうメンバー出せてよかった。
降旗くん好きなんだよ実はめっちゃ!
この時火神もギスギスしてたから後ろに隠れられないしなんとなく…
日向先輩ってほんといい人だと思う。
黒バスの中では二番目に彼氏にしたい人だ←
つか本編楽しすぎてやばいぞコレ。
そもそも雛が久々すぎて楽しかった!
たまにはこゆのもいいなー。
合宿編も書きたい!
料理編はバトンで火雛にしちまったし、…掘り下げるのも楽しそうだけど次に進みたいのもある!
…しっかし雛しゃべらんな…!
ウチの子でいちばん扱いに困るんだぜ…
そんなだから日向先輩に怒鳴られるんだぞアホめ←
ダアホって二回も言ってたぞ先輩(笑)
そうやってちょいちょい成長してくれたまへよ。
いつまでも小さいままじゃ駄目なんだぜ。
こんなだらだら長いのにお付き合いいただいた方は神ですか…!?
思いっきりお粗末様でした!(土下座)
話題:名前変換無し夢小説。
泣かせちゃったよ…木吉さんしかし好きdゲフンゲフン!←
けどそうやってことあるごとキセキに対して
思いながら泣きながら乗り越えていくんだね…
愛しいよ雛ちゃん…しかし、うん頼ってね…っ!
日向さんイケメソで惚れそうだっ
なんだか雛ちゃんうわああと一緒に
あったかいよ誠凛と感じた!(>_<)
合宿編!果たして緑間はどうするんだ?!泣かしたらしょーちしないんですからあ!(りん風に)
ああ全裸待機で楽しみですっ(^q^)hshshshshshshshshshs ←←
ダラダラ長々コメントごめんなさい…orz
しかし…っ!好きなんだ雛ちゃんが!(告白)
ひいいい神降臨キタァアアアアア!!!
なんかもうすんませんんん!
好き勝手書きまくり!
そしてわかりにくい!
走り抜けた感バリバリですね(^^;;
そして木吉さんほんますんません!
この後は急激に仲良くなりますから!
それはもう親子のように!←
しかしこのシリアス発信大丈夫か!?(゜Д゜;≡;゜Д゜)
完全に重たいんだぜ…
いや私のせいだけども。
先輩にまで迷惑かけてばっかりでこいつはよう…!
次はようやく高校に入って初めてキセキと絡む描写っぽい!
合宿編はもう少しうまく書けることを願っております←
また好き放題フラグですが…
こんなんにコメント本当に本当にありがとうううううう!( i _ i )
調子乗っちゃったらすみません!