貫かれた〜の続き
ジノ・ヴァインベルグは最近悩みがあった。大切な人が死んでしまいその後遺症かもしれないが時折記憶が飛んでしまっている事に。気が付いたときには外にいたり学園の裏庭にいたり、格納庫にいたりその間、自分が何をしていたのかさえ分からない
ただ言えるのは、アーニャもジノの行動が不審に思っていること。ジノのようでジノじゃない。時々別の誰かがジノの中にいるのではないか、と思うこともある程だ
そして事件は起きる。ある晴れた日の事だった
「おい。お前」
「ん?」
久々の学園にやってきてもスザクがいないからつまらない。授業もレベルが低くてつまらないし意味も無い。だから学園の中をふらふらしている時、後ろから女生徒に声をかけられた。黄緑色の髪の毛の美しい少女だった
「わ、俺に何か?」
「いや少し気になって様子を見に来たんだが、そうか。お前を・・・」
「?」
「ちょっと、いいか」
「なっ、!?」
少女の伸びた手が額に触れた。するとジノの正面は真っ暗になる。額からするすると下りる少女の手。閉じられた瞳の先には、赤く染まっている奇妙な光景だった
「直接会いに来たらまずいんじゃないかな?」
「かもな。・・・だがまさか、と思って」
「僕(スザク)が死んだこと?それとも力を彼(ジノ)に使ったこと」
「両方だ」
ジノ、いや今話しているのは紛れも無いスザク。そして共に会話をするC.C.は昔、契約を交わした相手だった
「僕を捨てたんじゃないの?」
「まさか。シャルルとの約束を果たすまではありえないさ」
「果たしたら終わりなんだね」
「その時にはお前は私との約束を守ってもらう」
「勝手だね。相変わらず」
「そうさ。私はC.C.だからな」
不適に笑った彼女をスザクは笑う。かつての三人、いや五人の約束。すでに亡き父とV.V.も含めればの話だが
「しかし、その力が死ぬ間際に発動するギアスとは知らなかったがな」
「僕もだよ。だからたまたま近くにいたジノに使ったんだけど」
「何だ。そういう理由だったのか」
「他に何か理由があるとでも?」
「いや」
苦笑気味に笑ったC.C.を不思議そうに見つめるスザク。こいつ無自覚なのか、と思うとどうしようもなく笑いがこみ上げてくる
「だがお前がナイトオブスリーにギアスをかけた事で否応無くこの男は我々に関係してくることになるが、いいのか?」
「あーそこまで考えてなかった」
「馬鹿だな」
「まぁでも」
「?」
「ジノは僕が好きなんだ。好きな人間の奥底に触れられるなんてこれ程の快感はないと思うけど?」
首を傾げるジノとスザクの影が重なった
(こいつ、変わってないな。こういうのも小悪魔というんだろうな・・・)
C.C.はぽりぽりと頭をかくとはぁ、と溜息をついた
「君だってルルーシュを巻き込んでるじゃないか」
「それとこれとは・・・・」
「同じ同じ。そろそろ神殺しは始まるのかな。だったらマリアンヌ様も覚醒しないと、」
「全てはお前の作戦通りか」
「君の契約者が僕にギアスをかけるまではね」
「悪かった。だがあれは私のせいではないぞ」
「分かってるよ。じゃ、もう僕戻るよ。C.C.もあまり外ふらふらしちゃダメだよ」
スザクはC.C.に手を振って別れる。長身のジノの姿はどんどん小さくなっていって消えてしまう。かの契約者は友人の死をありえない、と言っていた。だが事実。そして巻き込まれるのは偶然か、必然か。ジノ・ヴァインベルグという本人の知らぬ場所で生身の体は裏を生きている
「本当に失いたくないものは遠ざけでおくものだと言ったはずだ。スザク・・・・」
かつての約束はスザクの脳裏には残っていない
「あれ・・・。私は何を・・・」
先ほどまで自分は校内にいて少女と話していたはずだが何故か生徒会室にいた。足元にいたアーサーを抱きかかえると思い切り腕に噛み付いてきた。今まで一度も噛まれた事はなかったのに、その光景はまるでスザクに噛み付いたときと同じだったようにも見えた
「何なんだ。一体・・・」
意味の分からない最近の自分に嫌悪感が感じる。スザクが死んでしまった事がいつのまにか自分の無意識のうちに行動に出てしまっているのかもしれない。そんなジノの様子を向かい側のガラス窓から見ているものがいた
スザク。ジノの影の先にはジノの知らない笑みを浮かべるスザクが立っていた。だが今のジノには気づく事は出来なかった