●静観塾?/一日目・5

  「心が動かないと書く『不動心』という言葉があります。
  動かないというと、、如何にもガッシリした大きな岩のような心の状態を思い浮かべるかも知れませんが、それは単に、意固地とか頑な、強情、頑固といった意味に近いんだと思いますが、不動心というのは、そんな心が氷のように固まった状態を指す訳ではないんです」

  私が言うと、香奈が少しきょとんとした顔を向けた。
  「でも、心は動かないんですよね?」
  「確かに心が動かないと書くんですが、その意味は、動かないというより、動かされないという風に考えた方が良いんですよ。」
  「他から影響されない、動かされないということですか?」
  今度は京だった。
  「私たち一人一人は、それぞれに様々な環境の中で暮らしています。
  様々な条件の中で様々な出来事に遭いながら暮らしているんですね。
  他人からイヤなことを言われることもあるでしょう。
  イヤな目にも遭うでしょう。
  しかしね、その全ては外の条件なんですね。」
 「楽しいこと、嬉しいことも条件になるんですよね?」と香奈が訊いた。
  「勿論、あらゆるものが心に影響を与えている訳ですから、全て条件になりますね。」
  「その様々な条件に対して、変な言い方をすれば、自分が勝手に喜んだり悲しんだり、怒ったりしている。
  つまり、心が振り回されているということなんですね?」
 京は自分に言い聞かせるような口調だった。
  私は続けた。
  「日常的に起こっている出来事や他人との関係には、心がある意味、慣れっこになっていますので、そんなに心が揺れることはありませんが、普段にないことがおこってしまうと、心が善い方向であれ悪い方向であれ、大きく揺らいでしまうんですが、それが一過性でなく、引きずってしまうと、それがストレスとなって、様々な症状を引き起こしてしまうんですね。」
  「だから、あらゆることにポジティブになって、プラス思考でいかなければならないってことですね?」
  香奈が言うと、京が首を傾げた。
  「そうかなぁ?
  ポジティブにならなくっちゃぁというのも、出来ない人にとってはストレスになるんじゃないのかなぁ?」
  「そうかぁ、無理しちゃうもんね。」
」 京の意見に香奈も納得したようだった。
  「そこで、外からの条件に心が揺り動かされないという不動心が必要になってくるんですね?」
  「そういうことになるんですよ」
と、私は言った。