スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

逆トリ居候ロックオン話の序章的なもの。


ざり、ざり、と雨で湿った地面を雪駄で踏みしめながら、歩く。

さっきまで降り続いていた雨はすでに止んで。

夕暮れの中、雨上がり特有のにおいに、秋らしい金木犀の薫りが混ざった心地よい風が通りすぎて行く。

―――――それは酷く人をセンチメンタルな気分にさせる、秋そのもののような――――

「…違うな。」

センチメンタルな気分なのは、私だ。

ボソリ、と小さく呟いて、雨はすでに止んでいるのに、意味もなく緋色の番傘を開いて歩く。

この平成の世に番傘かよ!と思わないでもないが、着流しに雪駄の自分が普通の傘だと、なんとなく面白くない。
どうせだから、と勢いで買ってしまったのだが、なかなかに使い勝手もよく、愛用している番傘だ。

ぱた、ぱた、と傘に残った水滴が落ちる。

「――――だめだな。」

―――――早く、帰りたい、だなんて。

思わず一人ごちる。

「今までこんなことなかったんだけどなー…」

「――――――何がだ?」

「―――!!」

驚いて声のした方を向けば、番傘を覗き込むようにしている我が家の居候。
私の驚きようにビックリしたのか、少しきょとんとした表情をしている。
大の男がそんな顔したって…と思うのだが、妙に可愛いのは何故だろうか。
これだから顔の整った人間は!

「……………ちょっと、本気でビックリしたんだけど。」

「おお、俺も予想以上の反応でビックリだ。」

むす、とした顔で言い放つと、ははっ、と目元を緩めて笑われる。
その表情を見るのが好きだ、なんて考える辺り私も随分とヤキが回ったようだ。

「…浮かびそうだったのに消えた。」

「え、まさか俺のせいって言うんじゃ…?」

「言う。」

「マジかよ!」

ちょっと焦ったような顔をするその様に、口許が緩む。
―――本当に、どうかしている。



さあ、おうちにかえろう。
(愛しい君が待っているから)






******
死にかけニールを拾った小説家設定。
フルバのぐれさん的な形から入る人(笑)

【合縁奇縁】karmic relations

大塚 奏、高校二年、16才。
思いも寄らない人生を歩むハメになってしまいました。


『新生活の始まり』


事の始まりは、夏休みも終りに近付いたある日に、父の言い放ったこの一言だった。
「お前、嫁に行け。」
「…。」
―――またか。
始めに思ったのはそれだった。
普通なら「何言い出すの!」位口を付いて出るぐらいはするだろうが、生憎我が家の、と言うか父のテンションは普通ではない。
むしろまともではないと言った方が正しい位「普通そんなことしねぇよ、いわねぇよ!」と言うようなことを日頃から口にするのだ。
この『早く嫁に行け。』と言うのもまた然り、自分が十歳過ぎたか過ぎないか位の頃から言い続けて居るのだ。
…我が父ながら人としてどうなのだろうか、それは。
「あのねぇ…冗談も大概にしてよ父さん。」
軽く頭をおさえて小さく溜め息をついて父を見る。
大体結婚云々の前に、生まれてこの方恋人が居たことのない私に何度言われても無意味なことこの上ない。
しかも、ろくに異性を好きになったことのないような奴だと言うのに。
何より、私はまだ高校生だ!
「だからさぁ、無理なこと言うなって言ってんじゃんか、いつも!」
「いや、無理じゃない。」
「……。」
―――間違いなく人の話聞いてないだろ、このクソ親父。
我が親ながら、こう言う所にたまに本気で殺意を覚える。
「…だからね…」
どうしようもないこの父に向かって否定の言葉を口にしようとするものの、出だしで言葉を遮られた。
「だから、四の五の言わず嫁に行け。今すぐに。」
それも、爆弾発言で。
「…………は?」
―――今度こそ本当に何を言い出すのか、このクソ親父は。
「…何?なんだって?」
「だから、嫁に行くんだ、お前。今すぐ。」
「…誰が?」
「お前。」
「…私?」
「おう。」
「……………私ぃぃぃぃ!?」
ガバッと父に詰め寄って、思わず大声で捲し立てる。
「ちょ、どう言うこと!?今からってなんだよ!今からって!どこに嫁に行けと!?意味分かんない!!」
何の話してやがんだクソ親父!まだ私は16だぞ!と詰め寄るものの、相変わらず父はしれっとしたもので。
「16才なら結婚できるだろうが。まぁなんだ、お前どうせ女の子にしかモテないんだからさ…」
「ほっとけ!つかそれ絶対関係ねぇ!!」
本気でこの親父は娘をなんだと思ってるのだろうか!
「安心しろ、お前の荷物はすでに片っ端から全部まとめて箱に詰まってるからな!」
「はぁ!?ちょ…!マジで!?」
荷物って…ヤバいものが大量にある私の部屋に入ったのか!?
それはまずい、非常にまずい!と言うか私のプライバシーとか人権は!?
「なんで!?どうして!?どうやって!?」
「それはな…」
父がニヤリと笑ったかと思えば、ドアの所から母が楽しそうに顔を出した。
「うふふ、母さんと引っ越し業者の人で全部詰めたのよ〜」
安心してね、あんまり見ないようにしたから、と言う母に、脱力すると同時になんでそんなにノリノリなんだと問い詰めたくなる。
「何してんのオカン!」
「えー、怒んなくてもいいじゃ〜ん。大変だったのにぃー」
「そうだぞ、奏。大人しく諦めなさい。」
…本当に、全く、この夫婦は二人そろって…!
「嫌だよ!てか大体相手がどこに…ぐぇっ!」
いるんだ、と続けて口にする前に、急に首に鈍い痛みを感じて、無情にも私の意識はそのまま闇に落ちた。



それが、おそらく数時間前のこと。
そして今、私の前には、巨大な箱が幾つか転がった見知らないお部屋が広がっています。
…強面の渋目なお兄さん付きで。
「…あ、の…?」
知らない部屋のベッドに転がっていた私は横にいる男の人を見上げ、上半身を起き上げながら口を開き、どちら様ですか、と言う前に急に頭がクラリとして思わず呻いた。
「うぁ…。」
それはまるで浮遊感のような、頭痛のような、なんとも形容しがたい痛さ、だった。
―――ぐらぐらする…!
「…無理はしない方がいい。」
心地よい低さの声で男の人に気遣うように声をかけられて、少しドキリとする。
が、しかし、次の言葉に私はただ唖然とした。
「手刀を入れられたのだろう?」
「…え?手、刀…ですか…?」
「ああ。」
そう聞いたが、と男の人は言った。
そんなことをするのは、間違いなく、父だろう。
そして、恐らく私を連れて来たのも両親だろう。
間違いない。
「…あの、父、は…どこにいますか?」
「淳さん、か?」
「はい。」
ここに居ますか、と問えば、男の人は少し眉間にしわを寄せた。
―――あ、この人、ちゃんと見たら渋くて格好いい…。頬の傷が気になるけど。…ヤクザ…?
などと明らかに関係ないことを頭によぎるが、それは大して関係ない。
男の人が困ったように答える。
「それが…」
「?」
「…ついさっき、帰られたんだが…。」
「え。」
―――帰っ、た、って…。
「…私を、置いて、ですか?」
「…ああ。」
「…ふざけんなクソ親父…!」
「…確かに、何というか…災難、だな。」
少し気の毒そうな顔をされてしまった。
「何も聞かされていない…のだろう?」
「…はい。全く。」
「…これを。」
男の人は茶色の封筒を渡してくれた。
「あの?」
「淳さんに預かったものだ。」
「父さんに?」
宛名を見ると、『愛すべき娘へ』とハートマーク付きででかでかと書いてある。
しかもご丁寧にハートだけピンク色のペンで。
―――…ふざけてやがる…!
思わず握りつぶしてやりたくなる衝動をどうにか押さえて、私は中から便箋を取り出した。

『愛すべき娘、奏へ。

お前に嫁に行けと言ったのは他でもない。
お前には言っていなかったが、お前が16才までに恋人を作ってこなければ、父さんの友人の息子と結婚させようってことが決まってたんだ。
恐らく今お前と一緒にいる人がいるだろう。その人だ。
でもまぁ初対面の相手と結婚って言うのはさすがに無理だろうってことで一応『婚約者』、ってことで二人で暮らしてもらう。
無論あちら側の両親共に許可がおりているので安心しろ。
つーことでしばらく家には帰ってくるな。帰って来ても入れてやらん。
達者で暮らせ〜。

P.S.婚約者の名前は片倉小十郎くんだ。
よろしくするように!

父より。』


私が便箋を握りつぶしたのは言うまでもない。
なんだこのふざけた文面は!とか、知らない以前に教えてもらってなきゃ知るわけないだろ!とか、なんで名前教えるの最後なんだ!とかその他諸々あるけれど、本当、我が父ながら、なんてろくでもないの!!
「…あんの…クソ親父…!!」
危ないことこの上ないが、呪い殺すことができたらどんなに良いだろうかと思ってしまった。
「…大丈夫なのか?」
急に小十郎さん――多分そうなんだろう――に声をかけられて、少し驚いた。
「えっ!?あ、はい!えと、一応大丈夫ですっ!」
「そうか。」
そう言うと、小十郎さんは、小さく息を吐いて、静かに私を見据えた。
「その手紙にあっただろうが…片倉小十郎だ。」
やっぱりそうなんだと思いつつ、ついうっかり動きが止まってしまった。
―――て言うか、普通に格好いいんですけど。
私のずれた思考によぎったのはそれだった。
「えっ、あ。大塚奏…です。」
よろしくお願いします、となんとなく気の抜けた挨拶をしてしまった。

それが、始まり。




*******
高校時代のメモ帳にあったもの。
こじゅ捏造で23だったっぽいよ(^q^)
前の記事へ 次の記事へ