普通に家に帰るだけのハズが―――なんで、こんなことに?
ハネウマライダー
雑貨屋で様々なデザインのヘッドホンが並ぶ棚をぼんやりと見つめる。
―――なんでまた、こんな状態に…
私、大塚倭(17歳)の隣りには今、なぜか、見知らぬ外国人の美青年がいます。
―――いや正直物凄く好みな感じのお兄さんだからうれしいっつーかおいしいんだけどさ。(思考が腐っている)
「へぇ、なんか随分可愛いデザインのがあるんだな〜」
「(しっかし…この人ホントに外国人なんだろうか…あ、ハーフとか?)」
楽しそうに品物を見ている青年の顔の造形は明らかに日本人ではないのだが、日本語ペラペラ(しかも発音完璧)でなんだか良く分からないが、なんとも言えない気分になってくる。
「(その上外見格好いいのに、中身可愛いぜこん畜生的なオーラが出てるんだけど)」
不意に青年が人懐っこい笑顔でこちらを振り返る。(めっさ王子様系ですね!)
「んで、どれがいい?」
「え?あ、いや、あの、やっぱりなんか悪いですから…!」
「いいって、いいって!俺のせいで壊れちまったんだし、弁償くらいするって」
―――そう、彼が今私の隣りにいる理由は“それ”だった。
この雑貨屋までたどり着く数十分前―――私は学校帰りだったのだが、彼が階段の上から転んだのに巻き込まれ一緒になって転び、お気に入りのヘッドホンが壊れてしまったのだ。
―――それはもう、無残に。
―――それでまぁ、こっちが悪いことをしたような気分になるくらい何度も謝り倒すお兄さんの勢いに負け、ズルズルとここまで来てしまったわけなのだが。
「でもやっぱり初対面なのにワザワザ弁償してもらうなんてなんか悪いですよ。」
正直なことを言えばラッキー!弁償してくれんの!?とかはじめのうちは思っていたのだが。(悪どい)
今この場で申し訳なさそうな顔なをする彼に、たんだんとなけなしの、一般人としての良心が痛んできた。
「って言うかお兄さんがこけちゃったのは言っちゃえば事故だし、仕方ないことだし…そもそもあたし、そそっかしくて物をよく壊すんでこういうのしょっちゅうだし物なんて遅かれ早かれいつか壊れますから!」
だから弁償なんて良いです!とまくし立てれば、青年はきょとん、とした顔をしたが、次の瞬間には考える素振りをして、名案でも浮かんだらしくニカッと笑った。
「…じゃあこうしようぜ!」
「はい?」
「『壊した弁償』じゃなくて『知り合った記念』に、俺からプレゼント!な?」
「……はい!?」
「ちょっと待ってろよ」
「え!?あ、ちょ…っ!?」
一瞬思考がフリーズしたせいでパタパタとレジ方面に走って行くお兄さんをうっかり引き止め損ねてしまった。
「…って、レジ方向?」
え、まさかマジで買いに行っちゃったんですかお兄さん!
しかも知り合った記念にプレゼントて!
「外国人ってそういうもんなのか…!?文化の違い…!?」
もしくは、まさかとは思うけどカッコカワイイ良い人なふりして実は百戦錬磨とかそういうのですか!?
「あたしに一体どうしろと…!?」
頭を抱えたい気分でいっぱいになった頃、見計らったようにお兄さんはニコニコ顔で戻って来た。
「お待たせ!」
「は、早いっすね…!」
「はい、コレ。」
お兄さんはすっとさりげなく手を私の手をとって掌に、可愛くラッピングされた袋がポン、と乗せた。
――――さりげなく手をとって?
「(この人、これ、素なの!?天然王子!?)え、あの」
「いいから、受け取っとけって!」
俺、あってもきっと使わないしさ!
そういうお兄さんに思わず気が抜けてしまった。
見掛けによらず案外ズルイ物言いをする人だ。
いや、人の扱い方を知っている、と言うのが正しいか。
―――断れないじゃん。
「…じゃあ、ありがたくもらっておくことにします。」
苦笑い気味に笑えば、お兄さんは、おう、と満足気に笑った。(ああ畜生これだから美形は!)
それから結局、駅まで一緒に歩くことになって話している間に、ちょっと仲良くなった。
ちなみにお兄さんはディーノと言うらしい。
純粋なイタリア人で、ハーフではないそうだ。(じゃあなんだその完璧な日本語!詐欺か!)
しかし、この人、なんだかよく分からないが物凄くドジっこ属性らしく、何もない所で成人男性(しかも金髪美形の王子系)が何度も転ぶ様をマジマジと見るはめになるとは思わなかった。
この人、あたしより年上よね…!?
「そ、それじゃ、ディーノさん。ありがとうございました。」
「ああ、こっちこそ、なんかごめんな?」
苦笑気味に笑うその姿が妙に様になっていて、ああ、でもやっぱりこの人は大人なんだろうなぁ、なんてことを感じる。
「いえいえ!なんか楽しかったし、最終的には得しただけな気がしますし!」
どうも、ありがとうございました!と勢いよく頭を下げて、笑えば、彼も笑う。
「そっか!ならよかった!」
「―――…はい!」
花も綻ぶって言うのはこういう笑顔を言うんだろうな、なんてことが頭をよぎって、思わず見とれてしまった。
「(マジで童話からそのまま王子様ひっぱってきたみたいだ!なんだこれ、やばくない?あたし別にそんな王子様に憧れたりとかしてないはずなのにどうしたことだ!美形パワー!?)」
「じゃあ俺そろそろ行くな!」
「え、あ、はい!」
気をつけてくださいね、と言おうと慌てて顔を上げた――――途端。
頬に、柔らかい感触。
ちゅ、
「え…」
「じゃ!またな倭!」
何をされたのか理解する前にディーノはCiao!と引き止める間もなく陽気に去って行った。
「え、今、……………ええええええぇ!?」
色鮮やかなヘッドフォンと一つの爆弾を残して。
(つ、綱吉ー!どうしようこれ!あたしちょっとやばいわ見知らぬ金髪の王子様に恋したかもしんない!)
(えぇ!?ちょ、なにそれ!倭姉ちゃんが!?恋って…恋!?)
***
多分綱吉のいとこの姉ちゃんでお互い悩みや愚痴を言い合う感じのポジションみたいな。
ディーノはなんか普通に夢らしくなるよ。(笑)