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骨折と私 10

その日も特に変わったことは無くて
頭が痒いからはやく洗いたいなと思っていた
蒸しタオルは無限に使えるのだけど
熱すぎてすぐ蒸発してしまうからあんまりだった

リハビリに行き始めたのはこの日からだったけかな
たくさんの患者が体育館みたいなとこで
動かせるようになるために動かす
若い子からお年寄りまで、先生もいっぱい
僕の担当をしてくれたのはさくらんぼブービーのカジ君を
真面目にしたような先生だった
どのくらい動かしていいやら分からない腕を
いろいろ伸ばしたり屈伸させたりリラックスがすごかった

帰りにコーヒーを買って
バーテンダー読んで
休んで
夜ご飯ゆっくり食べて
また消灯に備える

眠れなさは変わらない
この日は一人のおじいちゃんが明日手術ねと言われて
わしゃあ夕飯はいらん、夜は睡眠薬をくれ、と言い始め
それが流行ってしまい、他のおじいちゃん達も睡眠薬をくれってなって
みんなよく寝ない夜だった

睡眠薬を忘れてないか?と呼ぶおじいちゃん
飲んでいびきがすごいおじいちゃん
もう今週はいっぱい飲んだから駄目よと言われるおじいちゃん
俺はコーヒー味じゃなきゃいや
朝はパンとミルク
いろいろあるよね

僕はもうどうしょうもないから
夜中に干し梅を口に入れて舐めていた
味がきつすぎて、死に際の人にあげたら満足して成仏するだろう
そんな干し梅を何個か食べていくと
甘くて酸っぱくてしょっぱくて汗ばむくらいになっていた
ティーヌンのえげつない味食べたいなと思った

これだけ眠れないのが続くとなんだかおかしな気分になる
看護士さんなんて本当は何もわかってくれないんだ!みたく
夜中に静かにベッドの角度のくるくるを回して
朝またぴかっと照らされて
次の日はまた引越しがあった

骨折と私 9

夜になると準備の時間
夜ご飯は6時だったっけかな
大事に食べても30分
7時くらいから消灯の9時半まで

歯磨きしたり蒸しタオルで頭拭いたり
マンガも読めば本も読む
ゲームもするし夜中のために小さいライトはここでとかもする

なのだけど
座ろうと横たわろうと
どうしても体のどこかが辛くなってしまうし
眠ろうとするとあばらや肋骨が開いてきて
心臓の動悸が恐ろしくなってしまうし
寝て2,3分すると自分息してない!ってなってがばっと起きてしまう

どうしても心地よい体勢が取れなくて
ベッドの角度やタオルの置き方
いろいろやってみるのだけど何一つ改善できなくて
それでも静かに暗くしてないとって感じで困った


おじいさん達の要望に耳を傾けたり
迷子がいるぞとか
消灯だけど以外と明るいなとか
寝るのを試しては苦しくなって起きて
ベッドの角度をこっそり変えに行ってみたり
眠れなくて本当に困って過ごした
朝になったら強制ライトが来てうわぁ〜ってなるしさ


にっちもさっちも行かないまま朝が来て
検温とかして、どうですか?と聞かれるのだけど
周りのおじいちゃん達が何度も同じことでナースコールして治してもらって
全く改善しないままただ繰り返していくのを聞いて過ごすから
自分の症状を言ってみる気になれなくて

明るくなったら落ち着いて少しは眠れるかもと思ったけど
ぜんぜん夜も明るいもなく辛くて
どうしたらいいのやらって感じだった

骨折と私 8

ぽたぽたの夜は長かった
看護師さんが度々来てくれて
今度はこういう薬だよと教えてくれる
動きもせず起きてるもんだから話しかけないわけにもいかないだろうし
こっちも眠れやしないので
ただそれだけの夜がそれだけで明けていった

起床時間
手術した先生達が回診に来てくれて
肩のシルキーを外して具合を見る
大体において思うけど患部やら傷口やら施術やら
見なくて任せられるなら見ないに越したことはない
20cmくらいのワンピースのゾロに五段切りをくらったような傷口を見て
先生は「5だね」と言った
別の先生が消毒して新しいシルキーを貼ってくれた

ごはん
迷っていた
自分にごほうびにしようと思ってチョコワッフルを棚に確保していた
夜のために干し梅を確保していた
だけどそれらは点滴効果で欲しくもなんともなくて
そんな朝ごはんは大変な美味しさだった

味から温度から遠い世界に少しの時間でも行っていると
味噌汁
これはすごい代物になる
キャンプに行った帰りの味噌汁もすばらしいけど
この時の味噌汁は
体から仏が飛び出して喜んでた

ああおいしい
そんな時間が終わると着替えや体を拭いてくれたりされて
引越しが始まった
色んな患者さんの中
老体で動けなかったり、足の怪我で車椅子だったり
そんな中鎖骨くんは自分で動けるからどこでも引越しもらくらく

最初はおじいさんチームの部屋に行った
みんなと過ごす時に、向かいの人に足を向けたら失礼かなとか
どんな風にテーブルや棚を使うのかなと勉強した
動くの大変なおじいちゃんばかりだったから
寝ながら本を読んで疲れて眠るばかり

妹とその彼氏がお見舞いに来てくれた
バーテンダーとなぜかドラえもんの半端な巻を持ってきてくれた
朦朧としていたのでささっと帰って行ったけど
看護士さん達が湧いていてすごい威力を残していった


手術の段取りをしてる頃は
調子が良ければ次の日にでも退院できるよとの事だったけど
そんな気が全くしないので
下着を母に頼む

そうだ
味噌汁フィーバーだった朝ごはんの後
たばこが吸いたくて散歩して
病院の中でも外でもだめよってなってたから
パジャマのまま近くのローソンまで行った
家からもすぐのところ
灰皿のところでたばこを吸うと
しばらく吸わなくてくらくらするやつの比ではない
意識が、体の力の火が、漏れたガスに点いている火のような
もうこれ以上は転んじゃうと思って急いで病院に帰った

体が辛くなっちゃう中
せっかく頑張ってくれた先生達に
転んでだめにして悲しませるなんて最低と思い
ふらっふらしながら売店の前のコーヒーを買って
これを買いに行ったんだよーというていで
病室に戻った
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