御題!
たかが愛
良識のある見解
おそれいる
この3文+シリウスか土方さんで、というご指定をいただきました。
シリウスで思いつかなかったので土方さんで。
これはもうほんとに一気に、といっても30分くらいですが、一気に書けました。
BGMは、もうたかが愛というフレーズだけでまたもやCoccoさん。
復帰後で一番好きな曲かもしれない。
でもこれ聴いたとき、ああCoccoはもはやCoccoであって以前のCoccoではないんだぁと悟りました。
大人になったね、あっちゃん。
銀魂どころか最近ジャンプも全然買ってないんですが、なにやら土方さんが美味しいことになってるそうで…?
そろそろまた買わないと。
creamさん、御題をどうもありがとうございました!
エルシー
「遊泳は禁止されてないんだよ。禁止されてるのは河川敷での花火とバーベキュー。知ってるくせに。」
あたしがそう言って笑ったら、土方さんはますます不機嫌そうな顔をした。
そんな顔してても男前だね、って言ったら「うるせぇ。」だって。はいはい。
汚い江戸の川。
細長い島国のここは、川がどれも短くて急でそして冷たい。
故郷の星のゆったりと広大で穏やかな川とは似ても似つかないけれど、それでも流れる水の魅力には抗えない。
血が騒ぐというやつだ。
それにしても、出稼ぎに好き好んで来たこの星だけれど、何度泳いでもこのゴミの多さ、水の汚さには辟易させられる。
こんな汚い川にかかった橋の上、毎日毎日何千何万何十万の人が行き来を繰り返しているけど、誰も何も思わないんだろうか?
川がこんなに汚くて、どうして水道から出てくるお水はあんなに綺麗なの?
あたしには不思議で不思議で仕方が無い。
「ひじかたさーん。」
「もう上がれ。風邪ひくぞ。」
「地球にはねぇ、あたしたちに感染できる細菌がほとんどいないんだってー。研究所の先輩が言ってた。だから風邪ひかないんだよ!知ってるー?ヒトでも南極へ行けば絶対に風邪ひかないんだよ。細菌がいないからー!」
土方さんは何も言わない。暗がりの向こう、ぽつんと光る火がただただそこにいることを示している。
帰れば良いのに。なんて、言ってあげないけど。
鉄橋の上を、鉄のカタマリが物凄い音を立てて渡っていく。
地球は、大江戸は目にも耳にもとにかくうるさくてかなわない。
もっと静かに暮らせないものかと思うけど、でもその分綺麗なものや音もたくさんあるからきっとそれで相殺されてるんだろう。
短い時を一気に生き抜くヒトならではの人生の楽しみ方なんだとも思う。
あたしは、この生き急ぐ地球人のための技術を売りにこの星へ来た。
人の一生は、何かを研究しつくす前に終わってしまうのだから可哀想だ。
だから代わりに、あたしたちそっち方面に明るい天人が研究してあげて、お金と交換する。
実にシンプルで、実にフェア。母星に豊富な資源があって良かったね。
ごわごわにゅるんと足に何か不愉快なものが触って、ふやけてきた指先の感覚を認めて、あたしはようやく岸へと方向を変えた。今触ったものは何だろう。死体かな。いくら物騒でもそれはないか。じゃあ犬か猫の死骸かな。とにかくなんだかキモチワルイものだった。
この辺りは、少し上流にある浄水場が24時間垂れ流す浄水された水によって流れが速くて他の場所より少しだけ水が綺麗。
あたしだって馬鹿じゃないからそういう場所を選んで泳いでいるわけなんだけど、たまにこうして身体を何か不愉快なものが撫でていくことがある。
特に岸に上がるときは色々なものが引っかかりやすいし色々なものを踏みやすいのでビーサンは必須だ。
ぽたぽた川の雫を芝の上に垂らしながら、あたしは適当に放ってあったバッグからタオルを1枚取り出した。
脱ぐなってしつこいから、あたしはいつも短パンとTシャツで泳いでいる。行政の怠慢でここには街頭なんてほとんどないし、覗くような物好きもいないだろうから別に水着だって裸だって構わないはずなのに。
身体の水気を適当に拭き取りながら、あたしは芝の上でスパスパ煙草をふかしている土方さんを見下ろした。
「土方さん。」
土方さんはいつでも不機嫌だ。
「…んだよ。」
「今さっき、なんか触っちゃった。死体みたいなの。」
でもあたし、知ってるんだ。そんな仕事してるくせに、色々怖いものがあること。
「…気のせいだろ。」
土方さんは心なしかそっけない態度の中に挙動不審さを隠しているようで、こんなときあたしはああこのヒトなんて可愛いんだろうとか思ってしまうわけだ。
「いいの?一応ケーサツでしょ?」
「…うっせぇな。余計な仕事増やすんじゃねぇ。通報されたら勤勉に出向いてんだ。安月給でそれ以上何しろってんだよ。」
「安月給だったっけ?」
「それよりお前、いい加減にしてもう帰れ。毎度毎度。泳ぐならナントカって天人の施設へ行きゃあ良いじゃねぇか。」
土方さんはあたしの質問には答えずに、そして立ち上がることもしないで口先だけでそう言った。
プゥルだよ、プゥル。覚える気がないんだろうけど。
「毎度毎度言うけどさ、あたしはこの星でも川が好きなの。海が好きなの。」
別に毎回毎回付いて来なくたって良いのに。なんて、言ってあげないけど。
あたしは優しいのです。
本格的に不機嫌になってしまった土方さんに適当に話しかけながら、パーカーを羽織る。
さすがに生足が冷える。地球の冬は体験したことがないけれど、いくら強かな天人のあたしでも寒ければ弱ってしまうのだし、これはちょっと考え物かなぁと思った。
そろそろ、プゥルへの本格移行を検討しなければならないかもしれない。
「土方さーん。お腹空きましたね。」
「星が綺麗ですね。」
「土方さんも綺麗ですね。」
この街から見上げたところで、星なんてほとんど見えやしないけど。まぁ言ってみれば戯言だ。
無視する土方さんは、何を考えているんだろうか。あたしのこと?馬鹿だなぁ、馬鹿な人、馬鹿な人だ。
「そんなに面倒なら、あたしに惚れたり、しなきゃいいのに。」
ぽつんと言ったあたしの言葉は、きちんと土方さんに届いたと思う。
ぐっと腕を取られて、気付いたら土方さんの腕の中。
ヒトは熱すぎる。
ねぇ、同じように見えるけど、あたしとあなたは違うイキモノ。
翔る時間も、網膜が映す色も、何もかも、あたしとあなたとは違う。
「うるせぇよ。」
「これでも地球基準の良識ある見解に基づいて言ってみたんだけど。あたし天人だよ。お侍の大っ嫌いな。」
あたしは黙らない。
土方さんも放さない。
まったく。土方さんにはほんと、畏れ入ります。
地球人ってみんな意地っ張りで諦めが悪いけど、お侍という種族は輪をかけて厄介だ。
総じて頑固にもほどがあって、融通がきかない。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ、お前は。」
たかが、愛だろ?
そう言い放ってしまう土方さんは、確かに、あたしたちとは全く違う価値観の下で生きている。
眩暈がするほど強い情熱と、一瞬の衝動。
野蛮にも思えるそんなものに突き動かされて、こうして天人であるあたしを抱きしめたりキスしたりするのだ。
そうやって衝動的に生きる土方さんの腕の中だと、あたしも刹那主義に興じてみてもいいかな、なんて、そんな気分になってしまう。
まぁいっか。
うん、そうだ。たかが愛だ。
その考え方は嫌いじゃないよ、土方さん。
「土方さん。あたしも、たかが愛とやらに生きてみようかな。」
土方さんがどんな顔してるのか、よく見えないのが残念だ。
【星降らぬ都】
BGM【流星群】 Cocco
んなこっぱずかしいこと、二度と言わせんなよ。