うー…。
思ってたのと全然違うお話になってしまった。
元就さまは色々な意味で美味しいキャラなので色々思いつくんだけど、上手くまとめられないの。
色々思いつかないキャラの方が楽だったりするのです。
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うー…。
思ってたのと全然違うお話になってしまった。
かみをえんじたおろかなわたくしの、つみぶかいおはなし。
大潮の今夜、いつも静かな海の生き物たちも神々の名の下で不思議とざわめいているのを感じました。
わたくしもそんな生き物達と同じで、いつも床に入ればすぐに誘ってくれる眠りも一向に訪れてくれる気配を見せず、そっと抜け出してまずはお社へ、そして長い回廊と短い階段を経て波打ち際へとやって参りました。
波も風も凪いでおり、わたくしの全ての穢れが祓われていくようなそんな夜でございました。
夜の闇はどこまでも深いものですが、月が明るいせいで恐ろしさはほとんど感じませんでした。
恐ろしいのはヒトにございます。
恐ろしいのは、知恵あるヒトにございます。
神々も、それに近しいイキモノたちも、知恵がない故にどこまでも純でございます。
悟りをひらいた釈迦と同じに。
偽りを覚えるものがこの世からいなくなれば、どれだけ美しい世になることでしょう。
「お主、何をしておる。」
なんとなく、予感はございました。
城へは十分に戻れる刻でございましたのに、社の隣の館へとお泊りになると聞きましてから。
わたくしはそれほど驚くこともなく、ゆっくりと元就さまを振り返りました。
「海のものがあまりに騒ぐ故、眠れぬのでございます。」
元就さまには、日輪よりも月の方がお似合いです。
わたくしはそう思います。
「日の暮れた後にふらふらと出歩くでない。」
「容易に抜け出せる社の兵が笊にございますれば。」
そうおっしゃいます元就さまも、鎧はおろか帯刀すらしておいでではございませんでした。
元就さまは、わたくしにお会いになるときには必ず戦を臭わせるものを身に付けずにおいでになります。
わたくしが元就さまの戦装束を拝見したのは、日ノ本を決しようかという大きな戦の前に下の方々をお連れになってお祓いに見えた、あのただ一度きりにございます。
「お座りになりませぬか。」
わたくしがそう申し上げますと、元就さまはたっぷり逡巡なさった後にわたくしが腰かけていた岩の側へと落ち着かれました。
何か思うところがおありなのでしょうか、元就さまは普段にも増して眉間に皺を寄せておいでです。
「いかがなさいました。」
「帰りたいのか。」
わたくしの言葉とほとんど同時に、元就さまが唐突におっしゃいますので、わたくしは少々面を喰らいました。
「どこへ、でしょうか。」
「海だ。」
大真面目にそうおっしゃる元就さまがなんだかおかしくて切なくて、わたくしが思わず黙り込んでしまいますと、元就さまはますます眉間に皺をお寄せになりました。
「お主を拾い上げたのも、ちょうどこのような大潮の夜であった。」
「…そうでございましたね。」
わたくしには、十より前の記憶がございません。
気付けば海草だらけで海の波間に漂っておったところを元就さまに助け上げられ、今日まで竜宮の使いとして社へ上げられ、半分神のように扱われて生きて参りました。
正直申せば記憶がございませんので、もしかしたら本当に神なのやもしれませぬ。
でもわたくしには、そのようには思えませんでした。
恐らくは遠い時空を越えた向こう側、神さまに嫌われてはじかれ飛ばされたはぐれものだと思います。
何もかもを忘れても、元就さまの戦装束を見ればこれは間違いだと強く感じますし、言葉が問題なく通ずることにも違和感を覚えます。
はじめは海の向こうの遠い国から流れ着いたのだと思ったのですが、元就さまに見せていただいた様々な絵巻や海の向こうの国の話しを聞いてもいまひとつ心の琴線に触れるものはありませんでした。
ですからわたくしはやはりこの国の、遠い昔か遠い先から弾かれた者ではないかと思うのです。
それも、本来でしたら元就さまとなどとても言葉を交わせるような立場ではない下賤の生まれではないかと。
「どうした、黙り込んで。お主が言ったではないか。我国と我一族の為に使命を全うすると。まだ済んではおらぬぞ。」
故に帰ることは認めぬ、と元就さまはおっしゃいます。
わたくしが皆と同じに歳を取っていることは元就さまもご覧のはず。
それでも元就さまはわたくしを神と扱って下さいます。
だから、わたくしは、神を演じます。
それは他の誰でもない、わたくし自身の為に。
神である限り、元就さまはわたくしに会いに来てくださる。
わたくしを気にかけてくださる。
わたくしを、見てくださる。
でも、神である限り、それ以上は望めません。
女として愛していただくことも、いっそ傷つけていただくことも、その手にかけていただくことすら。
「元就さまは、安芸以上を望まれますか。」
昼間の祈祷のことを思い出しながらそう言うと、元就さまは眉間のシワをそのままに、真面目な口調でおっしゃいます。
「戯けを申すな。我が望むは安芸と一族の安寧。それだけぞ。だが、それ以上を望まねばそれすらも手には入るまいて。」
「…然様でございますか。」
なんだか元就さまらしくて、私は思わず笑ってしまいました。
笑う神なんておかしいと自分でも思いましたが、毎日毎日神さまがたを相手に生きているわたくしには久々のヒトのぬくもりは刺激が強うございます。
「それで、どうなのだ。」
笑っているわたくしを特にお咎めにもならず、元就さまはじっとわたくしをご覧でございました。
「どう、とおっしゃいますと?」
わたくしが問いますと、元就さまはまだ真面目な顔のまま小さな声でおっしゃいます。
「帰りたいのか。」
どこへ、とは問いませんでした。
わたくしには、帰る場所など、ないと、いう、のに。
いいえ、本当は恐らくあるのです。
空けのわたくしが忘れているだけで。
弾かれたこんなわたくしでも。
でも、それでも。
人でなしのこの扱いを受けても、一生誰にも愛でられぬとしても、それでも、わたくしは。
元就さまのお側で生きたいのです。
「…もとより元就さまに掬い上げられたこの躯にございますれば。海へお返しになるのも元就さまの良しなに。」
神になれと言われれば、わたくしは喜んで演じます。
きっと元就さまは、神々に爪弾きにされたわたくしへ与えられた唯一の光。
「さればここにおれ。」
「…恐悦至極にございます。」
元就さまは、わたくしが消えても泣いてはくださらないでしょう。
悲しんでもくださらないと思います。
神とは、望まれるものではないからです。
ヒトの望みを叶えるものだからです。
それでも神は、ヒトがいなければ存在できません。
元就さまがいらっしゃる限り、わたくしは神のままでいることができるのです。
【replica(misama)nt】
BGM【なし】 なし
そなたが何者だろうと構わぬのだ。