知らないお嬢様へBGMのご解説。
coccoもサンタラもバニラという曲を出していてですね、(サンタラに到ってはメジャー第一弾)、そのどちらもが超いい曲なのです。
両者は全然無関係でタイプも違う曲なんですが、馬鹿な女を歌っているという点において共通するところがあるのです。
(あくまでエルシーの主観ですが)
この曲交互に延々と聴いてると、女として私は間違っているかしら、という気分にさせてくれます。
つまり、女としてもっと違った生き方があるかしら女って極めたらどこへ行くのかしらという意味ですが。
このBGMでもう1本書こう。
DV彼氏はご想像にオマカセしますと言いたいところですが、佐助くんです。
巷では超しっかりしてるおかんみたいなキャラとして書かれてる(描かれてる)ことが多い佐助くんですが、仕事を離れればそりゃあもうどうしようもない男だと思っているエルシーです。
「おい。」
かすがちゃんは可愛い女の子。
素敵な恋人にいい恋をしていて、どんどん綺麗になっていて、まさに女子絶頂といったところ。
スタイル良くて細いのに胸は大きいし、最近流行りの?ツンデレというやつだし、気立ては…優しい子。
今だって、ほら。私の頬に腕、それに両足を見てこんなに痛そうな顔をしてくれている。
かすがちゃんは何にも痛くないはずなのに。
「どうしたの、かすがちゃん。」
「お前、いい加減それは言い逃れられないぞ。」
別に今までだって言い逃れていたわけではないのだけど。でも口に出すと火に油を注いでしまうことは明白だったから、黙っていた。
沈黙は肯定と受け取ったのか、かすがちゃんは痛そうな顔をしたままで「病院へは行ったのか。」と小さな声で言った。
「ううん。」
「今すぐ行って、診断書をもらってこい。骨は?折れてはいないのか?」
「たぶん、だいじょぶ。」
「多分じゃ駄目だ。」
きっぱりと言うかすがちゃんは、心配そうに私の見るも無残な痣をひとつひとつ眺めていた。優しい子。私なんかにはもったいない。
かすがちゃんは私の手首を優しく掴むと、そばにあったベンチに私を座らせてかすがちゃんも隣に腰をおろした。
「何度も言うが、あんな男とは別れろ。」
かすがちゃんは知っている。私が彼に殴られてこんな怪我をしていることも、それでも彼が好きなことも、何を言われても別れられないことも。
黙ってしまった私を見て、かすがちゃんは掴んだままだった私の手首から今度は手をぎゅっと握ってくれた。
真っ直ぐ覗き込まれる視線が鋭くて、でも温かくて、私はちょっと泣きそうになった。
「優しいなんて言わせないぞ。本当に優しいヤツは女を殴ったりしない。」
「でも、」
「甘えてるだけなんて言い訳も駄目だ。こんな甘え方があるか。」
「…うん、でも、」
「しばらく会うのをやめろ。部屋へ帰るな。家へ泊まれば良い。大学もしばらく休め。」
そんなのできないに決まってる。
彼は私がいないと壊れちゃう。
私だって、彼の隣じゃないと眠れない。
かすがちゃんは何にも言わない私を見て何を考えるんだろう。
殴られて、泣かれて、謝られて、抱かれて、また殴られて。同じことを繰り返す馬鹿な女だと思ってるんだろうか。
いつまで経ってもどれだけ殴られても、なんで分かんないのかって苛立ってるのかもしれない。
もうすぐ私はこの優しいかすがちゃんにも見捨てられてしまうかもしれない。
それでも、構わないと思ってしまう。
むしろそれを望んでいる私がいる。
だって、かすがちゃん。
ねぇ、あなたは知らないけど。
私が殴られる原因のほとんどは、あなたにあるの。なんて。
驚くかな。
絶対に言っちゃいけないことだ。
だから余計に言いたくなっちゃうのだけど。
「…分かった。でも今日だけは家へ泊まってもらうぞ。」
かすがちゃんは、黙り込む私にいつも折れてくれる。
それもひとつの優しさ。
彼女の中には本当にまっとうな正義と優しさが渦巻いている。
彼じゃなくても、惚れちゃうの分かるな。
「かすがちゃん、優しいね。」
私がそう言うと、かすがちゃんはまた痛そうな顔をして、それから私につられてちょっと微笑んだ。
「お前に言われると複雑だな。」
そんなことを言われたら、さすがの私も笑ってしまう。
私の彼は可愛くて優しいかすがちゃんを愛しています。
でも絶対に手に入らないことを知っているから、代わりに私を愛でるのです。
なんでも、手足が似ているんだって。
確かに私の手足はすらっと長くて自分でも好きだけれど。
私だったら声とか顔が似てる子を愛でるだろうなと思います。
その辺が彼の分からないところです。
私とかすがちゃんが友達だって知ってるのに。
その辺も彼の分からないところです。
彼はいつもすごく本当に優しいのだけど、当然かすがちゃんとは全然違う私に時々すごく苛立ってしまって、たまに私を殴ります。
ナイフで切られた時もあります。
でもそれは、半分私のせいでもあるのです。
別に私は、彼になら殺されたって構わないと思っているので怖くはありません。
ただ、痛いのはちょっと嫌です。
だから彼の機嫌がいつ変わってしまうのか、それだけ少し気がかりです。
でも彼、最近ちょっと変なんです。
「かすがちゃん、お夕飯何にしようか?私作るよ。」
「そうだな、寒くなってきたから何か温かいものがいいな。」
かすがちゃん、彼氏は良いんだろうか。
私なんて構ってないで、会いに行けば良いのに。
私だったら、こんな馬鹿な女は絶対に放っておく。
友達やめちゃう。
それをしないかすがちゃんも、やっぱり良く分からないところだ。
「お前には、もっとまともで良い男がいるだろう。」
「上杉さんみたいな?」
「なっ、別にそうは言っていない!」
「照れなくてもいいのに。」
照れなくても、いいのにね。
本当にかすがちゃんは可愛い。
彼、最近変なんです。
あんまりかすがちゃんのこと見に来ないんです。
かすがちゃんの話しを聞かないんです。
私は、それがとっても怖いんです。
彼がもし、かすがちゃんのことを好きでなくなってしまったら、愛することをやめてしまったら。
かすがじゃないお前が悪いんだよ、って言ってもらえなくなったら。
「かすがちゃん。」
「なんだ?」
「まともじゃないのは私だよ。」
ああかすがちゃん。怪訝な顔まで可愛い。私の友達。世界で一番憎くて、世界で一番憧れている。世界で一番まともかもしれない。私の、友達。
かすがちゃん、それでも私の友達でいてくれてありがとう。
私、かすがちゃんのことが大好きだよ。
憎くて妬ましいけど、それでも、大好き。
殴られるときでも、かすがと違うって言われるなら耐えられる。
彼が愛してる人、かすがちゃんだから耐えられる。
かすがちゃんの隣だから、私は悲愴に浸って幸せを感じられるの。
わかんないかな、わかんないよね。
自分でもよくわかんないもん。
でもかすがちゃん、例えば彼と別れても、ずっと私と友達でいてね。
【苦く光る甘い闇】
BGM【バニラ】 Cocco or サンタラ
お前が何を隠してても、お前は私の友達だ。