デスノートのLと彼女のお話。
Lって目の前にいたら絶対に後退りしちゃうと思う。ずざざって感じで。
「何を読んでるんですか。」
「竜崎には関係の無いことです。」
私は今日、機嫌が悪かった。別に生理の前だとか、ランチのパスタがまずかったとか、そういうわけじゃなくって。まぁそれもあるんだけど、もっと別の、大きなことで怒っていた。
「…機嫌が悪いですね。」
「何か心当たりがおありだから、そう見えるんでしょう。」
毒々しく言って差し上げると、竜崎…もとい世界の名探偵L殿はお得意のポーカーフェイスのまま実にまずそうに角砂糖が6個も入ったコーヒを啜られた。なんていやなやつだ。
「それはどうでしょうか。例えば100人の人が今のあなたの表情を見て、100人が“この女性は不機嫌である”と返答すると思いますよ。」
「竜崎がそう言うのならそうなんでしょう。」
いつもは言い返されたことが悔しくて思わず突っかかってしまうけど、今日はそんな失態は犯さない。
「なんと言っても、世界のLでいらっしゃるから。」
嫌味を付け加えてやる事を忘れないでいると、竜崎はいよいよ折れた。小さな声で「私が何をしたって言うんです。」と弱気な発言をした。私はここでようやくすこーし腹の虫が収まるのを感じて、ふんと鼻を鳴らした。
「ですから、ご自分でどうぞお考えになって。」
「分かりません。」
「竜崎のしたことです。分からないはずありません。」
言い終わるか終わらないかの瞬間、竜崎のいやらしい手がにゅっと伸びてきて、私が眺めていた雑誌をひょいと取り上げると、そのまま床へ捨ててしまった。
ひどい!
「何するんですか!」
「分からないって言ってるじゃないですか。私は普段あなたがわからないことはなるべく丁寧簡潔に説明しているでしょう。そうすると、あなたにも説明する義務が発生します。」
口ばっかり!…じゃないところが、竜崎の嫌なところ。私は哀れな雑誌に視線をやろうとしたけど、竜崎に捕らえられてしまって動かせなかった。物理的拘束力はなんら関与していないはずなのに、私はどうしてこんなにも動けないんだろう。結局こうして私は竜崎に負けてしまう。勝てるわけがないのは事実だけど。
「…どうして、」
「え?」
「…どうして、あんなこと、言った、ん、ですか。」
竜崎は何も言わない。黙っている。この卑怯者。
「どうして、“私を殺せ”だなんて!あのキラ相手に!よくも、よくあんなことが!!」
泣いちゃ駄目だ。泣いちゃ駄目だ。
「…。」
「私の小さな心臓がどれだけ痛もうが、その動きを止めようが、竜崎には関係のないことなんでしょう。でも、私にとっては、竜崎の心臓が止まることは何よりも、自分の死よりも恐ろしい!恐ろしいことなんです!」
「はい。」
「私が死んだ方がマシです!」
「それは違います。」
「黙って!」
なんて愚かなんだろう。私も、竜崎も。私ごときに、この人は止められない。それは分かっている。この人には私の見えない多くのものが見えていて、私が焦がれて已まない多くのものは知ろうとすらしない。永遠に交わることも無ければ添うこともない。そんなことは、この人に出会った瞬間から分かっていたことなのに。
「竜崎、」
この人は残酷な人だ。
「泣かないで下さい。」
「謝って下さい。」
「すみませんでした。」
「誓って下さい。」
「もう二度とあなたを泣かせたりしません。」
「キスして下さい。」
「はい。」
この乾燥した唇の熱も、いつかは失ってしまうものだ。
BGM【ハレルヤ】Angela Aki
何が滅びようと、あなただけは守ってみせます。