リボーンのXANXUSと(元)路傍の少女のお話。
ふんふん書きあぐねていた時に尻の穴から捻り出した残骸であります。
ザンザスが天使であり、百合であり、彼女です、エルシー的に。
あの人って絶対とっても純粋。たぶん。
大きく立派な椅子に踏ん反り返って、ザンザスはお水を飲んでいた。お酒にしないのって聞いたのに私にお水を用意させたザンザスは、たぶんきっと今日はそんな気分じゃないんだ。何一つだって不確かで、口を利いてくれることも滅多に無い人だけど、そうしようと思わない限りそんなことはたぶんそんなに重要なことじゃない。つまり、気にしないって意味だけど。
私はここを追い出されたらまた路上に立ちんぼ。彼がなんでこんな女を拾おうと思ったのか知らないけど、十中八九お得意の気まぐれ、ご気分、そんなところだろう。
これは私にとって幸運か?何度も何度も問うてみたけど、すぐに考えることをやめてしまった。私はロクな教育を受けてないしもともと頭もあまり良くないし、第一考えたってしょうがない。ザンザスは過去に私を買ってくれた人たちよりもずっとずっと、比べようも無いくらいに全てが優れていて、社交性とか性格はどうだか分かんないけど、とにかく私のように我ながら幸の薄い女にはもったいないくらいの男性であることは間違いないし、この小さな館とその前にある広いお庭、そしてその周りをさらに囲うようにして広がる林のさらに周りには私の及ばぬ力が張り巡らされていて、物理的に私はどうやってもここを抜け出すことが出来ないのだ。でも抜け出せたとしても、私はザンザスが許してくれる限りここにいるだろう。さっきも言ったけど極めて幸の薄い私にとって雨露しのげる私だけの部屋があることがまず奇跡に近いし、会って11分の男に股を広げなくても熱いシャワーが浴びられて美味しい食事をいただけてぐっすり眠れて、あまつさえ清潔な洋服を着せてもらえるのだから。私と同じ経験をしてきて、こんな好環境を捨てるという選択肢を取る人を私は想像することすら出来ないのだ。
止まない冷たい雨の中、いつもの路上で、突然降って来た信じられない出来事は、きっと近い将来始まりと同じように、ううんそれ以上に、突然、あっさりと終わってしまうだろう。全てはザンザス次第なのだけど。そうなって困るのはお恥ずかしながら衣食住、基本的に生きることの全て。そのときの事を私はいつもいつも恐れている。不安がっている。せめてザンザスが私に何か求めてくれれば、何かなんて私には若いだけが取柄のこの躰しかないんだけど、とにかくせめて情婦として飼ってくれているのなら、放り出されたときに、ああ私には飽きちゃったのね、なんて納得させることが出来るんだけど、それすらないから私は本当に本当にどうしたら良いか分からないし、何を考えたら良いかすら分からない。元の生活に戻れるだろうか。元に戻ったとして、生きていけるのだろうか。
分からないことだらけで、何もしないし何も言わないザンザスの前で裸で立ってみたこともある。やっぱり何も言われなくて、あの時はちょっとだけ震えた。裸が寒かったわけじゃない。わけが分からなすぎたのが怖かったのだ。
「ザンザス。」
名前を呼ぶとちょっとだけこっちを見てくれる。それが嬉しくて、でも何度もやったらしつこいと思われそうだからこの館に来てくれた回数につき2回までと自分なりに決めている。ザンザスは週に1回来るか来ないか、くらいの頻度でしか足を運んでくれないので、これでも十分我慢しているつもりだ、と、思う。
それにしても。この人は私の名前を知っているのだろうか?どうして私を飼ってるのだろうとかこんなことして彼はなんになるんだろうとか、そんなことはもう分からないって決まってるから考えないように考えないようにしてるけど、こればっかりは何度も考えてしまう。名前。名乗ったことはあったような気がするけど。
私がじっと彼の目玉を見ていると、ザンザスの大きくて見るからに暴力的な手がぬうっと伸びてきて、太い人差し指の甲で私の頬をそっと撫でた。優しい仕草。冷たいけど、人間のぬくもり。
そのとき突然ぴたっと、なんだろう、と考える間も無く、目の前にはザンザス。今までにないくらい、目の前にはザンザス。
「な…に、」
ザンザスは何にも言わずに、初めて私に笑って見せた。ああ、ザンザスは私の頬を撫でてたんじゃない、涙を拭ってたんだ。そんなことにすら気付かないなんて。
情けない気持ちになった私の涙はますます溢れて、それを見たザンザスは嬉しそうに私のことを子猫か何かのように軽々と抱き上げると、膝に乗せてくれた。あったかい、あったかい、あったかい。
たまらずザンザスのシャツにしがみ付くと、ザンザスが腕を回して抱きしめてくれた。あったかい。しあわせのぬくもりだ。私の知らなかった、ずっとずっと欲しかったものだ。
「ざんざす、」
私は確かに名前を呼んだけど、こっちを見てくれたかどうかは分からなかった。涙と鼻水を垂らす私を見られたくなくて、ザンザスのシャツにぎゅうって顔を押し付けてたから。でもザンザスはきっと私を見てくれてる、そう思った。私はやっとやっと、そう思えるようになった。
「やっとか。」
何が?って聞いたら、返ってきた答えは
【リハビリ】
お前がお前を取り戻す為のな、って笑ったザンザスはまた笑って、私のことが好きだって言った。なんだかすごく悔しかったから、私は黙ってた。でも伝わったと思う。だって頬が勝手に緩んで抑えられなかったから。
BGM【Moving】Kate Bush
お前が泣いたら、そしたら名前を聞いてやるよ。