2017-3-25 03:14
掌編書くのが思いのほか楽すぃー!
というわけで、日付は変わってしまいましたが昨日分の掌編です。
別に毎日更新しようとか思っているわけではないのですが、昨日もちょっとした隙間時間があったのでその間に書いてみました。
が、残念ながら今回の掌編の主人公、
まだ本編に登場しておりません。
例によって本編を読んでなくてもエマニュエルの世界観が分かっていれば独立して読める内容にはなっていますが、まあ興味のある方は「ふーん今後こういうキャラが出てくるのかー」という参考程度に……(笑)
一応軽く登場人物を紹介しますと、
・メイベル
→アビエス連合国出身の神術少女。エルビナ大学を諸事情で中退し今はフリーの退魔師をやっている。ツンデレ・ツインテ・ドジッ子という萌えキャラポイントを網羅する強者。
・コラード
→トラモント黄皇国の青年軍人。ハーマンの腹心で真面目一徹の堅物。『神弓』の異名を持つ弓の名手。そして天然のタラシ。
といった感じの2人の友情以上恋愛未満的なアレです。
なお今回のお題は以下のとおり。
貴方はESで『全部全部、君のせい。』をお題にして140文字SSを書いてください。
遠い未来、メイベルとコラードが本編に登場してから読んでも面白いかもです。
父さんはあたしを見ようとしなかった。
母さんはいつも困ったようにあたしを見ていた。
天授刻――
聖刻を持って生まれた至聖神カドシュの愛娘。
あたしが生まれた当時、教会の人々はそう言って大喜びだったというけれど。
あたしは知ってる。
何をって?
もちろん、世の中そんなに甘くないってこと。
◯ ● ◯
また失敗した。
失敗した失敗した失敗した。
しかも今回の失敗は最悪だ。あたしは、コラードを――あたしの特訓に付き合うと言ってついてきてくれたコラードを殺しかけた。とんでもない失敗だった。
聖刻。破魔の力に特化した希少種の
神刻。生まれたときからあたしの右手に刻まれている、聖なる力。
なのにこの力は時々暴走する。あたしという出来損ないの器では、聖刻の強大な力を制御しきれないのだ。
あたしは昔からそうだった。神術を使おうとしてはいつも加減を間違えて、実家を吹き飛ばした。故郷を焼きかけた。大学を破壊しそうになった。
大学、というのはもちろんマグナーモ宗主国の白都アルビオンにあるエルビナ大学だ。あたしはそこで神刻の力を暴走させ、退学になった。けれど最後まであたしの面倒を見てくれた神理学の教授・マドレーン先生は、「それは訓練すれば操れる力よ」とそう言ってくれた。
その言葉を信じ、訓練に臨んだ結果がこれだ。
あたしの放った神術は白い光の槍となって、島中を飛び回った。そして最終的にはあたしのもとへ舞い戻ってきて、あたしはそれに貫かれそうになって、コラードがとっさに庇ってくれた。おかげでコラードのおなかには、大きな穴が開いてしまった。
幸い近くにロクサーナがいてくれたから助かったけど、彼女の癒やしの術がなかったら今頃どうなっていたことか。
聖刻の力はあくまで魔を破する力。つまり神聖なる破壊の力だ。
そんな危ない神刻を使う特訓に、彼を巻き込むべきじゃなかった。付き合ってやる、なんて彼の言葉を真に受けて、甘えるべきじゃなかった……。
「おい、いつまで泣いてるんだ」
と、医務室の寝台に寝転んだままコラードは言う。
けれどあたしは何も言えず、口を噤んでぽろぽろ泣いた。正直言うと、コラードに泣き顔を見られるのは恥ずかしいというか、みっともないというか……とにかくそんな感じなのでイヤなんだけど、でも、これも自分じゃ制御できない。あたしは縞々のニーソックスを履いた膝の上で、ぎゅうっと両手を握り締めた。
「今回のことは仕方ない。また次回頑張ればいいじゃないか」
「……次回、なんて、ないよ」
「何?」
「あたし、やっぱり隊長なんてやれない。神術部隊の指揮なんて無理。だって今日みたいに、戦場で味方を攻撃しちゃったら大惨事だし……軍師さんに相談して、取り止めてもらう」
「メイベル」
「もう決めたの。どうしても神術部隊を作りたいなら、隊長はカミラにでも頼めばいい。あたしはもう誰も傷つけたくない……」
「……」
「だいたいあんた、こんな目に遭っといてよく次回頑張れ≠ネんて言えるね? また次もどてっ腹に
聖刃を喰らいたいの?」
「それは勘弁願いたいが」
と、枕の上の頭を少し傾けてコラードは言う。ラフィが開けていった窓から風が吹き込んで、いかにも軍人らしい彼の短髪を揺らしていく。
「お前は、もう誰も傷つけたくないんだろう?」
「だから、そう言ってるじゃん」
「だったら、付き合う。明日もまた特訓しよう」
「なんで――」
「その力で人を傷つけるのが怖いなら、制御の方法を見つけるべきだ。そうすればもう誰も傷つかない。お前がお前自身に怯えて暮らす必要はなくなる」
視界が揺れた。あれだけ血を流して、死にかけたあとだっていうのに、コラードはビリジアンの瞳を細めて微笑んでいる。
「だから、付き合う。生憎私には神術の素養がないから、今日みたいに、いざというときの盾になることくらいしかできないが」
「なんで……」
「私は感謝してるんだ、メイベル。お前がいなければ、私はハーマン将軍をお救いすることができなかった。だからその恩返しがしたい」
「でも、あたしのせいで、あんたの村は」
「あれはお前のせいじゃない。私のせいさ」
「コラード、」
「それに私も、お前が傷つくところはもう見たくないからな」
その瞬間、あたしは自覚した。頬がみるみる熱を持って、脳みそが沸騰していくのを。
そんなあたしを見て、コラードはちょっと目を丸くしている。そうして浅黒い手を伸ばし、あたしの頬に触れようとする。
「おい、顔が赤いぞ。神術の使いすぎで熱でも出たのか……? お前もラファレイ先生に診てもらった方が――」
「これはあんたのせいだっての!」
バシッとコラードの手を払い除けて、あたしは立ち上がった。それから素早く身を翻し、医務室を飛び出していく。
呼び止めるコラードの声が聞こえたものの、あたしは構わず逃げ去った。
ああ、もう。
こんなに恥ずかしくて嬉しくて泣きそうで笑えてくるのは。
(全部全部、あいつのせい!)
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このあと「カミラああああ! 聞いてえええええっ!」と抱きつきざまに、友人の鳩尾へ頭突きをかますメイベルの姿が目に浮かびます。
今回はちょっとだけシュタゲリスペクト(笑)