2016-12-3 03:00
書きかけのまま放置していた掌編があったので書き上げました。ついでにお遊びでこんな画像も作ってみました(笑)
意味深なだけで今読んでもあんまり意味のない会話劇。
ペレスエラとエルツァル、2人の賢者の四方山話。
「――よう、ペレスエラ」
「お久しぶりです、エルツァル。あなたがここを訪ねてくるとは、珍しいですね」
「……その顔だと、俺が訪ねてくることは既に知っていたみたいだな」
「ええ、もちろん」
「相変わらずつまらん女だ、お前は。せっかく突然訪ねて驚かせてやろうと思ったのに、何だその涼しい顔は」
「すみません。ですが驚く理由がどこにもないものですから」
「ならせめてもう少し嬉しそうにしたらどうだ? 愛すべき同胞との百年ぶりの再会だろう?」
「正確には九十四年ぶりです。それにあなたは元々我らの敵で、同胞ではなかったはず」
「はて、そうだったかな? そんな何百年も前のことなど忘れたよ」
「あなたも相変わらずのようで、安心しました」
「しばらく見ない間にずいぶん皮肉がキツくなったな」
「私が皮肉を言う相手など、今やあなたとマギサくらいのものですよ」
「ほう、そりゃ光栄だ。てっきりこの陰気くさい塔に籠もりっぱなしで腐ってるんじゃないかと思っていたが、取り越し苦労だったようだな」
「幸いここにはターシャがいますから。たとえ一人でも話し相手がいるというのは、存外気が紛れます」
「だがあの娘はお前を好いてはおらんだろう」
「残念ながらそのようですね」
「ではあの娘を我らの同胞に迎え入れるのは、やはり無理か」
「さあ、それはどうでしょう。神子の命は長いですから」
「だから先のことは分からん、……とお前が言うのか?」
「私はただ、人の可能性を信じているだけです」
「お前はいつもそればかりだな」
「そう言うあなたも彼らを信じているからこそ、こうしてここにいるのではないのですか?」
「俺は自分のやっていることを美談にするつもりはないよ。ただ己が運命を受け入れられず、来るべき終焉から逃げ回っているだけの愚かな男さ」
「私は人のその愚かさこそが、何より愛おしいと思っています」
「奇特なやつだな」
「あなたほどでは」
「またそう引っかかる言い方をする」
「だってそうじゃありませんか? 人にはもう近づかないとあれだけ豪語しておきながら、死の河に身を投げようとしていた娘を救い、更には子種まで授けるなんて」
「……そりゃお前、目の前であたら若い命を散らそうとしている娘がいたら、放ってはおけんのが人情ってもんだろう」
「だから彼女に生きる意味を与えたと?」
「俺はそのつもりだ」
「ということは、ここへは彼女の未来を占いに来たわけではないのですね」
「ああ。今日はお前に、サニュカと俺の子を託しに来た」
「それがあの娘の名前ですか」
「そうだ。あと
六月もすればサニュカは子を生む。だが俺はもうサニュカには会えん。だからお前に」
「エルツァル。そう恐れずとも、あなたはもう昔のあなたではないのですよ」
「分かっている。だがその代わり、俺はサニュカと共に老いることができない」
「……」
「あの娘がそれを厭うとは思っとらんさ。だが俺はやはり怖いのだ。この身が神に呪われている限り、安息などこの地上のどこにもないのではないかと。……俺はもう誰も殺したくない。ましてやそれが一度愛した女ならば」
「では彼女にも生まれてくる子にも、この先会うつもりはないと?」
「ああ、そうだ」
「……決意は固いのですね」
「でなければわざわざ世界の果てまで来るものか」
「分かりました。では約束しましょう。あなたの代わりに、サニュカとあなたの子は私が見守ると」
「……」
「何ですか、その顔は?」
「いや……すまん。しかしお前のことだから、てっきりまた長い説教が始まるのかと思ってな」
「おかしなことをおっしゃるのですね。私が神の教えを説くほど滑稽なことなどないでしょう?」
「……すまない。恩に着る」
「あなたの奔放さに振り回されるのは、何もこれが初めてではありませんから」
「ははは、だろうな」
「それに、我々は同胞でしょう?」
「あ? ……ああ、そうだ。そうだな」
「子の名はもう決めたのですか?」
「一応はな。だがまだ男か女かも分からん」
「男の子ですよ」
「何? 視たのか?」
「ええ、今し方」
「そうか。男か。ならば名は決まった」
「どのような名にするのです?」
「――ヒーゼル=B俺がまだ人であった頃の名だ」
「ヒーゼル、ですか。良い名です」
「だろう?」
「ですがグアテマヤンの子にゲヴァルト風の名というのは、少々浮いてしまうのでは?」
「そこがいいんだ。俺の子には、やはり人とは違う人間に育ってもらいたい。俺のように奔放で、何ものにも――運命にすら縛られぬ子に」
「なるでしょうとも。他ならぬあなたの子ですから」
「ああ。そう願うよ」
「それはそうと、せっかくの百年ぶりの再会です。下でお茶でも飲みながら、四方山話などいかがです?」
「正確には九十四年ぶりだろう?」
「いいえ。九十四年六ヶ月二百六十八日ぶりです」
「……。なあ、ペレスエラ。俺たちは変わらんな」
「変わった方がよろしいですか?」
「いいや? やはり賢者≠ヘ、愚かで滑稽でなくてはな」