承DIOでミスジョルで無駄親子。
でも承太郎は一言しか出て来ません。
何故か5部なのにDIO様が生きている設定。






「……貴方はどうしてこう、」

ジョルノは溜め息を吐きながら呟いた。


イタリアを裏から支配するギャング、パッショーネ。
その組織の頂点に立つのは、齢二十歳にも満たない、ジョルノ・ジョバァーナという少年だ。
この少年、ギャングスターを志し、先代のボスによる悪政を正し、一年どころか半年も経たないうちにこの座に登り詰めた。
そこに至るまでの詳細はともかく、そう聞くだけで大抵の人間は恐れる。
(諸事情で先代の時からボスとして在籍していたことになっているが、それは置いておく)
更に彼には、生まれながらのカリスマ性があった。
彼がボスだと名乗るや否や、瞬く間に部下の信頼を集め、彼に忠誠を誓う者が後を絶たない――未だに。
今や怖い者無し状態の彼(本人は否定する)なのだが、現在困っていることがある。


書類の山に囲まれて、語気を荒げる。
普段の彼らしくはない。
それもこれも、目の前で肘をついてじっとジョルノを見つめる、巨躯の男のせいだ。

「仕事の邪魔をしないでください」
「邪魔等していないさ。ただ見ているだけだ」

この男が悩みの種、自らを“DIO”と称する“吸血鬼”である。
そして、ジョルノの“父親”。
ここが一番のわだかまりだった。
ジョルノの幼少期は母の放任と義父の虐待で塗れ、とても恵まれた環境ではなかった。
それらしい愛情を受けず、荒んでいた中でとあるギャングを助けたことから今のように黄金の精神を持つに至ったが、もし彼に逢っていなかったら、きっとジョルノはこの世界を愛せなかっただろう。
そもそも、この男が母と結婚してまともに“父親”をやっていれば、ジョルノの幼少期はもっとマシだったはずだ。
―――否、それは無い。

「DIOは、生まれついての悪の化身だ」

ジョルノにDIOを会わせた承太郎がそう言ったのだ。父親を打ち明ける時に使用する言葉ではないが、DIOは一言も否定しなかった。
それどころか、「私は帝王なのだよ」と誇らし気に言って来た。
この人は頭がおかしいんだろうな、と思った。
しかし、その身体に纏う雰囲気……オーラは、ただ者ではないとジョルノに警鐘を鳴らしていた。
十分に警戒するべきだと、このオーラに飲み込まれてはいけない、と。

「その視線が気になるんです。何故僕の仕事場にいるんですか、部屋を与えたでしょう」

成り行きというか、SPW財団との仕事の関係でイタリアに長期滞在することになった承太郎が、「一人にすると町が一つ滅ぶ」と言って、今イタリアで最も勢力があり、SPW財団と協力関係にあることからパッショーネに監視を依頼したために、DIOはここにいる、のだが。
何か不穏な動きがあればすぐ、財団と承太郎に連絡がいく手筈になっているし、昼間の屋外での活動が出来ない(らしい)ので、本部の一部屋を丸ごと“監視部屋”としてだが、自由に使用していいと言ってある。
ところがDIOは、初日からずっとジョルノのいる場所に必ず現れる。
最初は警戒してそのままにしていたが、さすがに気になって仕方が無くなった。

「あの部屋は好かない。窓が大きすぎる」
「カーテンを閉めれば大丈夫だと聞きました」
「日光だけじゃあない。部屋のレイアウトが気に入らない」

この野郎。
思わずサインを書いていたペンを折りそうになる。
なんて我が侭なんだ。王様気分なのか。確かに“帝王”とは名乗ったが。

「ふふ、怒ったかい?」
「怒ってません」

楽し気にくつくつと笑う。
その瞳の奥には笑みなんか宿していなくて、赤いのにどす黒い何かが渦巻いているように思えた。

「なに、私は興味があるんだ。最初に言っただろう、“君のその力を見せて欲しい”と」

そう言って、不気味に、妖艶に微笑む。
出会ったその日に、DIOはジョルノがスタンド使いであることに気付いていた。
スタンド使いは惹かれ合うのだ、それは仕方ない。
「見せて欲しい」と、今と同じように微笑んだ時、ジョルノの背筋には氷が滑っていくかのようなとてつもない悪寒が走った。
―――見せてはいけない。
見せたら最後、きっと、食い尽くされる。身も心も。

「お断りしたでしょう、自分の力を他人に容易く教えるなんて無駄です」
「他人ではないよ。私は君の父親なのだろう?」

ミシ、とペンが悲鳴を上げるほど憎くなる。
この男には自覚も何も無いのだ。
父親なんてまともな奴はいないんだと思って生きて来た。
それでも、この言い草だ。自覚も無いのに父親であると、どの口が言うのか。

「君の部下はどんなに聞いても、一言も教えてくれないのだ。何人かはそもそもまったく知らないようだったが」
「!貴方、僕の部下に……!?」
「おっと、暴力は振るっていないから安心してくれ。二人くらいは手荒になってしまったが、誰にも傷の一つも負わせていないさ」

口角だけを上げて、大丈夫だと囁いた。
何が大丈夫なものか!

「不用意に出歩くなと言ったでしょう!」
「話を聞いた後は丁寧に忘れてもらったから、まだ私を知る者はいないよ」
「僕の部下にそもそも手を出すんじゃない!!」

声を上げてしまったジョルノの様子を、くつりと笑って見つめながら、落ち着き払っている。
自分ばかりが熱くなって、ますます憎たらしい!
早く承太郎さんの仕事が終われば良いのに!

「部屋に戻ってください、今すぐに!」
「おや、怒らせてしまったようだ」
「ふざけるな!!」
「分かったよ、そういきり立つな。すまないな、邪魔をしたようで」

す、と音も無く立ち上がって、悠々と歩み、窓から差し込む光を避けてドアを開き、何ごとも無かったかのように廊下へ消えていった。
ジョルノは数秒、荒い呼吸をし、最後に深呼吸をして、吐き出しながら脱力するように椅子に腰掛ける。
叫び出したい衝動に駆られて、頭を抱えて机に肘を付き、なんとか自分を抑えた。

「……ボス?」

呼ばれた声に顔を上げかけて、その声が自身の片腕であることに気付いて嘆息する。

「ミスタ、すみません……少し放っておいてください」
「……おう」

書類を片手に一言返事をしたミスタは、執務机の前のソファに座る。
普段はうざったいぐらいに馬鹿みたいなこの男だが、こういう人の不穏な空気は的確だった。イタリアの男らしい気遣いが出来るのが、ジョルノには好ましかった。
ぱら、と紙をめくる音だけが部屋に響く。
数分、それ以外は呼吸音しかしない時間が続いた。

「……その書類は、僕のサインで良いですか」
「ん、三ヶ所だ。……大丈夫か」

なんとか胸のざわめき殺して、ミスタに声をかける。
自分は感情が表に出ない方だと思っているが、ミスタに心配されるほど酷い顔をしているようだ。
はぁ、と息を吐き出して、えぇ、まぁ、とだけ答えて書類を受け取る。
内容に目を通しながらサインを記していく。
それをミスタが見ているのを、ジョルノは申し訳なく思った。
これは自分とあの男の問題だ、私情を仕事に挟むわけにはいかない。

「親父さんのことか」

嗚呼、なのに、この人は簡単に踏み込んで来る。
それが鬱陶しくて、その心配が安堵を齎す。
ミスタだけにはDIOのことを話していた。彼には信頼できるだけの要因がある。
なにより、彼とはそう言う関係だから、隠し事をしないようにしていた。

「ここに来る前、この部屋から出て来る親父さんを見た」
「……」
「喧嘩したのか?親父さん、すげぇ顔してたぜ」

………ん?
どこか引っかかりのある言い方だった。
確か、この部屋を出て行くときのDIOは、ジョルノの怒る姿を見て何故か楽し気にしていなかっただろうか。
なのに、ミスタは今、「喧嘩したのか」と言った。

「その……顔って、どんな……?」
「なんつーか、うーん……怒ってるっつーか、気まずそうな顔?俺が来たことにも気付かないぐらいだから相当すげぇ喧嘩でもしたのかと……ジョルノ?」

違う。
そんな、そんな殊勝な。
どうして?自分で怒らせるようなことをしておいて、何故?
父親らしいこともなにも、してこなかったのに、今更!

わなわなと震えるジョルノに、ミスタは嫌な予感を感じ取った。
怒りに震えている訳ではない、今まで余り見たことの無いジョルノの感情表現だ。
どう声をかけようかと迷っていると、先にジョルノが動いた。

「ミスタ、僕は、DIOという男ではなく、別の父親がいました」
「お、おう?」
「今になって父親なんて必要無いんです。母親だって、」
「待てジョルノ、落ち着けお前何言ってんだ」
「今頃帰って来たって、遅いんです……!!」

視界がぼやける。
目頭が、こめかみが熱くなる。
泣きたいんじゃない、ただ今の感情をぶちまけたかった。

「僕は、ミスタ、僕は!……僕は、期待してしまったんです―――――」