最終回気味カオス!
しょっぱな最終回後小話で、追記からギャグ走り。
最終回後小話は仲之の欲望。
むしろ最終回後小話がオプションみたいになった、不思議。
急遽、夜営地に仮に陣を張った伊達軍。
それもこれも、政宗の治療のためだ。
豊臣との一騎討ち―――。
勝利後に一度は気絶した政宗だったが、すぐに目を覚まし、痛む顔一つせずに医師による治療を受ける。
心配していた兵士たちが、政宗が治療を受ける陣幕に貼り付いて息を呑んでいたのを――気配を殺しているつもりなのが、政宗には可笑しくて愛しかった――見兼ねた政宗は、
「全員入って来い」
そう言ったのを皮切りに、決して広くは無い陣幕内に、伊達軍が押し寄せた。
それが、口々に「筆頭!」「大丈夫ッスか!?」と言いながらの鬼気迫るような顔ばかりで、医師が恐れおののいたくらいである。
「Don't worry!……いや、I will be OK。心配かけたな」
ここ何日かのものとは違い、幾分優しい笑顔で兵たちに言った政宗に、皆が涙を禁じ得なかった。
「いえ、いえ!筆頭がご無事で何よりッス!!」
「あの、飯食えますか!?喉渇いてますよね!?」
「何でも言って下せぇ!片倉様がお帰りになるまで、しっかりお護りいたします!」
筆頭、筆頭、とまるで子供のように政宗を慕う兵たち。
今回の戦では、この兵たちに多くを助けられた。
今更それを強く思い知って、政宗は胸が熱くなるのを感じる。
たくさんの人に慕われている事実が、こんなに心強い。
「奥州に帰ったら、全員特別恩償だな。何がいい?言ってみな」
にっ、と八重歯を覗かせた笑みを見せた政宗に、兵たちは顔を見合わせる。
恩償は嬉しいが、それを受け取ることは憚られると思ったのだ。
ついぞ見ることの出来なかった、兵士全員が大好きな明るい笑みが、余計に口を閉ざす。
それを見た政宗は、怪訝に眉を寄せる。
「……なんだ」
「あ、いえ、あの」
「恩償は嬉しいんス!でも、なんつーか」
「筆頭がお元気でいらっしゃることの方が、……なぁ?」
「そうそう。……その、筆頭の笑顔が、俺らにとっての、特別恩償ッスから」
言って、へへ、と皆が照れ臭そうに笑った。
一瞬ぽかんとした政宗だが、釣られるように、ほんのり染まった頬を指で掻く。
愛すべき部下に囲まれ、政宗はまた八重歯を見せて、照れ隠しをするように微笑って見せる。
と、何者かが走って来る気配を感じて、政宗は表情を変えた。
「筆頭!筆頭ー!!」
バサッ、と陣幕を勢い良く翻し、叫びながら入って来たのは、陣の番をしていた兵だった。
その顔色は必死の形相で、政宗の顔は一気に武将のそれへと一変する。
「どうした」
「ひ、筆頭、筆頭!失礼しやす、あの!」
全力で走って来たのだろう、膝を着き、ぜぇぜぇと荒い呼吸で見張り番が言う。
そして、がばりと身を起こして、再び叫んだ。
「か、っ片倉、様が!お戻り、に!!」
――聞くが早いが。
彼が言い終えた時には、既に政宗はその真横を走り抜けていた。
余りの素早さに、政宗の隣にいたはずの医師が引き留める間も無い。
突き破る勢いで陣幕が翻り、実際に陣幕の端が破れる。
大慌てで全員で政宗を追いかける。
いの一番で走るのは、良直たち四人だ。
政宗の傷は、勿論塞がっていない。
そんな状態だというのに、四人から見た政宗の姿は、驚くほどしっかりとした背中だった。
政宗を追いかける中で、力強い馬の蹄の音が聴こえ、途端に前方を行く政宗の足も急く。
そうして、不意に馬のいななきが轟く。
それが間近で聴こえて、追う兵たちの顔も若干明るくなった。
「政宗、様?」
兵たち全員が、待ち人を視認した時。
その身体に飛び込むように、政宗が抱きついていた。
「――――っ遅ぇ!!」
開口一番、放たれた言葉は、粗暴そのものだった。
武将と家臣のそれではない、心からの言葉か、或いは。
その言葉に唖然とした小十郎だったが、政宗を追って来た兵たちを見止めて慌てて引き剥がした。
「政宗様、」
「言うことが、あるんじゃねぇのか」
小言を言いたかったわけではないが、隻眼で睨みながら遮るように言われてしまっては、言葉の継ぎようもない。
少し離れたところから部下が見ている。
しかし、ここで後回しにするのは、副将として――否、彼の思い人として、男が廃るというものだ。
「ただいま、戻りました」
言って、そっと抱き締める。
応えて抱き締め返した政宗が、小十郎の肩に頭をぐりぐりと押し付けた。
その理由を察して、小十郎は苦笑しながら後頭部を撫でる。
「首尾は」
「はっ。竹中半兵衛及び、率いていた部隊は全滅させました。
政宗様においては、豊臣秀吉を撃破されたという報せ、聞き及んでおります」
「Of course.……good work」
肩に顔を埋めたまま、震える声を隠すようなくぐもった英語が聞こえて、小十郎は苦笑した。
余程待たせてしまったのだろう。元来の政宗なら、怒りと後悔で荒れ狂っているところだ。
それらも通り越してしまえば、いつもの“cool”はどこへやら、歳相応の態度になる。
今回は、その場合だったらしい。
兵たちが見ているのは知りながら、背中を撫でたり頭を優しく叩いたりしながら宥めていると、政宗の抱き締めていた手が緩む。
離れるのかと力を抜くと、政宗が顔を上げた。
「城に、帰ったら」
ぼそり、呟く。
「嫌ってほど、甘やかせよ」
OK?と念を押され、小十郎は政宗にしか向けない優しい笑みで、しっかりと頷いて見せた。
「埋め合わせなどでは、有り余るほどに」
形のいい額に口付ければ、満足したらしい政宗が艶やかに微笑う。
微笑った、次の瞬間。
がくり、と膝が折れる。
抱きついていた腕が一気に脱力し、小十郎は慌てて細い身体を支えた。
遠巻きから見ていた兵たちが政宗を呼びながら走って来るが、それより先に小十郎の顔が青冷める。
見てはおらずとも、豊臣との戦いが熾烈を極めたものだったのは聞き知っている。
すぐにでも身体を横たえたかっただろう、なのにこの主は、自分の帰りを待っていたのではないか。
ぐったりと気絶した政宗を姫抱きした小十郎は、馬に飛び乗って、見えた自軍の陣へと駆けて行く。
不躾にも、湧いて来る笑みを押し殺しながら。
後日。
あの笑みは、戦だったから見なかったのではない――小十郎がいなかったから、見ることが出来なかったのだ。
四人がそう気付いたのは、奥州に帰って、治療を受けながら聞く小言に、笑みを浮かべる政宗を見てからだった。