ふざけるな、自己中、バカ、アホ、自分勝手、自由人、寝ぼすけ、不良、頭パー、女々しい、ハイテンション、甘党、幽霊、怨霊、呪怨モドキ、グロい、親友不幸(親不孝みたいな)………Etc.

阿実への悪態を散々並べながら、泣きそうに歪む紗良の表情。
涙こそ流していないものの、桂太と葵がそんな紗良を見るのはこれが二回目だった。

一回目は、イタリアへ行く阿実を空港まで見送った日。


「俺らのこと大好きとか言ってたクセに、何で離れてくんだよ‥っ」


二人はただ、黙って紗良の両隣に寄り添う。
あの日遠く離れて行った阿実は、冷たくなった姿で三人のすぐ目の前にいる。

(なー阿実。お前のだーい好きな紗良、泣いてるぞ?起きるなら一番タイミング良い今にしとけって)

桂太はすぐ傍にある存在を確かめるように、阿実の蒼白な頬に手を伸ばす。
しかしその氷のような冷たさに触れた途端、伸ばした手はあっという間に引っ込められた。

(今日は二人みてーに俺も甘やかしてやるからさ、冗談抜きで起きてくれよ…)

「額の傷さえ隠せば、まるで眠ってるみたいですね。…いきなりこんなの見せられて、阿実さんの死を受け入れろってほうが無理ですよ」

葵も阿実に手を伸ばし、眉間の穴を隠すように前髪を額の中央に寄せた。
その際指先が穴に触れそうになり、葵が肩を震わせたのに二人は気づかない振りをした。


「でも、残念ながらそれが真実です」


三人が開け放していた扉から、タイミングを見計らったようにリオが現れた。
その手には、鍵のついた少し厚い装丁の本を抱えている。

「か、栫井…?」

「貴方達がどれほど真実に近付けたのか、答え合わせをしましょうか」

本の鍵を外し、まるで生徒に質問を投げ掛ける教師のようにリオは言う。
リオは阿実の死体を挟んで、三人の正面に腰を下ろした。



「この本…いえ、阿実サンの日記はこう始まっています。

『紗良と桂太と葵に、いっぱいいっぱい嘘を吐き続ける日々は終わった。』

…と」



彼は詩でも朗読するように、静かに語り始めた。


嘘から始まる
(それは、信じられない答え合わせ)