ある日の夕方。
冬も随分と深まって雪が深々と降る中を、受験勉強の息抜きと称して日が暮れるまで四人は遊んでいた。

「さーちゃん寒い」

「紗良さん寒いです」

長い時間外にいれば、当然だが体は芯から冷えてしまう。
阿実は紗良の右手を、葵は紗良の左手をそれぞれ握りながら暖をとろうとしていた。
紗良はやんわりと二人を引き剥がそうとするが、二人は紗良の手を握る力を強めて離そうとしない。

「くっつくな。動きにくい」

「すげーな紗良、ハーレムじゃん」

「すげーって言うなら、お前がコイツら引き取れよ」

二人の手を振りほどこうと苦戦する紗良を見て、桂太がニヤニヤと笑う。
両手を二人に塞がれながら、紗良は恨めしそうに桂太を睨んだ。

「えー、桂太はやだ。紗良の方があったかいもん」

阿実が紗良の腕に頬を寄せるところを見て、葵は微笑ましそうに笑う。
口で何だかんだ言っても、結局は紗良も満更でもなさそうな表情をしていた。

「今日はかなり指先冷やしましたからね」

「なら雪だるまなんて作らなきゃ良かっただろ。しかも四つも」

「だって…」

「だってじゃねぇよ」

紗良がピシャリと言うと、阿実は唇を尖らせた。
その姿は親に叱られた小さな子供のようで、桂太はニヤニヤと口元を歪ませる。

「だってじゃねーよ」

「いや、そう言う桂太さんだって雪だるま作り参加してたじゃないですか。しかも嬉しそうに」

紗良の真似をしてそう言う桂太に葵がツッコミを入れると、阿実に続いて桂太も不貞腐れた表情になる。

「そもそも、三人で雪だるま作り出したキッカケは桂太だもんな」

「おっきい雪だるま作ってマフラーまで巻いちゃって、『これ、この雪だるま俺!』だもんねー」

紗良の言葉に便乗して、ここぞとばかりに阿実は訴える。
桂太はばつが悪そうに視線を反らし、そっぽを向いてしまった。

「それにあのマフラー!あれ、私が誕プレであげたヤツだしさぁ」

「…そうだっけ?」

「それに、桂太さんのその発言のせいで三体も追加で作ったんですよね」

クスクス笑いながら葵も阿実の加勢をすると、拗ねたような桂太の表情に紗良が苦笑いを浮かべた。
桂太に似せて頭部をツンツンと尖らせた大きな雪だるまに向かって、桂太が言った言葉。

これは俺の雪だるま。

その言葉に阿実と葵は反応を示した。
桂太があるのなら、自分たちの雪だるまも作って並べよう…と。

―でーきたっ―

―ようやく完成ですね―

天然パーマな阿実の髪を模して、頭部にくびれのある雪だるま。
紗良に似せて、葉っぱで出来た目をつり目にした雪だるま。
葵のふんわりとした癖毛を作ろうとして、頭部が歪な形の雪だるま。

そんな三体の雪だるまが、桂太の雪だるまの横に並べられた。

更に付け加えると、阿実と葵がそれらを素手で作ってしまった為に物語は冒頭へと戻るのだが。


雪だるま・マフラー・帰り道


(おはよー桂太。…って昨日の雪だるま、ちゃんと残ってるね)
(まだ一晩しか経ってねーからな)
(そーだね。ほら、紗良と葵待ってるからそろそろ行こ?)