前日の夜、葵くんは天気予報を確認しました。
「明日の天気は晴れでしょう」
ああ、それなら安心ですね。
葵くんは鞄に入れようとしていた折りたたみ傘をしまいました。
折りたたみ傘を入れなくて済むので、明日は鞄が少し軽くなりそうです。
同じ頃、紗良ちゃんはケータイで天気予報を確認していました。
明日の天気:晴れ
良かった。
もし外れたとしても、阿実の傘に入れてもらえば良いや。
お母さんに呼ばれ、紗良ちゃんは夕飯を食べにリビングに向かいました。
次の日の朝。
阿実ちゃんは朝のニュース番組で天気予報を確認しています。
「今日の天気は晴れでしょう。…しかし、午後はにわか雨が降るかもしれません」
にわか雨かぁ…。
大したことないだろうけど、一応傘は持っていこう。
阿実ちゃんは昨日鞄から出した折りたたみ傘を再度鞄に戻しました。
一方その頃、桂太くんは爆睡していて夢の中にいました。
昨日も今日も天気予報を見ていない桂太くん。
一体大丈夫なのでしょうか?
そしてその日の6時間目の授業中。
ポツポツと、かすかに外から雨音が聞こえてきました。
葵くんは考えます。
阿実さんか紗良さんは傘を持って来てるでしょうか?
そもそも桂太くんは眼中にありません。
紗良ちゃんも考えます。
えっと…Xがなんだって??
あ、そうだ傘!阿実は傘持ってるよな?
阿実ちゃんも考えます。
ふわぁ…眠い。
雨、帰りのHRまでに止むといいなぁ…。
桂太くんは居眠り中でまたもや夢の中にいます。
むにゃむにゃ…腹一杯でもう食えねぇって!吐くぞマジで!!
…彼、色々な意味で大丈夫でしょうか。
帰りのHRが終わり、生徒たちはそれぞれ家に帰りはじめます。
今日は週に一度の放課後の部活がお休みの日で、紗良ちゃんも桂太くんも不服そうです。
まだ雨の降り続く外の様子を見て、紗良ちゃんが動きました。
「なぁ阿実、傘持ってる?」
「うん。持ってるけど…紗良忘れたの?」
「忘れた」
いやいやいや。
潔いのは悪いことではありませんが、そのドヤ顔はどうなのでしょうか。
「忘れたって…」
「だからさ、傘入れてくれないか?」
「折りたたみだから狭いけど、それで良いなら良いよ」
「じゃあ頼む!」
ガラガラ。
トイレに行っていた葵くんが荷物を取りに教室へ戻ってきました。
「あ、丁度良かった。阿実さん、紗良さん、傘持ってませんか?」
「なんだ、お前も忘れたのか?」
「お前"も"って…二人とも忘れたんですか!?」
葵くんは少しがっかりした様子で阿実に視線を向けます。
しかしまだ一縷の望みに縋ろうとするようなその視線に、阿実ちゃんは苦笑いを返します。
「私は持ってるよ」
「で、俺が先約で傘一緒に入る約束取り付けたからな!」
「!そ、そうですか」
葵くんは何故かキラキラ輝いた目で二人を見つめます。
阿実ちゃんと紗良ちゃんは寒気を感じて顔を見合わせます。
「紗良さん×阿実さんで相合傘…ふふふ、良いですね百合萌え最高です百合萌え!!!!!
(じゃあ傘に入らなくても良いんで、一緒に帰っても良いですか?)」
「もしもーし、本音と建前逆になってるよ。あと涎垂れてる」
「え?ああ失礼しました」
「キモいから近づくな変態」
「んー…よくねた…」
三人の騒ぎの中でぐっすり眠っていた桂太くんが、ようやく目を覚ましました。
あ、いや別にナレーションの中で彼の存在が忘れられていた訳ではないのでご心配なく。
「おはよ桂太、もう帰りのHR終わっちゃったよ」
「ふわぁ…マジか…なら、帰ろーぜ」
「雨降ってるますけど、桂太さん傘持ってます?」
「は?飴?」
「その"あめ"じゃないです。空から降ってくる方の雨ですから」
「実際飴が降って来たら雹みたいで痛そうだよね」
「地面に落ちたら衛生的に食いたくねぇし」
「その前に紗良は元から甘いの好きじゃないじゃん」
どんどん脱線していく話を軌道修正しようと、葵くんが仕切り直します。
「で、その飴の話は良いから傘をどうします?」
「あー俺傘持ってねーや。お前ら誰か持ってねーの?」
「阿実以外全員忘れだ」
「揃いも揃ってそれってどうなの?」
「俺ららしくて良いんじゃね?」
「桂太のその楽観主義もどうかと思うよ」
「だ・か・ら!傘ないけどどうします?私は紗良さんと阿実さんの相合傘が見れたらそれで充分です!」
最後の良心かと思われた葵くんも本音と欲望丸出しです。
グダグダと話しが進みません。
「つーかさ、四人で傘入ればよくね?」
「私の傘折りたたみだから狭いんだって」
「!じゃあ密集して歩けb…」
「何ニヤけてんだ変態」
そこでふと時計に目をやった阿実ちゃんはあることに気付きました。
「ごめん、見たいドラマの再放送始まるからそろそろ帰りたいんだけど」
「ドラマってお前…」
「けど三人も放っとけないし、狭いけど四人で相合傘して帰る?」
思わぬところで最後の救世主は阿実ちゃんでした。
そそくさと歩き出す阿実ちゃんの後に三人が続きます。
「背高いんだから男子のどっちかが傘持ってよね」
「じゃあ私が持ちますから、桂太さんそれ写メってくれます?」
「桂太、お前が持て」
「えーメンドk」
「持て」
「…ハイ」
水色の傘