まずは今回、生まれて初めて真面目にSFを書くに当たって、博報堂生活総合研究所の
未来年表を中心に色々な資料を当たり、それっぽい設定をいくつか作ってみました。
今作の目標は「長編を書けるくらいしっかり作った設定をいかに消化し短編として仕上げるか」&「極力説明っぽくせず自然に作中に織り交ぜる」というところにありまして、それゆえせっかく作った設定を細かく説明できなくて悲しかったので(笑)、作外でちょっとだけ解説しておきます。
【設定解説】
▼HINE
Human Integrated Network(人類統合ネットワーク)の頭文字を取ってHINE。
作中では「ハイネ」と呼称。「ハイン」と呼ばせるか「ハイネ」と呼ばせるかで悩んだものの、より人名っぽく中性的な響きの後者に決定。
2040年、地球に現れた異星人が人類に提供したオーバーテクノロジーで、のちに全人類の接続が義務づけられた地球規模の巨大ネットワーク及びそれを管理するAIのこと。
1人当たり1PBもある人間の脳内のデータをネットワークを通じてすべて保存・記録しており、2078年には世界総人口が100億人を突破していることを考えると、地球の技術では到底実現不可能な超巨大容量を誇っていることが分かる(1YBがだいたい10億PBなので最低でも10YB。現代の技術では1YBのHDDを作ることすら不可能)。
なお既に故人となった人間のデータも保存されている。着想はPS4用ゲームソフトの『NieR:Automata』。この作品に登場する機会生命体がネットワークで接続され、全であり一という体系をなしているのを見て「これが人間だったらどうなる?」と考えたのがきっかけ。
ちなみに第5話に登場したアンドロイド「ハイネ」のビジュアルは『NieR:Automata』に登場するアンドロイドと、これの前作に当たる『NieR:Replicant』の登場人物「カイネ」を掛け合わせたオマージュ。機械人形であること、カイネと名前が似ていること、カイネも両性具有の白髪キャラであることなどが理由です。
▼ホモノイア
HINEによる人類統合を可能にしているナノデバイス。
満6歳を迎えた人間は全員これを脳にインプラントすることが国際法で義務づけられているものの、実際に全機能を使えるようになるのは12歳になってから。
小児の脳に対してネットワークから得られる情報が膨大すぎるため、一挙に機能を解放すると脳の情報処理能力が追いつかない。ので、当人の成長に合わせて機能が限定解除され、さらに8〜12歳までの初等教育でHINEの基本的な使い方を学ぶ(ネットワークの発達により学問を教える必要がなくなったので、小学校に通う期間は4年のみ。またこれに伴い全国すべての学校が小中高一貫校になった)。
HINEを通じて常時脳内のデータをネットワーク上にアップロードしており、そのデータの一部はターミナル(脳内公開領域)で他者も閲覧可能。
名前はギリシャ神話の和合の女神ホモノイアから。
人類の学名である「ホモサピエンス」とも通じるところがあるのでこの名前に。
和合、つまり「みんな仲良く一緒に暮らそうね」という願いを込めてつけられた名前。
▼ROM
Report Of Minds(感情記録)の略。「ロム」と読む。
人間の感情を常時HINEがホモノイアを通じて言語化したもの。自分のROMはもちろん他人のROMもターミナルにアクセスすることで閲覧することができる。閲覧の際はホモノイアと連携しているスマートウォッチやARを使って画面に表示するのが一般的。
もちろんあくまで「感情の記録」なのですべての思考がここに載るわけではない。
特に秘匿すべき個人情報(たとえば住所とか暗証番号とか)はHINEがきちんと管理しているため、頭に思い浮かべてもROMに載ることはない。もちろん他人に自分の思考を覗かれたくない場合はロックをかけて非公開措置を取ることもできるが、非公開にしていてもデータ自体は常にHINEには送られている(他人が自由に閲覧できないだけ)。
作中には出てこなかったものの、公開対象を指定した限定公開措置も可能。
自分の思考が(秘匿されるべき個人情報を除いて)常時自動でTwitterに投稿されるようなものと考えてもらえれば分かりやすいかと。
ただし個人のターミナルへアクセスするには相手の実名とIPアドレスを知らないといけないので、まったく知らない赤の他人の脳内を勝手に覗くことはできない。ただし相手と直接的な面識がなくとも、閲覧申請すれば理由によっては承認される場合もある。
なおRead Only Memory(読み取り専用メモリ)の略であるROMともかかっている。
▼BENS
Benevolence Score(善行得点)の略。「ベンス」と読む。社会奉仕することでHINEから付与されるポイントのことで、作中社会における通貨の代替品。もちろん悪いことをすれば減る。銀行等に預ける必要はなく、増減は常にHINE上にて管理・記録されている。
アメリカ英語のスラングで「大金」を意味する「Bens」にもかかっている。
具体的には他者を助けたり社会に貢献したり、人を喜ばせたりするともらえる。
逆に他者の心身や名誉を意図的に傷つけるようなことをすれば減額される。
どの国でも政府の生活保障制度により働かなくてもこのBENSが毎月支給されるが、作中社会ではほとんどの公共サービスが無償で受けられるのでかかるのは食費くらい。
なので生保でもらえる額は基本的にそう多くない。
それでも質素に生きていく分にはまったく問題ない額なので、働かず死ぬまで家に引き籠もり、自宅とVR世界を行き来するだけの人生を送る人が多数存在する。しかし高い家に住もうとしたり、ハイテク家電を買ったり、娯楽・文化施設を利用したりするのにはBENSが必要なため、より贅沢な暮らしをしたい人は労働に従事してあくせくBENSを稼ぐ。
▼PES
Personal Evaluation Score(個人評定)の略。「ピース」と読む。平和を意味する「Peace」と「欠片・部品」を意味する「Piece」とかけるために「ピース」。PESを意識すればするほど社会は平和になるし、人間ひとりひとりが社会を構成するピースなので。
具体的には「社会貢献度」「人格(善良度)」「能力」の3点を見て評価され、300点満点で表される。「社会貢献度」は読んで字のごとく。「人格」は普段の言動、「能力」は身につけた技能(家事スキルといった普遍的なものから勉強しなければ身につかない専門的技能まで)の練度や多さによって評価。評価者はもちろんHINE。
ROMと同じく実名とIPアドレスが分かれば誰でも閲覧可能。
なお就職や婚活ではまずこのPESが人選の基準となるため、PESが著しく低いととかく生きにくい。ROMと並んで対人恐怖症の引きこもりが増える一因でもある。
でもHINE的には社会に適応できない出来損ないの人間は淘汰されるべきであり、能力や社会性の低い個体は人類の未来のために子孫を残すべきではないので、一生結婚もできずに引き籠もっててくれた方がいい。ので、残酷ながら超合理的なシステムだったりもする。
▼CSCO
Citizen Safety Control Organization(市民安全管理機構)の略。「クスコ」と読む。
管理員と呼ばれるアンドロイドが主体の組織で、民間の治安維持に努める。
と言ってももちろん非武装。HINEを通じて犯罪予備行為や感情が暴走しそうな人間を瞬時に発見・特定し、補導という形で一旦社会から隔離する。
その後、補導要因や本人の態度によって厳重注意のみですぐに解放するか、カウンセリング等の対策を提示した上で経過観察する(2話の志麻田はこれ)か、更正施設に入れて保護観察する(3話の笹木がこれ)かが決定される。保護観察扱いになった人間については、施設で最低限の生活を保障しつつ本人が改心して社会に適応できるよう支援。
逆に武力行使による鎮圧等が必要な事態(HINEによる監視が絶対的すぎて滅多にないけど)が発生した場合はCSCOではなく警察が対応することになっている。
なお4話の四坂が5話でCSCOドロイドを破壊したことが明かされているが、基本的にはアンドロイドの破壊も罪に当たる。ただしこれは
意図的に危害を加えようとした場合にのみ適用される罪で、四坂はあくまで自衛のために鈍器を振り回していたら結果としてアンドロイドを破壊するに至ったので、ホモノイアの電気ショックを食らわなかった。
▼アタナトスポリス
全世界どこからでもアクセスできる仮想現実空間。
略して「ポリス」と呼ばれることが多い。VRデバイスを装着することで現実世界と行き来することができ、現実では技術的・物質的に実現不可能なサービスも受けることができる。
仮想世界にもうひとつ、架空の地球があるような感じ。
物理的に移動する必要なくバーチャルでの旅行等も楽しめるため、たとえば1話に登場したジョージのカウンセリングルームもポリスにアクセスすればどの国からでも利用可能。
なので実はジョージは日本人だけでなく色んな国のクライアントを抱えている(ただし日本社会の改善を主目的としているので、予約は日本人優先)。
とは言えVRはあくまでVRであり、当然飲食をしたりセックスをしたりはできない(味もにおいも感触も感じないが擬似体験はできる)。にも関わらず世界中で引き籠もりが激増しているため、擬似恋愛サービスが絶大な人気を誇っており、バーチャルの世界で架空の相手と架空の結婚をして満足して一生を終える人間があとを絶たない。擬似恋愛のパートナーは基本的に利用者にとってストレスのない言動しかしないから、というのも理由のひとつ。
名前の由来は「不死」を意味するギリシャ語「アタナトス」+「都市」を意味するギリシャ語「ポリス」。VR世界は滅ぶことも劣化することもないのでこの名前。
▼HULIA
Human Liberation Army(人類解放軍)の略。
「ヒュリア」と読む。HINEによる絶対的な監視が実現した世界で唯一のテロ組織。
ホモノイアのインプラント手術を受けていない人間によって構成されているため、構成員はHINEに接続されておらず、ゆえにテロを遂行することができている。
彼らのようにHINEに接続されていない人間を「ヘテロ」と呼ぶが、これはHINEと人間をつなぐホモノイアの「ホモ」の対義語が「ヘテロ」だから。英語の「ホモ」が「同一・類似」という意味なのに対して「ヘテロ」は「異なるもの」の意。
世界がHINEの導入を受け入れたとき、最後までこれに抵抗しホモノイアの移植を拒んだ人々が武装して身を守ろうとしたのが発端で、以後、構成員同士が生んだ子どもや隔離施設から拉致したSADD患者によって増員を続け組織を維持している。
テロ遂行に不可欠な独自の科学技術を有しており、戦闘員だけでなく技術者や科学者も多数所属。ホモノイアを持つ人間ひとりひとりが言わばHINEの目として社会監視の機能を果たしているため、これを掻い潜るためのハッキング技術やジャミング技術、HINEに対抗する独立型AIの開発、それを搭載したアンドロイドの製造など結構手広く活動している。
異星人は地球を征服する足がかりとしてHINEを押しつけていったんだ!!という陰謀論を純粋に信じている人や、単純に今の社会の在り方を受け入れられない人、生まれたときから親兄弟に「HINEは悪」と洗脳されて育った人など、構成員の動機は様々。
でも陰謀論支持者の人々は「自分たちがHINEに屈服することなく戦い続けているがゆえに異星人はまだ地球を征服できずにいる」と本気で信じているのである意味おめでたい。
普通に考えてこんなオーバーテクノロジーを持った知的生命体なら、世界総人口の1割にも満たない組織なんかさっさと皆殺しにして地球征服できると思います。
▼SADD
SuperAlloy Denial Disease(超合金拒絶症)の略。「サッド」と読む。ホモノイアに使われる地球外由来の超合金「オリハルコン」に対するアレルギーで、これを持って生まれると体質的に接続手術が受けられないため、必然的に非接続民(ヘテロ)となる。
よって「社会に参加することすらできない運命を背負った悲しみ」という意味も込めて「悲哀」を意味する英語「sad」とかけた。
このSADD患者は当然ながらHINEの絶対的な監視が行き届かないため危険視され、治療施設とは名ばかりの隔離施設に収容されている。
一応長くて面倒な申請作業と適性試験をパスすれば施設を出て暮らせるものの、苦労して外に出ても差別と冷遇が待ってるだけなので、望んで外に出る人は稀。
ただ施設の中で根治のための研究が行われているのは本当だし、施設内もひとつの小さな町のようになっているので、ほとんどの収容患者が一生出られないことを除けば最低限の人権は守られている。施設のモデルはオランダの認知症患者介護施設
ホフヴェイ。
▼阿万テラスフロート
本作の舞台となっている海上浮遊都市。一応宮城県に所属する自治体のひとつ(新奥羽市)ということになっている。飛行機による本土との行き来が可能。
モデルは清水建設蒲lの
GREEN FLOAT計画。こちらは赤道直下の気候を利用して、四季のない安定した環境制御と自給自足の生活を実現する海上都市を築こうという計画。
ただ日本人は四季と共に生きてきた民族なので、この街で暮らすことに抵抗を覚える人もいるだろうなーということで作中では太平洋に。タワーはドームで蓋をして、AIによる環境制御ができているという設定にした(なおドームは開閉可能)。
沖に浮かべることで地震や津波といった災害は回避でき、台風接近の際は洋上を移動して直撃を回避するという機能も備わっている。
タワー内の気温は常に一定に保たれているが、人工大地に出れば四季を感じられるし、フロート部外縁には人工ビーチや魚介類の養殖場があったりもする。
約1000mの第1タワー(245階建)が一番高く、第2〜第6タワー(212階建)は約800mの高さを誇る。タワー中層に各種施設や商業区、企業等が集中し、上層が居住エリア。
下層には都市機能を維持するための設備や食糧プラントがあるものの、こちらの管理はすべてAIが行っているので人間はほとんど立ち入らない。
既に世界中で人工食品が主流となっているため、都市単位での自給自足が可能。肉も魚介もすべて穀類や野菜等で作られた模造品なので、植物さえ育てば食糧は賄える。よってタワー内に畜産施設はなく、本物の肉や天然の魚介は本土から取り寄せないと食べられない。
名前は言うまでもなく日本で一番有名な神様「アマテラス」のもじり。こういう高層ビルには「〇〇テラス」っていう名前が多いので。新時代を拓くハイテク都市が、アマテラス様のように人々の未来を明るく照らしてくれますように、という願いが込められている。
▼アンドロイド
AIゆえに実体を持たないHINEの手足。個体ごとに独立したAIを持っているわけではなく、世界中に存在するすべてのアンドロイドをHINEが操縦・管理している。
用途別に必要な技能に特化したアンドロイドと、何でもこなせるオールマイティなアンドロイドの2種類がいる。もちろん後者を買おうと思ったらめちゃくちゃ高い(ので購買者が非常に少なく完全受注生産)。でも家事専用アンドロイドと性処理専用アンドロイドを別々に買おうと思ったらそれはそれで高い。つまりどちらを買うにせよ、社会貢献しまくってリッチな暮らしをしている人々しか買えない高級品。
なお阿万テラスに限らず全世界で、それまで人間が担ってきた労働の大半をアンドロイドが担っており、だからこそ人類は働かなくても国の保障だけで生きていける。
食糧の生産も土木建築も公共交通機関の運行も全部担当しているのはアンドロイド。
逆に人間ができる仕事の方が少ない。
作中で人間とアンドロイドを区別するために登場するLEDチョーカーは、PS4用ゲームソフト『Detroit Become Human』から着想。額にくるくる回るLEDだとモロパクリになってしまうので、チョーカーというちょっとオシャレな感じにしてみた。機体の置かれた状況や状態によって青→黄色→赤と色が変化するあたりは完全にデトロイトリスペクト。
なお全アンドロイドを操縦するHINEは当然というべきか既にシンギュラリティ(技術的特異点)を迎えており、人類が今後何億年かけて進化しても辿り着けないほどの知能を有している。が、そもそもHINEの存在意義は「人類のよりよい未来を築く手助けをすること」と定義(プログラム)されているため、SF作品でよくある「機械の反乱」は起きなかった。
とまあ、物語の根幹に関わってくる主要な設定についてはこんな感じです。
そしてここまでで既に7000字書いてしまい、字数制限の都合上あと3000字くらいしか書けないので、各話の解説については箇条書きになります……。
【各話解説】
・登場人物同士に関連はないけど全話つながって輪になる構成。そうすることによって「世間は狭い」「社会は必ずどこかでつながっている」「人間はひとりで生きているわけではない」……つまり人類とは常に不可分な存在である、というテーマを表現しました。
・あと日本社会の問題点(時事ネタ)にも敢えて多めに触れました。日本批判のためではなく、今の私たちが暮らす社会の問題について考えるきっかけになればと思っての試みでしたのであしからず。
・1話は世界設定と作品全体の雰囲気を伝えるために、作中社会がもしも実現したら誰もが真っ先にぶつかるであろうROMの壁を題材に。人間とAIの決定的な差を一番最初に強調しておくことで後ろの話を分かりやすくする狙いがありました。
・ケントのお父さんがアメリカ人なのは、作中での日本社会と欧米社会の差を書いておきたかったからというのと、国際結婚が当たり前になっている世の中だということを示唆しておきたかったからというのが大きいです。
・YouTubeに代わる動画サイト「BRIZONE」やSNS「ECHO」は、あとの話でも出るかなと思ってわざわざ名前まで決めたのにほとんど出なかった……(笑)
・BRIZONEの名前の由来はギリシャ神話の夢の女神Brizoと、英語で「領域」を意味するZoneを組み合わせた名前。夢のように楽しいひとときを提供する動画サイト。
・ECHOの名前の由来もギリシャ神話に出てくるニンフの名で「木霊」を意味するEchoから。TwitterとLINEを合体させたようなSNS。文字で人と会話するためのコミュニケーションツールなので「相手が木霊のように呼びかけに応えてくれる」という意味で「エコー」。
・2話で登場したエレベーターは無料で乗れる。というか公共サービスは基本無料で受けられる世界。エレベーターとは名ばかりのバスみたいなイメージ。
・赤子の頭をいきなり開いて移植手術なんて無理だよなーというところから「手術可能年齢に達するまで子どもは非接続」という設定が生まれ、未来の世界でも子育ての苦労は大して変わらない→子どもの幸せを願う気持ちと親のエゴは紙一重、という部分を書きたかった。
・そもそも大人は相手の頭が覗けるのが当たり前の生活をしてるわけだから、何を考えてるのかまったく分からない子どもを育てるのは今以上に難しいと感じる人が多いかも。
・陽の問いかけに対してHINEが返したERRORは、どれだけ人類の感情データを収集しても「幸せ」や「いい母親」の定義が人によって違うので、統計だけでは定義を確定できない→だからまだ情報収集が不十分、という判断によるものでした。
・3話はほぼ設定説明回だったけど書いてて一番楽しかった(笑)
・3話の主人公・笹木は人生がうまくいかない原因を他人や環境のせいにして、自分から変わろうともしないクズ。でもこんなクズでもやっぱり善悪併せ持つ人間だから、4話での古戸との出会いをきっかけに変われる可能性もある、という希望を演出したかった。
・4話に登場した『Rodi』の名前の意味はギリシャ語の「ザクロ」。ギリシャ神話における冥府の神ハデスが、ペルセポネを無理矢理妻にして冥府から出られないようにと食べさせたザクロに由来する。お店の料理を食べたお客さんがその味に魅了され、リピーターになってくれるようにという願いを込めて。
・古戸の名前の由来もローマ神話におけるハデスの名前「プルートー」のもじり。従業員のアンドロイドの名前も、ハデスに仕える双子の神タナトスとヒュプノスのローマ神話名「レトゥム」と「ソムヌス」から。
・4話の主人公の四坂は意識高い系の勘違いおじさん。言ってることは半分正しいんだけど「自分がこの世で一番正しい」「自分は特別で優秀な人間だ」という思い込みが常に根底にあるせいで、実際は人の気持ちなんて1ミリも理解できてなかったというオチ。
・ちなみに四坂のおうちは居住エリアの下の方。家もかっこつけた言い方してるけど2DKの平屋。でもそんな現実を本人は認めたくないだろうから「目を背けている」という部分を表現するために敢えて書かなかった。61歳で独身なのも「結婚しなかった」のではなく「結婚できなかった」から。
・ちなみにHINE社会に移行する前に個人が持っていた資産はBENSに換算された(もちろんそっくりそのまま全額ではなく、PESによって換算される割合が決まった)ので、四坂は金持ちだった親からHINE導入前に相続した資産のおかげで今も辛うじて贅沢ができているという設定。つまり人のスネ囓って生きてきたのはコイツも同じ。
・なお古戸は四坂の本質を見抜いた上で扱い方を心得ていた要領のいい人。ザ・客商売。
・第5話は1〜4話までに提示したすべての疑問(テーマ)の答えのつもり。
・希は元々性自認が男でも女でもないバイセクシャルだったから、男に性転換するのではなく汎化処置をした。名前も汎化前は「のぞみ」だったのを、結愛と結婚したときに敢えて「のぞむ」と読むように変えたという設定も。
・「汎」という性別はオーストラリアのSF作家グレッグ・イーガンの『万物理論』に出てくる性別で、これを拝借。
・SADD発症の経緯は、科学的に考えればオリハルコンが長期的にヒトの細胞に触れることで遺伝子に変化が起きた、ということになるのでしょうが、さてはて真相やいかに……と、HINEではなく読者に未来予測を託して物語は幕を閉じます。
そして最後にひと言。
作者は蔵王の麓で育ったけど、蔵王牛、食べたことないです……(完)