竜人
竜人はエマニュエルの北西大陸南部、ラムルバハル砂漠の南に棲息する獣人。「ドラゴニアン(「竜に似た者」の意)」と呼ばれるが、実際はRPGとかによく出てくるリザードマン(トカゲ人間)に近い。狩猟性の戦闘民族。
1.分布
ラムルバハル砂漠の南に広がる岩石砂漠、通称「死の谷」に部族ごとの集落を形成して棲息。谷には全部で7つの部族があると言われており、東のトラモント黄皇国や西のルエダ・デラ・ラソ列侯国との国境付近、また南のシャールーズ川の河畔など、谷のあちこちに広く分布している。
2.形態
エマニュエルに多数存在する獣人の中でも特に体が大きい種族で、身長はおよそ2m、体長は3〜4mにも及ぶ。体重は400〜500kg。長い首と尻尾を持ち、頭頂から背中にかけて馬のような鬣を生やす。
鱗や鬣の色は個体によって異なるが、鱗は黒、黒緑、褐色、鬣は緋色、枯草色、茶色が最も多い。
両掌と腹部を除く体のすべてを硬い鱗で覆われており、並の人間の膂力では刃物で斬りつけても傷つけることができない。鱗に覆われていない掌や腹は白くやわらかい皮膚が剥き出しになっているため、竜人の数少ない弱点の一つとされる。
手足の指は三本。いずれも鋭い爪を有する。
また目には瞼が二枚あり、一枚はガラスのように透明で閉じたままあたりを見渡すことができる。これは地中・水中に潜って獲物を待つ際、砂や水の中でも視界が得られるよう進化したため。
なお「竜人」と呼ばれてはいるものの、竜と似ているのは頭部と鬣のみで、竜のように角や翼は生えていない。また他の獣人のように獣化(人型から獣の姿に変化すること)することができず、常に人型。間違っても竜にはならない。
3.食性
見た目どおり肉食。獣肉・魚肉問わず肉なら何でも食べるが、主食は人間。次点で狩りの対象となることが多い生き物にラクダ、オリックスなどがいる。
オスの成体は1日に20kgもの肉を食べ(人間の成人男性の食物摂取量/日は1.5kg程度)、空腹時には仔牛を1頭丸々たいらげることも。ただし狩りによって得られた獲物は群の中で平等に分配されるため、よほどの大猟時でなければ20kgもの肉にありつくことはできず、大抵の竜人は常に腹を空かせている。
また、砂漠では食糧が非常に貴重なため、保存食を作って蓄える習性もある。それ以外に調理らしい調理はせず、基本的には生肉至上主義。
4.特徴
見た目は完全に爬虫類だけど恒温動物。鬣以外に体毛を持たないため砂漠の暑さには強いが寒さに弱い。気温が氷点下まで下がることもある夜の砂漠ではヘタをすると凍死する恐れがあり、それを避けるために夜間は砂の中に潜って休息する。「ネダ」と呼ばれる竜人の巣には大抵あちこちに小さな砂山が見られるが、それらは彼らの寝床であり、夜は素っ裸でその砂に潜って眠るのが竜人ライフ。
なお砂や水の中に潜っている間は鼻孔を閉じて呼吸を止めることができ、1〜2時間は無呼吸で活動できる。これは竜人の心臓がワニと似た作りをしており、息を止めている間は血液の肺循環を省略して酸素消費量を抑えることができるためである。
また、体内に「
液嚢」と呼ばれる器官を持っており、そこに水分を長時間保存しておくことができる。いわば体内に水筒を常備しているようなもので、竜人が砂漠で何日も水を飲まずに動き回れるのはこのため。
液嚢に蓄えられた水分が少なくなると鼻の頭が白くなるが、これは体内の余分な塩分を鼻から体外に排出し、体内の塩分濃度を調節しているから。よって鼻が白くなっている竜人は大変喉が渇いている=人間が近づくと即刻かぶりつかれるので要注意。
5.繁殖
卵生。冬が近くなると繁殖期を迎え、群の中で盛んに交尾が行われる。交尾可能になるのはオスが6歳頃、メスが8歳頃。竜人はオスに比べてメスの個体が少ないため、メスは数いるオスの中から若くて強いオスを選んで交尾する。
それゆえオスたちは繁殖期になると狩りで獲物の数を競ったり、特定のメスを巡って決闘を繰り広げたりするのが常。将来有望なオスは一度の繁殖期に複数のメスと交尾できるが、逆に自分の子を遺せずに一生を終えるオスも少なくない。
なおオスもメスも人間のような性欲はないため交尾は繁殖期にしか行われないが、オスは尻尾の付け根のあたりにある総排出腔という器官(肛門+交尾器のようなもの)の中に常に勃起した状態の陰茎を格納しており、一応繁殖期以外でも交尾できないことはない。が、メスの方は繁殖期以外に交尾しても産卵できないため、わざわざそんな無駄なことをする物好きがいるのかと問われたら言わずもがな。
交尾の時期が過ぎるとメスたちは総排出腔内にて抱卵するため、安静に過ごすことが多くなり狩りや戦いに出なくなる。その間メスたちのためにせっせと食糧を運ぶのがオスの務め。
その後春先になるとメスたちは一斉に産卵し、それから1ヶ月ほどで卵が孵る。孵化した子らは群の大人たちが共同で育てるので、竜人の間には「夫婦」とか「親子」とかいう概念がない。いわば群そのものが一つの大きな家族。
6.成長
孵化した直後の体長は50cm程度。人間の赤ん坊と変わらずとても小さいが、生後3ヶ月もすると体長は1mに達し、ほぼ完璧な竜語を話すようになる。人間と違って生まれた直後から既に立って歩くことができるのが特徴。また牙が生え揃わないうちから肉を食べるので、生後1ヶ月くらいはメスたちが咀嚼してやわらかくした肉を与えて育てる。
成長が早い分代謝が良く、生後6ヶ月くらいまではやたらと肉を食べる。食べても食べてもすぐに消化されてしまうため常に腹ペコで、四六時中空腹を訴えて騒ぐため手がつけられない。この間、群のオスたちはほとんど飲まず喰わずで狩りを行い、獲ってきた獲物は子供とメスに献上するのが暗黙の掟。何日も獲物を見つけられなかったり、狩った獲物を勝手に食べたりするとメスたちに袋叩きにされる。男はつらいよ。
雌雄共に交尾が可能になる頃まで体の成長は続き、脱皮を繰り返して鱗が硬くなる。脱皮と言っても蛇のようにぬるっと全身の皮が脱げるわけではなく、古くなった皮があちこちぽろぽろ剥がれていく感じ。脱皮中は体中が痒くなるのでよく砂や岩の上でジタバタしている。生後間もない個体は空腹のあまり剥けた皮をバリバリ食べることも。
寿命は30〜40年。30歳を過ぎると次第に鱗や鬣のツヤがなくなり、オスは何故かヒゲが生えてくる。またその頃になると生殖能力が失われ、体も衰えるため狩りや戦には出なくなり、メスは機織りや道具作り、オスは鍛冶や酒造りに従事するように。また中には群の歴史を歌い継ぐ語り部や、祭事を司る祈祷師になる者もいる。
8.文化・信仰
1つの群の人数は50〜100頭ほど。オスもメスも若いうちは戦士として狩りや戦闘に参加し、群の結束は非常に固い。「精霊の意思に逆らってはならない」「長老と祈祷師の言うことには必ず従わなくてはならない」「同族を殺してはならない」等、各群には厳格な掟が存在し、すべての竜人がこれらを遵守して生活している。中でも同族殺しは最大の禁忌。
また火精、水精、地精、風精の四大精霊を崇める精霊信仰を持っており、精霊とは大地に風を走らせたり雨季に雨をもたらしたりする不可視の存在だと認識されている。これは人間たちが「精霊」と呼んでいるものとは微妙に異なり、竜人にとっては精霊=神であって人間たちが崇める天界神への信仰は一切ない。
彼らの間では「死んだ竜人の魂は精霊となって一族を見守る」と信じられているが、生前に悪行を重ねた者はこの精霊として生まれ変わるための「霊道」に入ることを拒まれ、完全な「無」となって消え失せると言われている。この教えを頭から信じている竜人は多く、ともすると人間より遥かに信仰心豊かなのだが、何故か先天的に
神刻は使えない。
群の仲間が死ぬとこの精霊信仰に則って葬儀が行われる。死者はまず一族の戦士たちによって
大地の肚にある地底湖へと運ばれ、そこで水底に沈められる。やがてその身が骨だけになると水中から引き上げられ、骨は火にくべられる。灰になった骨は生前の死者を知る者たちが祈りの歌を捧げながら大地に撒く。これは死者の魂を水精、火精、地精、風精のもとへ還す意味合いを持っている。
また、竜人の間には決闘の風習があり、決闘に臨む戦士たちは戦いの前に大竜刀を大地に叩きつける。これは正々堂々戦いに臨むことを地精に誓う儀式であり、大地に傷をつけるのは「誓いを刻む」意味を持つ。
この決闘に限らず竜人の戦士は常に雄々しく戦うことを美徳としており、姑息な手口や怯懦は戦士の恥。このため決闘では大竜刀以外の武器を使わないというのが暗黙の了解で、決闘で卑怯な真似をした戦士は精霊への誓いに背いた罪で厳重に罰せられる。
上のような風習から竜人の間では「力こそすべて」。ほとんどの竜人は生まれながらに強さを追い求め、強靭で勇敢な戦士ほど仲間たちに讃えられる。
一方で戦いを嫌ったり怖がったりする竜人は「尻尾を切って逃げる下等なトカゲ」と同類視され、とことん軽蔑・迫害される。このため「トカゲ」というワードは竜人の間で最大の侮辱語であり、誰かを「穴トカゲ」などと罵ろうものなら間違いなく殺し合いに発展する。「トカゲ野郎」と罵られてブチギレない竜人は竜人ではない。
仲間に対しては額と額を擦り合わせることでときに親愛の情を示す。これは人間で言うところの抱擁やキスのようなもの。竜人の鬣の生え際には微量のフェロモンを分泌する器官があり、そこを擦りつけて相手に自分の匂いをつけることで信頼や思慕、労りの気持ちを伝える。
また、困っている仲間がいれば必ず皆で助けるのが竜人の掟だが、逆に仲間を見捨てたり裏切ったりすることは絶対に許されない。裏切り者には死あるのみ。
古くからシャムシール砂王国とは同盟関係にあり、戦時に戦力を貸す代わりに食糧となる人間を供給させている。
8.言語
「竜語」と呼ばれる竜人独自の言語を話す。「r」の発音がやたらと巻き舌だったり、「s」の発音が「サァー」「シィー」「スゥー」と牙の間から息を抜く感じだったりと響きが独特。濁音が多い。
口蓋が深いため「n」の発音に力が入る。このため「n」の含まれる単語は「n」にアクセント。「グニドナトス」なら「グ
ニド
ナトス」。「グニド」と呼ばれる場合は「グ・ニド」という発音に近い。「ニャ」「ニュ」「ニョ」は発音不能。「サン・カリニョ」はどう頑張っても「サン・カリノ」になる。
また「r」が続く場合は2つ目の「r」のあとの子音に引っ張られる。作中では「ルルアムス」と表記しているが、実際の竜人の発音は「ルラムス」に近い。
エマニュエル上で竜語を話す種族は竜人だけ。発音が難しい上にそもそも人間と交流がないため、竜語を理解できる人間はいない(と思われていた)。
逆に竜人の中にはわずかだが(砂王国の人間と交渉するために)人語を習得している者がいる。ただし大抵の場合竜語訛りと呼ばれる訛りがキツく、人間との意思疎通にはかなりの根気が要る模様。
9.戦闘能力
狩りや戦闘では「大竜刀」と呼ばれる巨大な肉切り包丁を振り回す。その膂力はメスでも人間の鎧程度なら一刀両断してしまうほど。
戦場では竜人1匹が人間の兵士50人に匹敵するとも言われており、はっきり言って神術でも使えない限り人間に勝ち目はない。硬い鱗は人間の刃を通さず、更に弱点である腹部は鎧で覆われているため戦場では強靭・無敵・最強。
また鋭い牙と非常に強い顎の力も大きな武器で、体重80kg程度の人間なら噛みついてぶるんぶるん振り回すことが可能。視界は真後ろ以外のほぼ360°が見渡せるため、背後から迫る敵は長い尻尾で容赦なく吹き飛ばす。
体は重いが瞬発力に優れており、見かけによらず結構跳ぶ。生身の人間が踏み潰されたら一瞬でぺしゃんこ。
大竜刀の他には飛刀や弓などの武器も使うが、やはり竜人の力が最大に発揮されるのは白兵戦。竜人が群で突っ込んできたら人間は蜘蛛の子を散らしたように逃げるしかない。エマニュエルに数いる獣人の中でも最強の戦闘民族。
10.天敵
@スナヘビ。竜人たちは「トネプレス(竜語で「砂漠の大蛇」の意)」と呼んでいる。成長すると体長10mにもなる巨大な蛇で、砂の中に潜って移動し哺乳類(人間含む)を襲う。肉食のため竜人と獲物が競合しており、貴重な食糧を巡って殺し合うことも。あくまで蛇なので竜人のような知性はないが、しぶとい・でかい・執念深いの三拍子で歴戦の竜人をも圧倒する。
A巨大アリジゴク。竜人たちは「グヴェルドード(竜語で「穴の主」の意)」と呼ぶ。その名のとおり体長4〜5mほどもある巨大アリジゴク。普段は砂の中に潜んでいるが、巣穴の上を哺乳類(人間含む)が通ると姿を現し、砂をかけたり流砂を起こしたりして情け無用に引きずり込む。その牙は竜人の鱗をも砕くと言われ、一度捕まったらまず逃げられない。
B大サソリ。竜人たちの間では「ノイプロクス(まんま「大サソリ」の意)」と呼ばれる。体長3〜4mほどの巨大なサソリで尾に猛毒を持つ。体表が硬い鱗で護られている竜人にとって敵ではないが、やはりこいつも肉食のため獲物が競合。一度サソリの毒が注入された獲物は食べられなくなるので、竜人が嫌いな生き物トップ3に輝く曲者。
C亜竜。竜人たちは「ドナトス(竜語で「走る者」の意)」と呼ぶ。ラムルバハル砂漠の東、ルチェルトラ荒野にのみ棲息する小さな竜で、翼もないし人語も解さないが非常に勇敢。人や馬と違って竜人を恐れない。トラモント黄皇国の国境を守るガルテリオ・ヴィンツェンツィオがこの亜竜を騎獣とする『竜騎兵団』なるものを率いており、彼らの前にはさしもの竜人も蹴散らされる有り様。竜騎兵団の亜竜は全身を鎧で覆われている上素早いので、竜人でもそう簡単には倒せない。
D
狐人もしくは狐人の血を引く半獣人。彼らの発する独特の体臭が竜人の弱点。どうも竜人の嗅覚には狐人の体臭がかなりの刺激臭として感じられるらしく、この臭いを嗅がされるとほとんどの竜人はひっくり返る。なお同じ理由で竜人は普通のキツネも苦手。このため砂漠を渡る人間の中には死んだ狐人の毛皮を買い取り、それを被って竜人から身を守る知恵者もいる。
E神術使い。竜人は物理には強いが神術に弱い。このため神術を使う人間を毛嫌いしており、戦場では神術使いと見るや速攻で潰しにかかるor戦闘を避ける。
という感じでまとめてみました。
これが知られざる……というか作中でヨヘンが知りたがっている竜人の生態です。
こうして見ると竜人って結構なチート種族なんだなぁ、と改めて……(笑)
実は彼らの起源には色んな秘密があるのですが、その辺についてはいずれエマニュエルシリーズのどこかでちょろっと触れられればいいかな〜程度に思ってます。
さて、そんなわけで(?)気づけば『
黄昏の国と救世軍』の方も公開分が20話に到達しました。毎回5話分ずつまとめて用語解説を上げているので、アレもまた近々更新したいと思います。
他にも色々書きたい短編があったりするのですが、本編書くのに忙しくてなかなか手が出せない……。せめて拍手文くらいは年内にもう1回更新したいです。