『廻りゃんせ』序・留三郎編(食満+仙蔵)

 

人生十五年間、自分は目立たないタイプとして生きてきた。
大人しく消極的で、行事等でも表立つ事はない、気弱な生徒。
中等部まではそれで通っていたし、実際そういう性格だったのだが、それは高等部進学と同時に一変する。


*****


それは、高等部に進学して二日目の朝。

目が覚めると、物凄い違和感に襲われた。
起きて目にするつもりだったものと、実際目に映ったものがあまりにも異なり過ぎていた。

天井に設置されているライトを見つめて、ベッドの上で呆然とする。
この時代に、ライトなんてあっただろうか―――――と。

いや、違う。あっているのだ。
今は文明も発達した二十一世紀。
“あの頃”のように、板目だけの天井ではない。

そう考えて、初めて気付いた。
自分は、たった今“あの頃”―――――前世の記憶を思い出したのだと。

その事を理解したとたん、ガバッと飛び起きて下段のベッドを覗く。
そこに、すでにルームメイトの姿はなかった。

どこへ行ったのかと周囲を見回せば、ルームメイトの机の上に一枚の紙が置かれていた。
慌ててベッドから下りて、紙に書かれている文章を読んで、彼が部屋にいない理由を把握する。


『保健委員の用事で、先に校舎に行ってます。』


新学期の始まりは、健康診断や身体検査がある為、保健委員にとっては忙しい時期だ。
また不運な目に遭っていなければいいが・・・・などと考えながら、急いで着替えを始める。

早く、彼に記憶が戻ったと伝えたかった。

思えば、彼が話しかけてくれるようになったのは、中等部二年の冬から。
それまでは殆んど話した事もなかったのに、何故急に優しくなったのかと不思議に思っていたのだが、今ならわかる。
恐らく、彼は丁度その頃に前世の記憶を思い出したのだろう。
せっかく彼が積極的に話しかけたりしてくれていたのに、自分は約一年間も記憶を思い出すのが遅れてしまった。


「・・・・・・後で謝んねぇとな。」


ポツリと呟いて、着替えが終わったのでカバンを抱え部屋から出る。
委員会の用事という事は、保健室へ向かえば彼と会えるだろう。
ドアを閉めて鍵をかけ駆け出そうとすると、丁度向かいから誰かが歩いてきた。


「・・・・食満。ネクタイが曲がっているぞ?」


緩やかな微笑を浮かべてそう言ってきたのは、“あの頃”からの同級生。
彼は、人差し指でこちらのネクタイを示す。

見下ろしてみれば、確かに紫色のネクタイが少々右に曲がっていた。
慌てて着替えたので、ネクタイの事まで気にしている余裕がなかったのだ。

軽く眉根を寄せながら、渋々ネクタイを直しつつちょっとした嫌味のつもりでこう言ってやる。


「・・・・・お前、風紀委員になってから作法の時より口うるさくなったんじゃねぇか?」


瞬間。

こちらの言葉を聞いた相手の切れ長の双眸が、大きく見開かれた。
かすかに震えた口元から零れる、驚愕の声。


「おま、え・・・・・“留三郎”か・・・・!?」


先程と、自分に対する呼び方が異なっている。
どうやら、こちらに記憶が戻ったと気付いたらしい。

“あの頃”から考えても滅多に見れなかったあまりの驚きの表情に、思わず笑みが零れる。


「なーに言ってんだよ、仙蔵。」


不敵に笑って、続ける。


「俺は、今も昔も“食満留三郎”だぜ?」


その一言に、相手は最初きょとんと目を瞬いていたが。
すぐに普段のような艶のある微笑を浮かべて、「そうだな。」と返してきた。

 

 

 



 
(―――――ほら、こんなにも。)
(この世界は、“あの頃”以上に輝いている。)
 

 



転生パロでシリーズの第6弾・六年生の最後は食満編でございました!
うおおおおお六年生が終わったぞおおおおおお!!(テンション高いな
結局キャラ設定より先に六年生序章が終わってしまった・・・・。おぅふ^q^
伊作編でもあとがきにちょっと書きましたが、食満は記憶戻るまでは大人しいコでした。
前世とは見事に真逆の性格に育ったんですねぇ。それも面白いと思いませんか。^qq^
さて、六年生編の序章は終わったので、これからは六年生は短編です。
設定はこのままに、ちょこちょこ思いついた話を時間軸関係なく載せていきたい・・・な。(遠い目
他の学年の序章はただいま構想練っている最中です!五年〜一年も頑張るよ!
では、ひとまず六年生編をここまで読んで下さりありがとうございました!!