あなたへの直行便(六条×門田)

 


「京平っ!」


バタンという派手な音とともに店のドアが開き、大きな呼び声が屋内に響き渡った。
夕方という事もあって人は疎らだったが、中にいた数人の客が一斉に何事かとドアの方を見やる。
その中でも唯一こちらを向かなかった客―――――店の過角の窓際席に座っている男―――――を発見し、今しがたこの店に入って来た六条千景はパッと顔を輝かせた。
真っ直ぐにツカツカとその男のところまで進み、彼の向かい側の席に座ってニコリと笑う。


「京平、やっぱりここにいた。」


千景の言葉に、目前の男・・・・門田京平はチラリと彼を見やった後、細く溜め息を吐いて手に持っていた物をテーブルに置く。
それを見て、千景は一瞬きょとんと目を瞬かせたが、すぐに眉を吊り上げた。

門田がテーブルに置いたのは、本日発売されたものであろう新聞。
トップ記事には、大きな見出しで『雷神現る!!』と記されている。
記事の内容は、昨晩『雷神』という怪盗が街の富豪の屋敷に潜入し、警察の目を欺いて見事高価な壷を盗み出したというもののようだ。

千景は睨み付けるような視線でザッと記事を読み終えると、足を組んで椅子の背凭れに身を預け、吐き捨てるように言う。


「けっ。なぁ〜にが義賊怪盗『雷神』だ。いくら狙う品が悪名高い奴らの物ばっかっつったって、盗んだ事に変わりはねぇってのに・・・・なぁ京平!あんたもそう思うだろ!?」
「・・・・まぁ、そうだな。」


同意を求められ、門田は仕方ないという風に頷きながら頼んでいたコーヒーを口に含む。
その間に、千景は不機嫌な表情のまま男性の店員にアイスティーを注文している。
店員が厨房の方へ入っていったのを目に入れながら、アイスティーが来るまで暇らしい千景は改めてまじまじと新聞を眺め、


「それにしても『雷神』ってのはどこのどいつなんだろうな?噂じゃ男女のコンビだとか、すげぇベテランのじいさんだとか、警察内部の奴じゃねえかって話まであるもんなぁ・・・・。」


『雷神』を目の敵にしている千景は、ブツブツと正体に関してああでもないこうでもないと呟いている。
それを耳にする門田は、内心で「どの噂もあり得ない」と呆れていた。
男女のコンビならまだしも、誰がどういう場面を見たらベテランの老人という噂が流れるのか。
彼は、その噂の全てが偽物だと知っていた。

何故なら―――――彼こそが、『雷神』の一人だからだ。

本来は相棒と二人でやっているのだが、もう一人は今はここにいない。
恐らく、家かアジトでタバコでも吹かしている事だろう。

どうやら『雷神』が気に喰わないらしい目前の千景には申し訳ないが、自分の正体をバラす訳にはいかない。
バレない自信はあるが、もし万が一何かあった時の為に、この話は早々に切り上げるのが得策だ。


「・・・・・千景。」
「ん?何?」
「お前、今日は何の用事で来たんだ?」


コーヒーカップをソーサラーの上に戻し、別の話題を振る。
すると、千景は何度か瞬きをした後、ニヤリと笑って、


「何だよ、ハニーに会いに来るのにいちいち理由がいるのか?」
「ハニー?誰の事だ?」


腕を組んで片眉を上げて尋ねてくる門田に、千景は「伝わらなかったか・・・。」と残念そうに呟いた。
だが、ここでめげてなるものかとその後に人差し指を真っ直ぐ門田へ向ける。

となれば、今度は門田が瞬きをして呆ける番で。
改めて訊かずとも、ここまでされれば自分が千景曰くの『ハニー』である事には気付く。
そう理解した瞬間、わずかに頬を赤らめて目を見開き、


「ばっ・・・・・誰がハニーだ!」
「あー、京平照れてるー。可愛いー。」
「うるせぇ!」


門田が怒鳴り終えたところで、千景が注文していたアイスティーが届く。
店員に見られている手前、大声を出すのはここまでにしておいて口元を引きつらせながらも渋々黙る門田。
注文を受けた男性の店員とは違う女性の店員に「ありがとー!」と笑顔で礼を言ってから、千景は門田に向き直ってこう切り出した。


「だって、用事終わってすぐあんたに会いたかったんだよ。本当は家に行こうとしたんだけど、この時間はお気に入りの店で本読んでる事も多いから、真っ直ぐこっちに来たんだ。そしたらビンゴでさぁ、俺ってすごくねぇ?」


とても楽しそうにニコニコしながら話す彼を見ていると、怒る気も失せてくる。
先程『ハニー』と言われた事は多少引っかかるが、一度終えた話題なのでわざわざ蒸し返す必要もないだろう。

門田は細く長い溜め息をつき、残りのコーヒーを飲むべくカップに手を伸ばす。
純粋に接してきてくれる彼に対して、罪悪感がないといったら嘘になる。
何せ、こちら側は正体を隠しているのに、千景が盗賊団『虎丸』の頭だという事は知っているのだ。
千景が自分の正体を知った時の事を考えると、胸がズキリと痛む。

―――――けれど。

今は、こうして二人で話している事が楽しく思えるから。
だから、もう少しこのままで。

 




(ハニー、他にも何か頼まねぇの?)
(ハニーって言うな!!)

 

 



とうとう始めてしまった盗賊パロ^q^
なのに盗んでる話とかじゃなくてまさかのろちドタぁあああああ!!
ずっと・・・・ずっと書きたかったんですろちドタ・・・・。まさか初めてちゃんと書いたのがパロになるとは^q^
あなたへの直行便っていったら、もう想い一直線のろっちーしかいないかと!←独断と偏見

 


お題提供元様:空は青かった