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ぬるい空気を蹴り上げた(食満×文次郎)
何だか、苛々する。
目前の相手と遭遇する度、まず真っ先に思う事。
顔か?
違う。
声か?
違う。
性格か?
そんな気もするけど、何か違う。
じゃあ、一体何だっつーんだ。
それが自分でわからないから、余計に苛立ちが募る。
それにしても・・・・睨み付けてくるコイツの眼、凶悪過ぎだろ。
本当に同い年か?十五か?
・・・まあ、目付き云々は俺も他人の事言えねぇし、相手も同じ事思ってんだろう。
そう考えると、尚更ムカつく。
そんな事を思っていた、瞬間。
奴の右腕が、動いた。
それを目にしたとたん、頭で理解するより先にとっさに自分の右腕も動く。
ほぼ無意識に突き出された拳は―――――
バキィ!
という小気味良い音をさせて、相手の右頬を捕らえた。
・・・・が、向こうが繰り出してきた右拳も、俺の左頬に直撃した訳で。
ほんの一瞬意識が飛びかけたものの、互いにグラリと身体をよろめかせただけで何とか踏み止まる。
力は、ほぼ互角。
奴がこれくらいの攻撃で倒れるような柔な男じゃない事は重々承知。
多分、向こうも俺がそうだって事を知っている。
だからこそ、一発殴られたくらいで睨み合いは止めなかった。
殴り合いをしてる最中だってのに、頭の片隅に何となく冷静な自分がいる。
完全に熱くなれない。何でだ?
理由がわからない中途半端な苛立ちが気になって、喧嘩してるのに妙に引っ掛かる。
―――――ああ、腹が立つ。
「・・・・っらぁ!」
考えを振り切るように、相手の顎先に空気ごと蹴りを叩き込む。
けれど、奴は首を曲げて俺の蹴りを回避し、ニヤリとそれはそれは獣のように獰猛に笑った。
瞬間、俺の中の苛立ちがスッと何もなかったかのように消える。
そして、悟った。
ああ、俺は。
奴の、この笑みが見たかったのだ。
気付くと同時、自分の口元にも同じような笑みが浮かんだのがわかった。
(笑って、哂って、戦え。)
お題提供元様:空は青かった
って言っても、もう一日経っちゃったのでネタバレしても平気かと思いますが。^^;
はい、ただいまバイトが終わって家に帰る途中の夏祥です。
二階から黄色い花びら(<成長6年>団蔵+兵太夫)
ひらり、と。
不意に真上から降ってきた何かに、団蔵は目を瞬いた。
ゆっくりと緩やかに落ちてくるのは、一枚の黄色い花びら。
何となく無意識に右手を前に出し、それを手のひらで受け取る。
「・・・・・・何だ?」
受け取ったはいいものの、何故これが降ってきたのか謎である。
周りには黄色い花を咲かせるような木はないはずだが・・・と、不思議に思いながら上を見やる。
すると、その彼の目に、二階の窓からこちらを見下ろしているクラスメイトが映った。
「兵太夫・・・・?」
団蔵がポツリとそのクラスメイトの名を呟くと、彼・・・・兵太夫はニコと笑った。
普段から絡繰りや罠に引っ掛かっているからか、何となくその笑みに疑問を持ちつつも、団蔵は兵太夫に問いかける。
「この花、どうしたんだ?」
「今度の絡繰りに使おうと思ってねー。」
窓の縁に肘をついている彼の答えに、団蔵は手中の花びらを見る。
どこにでもありそうな花びらで、別段おかしなところも見受けられない。
「珍しいな、お前がこんな人畜無害そうな絡繰り作るなんて・・・・。」
団蔵がそう言うのも無理はないだろう。
何せ彼は、物を落とされたり床穴から落とされたりどこかへ飛ばされたりと、絡繰りに引っ掛かる確率が不運で有名な保健委員の次に多いのである。
まあ、予算会議の際に作法委員から総攻撃を受けるからかもしれないが。
なので、花を使うという可愛らしい絡繰りが、随分珍しく思えてしまったのだ。
が、しかし。
言われた兵太夫は、その涼やかな眼をきょとんとさせた。
「え、そう?それ、痺れ薬の材料なんだけど。」
「へー、痺れ薬のねぇ。これが―――――・・・・って、あ?痺れ、薬・・・・?」
一度は兵太夫の言葉に納得したものの、引っ掛かる部分があって団蔵は単語を反芻する。
その意味を頭で理解するまでにほんの数秒かかり、おかしいと確信してとっさに声を上げた。
「はぁ!?痺れ薬だぁ!?」
「そう。三ちゃんに痺れ効果のある草花教えてもらって、乱太郎に調合してもらって・・・・。」
と、花びらで作る痺れ薬とやらの説明を笑顔で語る兵太夫。
だが、団蔵の耳には殆んど彼の話など入ってきていない。
山伏として修行を積んで山の草花に詳しい三治郎と、薬品の製作・調合にかけては天下一品の乱太郎の手を借りているという事は、よほど本気で薬を作るらしい。
とてつもなく嫌な予感がして、団蔵は顔を引きつらせる。
その不安を何とか拭い去るべく、意を決して兵太夫に声をかけた。
「へ・・・・兵太夫さん・・・?」
「ん?なーに?」
「その、痺れ薬を使った絡繰り・・・・まさか・・・・。」
恐る恐るといった風な団蔵の心情を読んだのか、彼が全て訊き終える前に兵太夫はニッコリ微笑って答えた。
「あ、安心してよ。人畜無害だから、今度の予算会議にどんどん使うね。」
「いやいやいや、ちょっと待て!痺れ薬はどう考えても人畜有害だろうが!」
「無害って言ったの団蔵じゃないか。」
「そりゃこの花が痺れ薬なんかの材料だなんて知らなかったから言ったんだっつーの!!」
大声でツッコミを入れているせいか、ついつい手に力が篭る団蔵。
持っている花びらを今にも握り潰してしまいそうである。
それを二階から見逃さなかった兵太夫、団蔵の右手を指差すと、
「それ、あんまり強く握ると潰れて痺れちゃうよ。」
「え。」
とたんにパッと手の力を緩めれば、その拍子にヒラヒラと花びらが地上へ落ちた。
「・・・・なーんてね。麻痺性の毒は花の蜜からしか出ないよ。」
あははは、と軽い笑い声を上げると、硬直している団蔵は置き去りにして兵太夫は室内へと戻っていってしまった。
彼が窓縁から姿を消して数秒後、ばっと団蔵が顔を上げてもすでに人影は見当たらない訳で。
からかわれた怒りが今更フツフツと沸き上がってきて、ギュッと両拳を強く握り締める。
そして、引きつらせていた目元をきっと吊り上げると、団蔵は叫んだ。
「兵太夫ぅぅぅぅ待てコラァァ!!」
その怒鳴り声は、学園の端まで響き渡りそうであった。
(・・・・・・兵太夫、そんなトコ隠れて何してるの?)
(・・・・・・鬼と隠れん坊してんの。)
お題提供元様:空は青かった
走り続けて着いた場所(体育委員会)
走って、走って、上手く呼吸が出来ないくらい必死に走って。
前で、少し先を走る先輩の背中を追い、ただ足を動かす。
委員長は、辛うじて後ろ姿が見えるくらい先を走っている。
・・・・が、その委員長の足が、ピタリと止まった。
それに続く他の先輩達も、同じ場所までたどり着くと立ち止まる。
先輩が立ち止まった事を不思議に思い、殆んど無意識に駆けながら、金吾はやっと皆の処へ到着する。
足を止めて最初の呼吸音は、ひゅう、と風のような音だった。
バクバクと騒がしく速い鼓動と、自分の乱れた息が嫌にうるさく聞こえる。
額から滴り落ちる汗を拭っていると、二番目に到着していた四年生の滝夜叉丸が、委員長に尋ねた。
「・・・・七松先輩、どうなさったんですか?」
もう呼吸が整ってきている辺り、流石体育委員会の中でも上級生である。
滝夜叉丸に問われた委員長・・・小平太は、後輩達の方を向いてにかっと笑う。
それから、真っすぐ前方に向き直って、その先を指差した。
「・・・・・ほら、見てみろ!」
言われて、後輩達は委員長の指先に沿って前を見やる。
その彼らの目に映ったのは、一面に広がる花畑。
黄色や赤、橙色と様々な種類の花が所々に咲いている。
「うぉぉぉ・・・っ!」
花畑を見てすぐに、三年生の三之助が歓声を上げた。
二年生の四郎兵衛も、驚きに普段から大きい目を丸々と見開いている。
この場所は、いつもランニング等で使っているルートから少々離れた位置にあるので、あまり訪れない。
なので、崖から見下ろせるこんなに大きな花畑があるという事に今まで気が付かなかった。
「これは・・・・?」
「この前、一人でランニングしている時に見つけたんだ。お前達に見せたくてな!」
滝夜叉丸の言葉に応えるように、再び太陽のような笑顔を向けてくる小平太。
彼の笑顔を見て、自然と後輩達の表情も綻ぶ。
「また、見にこような!」
「はい!!」
「それじゃ、学園に戻るぞ!」
「はい!・・・・・・・・・・・・・・・って、え?」
ノリで元気良く答えたものの、「学園に戻る」という一言に、思わず素っ頓狂な声を発してしまう後輩一同。
「え、もう帰るんですか?」
四郎兵衛の問いも、当然といえば当然である。
まだこの花畑が見える崖に到着して数分と経っていない。
にも拘らず、もう帰ってしまうのは多少勿体ない気がするのだ。
それに、ここに来るまでには物凄い距離を走ってきた。
その、行きと同じ距離の道のりを帰るにはもう少し休憩が必要・・・・というのが、後輩達の本音だった。
しかし、後輩達の心中を知ってか知らずか、小平太はあっけらかんと言う。
「モタモタしてたら晩飯がなくなるぞ!」
「それもそうですけど・・・・・。」
「さぁ、帰るぞー!いけいけどんどーん!!」
「って、七松先輩ぃ!!」
後輩の呼び止める声など耳に入っていないのか、さっさと地を蹴って駆け出す委員長。
残された後輩達が呆然と立ちつくしている間にも、彼の背中はどんどん遠ざかる。
それを見て、はっと逸早く我に返ったのは滝夜叉丸で。
「い・・・いかん!お前達!私達も早く後に続くぞ!!」
「そうしないと、置いていかれる!」と必死の顔で付け足して、自分も走り出す。
となれば、他の三人も「はい!」と頷いて後に続く訳で。
こうして、体育委員は綺麗な花畑を数分と眺めもせずに学園に戻っていくのであった・・・・。
(何とか晩御飯までに帰れました。)
お題提供元様:空は青かった