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落乱小話(体育+文+伊)

自由自在の半縮図(体育+文次郎+伊作)

 

「ウナギ捕まえに行くぞ!」
「・・・・・・・は?」


授業が終わった後の委員会活動の時間。
学園の広場に集められた体育委員会の面々は、突拍子もない委員長の発言に揃って素っ頓狂な声を上げた。
彼が常識を逸脱した言動をするのは今に始まった事ではないが、今回は特に唐突である。

ニカッと太陽のような明るい笑顔で目前に立つ委員長―――――小平太に、後輩達の中では最も上級生である滝夜叉丸が尋ねる。


「あ・・・・あの、七松先輩?何故、いきなりウナギなのですか・・・・?」


彼がそう質問してしまうのも、仕方がないと言えた。
他の後輩達など、質問どころか目を瞬かせたままきょとんとしている。

しかし、後輩の間のそんな空気など気にも留めず、小平太は問いに答える。


「ウナギを捕まえて食堂に持っていったら、今日の夕飯はウナギ定食にしてくれるそうだ。おばちゃんが言ってた!」


・・・・いや、答えとは少々ずれた発言だったが。

もっと詳しく説明をすると。
ここに来る寸前、小平太が食堂のおばちゃんの呟きをたまたま聞いてしまったのだ。
その呟きの内容というのが、本日の夕飯の献立を考えているものだったらしく、


『・・・・・たまにはウナギ定食とかもいいわねぇ。でもねぇ・・・・。』


これを耳にして、小平太はウナギ獲りなどと言い出したのだった。


「という訳で、本日の体育委員会の活動は川でウナギ獲りだ!行くぞー!!」


「いけいけどんどーん!」と、普段の口癖を響かせ走り出そうとする小平太に、慌てた滝夜叉丸の制止がかかる。


「ちょ・・・・ちょっと待って下さい先輩!」


滝夜叉丸の声に、すでに一歩踏み出しかけていた小平太の動きがピタリと止まる。
そのまま後輩達の方へ向き直り、不思議そうに首を傾げ、


「?どうした、滝夜叉丸?」


先輩の問いに、滝夜叉丸は何と切り出すべきか迷った風に視線を上へ向ける。
それから、目をそろりと小平太の方へ戻し、遠慮気味に口を開いた。


「・・・・・・・今・・・・冬、なんですが・・・・・。」
「ああ、それが?」
「・・・・・・・川に、行くんですよね?」
「そうだ!いっぱい捕まえるぞ!」


笑顔を絶やさず間髪入れず問いに返してくる小平太に、がっくり項垂れる滝夜叉丸。
その様子を見兼ねたのか、滝夜叉丸の隣の三之助が話に参加する。


「あの・・・・七松先輩。」
「ん?」
「滝夜叉丸先輩が言いたいのは、多分・・・・・冬に、川にウナギを獲りに行くのはちょっと寒いんじゃ・・・?って事なんじゃないかと・・・・。」


言いたい事を代弁してくれた三之助に、滝夜叉丸が目を輝かせる。

だが、しかし。
その輝きも、長くは続かなかった。


「何言ってる!だからこそ行くんじゃないか!ほら、よく言うだろう。心頭滅却すれば川もまた温かし。」
「火もまた涼し、です!!」


ツッコミを入れたところで、もうどうにもならない事はわかっている。
忍ならば、いくら寒くとも川に潜まねばならない場合もあるだろう。
その時の為に考えてくれているのだと信じて、滝夜叉丸は渋々反論を飲み込んだ。

彼が反論を諦めたとなると、他の後輩が小平太に文句を言える訳がない。
一同、結局委員長には逆らえないのか・・・と内心で嘆息する。

これから、山を越えて川に行き、冷たい水に我慢しながらウナギを探すのだ。
本日の委員会活動メニューの多さを考えただけで、どっと疲れが出てくる気がした。

逃げられないのならばせめて早く終わってくれと後輩達が思っていると、その彼らの前の委員長が前方を見て「あ!」と声を上げた。
となれば、滝夜叉丸達も小平太の声に反応して彼の目線の先を見やる。

するとそこには、算盤を肩に担いで左手に帳簿を持った―――――


「文次郎!」


そう、六年い組の会計委員長・潮江文次郎が廊下を歩いていたのだ。
持ち物から見るに、どうやらこれから会計室で委員会らしい。

小平太に名前を呼ばれた事に気付いたらしく、文次郎がこちらを向く。
と同時に、小平太が再び声を上げた。


「文次郎、一緒にウナギ獲りに行かないか!?」
「・・・・は?ウナギ獲りっ?」


唐突な同級生の誘いに、隈が張った眼の上の眉根を思い切り寄せる文次郎。


「食堂のおばちゃんが、ウナギ獲ってきたら今日の夕飯はウナギ定食にするって言ってた!」


それは小平太の勝手な解釈であって、おばちゃんはそんな事は一言も言っていないのだが、今それに対して突っ込める者はいない。
何せ、食堂でおばちゃんの呟きを聞いたのは彼だけなのだ。

その彼の発言を聞いた文次郎、最初は目を瞬かせていたが、徐々に腕を組んで悩むような素振りを見せ始める。


「ウナギ定食、か・・・・。」


口の中で呟くように言うと、ニヤリと口元を吊り上げた。
会計委員長の眼に熱意が篭ったような気がして、思わず滝夜叉丸達はギクリとしてしまう。
何となく嫌な予感を覚えている後輩達になど気付かず、文次郎はこう返してきた。


「いい考えだ小平太!丁度、最近たるんどる会計委員の後輩達に何か良い鍛錬はないかと悩んでたトコだったんだ。」


やる気満々の強気な笑顔を見せる文次郎に、青ざめる滝夜叉丸達。
まさか、ウナギ獲りが会計委員会にまで伝染してしまうとは・・・・と、後悔してももう遅い。
会計委員会に同級生がいる者―――――滝夜叉丸・三之助・金吾は、流石にこの時ばかりは内心で謝罪したという。


「早速後輩達を連れて行くか!」
「じゃあ、今日の委員会活動は体育と会計で合同だな!」


すっかり二人だけで盛り上がってしまっている最上級生達を止める術は、最早ない。

―――――そう、思われた・・・・が。


「ダメだよ、小平太に文次郎!」
「うわ!」「善法寺先輩!?」


不意に真後ろから聞こえてきた大声に、四郎兵衛と金吾が肩を跳ねさせる。
その場にいる全員がとっさに声のした方を見ると、そこには金吾の言った通り保健委員長の姿。
妙に真面目な表情で立っているのだが、その両腕には大量のトイレットペーパーが抱えられているのでどことなく滑稽である。
思いがけない話への乱入者に驚きつつ、滝夜叉丸が尤もな事を問う。


「ぜっ・・・・善法寺先輩?一体、いつからそこに・・・・。」
「え?小平太が、『ウナギ捕まえに行くぞ!』って言った辺りからかな。」
「最初っからじゃないですか!!」


だったら、もう少し早く止めてくれても・・・・とは、体育委員後輩一同の心境である。

だが、伊作の制止のお蔭ですぐウナギ獲りに向かわずに済むのも事実。
なので、内心で・・・・というよりオーラ全体で安堵する体育委員達だったが、対照的に委員長二人は不満のようで。


「いさっくん、何がダメなんだ?」
「川でウナギ獲りなんて、最高の鍛錬じゃねぇか。」


眉根を寄せて不服を洩らす小平太と文次郎を半眼で見つめ、伊作は大きく溜め息を吐く。
それから、どこか呆れたように、しかし諭すように言う。


「・・・・・・あのねぇ。君達二人はどんな猛吹雪が吹き荒れる雪原に二十四時間棒立ちしてても死ななそうだけど、君達の後輩は違うんだよ!特に下級生!一年生から三年生なんてまだ身体の基礎もちゃんと出来てないんだから、冬の川なんかもっての外だよ!てゆーか、ウナギって冬より夏の方が美味しいよね!」


冒頭部分は、同級生に対してなかなかに酷い事を言っている。
その上、最初と最後では言っている内容があまり関係していない。

しかし、彼の言葉を聞いていたその場の一同はそんな事はどうでも良かった。
何せ、一番気になったのは最後の「ウナギは冬より夏」の部分だけだったのだ。


「ウナギって、夏の方が美味しいのか・・・・!」


初めて知った、と言わんばかりに目を見開いて唸る小平太。
思ったより深刻な表情になってしまった彼に、伊作もギクリとして恐る恐る確認を取る。


「え・・・・アレ?確かそうじゃなかったっけ?スタミナをつける為に、ウナギってよく夏に食べるよね・・・・?」


同意を求めるべく体育委員の後輩達の方に視線を送れば、彼らは揃って必死に首を縦に振る。
ウナギは夏が美味いという事が事実かどうかより、ウナギ獲りというある意味地獄の鍛錬コースから逃れられればいいのだ。
とりあえず、現在滝夜叉丸達は心の中で完全に伊作を応援していた。

一方、伊作に言われてそういう話を聞いた事があると思い出した文次郎は、


「そういや、夏によくウナギって耳にするよな・・・・。」
「ホラね、やっぱり夏でしょ!?って事で、今日はウナギ獲りは止めて夏にしなさい。」
「―――――え。」


伊作の最後の一言に、今まで彼を応援していた滝夜叉丸達の動きが止まる。
四人揃って固まっている後輩達など全く気にせず、六年生達の話は進む。


「そうだな!夏の方が川の水が気持ち良いし!よし、そうしよう!」
「じゃ、会計委員も夏にするか。帳簿の計算の合間に行うのも悪くない。」


あっという間に時期変更のみで解決してしまったウナギ獲りの話。
てっきりその話自体中断してくれると思っていたのに、まさか夏まで延期とは。

伊作の提案に文句はないようで、小平太も文次郎もすっかりその気である。

確かに川に入るのなら冬よりは夏の方が良いが、それが委員会の活動内容というところに問題があるのだ。
この体力底無しの委員長達に、川で一体どんな無理難題を告げられるのかと考えると物凄く不安だ。
恐らく・・・・いや、ほぼ確実に、ウナギ獲りのみで終わるはずがない。

夏の地獄絵図を想像してしまい思わず身震いした滝夜叉丸が、とっさに先輩を呼ぶ。


「せ・・・・先輩方!」
「ん?」
「本当に・・・・・夏に、川へ行くのですか・・・・?」


ごくり、と息を呑んで慎重に尋ねれば。
目前の体育委員長は、ニカッと実に清々しい笑顔でこうのたまった。


「勿論だ!楽しみだな!」
「・・・・・・・・・・。」


あまりの明るい笑みに、無言になって立ち尽くす滝夜叉丸。
呆然としている彼の前で、六年生達はすでに別の話を始めている。

とてつもなく自由奔放な最上級生達を見て、体育委員の後輩達は滝夜叉丸を慰めるしか出来なかった。

 

 

 
(・・・・・先輩、一緒に頑張りましょう・・・・。)
 

 



夏真っ盛りなのでウナギネタ!なのに話の中では冬ってどうなの。^q^
ホントこへ書きやすいんだよな!凄い動いてくれるんですよ。なので、今回も登場。
次点で伊作が書きやすい・・・・気がする。気がするだけだけど。←
せっかくの体育委員なのに、金吾もしろちゃんもあんま喋らなくてすいませんorz
三之助ももっと喋らせたいんだけどな・・・・・。如何せん上手く扱えない。
もっと委員会ごとに上手く回せるように精進します。委員会ネタもいっぱい書きたいんだ!
・・・・あ、今回も題名と話の内容は関係ないですよ。雰囲気です雰囲気。^qqqq^
・・・・・・・・・・・・すいませんでした。orz

落乱小話(伊+食+こへ)

確定事項は未知数(伊作+食満+小平太)

 

「留三郎!これを、何も言わずにとりあえず飲んでみてくれないかな?」
「そう言われて怪しまずに全部飲み干せる奴がいたら、それはもう神だな。」


唐突に同室者が差し出してきたものの正体を訝しげに眺め、留三郎は答えた。
彼がそう言ってしまうのも、無理のない事である。

何せ、ニコニコ笑顔を貼り付けている同室者・伊作の前には、どす黒い色をした液体が湯呑みに入って置いてあるのだ。
しかも、恐ろしい事に彼はそれを飲めと言う。
はっきり言って、これがもし良薬だとしても、飲む勇気を得るのにだいぶ時間がかかりそうな代物である。
それなのに、「何も言わず」「とりあえず」飲んでくれというのが余計に不安を駆り立てる。

色を見ただけで脳が危険信号を訴えてくるのも珍しい。
これ以上近づけてはならない、と心の中の自分以外の誰かが必死に警告しているようだった。

思い切り怪しげに半眼で見られ、伊作が慌てて口を開く。


「そ・・・そんなに心配しなくても大丈夫だよ!飲んだからと言って、突然叫び出す訳でも、胃や肺が痛み出す訳でも、猫耳や尻尾が生える訳でも、女体化する訳でもないよ!」
「その四つの症状が起きる可能性大、と・・・・・。」
「あああああ、留さん!そんな事ないって大丈夫だってば!!」
「嘘付け!こんな怪しげなモン飲んで五体満足でいられる方がおかしいっつーの!!」


「絶対飲まねぇ!」、そう断言して腕を組む留三郎。
すっかりガードが固くなってしまった―――――元々からの気もするが―――――彼に、伊作も困ったように眉根を寄せる。

そのまま、しばし居心地の悪い静寂が訪れた。

が、それは長く続く事はなく。
わずかに数秒後、伊作が何やら思いついたらしくポンと手のひらを打ち、


「じゃあ留さん!飲まなくてもいいから、これを見た瞬間の率直の感想を」
「気持ち悪ぃ、気色悪ぃ、飲みたくねぇ。」
「・・・・・・・・・・・・ありがと。」


そこまで率直に言わなくても・・・とは思うが、留三郎の発言通りの見た目なので、伊作も何も言えなくなる。

再び流れる、微妙な沈黙。
その壁を破ったのは、今回は室内の二人ではなかった。

ダダダダ・・・・と響いてくる騒がしく駆ける足音が、部屋の前で急激に止まる。
かと思うと、間髪入れず戸が勢い良く開き、


「留三郎ー!直してほしいものがある!!」


そう言いながら部屋に飛び込んできたのは、体育委員長にして六年ろ組の―――――


「こっ・・・・小平太!?」


突然の入室者に、二人が驚いたのも束の間。
入ってきた時の勢いが余ったのか、小平太の膝が戸の近くに座っていた留三郎の背に当たってしまった。


「あ・・・・っ!」


とは、誰が洩らした声だったのか。

小平太に押される形になった留三郎は、そのままバランスが取れず前に手をついてしまう。
その時、彼の前に置いてあった湯呑みに手が触れた。
そうなれば、ぐらついた湯呑みは倒れる訳で。

ガシャーンという音がして、横になった湯呑みから中の液体が零れ出す。
床に広がっていく液体の様子を見て叫ぶのは、液体の持ち主の伊作である。


「ああああああ、善法寺スペシャルブラックドリンク(仮)がぁぁぁぁ!!」
「ご、ごめん。いさっくん・・・・。」


伊作の悲鳴に、大変な事をしてしまったのかと恐る恐る謝る小平太。
しゅんとした様が、まるで叱られた犬のようである。

しかし、留三郎はというと、小平太の謝罪など聞いている場合ではなかった。
何故なら、先程の伊作の叫びに少々引っ掛かる部分があったからである。


「てか、ちょっと待て伊作。今・・・・(仮)って言わなかったか?」
「え。」


留三郎の問いに、大袈裟なほどギクリと伊作の肩が跳ねる。
それを留三郎は見逃さなかったが、気付かれていないと思ったのか伊作はヘラリと笑って、


「い、嫌だなぁそんな事言ってないよ。カッコウ借りてくるね、と聞き間違えたんじゃない?」
「聞き間違えるかっ!!つーか、その文章当てはめたらさっきの台詞の文法おかしくなるだろうが!!」


どう考えても間違えようのない部分なので、余計に怪しい。
留三郎は、目元を引きつらせいつも以上に目を吊り上げ、バンと床を叩く。


「伊作!いい加減この液体の正体を白状しろ!」


未だ床に零れたままの液体を指差し、同室者に詰め寄る。
怒のオーラを背負う留三郎を見て、伊作は冷や汗を大量に流し小平太に助けを求める。


「あああ、助けて小平太!留さんが迫ってくる!」
「誤解を招く発言は止めろ!!」


しかし、そんなは組二人の会話を聞いていたのかいなかったのか、小平太の興味は違うところへ向いていたらしい。
伊作と留三郎の間のどす黒い液体をじっと見つめ、目をそこから逸らさぬまま伊作に問う。


「なぁ、いさっくん。この液体何だ?・・・・・・・・・・・・黒蜜?」
「な訳ねぇだろ!!」
「しかも、僕の言葉聞いてないし・・・・・。」


色を見ただけでは、黒蜜に見えない事もないが。
それでもやはり小平太の今の発言は突飛なもので、思わず留三郎のツッコミが入る。
伊作は伊作で、冗談とはいえせっかく小平太に助けを求めたのにそれが届いておらず、落ち込んだように項垂れていた。

このままでは、一向に話が進まない。
という事で、次に動いたのは留三郎の方であった。
細長い溜め息を吐き出し、一旦気を落ち着かせると今度は真っすぐ相手を見据えて、


「・・・・・伊作。言わねぇと、もう保健室の棚修理してやんねぇぞ。」
「え!それは困るよ!今日も棚の引き出しが落ちて二個壊れちゃったのに!」
「・・・・・・・現在進行形でぶっ壊れ中だったか・・・・・・・。」


留三郎の脅しは、思ったよりも伊作に対して効果があったようだ。

オロオロと狼狽する伊作の様子を、しばし半眼で眺めてみる。
その視線で居心地が悪くなったのか、数秒後、伊作はやっと観念したらしくこう告げた。


「・・・・・・わかったよ。」


大きく溜め息をつき、意を決したように真面目な顔で口を開く。


「この液体の、正体は・・・・・。」
「正体は・・・・・?」


妙な緊張感が張り詰めていて、留三郎も小平太もゴクリと息を呑む。
一体どんな恐ろしいものが答えなのかと、ただ伊作の返答を待つ。

たっぷり数十秒は沈黙が続いた後、伊作は二人に対し、きっぱり言い放った。


「―――――わかりません。」
「「は?」」


伊作の神妙な面持ちと正反対に、二人の表情が一気に間の抜けたものになる。
目を点にして呆然とする彼らに向かい、伊作は苦笑しながら説明を始めた。


「さっき言ったよね?棚の引き出しが落ちちゃったって・・・・。その引き出しには薬品が順番通りに入ってたんだけど、落ちた拍子に順番がメチャクチャになって、どれがどれだかわかんなくなっちゃったんだよ。だから・・・・・どの薬か確かめる為に飲んでもらおうと」
「俺で確かめんな!自分でやれ!!」
「僕が飲んだら普通の人よりもっと酷い目に遭いそうじゃないか!」
「だからって、何で俺!?」
「留さんなら優しいから大丈夫☆って、心の中の僕が言ってたんだよ!」
「答えになってねええぇぇぇぇ!!」


二人が言い合いをしている最中、小平太は彼らを交互に見ている。
しかし、二人は彼の視線など気にならないようで口論を止める気配はない。


「わかったよ、今度はバレないように料理に混ぜるから!」
「手口が巧妙になってる!つーか結局俺使ってんじゃねぇか!!」


放っておけば、まだしばらく続くだろう。
ギャーギャーと騒がしい二人を前にして、すでに飽きてしまったらしい小平太はくぁ、と欠伸を洩らした。

 

 

 


(とりあえず、先に床拭けば?)
(あ!)(忘れてた!)

 

 



今回の小話は、六は+こへでお送りしましたー。
たまには薬品をネタにした伊作中心(と言えるかどうか不明だが)話を書いてみたかったので。^^
この3人だと、ツッコミ役は食満になるようです。ウチの小話の場合。
てか、結局伊作のブラックドリンク(仮)は一体何だったんでしょうww 私もわからない。←
こへはカッコイイ天然キャラだと思ってるので、話に出し易いです。誰とでも絡ませられそう。
個人的に、ブラックドリンクを食満が飲んだ場合、猫耳と尻尾が生えればいいと思いm(殴!!
・・・・・・あ。相変わらず、タイトルと話に関係性はありません。^q^

落乱小話(六年)

一身上の混雑(六年)

 

それは、普段と何ら変わりないある日の昼食後のこと。
食堂で定食を食べ終え、本日午後は職員会議がある為授業もないので自室へ戻ろうとしていた六年生達に、事件は起こった。


「文次郎!後で自主トレ行こう!!」
「ああ、一旦会計室行ってからな。」
「部屋に戻ってくる時は、暑苦しいから全身の汗を拭いた後風呂に入りファブリーズしてから入れよ、文次郎。」
「仙蔵・・・・・ファブリーズって、時代錯誤・・・・・・・。」
「まぁ、消臭力くらいが丁度いいんじゃねぇか?」
「同じようなもんじゃねぇか!俺どんだけ匂いきついんだよ!!」
「匂いではない、臭いだ。」
「どっちでもいいわ!!」


実に騒がしい連中である。
しかし、彼らはこれが常なので周囲も特に気にしてはいない。
現に、横を通り過ぎた下級生達も先輩の彼らに軽く挨拶するのみだ。
というより、この学園自体毎日色んな所で騒ぎが起きているので、上級生が大声で会話していたからといって注目する事もないのである。

―――――と。

その六人の中で、皆の会話を聞くに徹していた長次がふと前に視線を向けたと同時に足を止めた。
突然立ち止まった彼に気付き、わずか前を歩いていた同組の小平太が続いて止まる。
きょとんとした表情で首を傾げ、長次に尋ねる。


「?どうしたんだ、長次?」


ともなれば、小平太の問う声を聞いた他の四人も立ち止まる訳で。
一同が訝しげな目線で長次に注目すると、彼は表情を微塵も変える事なくゆっくりと右手を上げ、


「・・・・・・・・・・・・・・・前。」


いつものように、近距離でないと聞き取れないほどの小声で呟き、上げた右手で前方を指差した。
彼の言動に五人がますます怪訝そうに目を瞬き、その手に沿って前を見やる。

そして、彼らの目に入ったものは。


「・・・・・・・子供・・・・?」


二、三度瞬きをした後、呆然と単語を洩らしたのは伊作であった。

そう、彼の呟いた通り、前方にいたのは一人の子供だったのだ。
とは言っても、彼らとてまだ十五の少年で、どちらかといえば子供の部類に値するのだが。

しかし、前方の子供は、まだ幼子と言った方が正しいようだった。
見たところ、まだ四、五歳ほどだろうか。
黒髪に円らな黒眼、深緑の着物を纏っている男児。


「うわー、可愛い!どうしたんだろう、この子・・・・。」


子供の方へ歩み寄りつつ、伊作が疑問を口にする。
それは、彼だけではなく他の五人にとっても謎であった。

何せ、ここは山奥に位置する忍術学園。
町中の子供が迷い込む事はまずないだろうし、だからといって生徒は十歳からしか入学出来ない。
そんな場所に、保護者の姿も周辺に見当たらず幼子が独りという光景は珍しかった。


「生徒の中の誰かの弟とか?」
「先生方の息子という選択肢もある。」
「とりあえず、訊いてみりゃわかるんじゃねぇか?」


伊作と仙蔵の案のどちらかが濃厚だが、本人に確認しなければ始まらない。
なので、文次郎が子供に問おうとしゃがみ込みかけるが。


「待て待て待て。」


という留三郎の制止の声が入った。

行動を中途半端に止められて、文次郎が不機嫌そうに彼の方を睨む。


「あ?何だよ。」
「お前みてぇなギンギン顔が目前に来たら、その子泣いちまうだろうが!ただでさえ泣く子も大泣きするおっさんヅラしてるってのに・・・・。」
「よぉぉぉし、いい度胸だな歯ぁ喰い縛れ・・・・っ!」


明らかに喧嘩を売っているとしか思えない留三郎の発言に、文次郎が怒るのも当然である。
思い切り顔を引きつらせ、いつも以上に眉根を寄せて右拳を慄かせている。
今にも目前の留三郎を殴ってしまいそうだ。

しかし、不穏な空気が流れる二人の横で、小平太が動いた。


「よーし、お兄ちゃんがお手玉にしてやろ」
「「やめんかっ!!」」


にっこり笑顔で恐ろしい事を言いかけた小平太に、すかさず文次郎と留三郎のツッコミが入る。
彼の場合、冗談なのか本気なのかわからないから余計に不安だ。
しかも、本当にお手玉出来そうな体力を持っているから手に負えない。

対して、子供の方は、自分より背が高い六人に囲まれているにも拘らず怯える風も見せない。
見上げる形で六人の顔を順々に見ていき―――――その視線が、ピタリとある一点で止まった。


「・・・・・・・・?」


その場所を見つめたまま動かなくなった子供に気付き、長次が軽く片眉を上げる。
しかし、長次の視線など気にならないのか、子供は一点から目を逸らさず歩き出した。

子供が動いたとなれば、流石に長次以外の五人も不思議そうな表情で彼の行く先を確かめる。
少々危なげな足取りで、しかし真っすぐ進んでいく先にいるのは―――――


「・・・・・ん?」


先程まで、目を吊り上げて留三郎と口論をしていた文次郎。
彼の前で止まった幼子は、じっと隈が張っている顔を見つめている。

あまりに純粋に輝く双眸に、文次郎が目元を引きつらせてたじろげば。
子供は、今まで垂らしていた右手を上げてキュッと文次郎の装束の裾を掴み、こう言った。


「・・・・・・・・父ちゃん。」
「―――――は?」


その場に、しばらく何とも表現しようのない沈黙が流れる。
各自、今子供が放った爆弾発言を脳内で繰り返しているようで、表情も身体も固まったままだ。

文次郎が素っ頓狂な声を上げてしまうのも、致し方ない事だろう。
何しろ、目前の幼子は、確かに自分の事を「父ちゃん」と呼んだのだ。

一瞬聞き間違いかとも思ったが、凍り付いた顔で周囲を見回せば、級友達も目を点にさせている。
となると、どうやら聞き間違いではないらしい。

実際にはたった数秒間だが、当事者達にとっては数時間にも感じられる静寂の後。

最初に動きを見せたのは、文次郎のクラスメイトである仙蔵だった。
よろりと身体をよろめかせ。信じられないものを見るような視線を文次郎に向け、


「・・・・・文次郎、お前・・・・。」
「な、何だよ。」
「前から妙だ妙だとは思っていたが・・・・・・・・・やはり、歳のサバを読んでいたのか・・・・。」
「おいちょっと待て。やはりってどういう意味だコラ!」


仙蔵の発言を聞いて、文次郎が額に四つ角を作る。
しかし、後輩達が見たら恐がりそうな文次郎の睨みも、仙蔵には全く通用しない。
それどころか、作法委員長は目を瞬かせていけしゃあしゃあと言うのだ。


「本来は三十五歳ではないのか?」
「・・・・お前な・・・・。」


あまりに悪びれた風もなくそう返されたものだから、文次郎は怒りを通り越して疲れたように溜め息を吐く。

六年い組の二人がそんな会話をしている最中も、子供は文次郎の服から手を放さない。


「それにしても、文次郎に似てないねぇ。」
「何言ってんだ伊作。黒髪なトコなんかそっくりじゃねぇか。」
「何で俺が親父って確定してんだ!つーか、黒髪はてめぇも同じだ留三郎!!」


しゃがみ込んで子供の頭を撫でつつ話をしているは組二人に、怒鳴る文次郎。


「文次郎やるなぁ。この歳で五歳の子持ちか!」
「・・・・・・・・・・・苦労するな・・・・・。」
「・・・・小平太、長次。お前らは色について最初から勉強し直してこい。」


ここまでくると冗談で言っているのだろうとは思うのだが、からかわれるとツッコミを入れずにはいられなかった。

一番冷静に見えるが、何だかんだ言って最も混乱しているのは文次郎本人なのだ。
突然現れた見覚えのない幼子に父親呼ばわりされれば、彼でなくとも焦るだろうが。


「・・・・・ま、確かにお前のバヤイ、父親ってより誘拐犯っぽいよな。」
「お前、そんなに来期の予算減らされてぇのか・・・・・?」
「予算減らしたりなんかしやがったら、犯罪者だと真っ先に学園中に言いふらしてやる。」


きっぱり答えた留三郎に、文次郎が内心で「その前に殺そう。」と思ったかどうかは神のみぞ知る。


「ちょっと二人とも!子供の前でそんな殺伐としたオーラ発さないでよ。」
「そうだぞ、お前達。冗談は顔だけにして、そろそろこの子供の本当の保護者を探そうとは思わんのか。」
「・・・・・何で俺が咎められてんだ。」
「つーか、仙蔵!今、俺を含めて冗談は顔だけにしろっつったろ!!」


全くもって、話に収拾がつかない面々である。
文次郎がもう面倒だと言わんばかりの表情で改めて自分の横の子供を見下ろすと、ほぼ同時。
今の今まで文次郎しか見ていなかった彼が、ピクリと何かに気付いたように振り返った。
振り向いた先を見やったその顔が、とたんにパッと明るくなる。
そして、彼の口から飛び出した一言は。


「あ!じいちゃん!」
「じいちゃんっ?」


六人が、揃いも揃って間の抜けた表情で子供が向いている方を見ると。
丁度、一人の老人がこちらへ歩いてきている途中だった。
見た目からでも上質に見える着物をしっかりと着こなしているので、どこかの商家の人物だろうか。

老人は、子供の声に気付いたのか目を軽く見張ると声を上げる。


「清吉!」
「清吉?」


老人が声に出した名前さえも、思わず反芻してしまう六年生達。
自分達の中に、“清吉”という名の者はいない。
という事は、この名前は文次郎の隣にいる子供のもので間違いないだろう。

六人が子供と老人を交互に見比べている内に、老人は一同の前までやって来て微笑んだ。


「君達が、清吉と遊んでくれていたのかね?」
「あー・・・いや、その・・・・遊んでいたというか何というか・・・・。」


老人の言葉に、頬を掻いて苦笑する文次郎。
遊んでいたと言われると、さして何もしていなかったので違う気がする。

その文次郎の横で、留三郎が皆が気になっている事を質問してくれた。


「ところで、あなたは?」
「こちらの学園長と古くからの友人でな・・・・久々に近くまで来たから、立ち寄ったんじゃよ。」


留三郎の問いにも微笑んだまま答えた老人は、孫の方へ向き直る。


「もう挨拶も済んだし、帰ろう。な、清吉。」
「うん!」


老人が清吉の方へ手を伸ばすと、彼はとても嬉しそうに頷き文次郎から離れる。
しっかり孫が手を掴んだ事を確認すると、老人は六人に深々と頭を下げて身を翻した。

が、その寸前。
伊作が、はっと何かを思い出したように少々遠慮がちに老人を呼び止めた。


「・・・・あ、すいません。その前に・・・・。」
「?」


翻しかけていた身体をそのままに、老人が首傾げに伊作を見やる。
清吉も、きょとんとしながら老人を見上げる。

老人と目が合った伊作は、隣の文次郎の装束をグイと引っ張り彼の顔を指差し、こんな事を訊き出したのだ。


「この人と、清吉くんのお父上って・・・・・似てますか?」
「お、おい!伊作・・・っ!」


もうこの話は終わりかと安心していたのに、また話題に出されて慌てる文次郎。

伊作に指で示された文次郎を上から下までまじまじと眺め、老人は悩む風に顎の下に手を置く。


「そうさなぁ・・・・・・あまり似てはいないが・・・・。」


別に睨まれている訳ではないのだが、ずっと見つめられていると居心地が悪くなるものだ。
文次郎は少々身体を退いて顔を引きつらせつつ、内心でホッとする。
あまり似ていないと言われたからだったが、老人の言葉にはまだ続きがあるようで。


「強いて言うなら、隈が似ておるな。」
「は?隈?」


瞬間、文次郎の後ろに立つ仙蔵がプッと吹き出す。
それをしっかり聞き取った文次郎がギッと仙蔵を睨め付けるが、彼は涼しい表情で微笑を浮かべるのみ。
実は他の四人も笑いを堪えておかしな表情になっていたのだが、仙蔵が吹き出した事で文次郎には気付かれなかった。

思い切り苛立ちを募らせながらも前に向き直った文次郎に、老人は答えを続ける。


「この子の父親・・・・まぁ、ワシの息子でもあるんじゃが・・・・奴は、仕事熱心な奴でな。夜中まで仕事をしとる事も多く、気が付くと目の下に隈が張っておる。」


「丁度、君のようにな。」と文次郎を見て付け足し、軽く笑い声を上げる老人。
呆然と立ち尽くす会計委員長の心情を知ってか知らないでか、老人は改めて穏やかに顔を綻ばせると、


「では、ワシらは帰るとするよ。清吉と遊んでくれて、本当にありがとう。」


そう言うと、今度こそ帰っていってしまった。

廊下を曲がる際に、清吉が小さい手を大きく振って「ばいばーい!」と元気に別れの挨拶をしていったが、恐らく文次郎には聞こえていない。
まあ、代わりに伊作が手を振り返していたようだが。

二人分の足音が完全に聞こえなくなった頃、仙蔵が口を開く。
わざわざ文次郎に聞こえるように、しっかりはっきりと、澄ました顔で。


「・・・・結局、隈で父親と間違えられたという事は、おっさんヅラに代わりはないという事だな。」


*****


―――――この日から数日、文次郎が徹夜すべきか止めるべきか本気で悩んでいた、と会計委員の後輩達は語った。

 

 


(俺は、正真正銘十五歳だ!!)

 

 



長っ!!久々に短編で長い小話書いた・・・・・・気がします。(え
六年全員登場のギャグを書きたくて考えた結果、こう仕上がりました。
読み返してみたら、文次がだいぶ可哀想な事になっているwwww
ボケ五人に対して、文次が一人でツッコミをしてる感じだ。笑
「お手玉にしてやろう」はずっと使いたかったネタです。だって、公式の迷台詞だもの!
因みに、話のタイトルは雰囲気でつけたものなので、本編とあんまり関係ありません。←

落乱小話(伊+仙)

いつか思い出が消えたら(伊作+仙蔵)

 

「いつか・・・・こうやってみんなで過ごしていた日々も、忘れちゃうのかな・・・・。」
「死んだら忘れるだろうな。」


呟いた言葉に対してすっぱり言い切った仙蔵に、伊作は小さく溜め息を洩らした。
彼の言い分は尤もなのだが、不安気に話しているのだからもう少しフォローしてくれても・・・・と思ってしまう。

少し右前では小平太と留三郎が会話しているし、左隣ではなかなか本を返却しない文次郎に長次が詰め寄っている。
この学園で過ごしてきた今までと、全く変わらない日常。

・・・・・けれど。
自分達は、年月を経て確実に成長してしまった。
期待と希望に満ち溢れた一年生から始まって、実戦等で忍術を学び、戦闘技術を身につけ、今は人を殺める事だってするようになった。
もうすぐ、それを生業にして生きていかねばならない。

もう、六年生。
否が応にも、卒業の時は訪れる。

恐らく・・・・というよりは、ほぼ確実に、今より生死と隣り合わせの毎日になるだろう。
そうすれば、今の学園での生活を思い出す機会も少なくなってしまう。
もしかしたら、死する時まで考えないようにしてしまうかもしれない。

そのまま死んでしまったら、もう二度と思い出が蘇る事はないのだ。
・・・・そうは、なりたくなかった。


「・・・・だが、私はそう簡単に死ぬつもりはないぞ。」


不意に紡がれた仙蔵の言葉に、伊作は勢い良く顔を上げた。
目を瞬いて相手の顔を凝視すれば、彼はふっと不敵に笑う。


「だから、お前もこの時を忘れぬように生き抜けばいい。」


その、たった一言がとても心強く思えた。

忍の道で生き抜く事は、容易ではないけれど。
それでも、皆と過ごした日々を忘れないように精一杯生きようと思った。

 


(いつかこの日の事を、忘れる日が来るとしても。)

 

 



当サイトでは、あるようで今までなかった伊作と仙様のお話でした。
一番忍者に向いてないのが伊作なら、忍者になる為の覚悟が一番あるのが仙蔵だと思っております。
六年が卒業して、それぞれフリー忍者や城に仕えたりするようになっても、ちょくちょく会って談笑とかしてたらいいのにな・・・・。
願わくば、敵として遭遇してほしくない。戦場で再会しちゃったら、あまりに悲し過ぎる。
特に、クラスメイトでとか泣ける。い・ろ・はで戦闘なんて泣くあああああああ。;¥;
でも、いつかはそんな話も書いてみたいと思ってしまうのです。(シリアスも好きなんだよ・・・・ 


お題提供元様:空は青かった

成長一年落乱小話(<6年>きり+土井)

奇跡が僕にくれたもの(<成長6年>きり丸+土井)

 

「俺は・・・・幸せ者なんスよ。」


唐突に発せられたきり丸の言葉に、隣に座っていた半助は目を瞬いた。
先程までは、バイトの事や休み明けの授業の事など取り留めもない話しかしていなかったのに、不意に真面目な表情になって、一体どうしたというのか。

半助が訝しげな視線できり丸をまじまじと凝視すると、彼は間にある囲炉裏に目を落とす。


「・・・・戦で家族も村も失くしちまった俺が、今ここでこうしていられるのは、先生や乱太郎達がいたからなんです。」
「きり丸・・・・どうしたんだ?突然・・・・・。」


静かに紡がれる生徒の言葉を聞き、半助は再び二、三度瞬きしてしまう。

一方、問われたきり丸は音もなく顔を上げた。
その真っすぐな、鋭いアーモンド型の双眸に、半助は一瞬ギクリとする。

この少年は、一体いつからこんなに大人びた眼をするようになったのだろう。
学園に入学した頃は、金に厳しくシビアだが、まだどこかあどけなさが残っていたというのに。
いつの間にか、顔や身長、体つきだけでなく心まで成長していたのだと気付かされるような眼。


「俺達がここでこうやって話してる間にも、どっかでは戦が起こってて、俺みてぇな孤児が出てくるかもしれねぇ。でも、誰かに拾われたり生き延びたり出来る奴なんて極わずかで・・・・。拾われたって、それが悪い野郎だったりしたら結局は意味がねぇ。」


語っている最中のきり丸の眼差しには、揺らぎがなかった。
幼い頃に両親も家も亡くした辛い過去を持っているとは感じさせない、迷いのない瞳が半助の目に映る。


「この世の中に、一体どれくらいの人間がいるかなんてのはわかんねぇけど・・・・それでも、先生や乱太郎達と出会えたのは、奇跡だと思うんス。」


そう言って、きり丸はニカッと笑った。

それは、銭の事を考えている時のニヤケ顔や悪戯を考えている時の含み笑いとは違った、心からの笑顔。
一年生の時の笑顔と、今目前にいる六年生になった彼の笑顔が重なって、半助は内心で安堵する。

六年も経てば身体も精神も成長するのは当たり前だが、やはりまだ少年なのだ。
そう思うと、急に彼の事がとても可愛く思えてきてしまって。


「・・・・・きり丸。」
「?何スか?」


呼ばれたきり丸が、目を瞬かせてきょとんと問い返せば。
半助は、ふわりと微笑んで言った。


「・・・・・私も、お前と出会えて幸せだよ。」

 

 


(その、奇跡を失わない為にも。)
(俺は、もっと強くなる。)

 

 



夏休みか何かが終わる寸前、土井家でのお話でした。
思ったより短くなってしまった・・・・!でも、だらだら長いよりはいいのかな・・・・?
きり丸の過去(戦争孤児)を知った時、「ええええ!?そんな辛い過去が!?」って驚いたのを覚えてます。
でも、異常なまでの銭への執着があるにも拘らず彼がああして楽しく笑ったり出来ているのは、乱太郎やしんべヱ、土井先生をはじめ、学園の皆がいてくれるからだろうなぁと思う訳で。
六年生になって、こういう事言ってくれたら萌えると思いませんか。私だけですか。

とりあえず、当サイトできり丸と土井先生の話を書いたのは初なので、書いてて楽しかったです。
・・・・・けど、楽しいのに如何せん難しいんだよな・・・・。(お蔭で短くなっちゃったしね!

お題提供元様:空は青かった

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