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『泪雨』のなこ様から、キリ番4000hit小説(次富)

ザッザッっと、草を踏み分けて走る三之助の足音が小さく響いた。


「作、もうすぐだから…」


額ににじむ汗を片手で拭いながら小さく呟く三之助に、作兵衛は三之助の背中に負ぶさったまま唇をかみ締めた。







簡単な任務のはずだった。孫兵と左門、そして自分達の4人で城に忍び込んで密書を手に入れるだけの単純な任務。
忍者のいない城だったから、潜入も脱出も造作なかった。
(元々3年生にあてがわれる任務は簡単なものばかりだ)
だけど学園に変える途中で、作兵衛たちは、密書を狙う忍者に襲われたのだ。
決して油断していたわけではなかった。だけど、相手はさすがプロの忍者で、作兵衛は自分に襲い掛かる忍者の気配に気付くのが僅かに遅れた。


『……ッ、あ』


懐に飛び掛ってきた忍者を避けようとするが、反応が遅れた分だけ避けきれず、作兵衛はふくらはぎから膝にかけて怪我を負ってしまったのだ。







痛みが酷くてまともに走れない。
だから、足手まといになると分かっていたのに。置いていってくれても構わなかったのに。


「…ッ、三之助…!」

「何?」

「俺を置いていけ」

「何言って…」

「追っ手がすぐ近くまで来てる…このままじゃ追いつかれるから…」


自分のせいで三之助まで危険に巻き込みたくなかった。


だけど、三之助は作兵衛の言葉を聞いても決して足を止めようとはせず、無言で否定の意を表すと、作兵衛の言葉に構わず走り続けた。


「三之助…ッ!!」

「……」

「おいッ!」

「…俺、嫌だから」

「…え?」

「作は絶対に置いていかない。絶対に2人で帰るんだ」

「でも…」


追っ手の気配はすぐそこまで来ている。
足を怪我している自分がいては、近いうちに追いつかれて2人共やられてしまうだろう。


危険が迫っているというのに前だけを向いている三之助に、作兵衛が動揺すると。
三之助は作兵衛を背負う腕に力をこめた。


「大丈夫。…孫兵や左門が忍術学園に先に行って助けを呼びに行ってるから」

「それは分かってる」


自分に怪我をさせた斥候を倒して、新たな追っ手が来る前に孫兵と左門が学園に向けて走ったのを作兵衛も見ていた。
だけど、どう早く見積もっても今はやっと忍術学園に辿り着いたところだろう。
それから助けが自分達のところに来るまで、追いつかれずに逃げ切れるかどうかが問題なんだ。


(三之助だって、俺が言いたいことくらい分かってるはずなのに…)


尚も走り続ける三之助に涙が出そうになって、作兵衛が目を閉じると。
三之助が急に立ち止まった。


「…助けが来るまでの間くらい、耐えてみせるよ」


そして、過剰なくらい優しく作兵衛を背中から下ろして木の幹に寄りかからせると。
作兵衛に背を向けて、クナイを構えた。


「俺だって忍者目指してるんだ。…作兵衛には指一本触れさせない」


三之助が見据える先にはいくつかの気配があって。
作兵衛も、クナイをとりだして構えた。


足は動かない。
だけど、ただ三之助に守られてるだけなんて絶対に嫌だった。







置いてはいかない
 



『泪雨』のなこ様より、キリ番4000を踏んだ際に頂いた小説でございました!
こちらのサイト様は、初めて転生パロの長編を拝見した際に一目惚れ(一読み惚れ)して日参しておりました。
転生パロの設定が、委員会ごとに兄弟に生まれ変わっているという素晴らしいもので、大好きなのです。
長編も然る事ながら、短編の三ろも面白くて!特に次富がニヤニヤものです。
最近三ろブームがきていたので、キリ番を踏ませて頂いた時はナイスタイミング!と恐れ多くも思ってしまいました。
リクさせて頂いたのは「何かで足を怪我してしまう作兵衛と、それを背負う次屋」で、こんな素晴らしいお話を頂きました!
最後の三之助の、「俺だって〜触れさせない」が超超超カッコ良くてですね!作じゃなくて私が惚れてまうやろぉぉみたいな!←
でも、守られているだけじゃない作も素敵!守られてるだけなんて「絶対に」ってトコが可愛いです。^q^
なこ様・・・・・カッコイイ次富小説を本当にありがとうございました!!

『高熱』の39.7℃様から、キリ番7777hit小説(年齢逆転パロ会計+作法)

長屋に怒号が響いた。

「この、馬ああぁぁぁー!!」
「うっせぇよ!からくり馬ぁー鹿!」

相手を貶す言葉が両人ともから、ポンポンと飛び交い、かなり激しい喧嘩だと分かる。

「馬鹿に馬鹿って言われたくねぇーよ!!」
「ああ?人に馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞ!」
「馬鹿じゃねぇか!」

言い合っているのは笹山平太夫と加藤団蔵。

喧嘩するほど仲が良いの通説を誰もが信じ、彼らの激しいコミュニケーションに進んで関わろうとする人間は、ここ、忍術学園にはいなかった。


Everyday experience 


「ったく、あの脳味噌筋肉め!」
ぶつぶつと呟きながら、兵太夫が作法委員会の部屋に入ってくる。
その様子はかなり、フラストレーションが溜まっているようで、少しでも下手なことをすれば一気に爆発するだろうことが、誰の目からも明らかだった。
触らぬ神に祟りなし精神を発揮した浦風藤内は目を逸らし、こういうときに格好の標的になる黒門伝七は、いつもは饒舌な口をつぐんだ。
そんな中、空気を敢えて読まない委員が一人。
「どうしたんです?」
綾部喜八郎だ。
きょとんとした真顔のまま、兵太夫に向かって首を傾げる。
「喜八郎…」
それを、怒りのせいで半眼になった兵太夫が睨んだ。
「会計ですか?」
周りが、この状態にヒイッと脅える中、喜八郎はマイペースにも疑問を重ねる。
「そうなんだよ!ったく団蔵のやつが、新作を壊してさ!」
兵太夫の怒りが炸裂し、枠線か天井が落ちてくるか、畳が吹っ飛び、槍が飛び出てくるのではないかと構えた、他の委員の予想を裏切り、兵太夫は大きな声を出しただけだった。
「あれの構造に何夜かけたことか…それを、僕らの部屋でうっかりかかって?しかも、クナイと怪力でめちゃくちゃにしといて、やっちゃった!の一言だと!許せるか!」
藤内と伝七的には嬉しいことだが、新作の罠を団蔵に壊されて怒っているらしいことがその怒鳴り声からわかる。
「だいたい、まだ調整中だったのに!」
仕掛けた罠が壊されるのは仕方がない、しかし、調整中の罠が不慮の事故で壊されるのは、仕掛けた当人も納得がいかないものだ。しかも、無謝罪。気軽な関係だからこそ、団蔵もその様な態度だったのだろうが、フォローする隙が無い。

「掘りますか?」

喜八郎がまた真顔で呟いた。
その場の空気が固まる。
兵太夫は、一瞬、は?という顔になったが、何か思い付いたのか、凶悪な笑みを溢した。

「掘るか!」

兵太夫は喜八郎の言葉を嬉しそうにリフレインしだたけにすぎない。しかし、伝七と藤内の脳内には、無惨な姿になった会計委員長の姿が走馬灯の様に駆け巡る。
二人が笑いあうその姿に、藤内と伝七は、寿命が10年は縮んだ思いがしたと後に語った。


一方、会計委員会の部屋では酔っぱらいの様に団蔵がくだをまいていた。
「聞いてくれよ佐吉っちゃん!兵太夫がさー、罠壊したからって怒ってくるんだぜ!大体よーいつものことじゃねぇかー」
部屋の隅に大の字で寝転がりながら、ぶちぶちと文句を呟く。
それにおざなりの返事を返すのは、任暁佐吉だ。
その目は帳簿と算盤から外れることなく、繰り上げ、足されていく数字の上を走っている。
「でも、珍しいですね、笹山先輩って仕掛けた罠が壊されても、また、作り直すさっていつもは言いますよね」
神埼左門が何時もの兵太夫を思い出しながら答えを返した。
基本的に罠は学園中に仕掛けられており、左門も何度か引っ掛かったことがある。
左門は、からくりの解除が出来るような器用さは持ち合わせていなかったために、何度か力付くで脱出したことがあった。
しかし、兵太夫にその姿を見つかったときも、怒ったりなどせずに、「馬鹿力め」と笑って、丁寧に解除の仕方を教えてくれたが、それが何故か。
「そうなんだよなー、っつうか壊されたくないなら、仕掛けるなよ!」
確かに、団蔵の言う通りだ。壊されたくなければ、仕掛けなければいい。それは、兵太夫もわかっているはず。
謎は深まるばかりだ。
「何か、あったんかー?」
話を聞いてもらって落ち着いたのか、団蔵も怒られた理由を考え始める。
相変わらず、大の字になっての態度は不遜極まりないが、その目は真剣だった。



中庭では喜八郎が泥だらけになりながら懸命に穴を掘っていた。
「喜八郎ー、もういいぞー充分だー」
兵太夫が穴の上から指示を出す。喜八郎は頷いて、伝七に手助けして貰いながら、穴から出た。
「今回は何を?」
その様子を不思議そうに見ていた橘仙蔵が聞く。
その側には、竹や綱、丸太などが転がっており、だたの落とし穴にしてはものものしい。
「ん、基本に立ち返ってスパイクなど仕掛けようかと」
兵太夫が竹を手刀で斜めに落としながら答えた。
その、穴の中に仕掛けられる竹の先は、鋭利に尖っており兵太夫の殺気がこもっている。
「まぁ、他にも仕掛けるけどねー」
そう、誰に言うでもなく呟くと、作法委員に指示を出し、自分も作業に戻っていく。
ニコニコと笑いながら仕掛けを作る姿は、何も知らない生徒から見ても、不穏な空気がわかるほどだった。


その頃、会計委員会の部屋で眠っていると思われた、団蔵がいきなり目を見開いた。
その唐突さに、近くで算盤を弾いていた田村三木エ門が驚く。
「先輩!?どうしました?」
「あーわかった、やべー、そりゃ怒るわー、俺が悪いわー」
三木エ門が聞いたにも関わらず、自分一人で納得し、質問には答えていない。
その様子は不可思議で、どうしようと三木エ門は周りを見るが、佐吉も左門も帳簿に向かっている。
そこに、おつかいから帰ってきた潮江文次郎が部屋に入ってきた。
「加藤先輩、笹山先輩が中庭にすぐに来てほしいと言伝てを頼まれましたが」
どうされましたか、という文次郎の丁寧な疑問に答えることなく、団蔵の顔が青くなる。
「っ佐吉っちゃん!俺行ってくるわ!」
「ああ」
団蔵は佐吉に出ることを告げると、すごい勢いで立ち上がり、そのままに部屋を出ていった。
「先輩…加藤先輩は何故?」
意味不明な委員長の動きに、目を丸くした文次郎と三木エ門が先輩に問う。
それは明らかに、どうしてか知りたいと瞳が語っており、好奇心に溢れている。
「気になるなら、見に行くか。全くくだらんことだがな」
佐吉と左門はそれに苦笑しながら立ち上がり、観戦に行くかと団蔵の後をゆっくりと追った。


団蔵は走りながら焦っていた。やっと自分のしたことの重大さがわかったのだ。
気づいたのは、出しっぱなしにされていた工具箱に、兵太夫の目の下の隈を思い出したからだ。
「あー、罠だろうけど行くしか無いよなー!」
素晴らしいスピードで、建物の門を曲がり、中庭に出ると、兵太夫が待ち構えていた。
団蔵は、訓練のときでも痛むことのなかった胃が、キリキリとした痛みを訴えるのに気づきながら、ゆっくりと歩いていく。
何故か周りにはギャラリーなのか作法委員会全員が揃っていた。
「来たね」
団蔵が目の前まで歩みよると、兵太夫が静かに言う。
その表情は柔らかいが、目は笑ってはいなかった。
団蔵の背中に冷や汗が伝う。
六年間一緒に学んだ時間は伊達ではない、その声音から、団蔵は兵太夫がかなり頭にきていることを瞬時に悟った。

「へ、兵太夫さん…」
「いや、ね、僕もあんなに言ってすまないなとは思ったんだ」

いきなり、団蔵にはなんのことかわからぬままに、兵太夫が笑いながら自分の非を認めた。
その、ニコニコと人の良さそうな顔をしている兵太夫は、彼をよく知らない人から見れば許そうとしているように見えるだろう。
しかし、団蔵の危機回避本能が違うと言っていた。

「馬なんて言って悪かったね、どうか、暴言を吐いた僕を許してくれるかな?」

許してくれるも、くれないも、その気持ちの悪い丁寧さを止めて欲しいと願いながら、団蔵が一歩後ろに下がる。
これならば、怒鳴られた方がましだ。
兵太夫の丁寧さが増すに比例して、周りの空気はどんよりと暗雲が立ち込め、あまりの怒気に見ていた作法委員会が距離を取る。
それを視界の端に認めた団蔵は、出来ることなら自分も逃げたい!と頭の中で叫んだ。

「ねぇ、団蔵くん」

ゆっくりと区切られて呼ばれた名前。
丁寧な語り口。
絶対零度。
団蔵は限界だった。

「すいませんでしたぁぁぁっ!」

団蔵は、コンマ0何秒かのブランクの間に、地べたに這いつくばるかというところまで、体を下に落とす。
両手を大地につけ、頭はこすりつけんばかりに下げた。
伝統的な謝罪の形。
土下座だ。
その潔い姿は、土下座であるのに逆に美しい。
思わず許してしまいそうな謝罪の姿勢であった。

その団蔵の姿に、兵太夫が何も言わずに膝を折り、先ほどまで立ち込めていた怒気をおさめる。
見ていた周りに動揺が走った。
更に、兵太夫は土下座している団蔵に手を差しのべ、顔を上げさせる。
団蔵はもう涙目で、何とも情けない顔だ。

「和解ですか…?」

遠くから眺めていた、会計委員会の三木エ門が呟いた。
確かに、その光景は美しい慈しみに満ちた和解の風景。
しかし、会計と作法の六年生が首を横に振った。

「まさか」

その瞬間。
「って許すか馬ー鹿!!!!」
「やっぱりー!」
兵太夫が差し出した手をそのまま地面に降り下ろすと、団蔵の下の土が無くなり、ぽっかりと大きな穴が口を開く。
「ぎゃーっ!」
団蔵は叫びながらも持ち前の敏捷さで、咄嗟に縁を掴み、穴から飛び出た。
しかし、そこに上から丸太が襲いかかる。
這い出ることに必死だった団蔵は、その丸太の直撃を避けることなく顔で受けた。
完璧なノックアウト。
鼻血を流しながら、スローモーションで団蔵が後ろへ倒れていく。しかし、最後の力をふり絞ったのか穴ではなく、何とか地面へと倒れることが出来ていた。
ドサッという音が辺りに響く。

呆気ない幕切れであった。
「一件落着だな」
団蔵が倒れた姿を見ていた佐吉がさっさと部屋に帰ろうとする。
「さ、帰るぞ会計委員会」
「せ、先輩…」
作法の高学年も、さっさと帰ろうとするが、低学年が展開についていけてない。
会計の低学年二人がその佐吉の行動にいいのかと恐々聞いた。
「あー死んでないから大丈夫だ」
真顔で言われても、納得出来るものではないが、作法の方も見れば、帰り支度を初めているところで。
「ほら、行くぞー。まだ、仕事あるしなー」
四年生の左門までもが、笑っているため、下級生は首を傾げてついていくしかない。
「あ、その馬鹿引きずっていってね」
そこに、倒した張本人である兵太夫から声がかかった。
その笑顔は先ほどの作ったような笑いではなく、本当に清々しい笑顔だ。
あれで、怒りはおさまったらしい。
その周りにいる作法委員会の面々も、伝七と藤内が頭を下げている以外は、暢気にも手を振っている。

「ま、いつものことだ」

すでに、日が暮れかけて、辺りは夕焼け色に染まっている。
団蔵を担いだ佐吉の諦めたような、笑っているような声がやけに印象的な騒動だった。








日常茶飯事

 



『高熱』の39.7℃様より、キリ番7777を踏んだ際に頂いた小説でございます!
こちらのサイト様の年齢逆転パロ(六年が一年、一年が六年というような)が大好きで大好きで!!
六年生のは組がめちゃくちゃカッコ良いのですよ!!みんな強くて憧れで・・・!
前々からこっそりお邪魔させて頂いていたのですが、恐れ多くもキリ番を取ってしまい、これはチャンスだ!(待て)と思い、リクエストさせて頂いたのです。
そして頂いたのがこのお話で・・・・!リクエストしたのは、「会計と作法」だったのですが・・・・・。
団蔵と兵ちゃんがいっぱい出ていて、この二人が大好きなので本当どうしようかと思うくらい嬉しかったです!
兵ちゃんの「って許すか馬ー鹿!!」って発言が好き過ぎてニヤニヤしてしまいます。
39.7℃様・・・・・素晴らしい小説を本当にありがとうございました!!

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