激しい崩落音と衝撃に気が付けば、瓦礫の上に落ちていた。

命が有っただけマシか、そう思った矢先に何かが動いた気がした。

こんな所で、私は死ぬのか…。

不甲斐無さに目を閉じて思わず苦笑が漏れた、瞬間。


「砕岩!!」


何かが吹き飛ぶ衝撃と、更に瓦礫が崩れる音が耳を打つ。

何だ、助かったのか?
再び開いた視界に、一人の青年の姿が有った。


「大丈夫ですか!?」


白っぽい容姿に緑が映える、青年は周囲を見回した後、私の元へ駆け寄って来た。

肩を借りて瓦礫から脱出する。


「有り難う、助かったよ」


礼を述べれば、無事で良かったと笑みを向けられた。
ふむ、最近の若者にしては謙虚な性格の様だね。


「貴方は知覚者なんですか?」

「いや、私は一般市民で、知覚能力は持っては居ないよ」

「知覚者じゃ無い人は危険ですから廃墟には…」

「あぁ、廃墟探索許可なら持っては居るんだ…無論、合法の物だよ?」


一般人の私が廃墟に立ち入れる事に、青年は驚きを見せる。
無理も無い話では有るが、やはり珍しい部類なのだろうか?


「貴方、一人で廃墟に?」

「いや、私を護衛してくれている同行者が居るんだが…」


先程脱出した建物を見遣るが、人の気配は無さそうである。


「…逸れてしまった様だね」


肩を落とし、小さく溜息を吐く。
優秀な同行者だ、恐らく反対側か、別なエリアへ退避したのだろう。


「俺も、さっきの崩落で仲間と逸れちゃいまして…」


青年が苦笑混じりに話したのは、あの建物内部で遭遇したガーディアンを仲間と駆逐していたは良いものの、予想以上に老朽化した建物が衝撃に耐え切れず倒壊し、その瞬間、私同様に仲間と逸れてしまったとの内容だった。


「成程、つまり私達はお互い同行者と逸れた迷子、と言う事か」


そうみたいですね、と青年も肩を落として笑った。


「ところで、君は知覚者の様だけれど、学園の人なのかな?」

「あ、はい」


それならば話は早い。


「君、ミミイを持っていないかな?
確かアレには位置確認機能や救難信号発信が出来たと思うんだが…」


学園の生徒や関係者に配布されているM.I.M.I(ミミイ)は緊急時救済システムが搭載されていて、一般流通型(通常商品)とは根本的に性能が異なっている。

早い話が、学園のミミイが有れば救助確率が格段に上がる、と言う訳だ。


「すいません…実は崩落の時に、携帯落としちゃったんです」


目に見えて申し訳無さそうにする青年に、ただの確認だから、と苦笑して見せる。

携帯に付いていたミミイは恐らく緊急退避プログラムを発動、彼の仲間と共に安全地点まで移転した筈だ。


それに携帯だけならば私が所持しては居るが、この廃墟では電波障害が激しく、一定範囲内の通話しかマトモな送受信が望めない。


「せめて、ポータルが見付かれば良いんですけど…」


青年は注意深く辺りを見回すも、目的の物は目に付かない様だ。

彼の言うポータルとは『ポータル・リンクス』と呼ばれる移転装置の事だ。
登録されてあるエリア・区画に一瞬で人や物を移す事が出来る。

短距離間ならばミミイにも搭載されている機能である。


「ポータルならば、私が所持しているよ?」

「えっ!?本当ですか?」


希望に満ちた表情で見上げられてしまった。


「だが、同行者を置いて行く訳にはいかないだろう?」

「あ…そう、ですね」


幾ら優秀な知覚者でも、捜索しながら単身で進むには限界が有るモノだ…途中で何か有っては困る。


「じゃあ、こうしないかい?」


悩んでいる青年に、私は一つの条件を提示した。


「君は私が同行者と遭遇するまでの間、警護をしてくれないかい?
無事に我々が合流出来れば、私が君を学園の近くまで移転させてあげよう」

数瞬彼は悩んだが、すぐに頷いて了承をしてくれた。


「今の俺に出来る事は貴方の手助けになる事だと思います」


「結構!
では、探索を始めるとしようか…えぇと?」


ふと、青年の名を聞いていない事に思い当たる。

彼も私の様子に気付いたのか、ハッとした表情を見せ、自己紹介を切り出した。


「俺は、颯刃です。九龍颯刃」

「九龍、君だね?
私の事はシヅキ、と呼んでくれたら良い」

「シヅキさん、解りました!」


お互いに顔を見合わせた後…彼は首に掛かる緑の布を、
私は身に纏っている白衣を靡かせ、砂埃が漂う廃墟の中を歩き出した…。