最初は、気になりませんでした。
貴方も最初から僕に距離を取っていたし、このまま観察期間が終わり、また別な担当者が来るだけだと思っていました。
魔力も衝撃も遮断する防壁を兼ねた硝子の向こう。
最小限の明かりしか無いこの特別監房室の、手前が貴方の世界。
そして、その内側が僕の世界。
交わらないと思っていたのに…
「…どぉしたらぁ〜…良ぃいのでぇ〜しょぉ〜かぁねぇぇ〜…?」
愛しき同居者を抱き撫でながら、僕は一人困惑していた。
悩みの種は簡単に見付かり、どうやら僕は貴方に好意を持ってしまった様で。
この所不眠気味になっているのも、貴方を想う時間に費やされているからで。
…もっとも、この空間に時間概念が無い為、どれだけ僕が頭を悩ませているのかは明確には解りませんが。
白い表層を撫でながら、溜息を一つ。
貴方が、硝子越しに状態を質問する。
体調が優れないと思って居るのですか?
全く、その通りですよ。
コレに近い現象は、本で知っています。
「そぉですねぇぇ〜…恋患いぃ〜…と言った所でぇしょおかぁ〜?」
呆れている貴方。
つれない人ですね、割と本気で答えて居ると言うのに…
ただ、僕も愚者には成り切れない訳で。
「貴方はぁ〜もう〜此処へはぁ〜来ない方が良いですぅ〜よぉ〜?」
えぇ、無理な事は承知しています。
だって、僕を監視するのが貴方の仕事だから。
「忠告ぅ〜…でしょうかぁ〜ねぇぇ〜?」
貴方は優しいから、僕は些か不安になりますよ。
それが貴方の首を絞めてしまいそうで。
赤の流れる様は、好きです。
冷たい筈の床の感覚すら、今の僕には解らない。
霞む視界とは裏腹に意識は覚醒して居るので、心配は要りませんよ。
だから、そんな驚いた顔をしないで?
あぁ、駄目ですよ。
駄目ですって。
解錠音と共に、白衣の貴方が飛び込んで来る。
駄目です。
「だ、め…ですよぉ〜…それ以上…近付かないでぇ〜下さぁ、いぃ〜」
ひらり、閃く。
膝を着いた貴方が、
起き上がった僕の胸に倒れて来る。
「だからぁ〜言ったじゃあぁ〜無いですかぁぁ〜」
白を浸蝕する暖かい赤。
今ならまだ、助かりますね。
「貴方はぁ〜生き残りたいでしょぉ〜う…?」