064.小さな手【学園的な100題】






ただ一心に願って、

ただ純粋に想って、

その小さな手を引いた。





君が不安に押し潰されないように、

僕が不安を隠せるように、

ただ、前のみを見て。





炎天の中、

あてどもなく、拠り所なく、

ふたり手を繋いで彷徨った。





伝わるぬくもりが

最大の慰めになればと、

握る手に力を込めた。





弱々しく返される力に

僕が勘違いをしたと気づくのは

もっとずっと先のことだった。





ただただ一途に、

ただただ切実に、

あの時、僕は思った。





何を賭しても

君を、君だけを守ろうと。





君の盾となり、剣となり、

傷を負わせ、そして負傷し、

それでも君だけはきれいなまま、

あらゆる苦痛と無縁な世界に

連れて行けると思っていた。





愚かしくも単純に思っていた。

それが可能なのだと。





握り返す小さな手を引いて、

いつも、いつの日も

君を守っていけると疑わなかった。





その手がいつの間にか

僕の手をすり抜けていくことにも気づかず、





ただ彼方を、

ただ前のみを見て歩んでいた。





この地の先、

その丘の向こう、

あの雲の下へ。





いついつまでも共に、

在りし日のように、

このまま手を繋いで行けると。





それは僕の

唯一の願いだったのかもしれない。





彷徨い、見つけた先の場所は

君には安息の地ではなかった。





君が求めていたものが

今となってはよくわかる。





もう握り返すこともない、

その小さな手が





いつの日にか

望むものを手にできるよう





僕は君の手を離そう。






学園的な100題 一覧

063← ‖ →065