スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

054:カレンダー【学園的な100題】







使い古したそれは使われることもなく、

ただただ、古くなっていくのを待つだけ。





よもや予定を書くためにも

今日の暦を調べるためにも使えないそれを

ただただ、見返すだけで

いつでも私はあの日に還ることができる。





初夏の小雨降る金曜の午後。

ひとつの傘に寄り添って登ったあの坂道で

初めて触れてくれたその手は

冷えたこの手をあたためてくれた。





夏の暑さを凌いで逃げ込んだ車の中で

初めて教えてくれたアナタの気持ちと

あの日の深い緑。





並んで座ったそのときに

不意に触れたその唇の熱さと

その腕に抱かれた安堵。





何もかもが懐かしく眩しく、

愛しく恋しく狂おしく、

鮮やかに思い知らされるこの想いは





いつまでもアナタのそばに

寄り添うことはできるのだろうか。





役を終えてもなお、

捨てられぬこのカレンダーのように。





続きを読む

026:居眠り【学園的な100題】




時は止まったまま、


音だけが足早に去っていく。










夢と現の違いを覚えていたはずだが、


今はどちらにいるものやら。










とめどない回想の中で


あの日、そこに置き忘れた


かけがえのないもの達を見遣った。










今となっては眩しく、


掴むには遠すぎるそれを


諦めきれずにいるのだと今まさに悟った。










去った日々の中で


何もないと強く思っていたこの手に


溢れかえっていたそれは


今、渇望して止まないもの達。










夢と現の狭間でしか見れず、


朧げな道の中でしか見れない、


触れることもできない落し物。










この止まった時の中で


一つ一つ集めることができたなら


私は元に戻れるのだろうか。










あの日の私に。


持てる者であった私に。


色を見ることが出来た私に。










その目に宿すことができずにいた


不確かな未来を見据える賢さが


あの日の私にあったのならば










きっと、


もっと早くに気付けていたんだろう。










捨ててはいけなかったものに、


置き忘れてはいけなかったものに、


遜色なく豊かであったことに。










色のなくなった世界で


見据える先のなんと味気ないことか。










何も失うもののないことの


なんと虚ろで気怠げなことか。










あの日見た世界も


確かこんな世界だった。










振り返ればとめどなく煌めく


美しい青春の日々たちですらも。










いつの日も


私は無いものばかりを強請っては


手にすることができないことに


腹を立て続けている。










今その瞬間に


手にしているもの達が


零れ落ちていることにすら気付かずに。









学園的な100題 一覧

025← ‖ →027

078.約束【学園的な100題】






あの日見た夢を

きっと私は忘れないだろう。





思い描いた、鮮やかな未来を。

手にしようと足掻いた、理想の自分を。





あの日簡単に語った未来を

今、私は実現する。





未だ見ぬ世界へと

今こそ足を向ける時なのだ。





例えもう、

あの日のように

隣に君がいなかったとしても。





空高くに昇り、下界を見下ろそう。

地平の先を踏破し、隠された場所を探そう。

深い海の底へ落ち、悠久の孤独を知ろう。





限りあるこの命が消えるその時までに

見たい世界をこの目に刻もう。





ありふれた、平穏な日常を望んだのは

守るべき君がいたから。





憧れを捨て去ってまでも、

共に歩みたい君がいたから。





気づけばもう、残されたものは

捨て去ったはずの果てなき憧憬。





ふたりで生きるために諦めた

私らしさを今こそ掴もう。





冷え切った空をこの身一つで飛び、

切り立った山をこの脚で征覇し、

母なる海の神秘をこの肌で感じよう。





あの日、共に見ようと約束したその景色を

私は一人でも見に行こう。





学園的な100題 一覧

077← ‖ →079

064.小さな手【学園的な100題】






ただ一心に願って、

ただ純粋に想って、

その小さな手を引いた。





君が不安に押し潰されないように、

僕が不安を隠せるように、

ただ、前のみを見て。





炎天の中、

あてどもなく、拠り所なく、

ふたり手を繋いで彷徨った。





伝わるぬくもりが

最大の慰めになればと、

握る手に力を込めた。





弱々しく返される力に

僕が勘違いをしたと気づくのは

もっとずっと先のことだった。





ただただ一途に、

ただただ切実に、

あの時、僕は思った。





何を賭しても

君を、君だけを守ろうと。





君の盾となり、剣となり、

傷を負わせ、そして負傷し、

それでも君だけはきれいなまま、

あらゆる苦痛と無縁な世界に

連れて行けると思っていた。





愚かしくも単純に思っていた。

それが可能なのだと。





握り返す小さな手を引いて、

いつも、いつの日も

君を守っていけると疑わなかった。





その手がいつの間にか

僕の手をすり抜けていくことにも気づかず、





ただ彼方を、

ただ前のみを見て歩んでいた。





この地の先、

その丘の向こう、

あの雲の下へ。





いついつまでも共に、

在りし日のように、

このまま手を繋いで行けると。





それは僕の

唯一の願いだったのかもしれない。





彷徨い、見つけた先の場所は

君には安息の地ではなかった。





君が求めていたものが

今となってはよくわかる。





もう握り返すこともない、

その小さな手が





いつの日にか

望むものを手にできるよう





僕は君の手を離そう。






学園的な100題 一覧

063← ‖ →065

068.鼓動【学園的な100題】





火照る頬に手を当てて、

廻る酔いに歯止めをかけよう。

失敗するだろう目論見も、

紛らわすにはちょうどいい。





歪む世界はふわふわと、

何もかもが飛んでるよう。

笑う声がコロコロと、

頭の中に響き渡る。





あぁ、この心地をなんと言おう。





向かいに座るキミの目は

潤とうるみ、揺れている。

杯持つ手が鮮やかな薄紅色に変わっていた。





あぁ、

嗚呼、





昨日の言葉は本当に

君の本音と思っていいのだろうか。





疾る鼓動は酒のせいか、キミのせいか。





ビールを飲み干す喉元が、

くつろげた襟元から見え隠れしている。

昨日と変わらぬ声を紡ぐ、その喉元が。





響く響く、大衆のざわめき。

絡み絡む、探る視線。

どうかどうかと、打ち鳴る心。





のらりくらりとかわしていた、

言葉をどんな形にすべきか。

言外に匂わす雄弁な想いの

返し方がわからない。





火照る頬に手を当てて、

逡巡する思考に歯止めをかけよう。

見つめ合うだけで、まさか。

酔いのせいにでもしておきたい。





期限は確か、宴の後。

夜道をキミに送られる、

あの歯痒くも喜ばしい瞬間まで。





あぁ、誰か。

嗚呼、誰か!

教えておくれ。





この気持ちを余すことなく伝えるすべを。

かくも深く愛しいのだと、

この鼓動のように知らしめるすべを。









学園的な100題 一覧

067← ‖ →069